33rd shot
さて、僕は今、馬に乗って森林の中を疾走している。
理由自体は極めて単純。セロ准尉による夜間威力偵察命令が出たからだ。
だが正確には、奇襲及びハラスメント攻撃任務と言う方が正しいだろう。
つまるところ、夜営している敵軍の後ろをとって、そこから昼間の虐殺よろしくもう一度無力な歩兵や弓兵を炙って嫌がらせをしてこい、ということだ。
ついでに最後部に敵の指揮官が居ればラッキー、居なければ明日の反攻の参考になるし、そういった場合相手の兵站が後部にあることが多いから、そこを叩けばこちらが何もしなくとも敵は餓えて死ぬ。
なんともまあ効率的な作戦で。
僕としても敵への攻撃は吝かではないが、しかしこちらの命の勘定が欠けているドクトリンには断固反対の姿勢を取りたい。
小隊で森の中へ入って敵軍を迂回し、その背後へと進むのはまあ問題ない。むしろ背後をとって奇襲した後が厳しい。僕達は一体どうやって撤退すればいいというのだ。
敵軍の中に魔導部隊ないし優秀な弓兵の部隊があれば反撃は必至。騎兵による追撃も考えられる。
そして僕らパーティを除いた小隊のメンバーは、全員馬に乗っただけの歩兵だ。しかも装備はただの鉄剣に革張りの盾。あとはちゃちな皮装備程度である。
セロ准尉曰く僕らを護衛する精鋭達らしいが、僕に言わせれば、奴らは大事な研究材料に逃げられない為の監視で間違いない。当てにはならないと考えるのが自然だ。
まあ要するに、だ。
僕がシュミレートした限りはこの小隊は全滅する。
だが悲しいかな、傭兵として前金を貰っている以上、従わなければ今後の信頼に関わる。
未来の食い扶持を犠牲にして多少寿命を延ばすより、運と神に頼って作戦を決行した方がまだマシである、としか言えないのがこの世界の辛いところ。
溜息が何度も出るのを抑えられるほど、聖人君子である自覚は無かった。
そうしつつも、一応偵察任務であるのだから敵兵との不意の遭遇を考え、30mmから5.56mmに変更した相棒を愛でる。
今まで何度も死にそうになってきたが、その度にコイツが僕を救ってくれた。
やるしかないだろう。
僕は目の前を見据える。
すると何か違和感を感じた。
なんというか、地を蹴る足音が増えたような。
僕は咄嗟に声を上げる。
「全員止マレ。
シャルル嬢、クロエ嬢、ドミニク嬢ハ馬から降りロ。
護衛隊方ニハここデ防衛線の構築をお願いスル」
「どうした、ライフルマン」
「まって、お姉ちゃん。
多分、向こうから馬が走ってきてる」
シャルルが首を捻るも、クロエはすぐに僕の意図に気付いたようだ。
彼女の言葉を聞いた小隊はすぐに迎撃の体勢をとりだした。
「偶発的遭遇戦ダ。
恐ラク敵同数、約20。
クロエ嬢は木に登ッテ援護、ドミニク嬢は支援魔法ヲ。シャルル嬢は僕と迎撃一線を張ル。
そこデ遅滞戦術を行ウ。基本火力ハ僕とクロエ嬢ダ。
次に護衛隊方ヲ迎撃二線とスル。
鶴翼気味の陣形を組んデ包囲とまでハいかなくトモ、多方面攻撃を敵小隊に与エ、邀撃されタシ」
僕の指示に目を丸くしながらも、護衛隊は承知してくれた。
対して僕のパーティの動きは迅速だ。
特にドミニクは指示に対して頷いている程。
「ライフルマンさん。過去に指揮官にでもなった経験が?」
「ハハ、昔の記憶サ。とても昔のネ」
この時ばかりは前世で僕がミリオタだったことに感謝を覚えた。
すぐさま戦いの流れが頭に浮かぶ。
「じゃあ行きます。
【レインストレングス】【レインプロテクト】」
僕は彼女の声を皮切りに、相棒を左手、レイピアを右手に持って馬から飛び降りる。
シャルルも同様に降りた後、大剣を抜いた。
「私達は引きながら敵を止め、お前とクロエの遠隔攻撃を主軸に敵戦力を削り、防衛隊とかいう奴らでトドメを刺す。
この解釈であってるか」
「物分かりのイイ仲間を持てて僕は幸セダネ」
「よかろう。ただ、私達で敵を全滅させてもいいよな?」
「デキルものナラナ」
僕達は足音のする方向へ進みながら、他愛ない会話を交わす。
そして蹄の硬い音が近くなった瞬間、僕は勘でその方向へと射撃を行う。
「イクゾォ!!」
「応!」
暗く、星と月明かりのみを頼りにした戦闘。
誤射だけは避けないとな。
そう思いつつ僕とシャルルが吶喊すると、正面から短槍を持った歩兵が走ってくる。装備からして敵国の兵だろう。
僕は遠慮なしに見えた標的に弾丸をばら撒く。
すると、何やら隣でシャルルが大剣を振りかぶったまま、静止している。
しかし恐らく縦切りをするであろうその姿勢の前に敵は居らず、彼女の考えは掴みかねた。
だが、数瞬の後に理解する。
シャルルの大剣に黄色の光が灯り、強大な覇気を放ち始めたからだ。
闇夜においてそれは、さぞ幻想的に見えただろう。ただしシャルルと彼女のグレートソードから畏怖を感じない、という前提の下だが。
シャルルは得物をそのまま敵がいるであろう方面に向かって振り下ろす。
「くらえ!
【ランド・ショック】!」
地面に叩きつけられ、埋まり込んだその剣先からは曲がりくねった筋が前方の地面へと走り、そしてその線から空へと衝撃波が飛ばされた。
その射程距離はいまいち分からなかったが、少なくとも今ので5人はバラバラになったことだろう。
僕の記憶によれば、この攻撃はドワーフ独自の技。
ザクトラスとの迎合の時に教えを乞うたのだろう。
そうしていると、後方からの緑色の光が目に入った。
まさか。
僕がそう思った瞬間、僕達の前に降り立ったクロエが声を上げる。
「私も働かないとね!
【サイクロンインパクト】!」
彼女が小弓に番えていた矢は緑に輝き、それが放たれると共に、一直線上に居たほぼ全てが吹き飛ぶ。
僕の目が確かであらば、それは恐らくレーザー。
弓から光線を発射するなど正気の沙汰では無いと思うのだが、数本の木と共にかなりの人数の敵歩兵が倒れた。
「オイオイ。
コレ、僕ガ作戦立てタ意味アル?」
そう、敵小隊は半数以上の人員を失い壊走。
端的に言うと、勝った。
「はっはっは。
どれだけ実力者と共に過ごしたと思ってるんだ。
これくらいの技は覚えていて当然だろう」
「もうライフルマンに守られるだけの女っていうのは卒業よね」
「ハハハ、ハ」
僕は顔を引きつらせるしかなかった。
なお、ドミニクを問い質すと、光魔法によるデコイ生成と障壁魔法を覚えていたようで。
それを聞くと同時に僕は確信し、即座に行動に移す。
ルートビア姉妹が覚えていた技にも驚きを隠せなかったのは事実だ。
だが、ドミニクの魔法は個人や少数戦闘において効果が薄くとも、対軍効果は絶大だ。
デコイにより反撃や追撃を誤魔化し、騎兵隊の突撃は障壁魔法でせき止める。
ここまで手札があっては、作戦に失敗する方が難しい。
結果として、僕達は「敵司令部及び兵站の破壊」という最高の戦果を持って、極々安全にノーザンエスタ砦に帰投した。
口径:5.56
弾薬:NATO弾
銃身:ショート
銃口:サブレッサ
銃倉:複列
照準:1.6倍固定倍率サイト
その他:反動抑制
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