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異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
エスタ・カノール編
32/33

32nd shot

 僕が座っているのは黒鉄(くろがね)で出来た椅子。

 右隣に鎮座するのは鋼鉄の筒。

 トリガーは椅子の正面にあるレバーの先端に、グリップ周辺が独立した形で接続されている。

 そして右手には砲に角度を付ける回転式ハンドル、左手には砲を銃座の上部ごと回転させる回転式ハンドルがそれぞれ設置されていた。

 筒の後部を見れば、凄まじく大きな弾倉が膨れ上がっているのが見え、筒の先端を見れば気休め程度のトリガーガードすら外れているのが分かり、相棒が只の砲と化しているのが実感できる。

 その筒からこちらに伸びるのは、唯一小さいという印象を与えるホログラフィックサイト。

 これまた黒一色ではあるが、レンズの部分は赤みがかっている。

 それを覗き込めば、10倍という倍率の仕様から、km単位での索敵が可能となるのだ。


 正に、鉄の小さな城。

 僕が座っている銃座にはそんな圧力と、安心感があった。


「セロ准尉、敵ハドコニ?」


「あ、ああ。それならこの丘陵の向こうです。

 ここを迂回しようとするなら森を抜けなければなりませんから。

 小隊ならともかく本軍はこちらを真っ直ぐ突っ切る必要があります」


「ラジャー」


 僕はそう言うと、左手のハンドルを回して砲の口を北へ向け、そして右手のハンドルで先を丘と空の境界に突き付ける。

 スコープを覗き込むと、動く点がちらほらと見えた。


 え?

 しばらく待機する予定だったんだけど。

 何か居た。


「アー、ソノー、国境とここハどれダケ離れてル?」


「それなら2kmほどですが」


 うん、普通に射程範囲に入ってる。

 となると、少し見えては消えていくあれは斥候だろうか。

 撃つのはマズいな。それで警戒されてバラけられては、流石に距離がありすぎて当てられない。

 僕がそう思ってゆっくりその人影を観察していると、奥からぞろぞろと大量の人間と思しき影が、丘陵を進撃してくる。


 しかし、まだだ。まだ撃つべきではない。

 もう少し引き込む必要がある。

 ある程度銃口を下げ、その機会を伺っていると、ようやくにわかに砦がざわつき始めた。恐らく目のいい者のうちの何人かが影を捉えたのだろう。


 そうして丘陵のど真ん中、こちらから1.5km程の距離のところにまで、僕がスコープを覗けば彼らの兵科が見分けられる程度には軍は近づいて来ていた。

 僕は危うく忘れるところだった耳栓を付けると、一度深呼吸をする。


 僕がそうこうしている内に、狙っていた獲物はスコープ越しにハッキリと確認できた。


「セロ准尉、攻撃許可ヲ」


「は? 何を言っているのですか」


「ですカラ攻撃許可ヲ」


「……やれるのなら、やって下さい」


「イエス、サー」


 僕はその獲物、兵站を積んだ馬車に照準を合わせると、引き金をゆっくりと引いた。

 瞬間、耳栓をしているにも関わらず、ガボンッという爆音が頭に響き、銃口からはかなりの量の煙が上がる。

 だが、僕にダメージはない。精々が発砲による軽い衝撃波が僕に当たるだけだ。

 もし子どもの頃にこれを経験したら二度と相棒には乗らなかっただろうが、今まで鍛え続け、20mmを生身の体で撃ってきた僕にとってはむしろ軽いくらいだった。


 そして、飛来する弾丸は軽く湾曲した直線を描き、そして馬車に命中して積載物が爆発する。

 それだけでなく、その周囲にも爆炎は広がり、何人もの人間が燃えているのがここからでもよく分かった。

 僕が撃ったのは焼夷榴弾。つまるところ、爆発する火薬と油を一緒くたにして中に詰めた弾薬だ。

 それが起爆すれば、周囲を爆風によって吹き飛ばし、火炎はその風によって舞い、周りの生命全てに襲い掛かる。

 そしてなお恐ろしいのが、僕がコレをフルオートに設定していることだ。

 僕はその阿鼻叫喚としている軍の右端に照準を合わせ、引き金を引きながら軍の左端まで弾丸で薙ぎ払った。

 当然その炎嵐は各所に発生し、敵軍の歩兵大隊は馬車から東西に引いた線で分断される。


 もうこちら側の兵は助からないだろう。僕からすれば、彼らはただ殺され続ける標的、エサである。言わば食パンだ。

 そこへ、外から炎で歩兵を包み込むように、食パンの耳を撃ち抜く様に弾丸を発射し続け、分断した歩兵を炎のサウナで包み込む。

 そこまでしてから僕は弾が切れたことに気付き、懐から銅貨を大量に入れた小袋を取り出してから、後ろにいる筈のシャルルに投げつける。


「相棒ノ後ロ側にスロットガあるダロ。そこニソノ銅貨を入レまクレ」


 父親に似て、突発的な状況にも強いのか、シャルルはその地獄絵図を遠目ながらに見ているハズなのに、素早く僕の指示に従って銅貨を大量に入れ続ける。

 いや、見ているからこそ、僕の力を恐れてきびきび動くのか。

 ともかく、銅貨を20枚入れたところでシャルルを止め、スロット隣のボタンを押させ、弾薬を装填した。


 今の一連の流れの間にも随分と時間が経ったが、その炎の檻から逃げられた人間はいないようだ。

 ああ、目の前で無残に人が死んでいくというのは何とも心地よい。

 僕は駄目押しにその正面に見える歩兵にまた弾丸をばら撒いていく。先程は囲うように射撃したので、今度は内側から安全な場所を塗り潰すように着弾させていった。

 正に、食パンにバターを塗る様に丁寧に、だ。

 炎は僕が思う通りに舞い、それにつられてか炎に包まれた歩兵達もまた踊り狂っている。


 そして鼻には特大の弾を何発も発射した為に広がった硝煙の匂いが突く。

 これがまたいい。僕が戦争をしていると実感できるのだ。




 しばらくあの炎は鎮火せず、そしてカノール国軍は二の足を踏むしか無かった。


 僕は耳栓を抜くと、軽く伸びをする。

 ふと辺りを見渡せば、兵士は皆呆然と立ち尽くしており、セロ准尉もまた表情を凍らせている。

 目が悪かろうと炎は見えるものだ。遠くの轟炎に驚いているのかも知れない。


「サテ、セロ准尉。

 任務ハこれデいいカイ?」


 僕の表情は自然と笑顔になっていたと思う。

 この状況、ハイにならない方がおかしいというものだろう。

 対してエリート武官の反応は非常に他人行儀だった。




 ×××




 夜。未だに火は消えていないらしい。

 それが足止めとなっている為、僕に出来ることはもうなくなった。

 それ故戦闘態勢命令は解除、僕達一行は一度部屋に戻されることとなったのだ。


「……お前のカスタム。

 また凄いのが出てきたな」


「うん、まるで化け物みたいだったし」


「ですね」


 女は三人寄れば姦しいとは言うが、一応は冒険者なだけあって、あまりしつこく僕の相棒については触れてこない。

 こちらとしても一々説明するのは面倒だし、有難いことである。


「取り敢えズこれデ相手の行軍は止まル筈。

 相手方によってハ引き返スカモ」


 僕はふと、今後どうなるかを思案した。

 僕は元々砦の守衛かつ、兵器開発の技術協力を目的として雇われたのだ。だが、あの戦果を目にして准尉が僕を放っておく訳が無い。

 となれば、エスタ国軍の反撃に合わせて別方面からの強襲への参加か、あるいは国軍に先行して、最寄りのカノール国の砦へ攻撃を仕掛ける時の攻城兵器として連れて行かれるか。

 どちらにしても悪くはないが、僕がいる軍は少数となるだろう。そこへ強力な大軍の攻撃や精鋭による奇襲を仕掛けられでもしたらかなり辛いことになる。

 となれば、前金である金貨20枚と、献上した戦果分を先に受け取っておいて、いつでも尻尾巻いて逃げられるようにしておかないといけない。


「まあそうだろうな。

 軍の一部を一瞬で殺してしまうような兵器が砦にあると分かったんだ。

 普通の感性の人間なら今回の戦争は諦めるだろう」


 シャルルは冷静に考えるが、しかし対照的にクロエは首を捻る。

 論理派と感覚派のコンビだからな。

 意見は拮抗するだろうが、それでこそ有益な議論が出来るというものだ。


「でもさー。

 カノールの国の軍隊ってここまで来るのにすっごいお金使ってるよね。

 しかもそんな兵器が相手にあるって分かっちゃったんだよ。

 今潰さないと後がマズい――なんてのは考えないかな」


「ふむ、確かにクロエの言うことも一理ある。

 ではここを迂回して他の場所からこちらに攻め込んでくるか」


「それダト小隊レベルじゃナイと運用は難しイって准尉は言ってタナ」


 全体的に、議論は相手が引くという方向へ傾いていく。

 元々僕も同意見だったから、というのもあったのだが、そこでドミニクが口を開いた。


「あ、あの。

 ちょっと考えたんですけど、相手側からすれば、ライフルマンさんは予想外の存在な訳です。

 だったら相手はライフルマンさんはいないものとして考えるハズです。

 今回のことをライフルマンさん抜きでやろうとすれば、かなりの数の魔法使いを雇って、時間差で発動する罠のような動作をする魔術を組んだと考えるのが普通だと思います」


 僕は彼女の発想に舌を巻く。

 確かにそうだ。僕の考え方は前世に執着しすぎていて、この世界の住人の視点ではあまり考えられてはいなかった。

 これが凡庸な少女と、知識を与える杖のコンボか。

 地に足付いた、平民の考えをしながらも論理的なその物言いには説得力がある。

 僕と同じく予想外だった意見に納得したシャルルはその点について更に掘り下げた。


「なるほど。

 すると、相手は二度は無い、と考えて、もう一度攻撃してくる可能性があるのか」


「その通りです」


 つまり、僕はもう一度また炎を飛ばさなければならない、ということか。

 同じ作業を繰り返すのはちょっと楽しくなさそうだが、まあこれもお勤めか。


 そう思っていると、部屋にノックがかかる。


「攻城大隊第三部隊長から命令が下りました」

口径:30

弾薬:M799焼夷榴弾

銃身:ロング

銃口:

銃倉:複々列

照準:10倍倍率ホログラフィックサイト

その他:自動固定式可動銃座

    フルオート

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