31st shot
「――分かった。信じよう」
最初に言葉を発したのはシャルルだ。言葉にこそしないが、しかし他の二人も信じようとする意志が目から伝わってくる。
それに対して、僕は天井を仰ぐことしか出来なかった。
「なんデそんナ軽く信じラレルんだヨ。
今まデ僕が隠してキタ意味がないじゃナイカ」
僕は軽く溜息を吐きながら、ポーチに手を突っ込んで金貨一枚を取り出した。
「それは?」
「今からお前達にカスタムの時の症状を見せヨウ。
どうセ足りナイ記憶があるシナ」
僕はその一枚を相棒のスロットに入れ込んで、カスタムメニューを開く。解放するのは口径の30mm化だ。
いつもの如く解放の手順を踏むと、途端に頭痛が僕を襲い、座っていた椅子にもたれ掛かるしかなかった。
「ガ、グ、アアッ!」
思い出すのは多量の数式に、モーターやコイルの構造といった、こちらでは再現が難しいものばかり。
そこで僕の意識を無理矢理軍事方面へと向けると、目の前ではこちらと似たような雰囲気の戦場が広がっていた。紛争地帯と言うらしい。
一台の、荷台に砲が取り付けられているトラックが走っている。
これは……テクニカル?
いや、テクニカルは砲を固定した車や馬車などの車両のことで、ただの急造兵器でしかない。
僕の求める情報は、その固定する砲の名前だ。
あれは、一体何なのか。
僕は必死に、その砲の名前を古い記憶から漁った。
そしてそろそろ時間切れとなりそうなところでようやく、僕は意識の端で、新たな単語を思い出した。
――それは『銃座』だ。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
僕が肩で息をしていると、ようやく周りの状況が理解出来た。
ドミニクが僕を揺すっていたのだ。
「フゥ、どうしタ?」
「え、いや、あんなに苦しんでいましたから、どうしたのかと」
「ライフルマンのカスタムは大体あんなものだ。
恐らくあの頭痛に臥している間に、前世の記憶とやらを取り戻すのだろう」
シャルルが至極冷静にこちらに言葉を投げかけてくる。確かに彼女には前に見せてあるからな。
だが、ドミニクの顔は青くなったままだ。
「あ、の、ライフルマンさん。
私は知識を与えられて、少し性格が変わってしまいました。
ライフルマンさんは、全然別の国の、別の人の記憶を思い出してるんですよね?
じゃあ、昔の記憶を全て取り戻したら、今の記憶はどうなっちゃうんでしょう……」
彼女は、僕が内心恐れていたことを的確に言い表していた。
最近言葉の訛りが酷いように感じるのだ。今までならまだ自然に話せていたし、精々が語尾程度だったのにも関わらず、最近は話している最中にも訛りが入ってくるようになった。
明らかに前世の知識の影響だろう。
だが、本来の僕は前世の僕であり、今の僕は前の僕を取り戻す為だけに形成されたただの代用品なのだ。
僕は躊躇なく、金貨一枚を入れ、カスタム画面をスワイプしてから銃座を探す。
例の名前で探せば、すぐにサプライのタブからそのカスタムは見つかった。
「大丈夫ダ。気にすルナ」
僕はすぐに銃座の解放を選択する。また酷い頭痛に襲われるが、狙撃に関するあれこれや敵軍をどう攻撃すればいいかなど、とりあえず軍事的な記憶を中心にかき集める。
すると今度は数学的知識が必要になってくるので、学徒だった頃の記憶を新しい弾薬の解放時にまた集める。
思えば、僕は今まで記憶は適当に蘇らせてきた。
が、ここに来て回復する記憶に指向性を持たせられることにやっと僕は気が付いた。これならば僕の戦闘能力の向上もかなり見込めるに違いない。
最後に10倍ホログラフィックサイトを解放したところで、ルートビア村で12.7mm口径を解放した時に似た、意識がそのままどこかへ持って行かれるような感覚を覚えた。
「やっぱブルパップだよねぇ」
私は勉学の息抜きにPCのFPSゲームをやっていた。個人的に普通の物というのが嫌いで、その点ブルパップという銃の機構はとても私の好みにあっていたのだ。
P90と呼ばれる銃を持ち、その軽さや取り回しの良さを活かした突撃兼裏取りを行うのが私のセオリーだ。
だが、その試合は惨敗だった。相手に狙撃銃の扱いが上手い人間が多かったのだ。
これは個人的な意見だが、狙撃銃というものほど使いにくい武器はないと思っている。
戦争では塹壕と数という問題から、ほぼ実用性は無い。一々人の頭を狙うより機関銃で弾幕を張る方が早いからだし、そもそも航空機から爆撃してしまえば、狙撃銃の強みである射程は全く意味をなさなくなる。
故に航空機の爆撃が存在せず、相手の数が少ない戦場。つまり要人の暗殺や少数同士の傭兵の銃撃戦でしか、狙撃銃が脚光を浴びることはない。
そこでも狙撃銃の強みである射程というのは、室内戦闘が多い上記の条件では殺される。
つまり、どうあがいても狙撃銃は弱いのだ。
それがFPSシューティングゲームになると途端に強くなる。
だからこれには、私はいまいちミリタリー要素を感じられないでいた。
そういう時は、戦闘車両や航空機などの乗り物系のミリタリーゲームをするに限る。
何故なら戦車であれば、身を隠しづらいという点と巨大な砲という点から、確実に狙撃の応酬となるし、航空機なら、身を隠す場所が無い為、必然的にお互い牽制し合って結局中空のもみ合いとなる。
つまり、陸軍空軍、それから海軍を題材にしてあるゲームは、すること自体は人のシューティングゲームよりも単純になる。
それ故に奥深さがありながらも、初心者も上級者も簡単に戦争を実感することができるのだ。
さて、今日は戦闘機に載る気分だ。
そうだな、機体は我が愛機、『Do17-Z』でいこうか。
戦争はやはり血沸き肉躍る。
急激に意識が白で染まり、そして私はいつのまにか僕になっていた。
「……乗り物、カ」
ここは石造りの部屋。周りには自分の苦痛に歪んだ顔を見やる少女三人が。
そう、僕はライフルマンだ。
「ハァ、トリップは終わっタヨ。
しばラクハこれデイイ」
僕のその言葉に、ドミニクは心配そうな表情を少し緩めた。
僕が僕でなくなることを恐れていたのだろう。
「サテ、ソロソロ、戦争のニオイがするノダガ」
なんとなく、直感的にそう思った。
そう僕が呟くと同時に、僕達の扉は乱雑に押し開けられる。
「死神殿!
攻城大隊第三部隊長から砦の屋上で戦闘態勢を取れ、との命令が下されたのであります!」
「了解シタ。
スグニ向かオウ」
僕は飛び跳ねるように立つと三人に付いてくるよう指示し、相棒のカスタムメニューから銃座に関する設定を調整しつつ、道案内を兼ねた伝令の兵士の後ろを歩く。
はは、炎の匂いが楽しみだ。
×××
砦の屋上では、国境の方向の水平線を睨むセロ准尉が立っていた。
確か彼の肩書はエスタ国国軍攻城大隊遠隔支援部第三部隊隊長だったはずだが、諸々の都合で通称は省略された攻城大隊第三部隊長となっているのだろう。
考えるなら、近接攻城部隊は国軍歩兵大隊に半ば吸収されているから、そこには遠隔支援部しかなくて、区別する必要が無いから省かれたとか。
彼はそのエリート武官らしいスマートな顔つきを歪め、こちらに重く口を開いた。
「ここ、エスタ王国より北方のカノール王国、かの国の軍の越境が確認されました。
ついては死神殿にはこの砦の正面を守ってもらいたい」
「ソノ心ハ?」
「正面は丘陵。平野に続いて弓兵や投石兵が輝く場所です。
ただ、同時に位置取りによっては全くそれらが機能しない地形でもあります。
そこで貴方の出番です。
聞けばそこらの弓兵よりも射程は長いという情報がちらほら。
その利点、使わない手はありません。
奴らが矢を避けてしまうところに陣地を組む前に、攻撃を仕掛けて欲しいのです」
「ナルホド、了解シタ」
つまり先制攻撃をしかけ、攻城戦を遅れさせると。
恐らくこちらの国軍も臨戦態勢に入っていたハズだ。早馬で情報が伝達されれば、すぐにかなりの割合の兵が動くだろう。
さしずめ、カウンターを仕掛ける為の時間稼ぎと相手の戦力集中。それがここ、ノーザンエスタ砦の戦略的意義と推察される。
面白い。故郷ではないが、古巣が栄えるのもまた一興。
僕は相棒を召喚すると、それに搭乗する。
肌で感じる戦争に、年甲斐も無く心躍ってしまうな。
口径:30
弾薬:M799焼夷榴弾
銃身:ロング
銃口:
銃倉:複々列
照準:10倍倍率ホログラフィックサイト
その他:自動固定式可動銃座
フルオート
良ければ感想評価お願いします。m(__)m




