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異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
エスタ・カノール編
30/33

30th shot

 あれから何日も馬車に揺られ、僕達は北へと向かう。


 時折野生動物や魔物からの襲撃も受けたが、クロエの眼と僕の射程があれば撃退は簡単に済む。


 また、行きしなに町に寄っては傭兵や冒険者を馬車に拾っていた為、目的地であるノーザンエスタ砦に着くころには、僕達は馬車何台もが連なる大所帯となっていた。


 本来なら怪しい奴らの攻撃として、ここで弓兵から矢を射かけられていただろうが、事前に話は通していたらしい。直ぐに砦の扉は開き、僕達は迎え入れられることとなった。


 馬車から降りた人間が次々と砦に入っていくが、しかし皆一様に口を開けて砦を眺めていた。


 昔は僕もよくみたものだが、今見てもやはり砦には見る者を圧倒する迫力がある。

 石レンガで組まれた壁、幾重にも連なる塔。それからそこを守るフルプレートアーマーの兵士達。

 正に小さな城というものだ。

 その堅牢さは推して測るべしといったところか。


 そうとくれば物騒な連中の顔も納得できるという物だが、しかし他の奴らと僕達パーティでは目的が少々違う。

 こいつらが国からの依頼を受けたのに対して、僕は士官から直接の依頼を受けてここまでやってきたのだ。

 となれば、多少の特別待遇も望めるだろう。

 他の冒険者や傭兵が次々と部屋を割り振られていく中、僕は道を歩いていた事務員らしき兵に依頼書を見せる。


「ヨオ兄ちゃン。

 コレでどうナル?」


「…………はい。

 上官に報告して参ります。

 少々お待ちを、死神殿」


「アア」


 その事務員は僕に敬礼をすると、小走りで、砦の中でも恐らく上位階級の者しかいることを許されない上階へと上がって行った。


 その様子を見ていたシャルルとクロエとドミニクは、こちらに驚いたような目を向けてくる。


「ン、どうシタ?」


「ほ、本当に死神で通ってるんだな。

 ああいや、お前の話も信じていない訳ではなかったが、そういう扱いをされる人物だったのだなと今更ながらな」


 おいおいちょっと。


「うん、本音を言うとタダの変態のロクデナシだと思ってた」


 おい待て。


「私は普通に凄いな―って思ってただけです!」


 うん、一番まとも。


「じゃア今までハ僕はスゴい人間じゃナイと思ってタ訳ダ」


「えっ!?

 いやっそんなことは無くてですね!?」


「冗談ダ」


 ああ、やはりドミニクの言動が一番僕を癒してくれる。

 僕はドミニクの頭をグリグリと撫でながら、相棒のカスタム画面を開いた。


 そう、前日思い出したあの兵器だ。

 クロエの抑える係から着想を得たのだが、確かあの兵器の名は高射砲という名前だったハズである。

 だが、いくら画面をスワイプしようとも、タブを触り続けようともそんなものは出てこない。


「ム」


 どうしてだろうか。

 そう思いながらもすいすいと指を動かしていると、先程の事務員が顔に汗を滲ませながら、こちらへと走ってやってくる。


「死神殿。

 セロ少尉が死神殿をお呼びです」


「ホウ、後ろの助手ハ連れてイッテもいいカネ?」


「なっ」


 クロエが声を上げようとしたが、ギリギリでシャルルが彼女の口を押えた。

 ファインプレーだ。


「ええ、構いませんよ」


「デハ行こウカ」


 そう僕は口を開くと、石畳の床をカツカツと歩き出す。

 これで、僕が暗殺されて相棒だけが奪われるという最悪の事態は避けられた訳だ。




 ×××




「おお、貴方が(くだん)の死神殿ですか。

 ささ、おかけになって下さい」


 ニコニコとした、椅子に腰を置いた目の前の青年こそ、僕に手紙を寄越して脅迫したセロ少尉とやらだ。


「デハ遠慮ナク」


 そうして口をあまり動かさずに、三人に微かに聞こえるようにだけ声を掛ける。


「油断すルナ。それカラお前たちは立っテオケ」


 シャルルがこくんと小さくアゴを引くのを見てから、僕は木製の椅子に座って、簡易な机を介してセロ少尉と対面する。

 周囲からの、手練れの匂いに身をすくませながらだ。


「いやはて、貴方の活躍を見込んでの依頼だったのですが、正直受けて貰えるかどうかは半々程度だと思っていたのですよ」


「ハッハッハ。

 貴殿の慧眼をもってすレバ、結果など分かってイタに違いナイ」


「と、おっしゃられますと?」


「僕が人の目に触レル場所で、攻城兵器レベルの武器とシテ相棒を使ッタのは一度しかナイ。

 これダケ言えバ分かルでショウ」


「……クックック。

 全てお見通しという訳ですか。

 そうです。貴方のことは調べに調べました」


「ホウ」


 そうして僕が相槌を打ったすぐ後、セロは目の色を変えて滔々(とうとう)と、怪しいことを語り始めた。


「世の中にはね、特殊な人間が、数こそ少ないけれども、確実にいるんですよ。

 たとえば新しい文化や道具を生み出したり、本来出来ないことをやってのける、勇者、或いは異邦者と呼ばれる人間がね」


 異邦者という言葉に、体が勝手に跳ねる。

 僕の知識が確かであれば、世界を渡った人間は、大なり小なり結果を残していたハズである。

 ライトノベルという少々情報源としては心許ない文書から得た知識だが、しかし今ここにおいては全くもってその知識通りのことが述べられている。


 これは、少しマズいか?


 僕が異邦者という言葉に反応したのに気を良くしたのか、セロは更に調子に乗って饒舌に語り出す。


「そういう人達の共通点として、幼い頃から様々な知識を持っていたり、妙に大人っぽかったりするそうです。

 そして、異常な能力を持っているというのもそうです」


 だが、言われっぱなしでは流石に問題が出てくる。

 今まで誰にも言ったことのない事実が、彼には見抜かれているらしいのだ。


「ソレがどうシテ僕につなガルんデス?

 僕の故郷はもウ在りませンヨ。

 僕の幼少期を調べヨウったってそうはいかナイ」


「それがね。

 いたんですよ。

 アナタの集落の生き残りが」


「ナッ!?」


 セロのその言葉には、僕の全ての反論を封じる効果があった。

 恐らく意識して、このことを話の後ろに持ってきたのだろう。


「その人物から話を聞いたところ、ある日を境に貴方は訳の分からないことを言い始め、一瞬で算術を身に着けたそうではないですか」


「…………ヨク調ベタナ」


「ええ、勿論。

 更に、ですが、方々の魔道具に見識ある人間に聞いて回ったのです。

 その回答としましては、使用者を登録する系統の魔道具こそあれ、いつでも消していつでも召喚できる魔道具など存在しないそうです。

 もし出来たとしても、多大なる魔力が必要だろうと。

 その時点で神話級の魔道具であるのに、攻城が可能な威力を持つモノ。

 貴方のそれは、本当に魔道具ですか?」


 セロの論理的なその言い様に、僕は絶句することしか出来なかった。

 後ろに居る女三人組も、顔こそ見えないが、驚いていることだろう。

 何せ僕がおとぎ話に出てくる勇者の候補であると言われているのだから。

 だが、嘘をついたところで事態は好転しない。

 この目の前にいる男は、確実に僕のことを異邦者として見ている。であらば僕が知らないととぼけたところで、殺されて相棒を奪われるだけなのが関の山だろう。


「――正直に話ソウ。

 これハ多分魔道具じゃナイ。

 何故なラ、生まれツキこの相棒の主である証の紋章が、左手につイテいたカラダ」


 その言葉に少なからず驚くセロ。だが、その表情はすぐに歓喜へと変わっていった。


「……やはり、そうでしたか。

 そして、恐らくですが、貴方はそのことを世間に知られたくない。

 ゆっくりと余生を過ごしたい。

 違いますか?」


「アア。全くもっテその通りダ」


「ではこうしましょう。

 分かる範囲でその相棒とやらの構造を教えて下さい。

 また、貴方の上げた戦果も全て私に譲って下さい。

 勿論そうすれば国からの報奨金も褒章も貰えません。

 ですが、私が自腹を切って、更に報酬に金貨50枚を上乗せしましょう。

 これでどうです」


「……それを僕ガ断れルと思っテ?」


「いえ、全く」


 自信満々といった顔でこちらを鋭く睨むセロ。

 口ぶりには、野心と、それがある上での冷静さを感じ取らせるものがあった。


「分かりまシタ。

 それデ手をうちまショウ」


 そうしてセロが差し出した手を握る僕だったが、しかし僕の胃は切実な痛みを脳へと送っていた。




 ×××




 僕達は割り振られた部屋で顔を突き合わせている。

 四人で一部屋と少々窮屈ではあるものの、二段ベッドやテーブルなど、雑魚寝の有象無象よりかはいい待遇を受けているといってもいいだろう。


 その部屋の中で、厳格な声でシャルルは僕を問い詰める。


「ライフルマン。

 お前は私達の仲間だ。

 だから私達は何も隠し事をせずに今までやってきた。

 ――だと言うのに、お前は私達に何も言わなかったな」


 だが、その言葉に僕は気の抜けた返事しか出来ない。


 僕の置かれている状況をどう説明しよう。


 そのまま言っても信じられることはまずない。

 ならば、彼女たちが納得する内容で、かつ現実的なストーリーを僕は今から構築するしかないことになる。


「……アア、ソウダ」


「なんだ、その返事は!?

 私はな、隠していたことを怒ってるんじゃない!

 隠していたことがこれ以上隠しきれなくなっているのに、それでも悪あがきしているみっともないお前を見たくないんだ!」


「……ソウカ」


「ライフルマン。

 私も怒ってないよ。

 でもさ、もう全部話そうよ。

 そっちの方が絶対楽だって」


「じゃあ私だって皆さんにお話しします!

 だからライフルマンさんも!」


 シャルルの怒号に対して、彼女達二人は声を柔らかくして話しかけてくる。

 その飴と鞭が、僕のどうやりすごそうか、という考えを全て消していく。


 もう、諦めるしかないか。


「…………ハァ。

 ドミニク嬢、キミが言うと余計ややこしくナルからそれはマタ後日ネ」


 僕は彼女を静止すると、ゆっくりと息を吸った。


「何かラ話そウカ。

 ソウダナ。アレハ――」


 それから僕は、長々と話をした。

 これほど喋ったことはないだろう。

 ザクトラスや、他の戦友にも事情を説明したことはない。


 ともかく、僕の前世は別世界の人間であること。

 こちらの世界に生まれ変わったはいいものの、前世での記憶はほぼ無かったこと。

 相棒をカスタムすることで前世の記憶は一部蘇ること。

 相棒は前世であったメジャーな武器で、前世の記憶を思い出せば、自然と相棒をどう扱えばいいのかという練度も上がるということ。

 そして、カスタムをして記憶を全て取り戻す為に金を稼いでいることを話した。


 僕のその拙い話し方にも、彼女達は真摯に僕の目を見て、僕の声を聞いてくれた。

口径:5.56

弾薬:魔弾

銃身:ショート

銃口:サブレッサ

銃倉:複列

照準:可変倍率サイト

その他:反動軽減

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