表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
ドラゴニュート編
28/33

28th shot

「では作戦の成功を祝って、乾杯だァ!」


「「「おー!」」」


 グッグと広間に居る者達が小さいタルのようなジョッキを呷る。


「くぁあああ!!!

 仕事終わりの酒は最高じゃな!!」


「俺も今夜は酔っちゃおうかな~」


「私も今日は飲むわよー!」


 僕たちは以前作戦に参加した者の実力を測る為に使われた修練場で、仕事終わりの宴を行っていた。

 ザクトラスを中心に様々な種族が集い、一斉に酒を飲むというのは貴重な体験が出来た。


 シャルルやクロエも実働隊として動いたからか何人かのドラゴニュートに囲まれて困惑していた。

 彼女たちはドラゴニュート語が分からないから当然だろう。すぐに姉妹はクォーツニュートに寄って行ってテレパスをせがんでいた。


 そんなクォーツニュートも酒が回ったのか、いや驚くことに奴は石のクセして飲み食いをしていたのだが、宴の席にいた全員にテレパス魔法を掛けると、空中へ色とりどりの炸裂魔法を発射していた。


「んんん、やはり宴には花火ですぞ!!

 フハハハハハハハハ!!!」


 彼によってこの場にいる全員は言語を気にすることなく会話を交わすことができ、盛況さを煽る爆音で更に宴は派手なものになっている。


『さて、今後はどうするんだ?』


 ふとしたドワーフの疑問に、皆は首を一様に捻った。恐らくは皆、戦友の危機を聞いて一目散に駆け付けたのだろう。

 故に何も考えていなかったに違いない。


『我輩はザクトラス殿から報酬をもらった後、シェルカインドのお嬢さんの里に行きたいですなぁ』


『えっ俺んちくんの? 別にいいけど』


『いやはや、やはり生物学者としてはその生態は研究するに値しますぞ!

 また種族独特の魔法も調べたい所存!

 断られても【フライト】で空を飛んで追いかけますぞ~』


『じゃあ断らないから俺も一緒に飛ばしてくれよ!』


『構いませんな。

 貴女の故郷まで遊覧飛行としゃれこみましょうぞ』


 そんな中、アルコールで顔を赤くしたエルフがうつむきがちに口を開いた。


『私はしばらく帰れないかな~』


『と言ウト?』


『私、ザクトラスが大変だって聞いたから里に無断で来ちゃったのよ。

 戻ったら長老とかカンカンよ~。帰れる訳ないじゃない!』


『アー』


 エルフは戒律が厳しいのでも有名だ。無断で、しかも他種族の為に勝手に里を抜けたとなればその罪は重いことになるだろう。


『済まんな。

 俺が依頼出したばっかりに。

 魔法使いでお前ほど頼りになる奴は思い浮かばなかったんだよ』


 ザクトラスが誠心誠意ペコリと頭を下げると、慌ててエルフは両手を振ってその謝罪を止めた。


『べっ別に貴方の為に来た訳じゃないし!

 勘違いしないでよ!!』


『いやでもさっき……』


『うー。

 ……まぁ、そうね。

 じゃあしばらくここに置いてくれないかしら。

 どうせ行く当てなんてないし』


『そんなことなら構わんよ。

 何年だって居てくれ』


『ホント!?

 やったぁ!!』


 はぁ、ザクトラスもザクトラスだな。にぶすぎないか。


『いいじゃナイカ。

 寿命だって近いお似合イの男女ダ』


『は!?

 ちょちょちょっと黒いの!!

 何言ってんのよ!!』


『そウダナ。

 ザクトラスは他人に配慮すルのが苦手だかラ、もうちょっとストレートに行ってみたラどウダロウ』


『な、何言ってるのよ!?

 ………… (参考にさせてもらうわ)


『クックック。

 神秘的な美女、妖精のような面持ちで有名な天下のエルフ様ニ、こんなニ弄りがイがあるなんテナ』


『えっ何それ。

 人族だとエルフってそう見られてるの?』


『そうダゾ。

 報復で殺されてもイイカラ一度は(まぐわ)ってミタイなんて人族はザラなんダ』


『ひぃ!?

 お母様が人間は野蛮だって言ってた意味が分かったわ……』


『マ、ボカァ興味ないけドネ』


『でしょうね。

 貴方の目には女なんて荷物だって書いてあるわ』


『ヘェ。目に、カ。

 エルフ独特の言い回シってやつカナ』


 そんな風に僕とエルフが歓談していると、ドワーフとルートビア姉妹、それからドミニクが寄ってきた。


『おい黒いの!

 お前冒険者らしいじゃねぇか!!

 面白い話とかねーのか!!』


『おいライフルマン!

 お前昔は傭兵してたってザクトラスから聞いたぞ!

 なんで冒険者になったんだ!?』


『私もそれ気になる!

 教えてよ!』


『ですです!』


 その質問攻めに耐えきれなくなって、ついに僕は叫んでしまった。


『アーーーーー!!!

 女三人におっさんが加わると(かしま)しいレベルじゃねェナ!!

 イイサ、全部答えてヤルから落チ着ケ!!』


 そう、答えると言ってしまったのだ。

 今まで過去は全部はぐらかしてきたのに。


『『『ワクワク』』』


『確かに黒いのが冒険者になる前は何やってたのかも気になるな』


『ハァ。

 とりあえズ、クソガキの頃から傭兵やっテタ。

 そっから行軍つって色んな場所に行っタンダヨ。

 ンで、人殺しに飽きてきたンダ。どこ行ったっテ、敵を殺シテ、ハンギャクザイだのテキゼントウボウだので、無辜の商人や僕と同じガキ、嬢ちゃんだっテ殺シタ。

 で、飽きたンダ。殺しニモ、殺ししかナイ自分ニモ。

 でも僕にハ故郷はもうナイ。紛争で消エタ。もう帰るトコロはどこにモなイ。

 だかラ逆に旅をするこトにしたんだヨ。

 そうすリャカラッポの自分にモ何か注ゲルかもってナ』


 宴でアガっていた空気は、僕の周りだけ重くなる。

 まあ宴席でする話ではないしな。


『デ、旅をしながら出来る仕事は冒険者だけダッタ。

 それから今マデ何もなかった分、頭に色ンナ言語を詰め込ンダ。

 デ、今に至ルって感じダナ』


『……すまん。変なこと聞いて』


『気にすンナ。

 それなリには注ゲタしナ』


 それから一呼吸置くと、僕はトーンを下げ、しかし少し広がる様に思念を飛ばした。


『それから面白い話だっタナ。

 この辺を領土としてる国と、そこから北の国はずっト仲が悪イ。

 デ、向こうが軍を少し動かシテいるらシイ。

 それが刺激になって、その内戦争ガ起きルかもしレン。

 巻き込まれるノガ嫌なら逃げてオケ』


 そう宣言した後、目を巡らせると大柄な影が見当たらなかったので、僕は徐に立ち上がった。


『何処へ行く?』


『用を足してくルガ、ついてくルカ?』


『行くか!?

 さっさと行ってこい!』


 ちょっとふざけるだけでシャルルに怒鳴られてしまった。


 僕はその声を背に、宴会が開かれている広間から出て、あの3m越えの影を探した。

 ようやく見つけたと思って隣に座り込んだのは、作戦決行時に僕が狙撃の為に居た場所だ。


「よぉザクトラス」


「……お前か。

 ライフルマン。お前のおかげで随分と助かった」


 そう、里の隅に座り込んでいたのはザクトラスだった。


「ホントだゼ。

 アレ使うのがどんだけしんドイカ」


 クックと笑うとザクトラスは、空を見上げた。

 今日は満月だ。月光が奴の鱗を照らす。


「お前、売られタドラゴニュート探シに旅に出るんダロ?」


 そう、あれほど捕まえられたドラゴニュートが解放出来たからと言って全員帰ってきている訳ではない。

 不運にも救出が間に合わず、すでに奴隷として売られてしまった者もいたのだ。


「まぁ、な」


 ザクトラスは重く頷く。かなりの覚悟が彼にはあるのだろう。


「お前の旅ダ。俺達とは違う道ニなるダロウ。

 でもマ、お前ならやれるサ」


 そういうと僕はかなり手を伸ばして、高く、そして堅い肩を叩いた。


「お前、まさかそれ言う為だけに宴会抜けてきたのか?」


「いやなニ、僕たチャダチだロ?」


「……クカカカカ!

 お前、そんなクサいこと言う奴だったか!?

 ――ありがとよ」


 そう言うとザクトラスはこちらの首に手を回してきた。

 色んな意味で重い腕だった。


「ああ、あとエルフのお嬢ちゃんは大事にしてやレヨ。

 あの子はいい嫁にナル」


「は!?」


「何でもネェ。

 主役が居ない宴席ほど気まずい場はネェゾ。

 とっとト立テ」


「おいてめェ!

 俺とエルフにそんな関係は無い!!」


 僕はザクトラスの叫びも無視して、僕はさっさと広間への道へとついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ