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異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
ドラゴニュート編
24/33

24th shot

 僕はカスタムをいつものから少し変更した。弾薬を実弾に、ロングバレル化し、スコープを可変倍率にしバヨネッタをつけたくらいだが。

 そして革鎧のつなぎ目を確認し、大盾の持ち手を握り込んだ。


 僕は今、里の端からスコープを覗き込んでいる。僕の目に映るのは地面を歩いているドラゴニュート――成人前の恐らく20代の女性だ。

 すると頬を風が撫でる。同時に銃口が風によって流される。そうして何度か銃口が揺れた後、すぐ後ろにいるドミニクが僕に向かって杖を振った。


「行きます。集中して下さい。

 【アッパーセンス】【サプライブレイン】」


 彼女が言うと同時に僕はゾーンに入った。すると今までの比ではないほど僕の集中力は跳ね上がり、あのゾーン特有の耳鳴りさえ聞こえない。ただ祝福の鈴の音がひどくスローに響くのみ。

 そして僕の視界上には影が5つ浮かび上がっていた。丁度揺れた銃口の先に全ている。

 そう、あの風はエルフからのヒントだったのだ。僕の脳はその情報を拾い、そして視界へと補完していく。他の全ての機能を捨てて。

 ドミニクの付与魔法により感覚が超強化された僕の脳はその影をリアルに映し出していて、かつそれは僕の視点以外からも見えていた。僕の意識の目の前にはいくつもモニターがあって、一つの画面には僕の視界、一つの画面には上空のヘリから送られているかのような映像、さらに別の画面では僕の後ろから眺めている映像が映し出されている。いずれの画面上でも影はリアルに表示されていた。

 また少しすると写る影は増え、また各々様々な色で縁どられて、さらにその影の上部にタグが表示されるようになった。


 緑色で縁どられている影の上にはエルフのタグが。黄緑のはシェルカインド。青はクロエで黄はシャルルだ。朱はザクトラスで、水色がクォーツニュート。白がドミニク。そしてピンクが得体の知れない人間。

 僕はピンクの影の頭部を狙い、引き金を引いた。順番は分からない。撃とうと思ったらいつの間にかピンクの影の人間の頭部に弾を発射していた。

 瞬間、僕はゾーンを切ると相棒を消し、後遺症の軽い頭痛を耐えてドミニクを抱き寄せた。


「イイナ!?」


「はい!」


 僕はドミニクを片手で担いだまま助走をつけて樹上の里から飛び降りた。


「【スカイスケート】!!」


 そのまま僕たちは滑る様に空中を滑空していく。が、魔法が切れかかっているのか少し揺れ、またその揺れが段々大きくなる。そこで意志持つ風が僕たちの周囲を包み、下から吹き付けながら背中を押してくる。

 同時に強化されていた感覚の余波からか、5人の短い断末魔が聞こえた。そして魔法の詠唱も。


「【レンドリース】」


 瞬間僕らの周りを陽炎が包み込み、そしてそれはドミニクに吸い込まれていく。

 そしてこれはぼんやりとしか感じられなかったが、連中の結界に対して、32方向から同時にゴーレムが侵入したようだった。


「ホントは同時にってとってもしんどいんですけど、やるしかないですよね!

 【アッパーセンス】【サプライブレイン】【マークターゲット】!!!」


 最後の呪文は僕らにかけたのか、僕の手套には赤く光る十字線が現れていた。

 彼女は両手で杖を握りしめながら精一杯叫び、そして詠唱を止めない。


「【ダーゲットスプリット=【アースヒール】【ランインクリース】【アッパーセンス】【サプライブレイン】】!!!!」


 彼女が顔を真っ赤にして詠唱を終えた後、ぜぇはぁと息をすると共に僕の頭痛は消え去り、脚の反応速度が向上し、そしてまた感覚が鋭くなった。

 また彼女の周りを陽炎が包み込むが今度は吸い込まれようとも消えず、断続的にドミニクの魔力が回復していく。


「【クアットロ=【インクリース】】」


 詠唱が聞こえた方を見ると小難しそうな顔をしているクォーツニュートがこちらをチラッと見て目を合わせてきた。その後三枚目に笑って人差し指で敵の結界の中央を、僕と同じく十字線で印が成された手で指さす。

 クォーツニュートは得意気なまままた詠唱を始めた。


「【ソンダウォーリー=【マークターゲット】】【ユニオン=【マークターゲット】【リンクマジカ=【ソンダマジカ=【マークターゲット】】】】【ターゲットスプリット=【レンドリース】【テレパスリンク】】【セサンタ=【サプライブレイン】【アッパーセンス】】」


『あーあー。これは極表層上の意識を皆さんで共有しているのですな。あとおチビのお嬢さん。マーカーお借りしたのですぞ』


 意識に声が強制的に割り込んでくる。正確に言うと声ではなく思念なのだろうが。


『確かに便利なのもテレパスの使い勝手がちょっと悪いのも分かったから早く報告!』


『全くエルフのお嬢さんの水晶使いは荒いですな。我輩等はホール状の結界から南東にいるのですな。全方向からゴーレムが同時侵入したところ、南西と南の間のゴーレムが即座に破壊されましたな。そこが重要拠点のようでしたので東の方から何体か引っ張ってきて確認したところ、エルフ本人がゴーレムを破壊しているようなのですな。そこでエルフに首輪等の魔道具確認できず。よって例の魔道具は持っていない上奴隷ではないという最悪のシナリオに進みましたな』


『ソレは困ったナ』


『それから西のゴーレムをこっそりいかせたらターゲットと思われる人間たちの住処を発見。全体的に新しく、また土魔法で強引に建てたようで直ぐにでも倒壊しそうですぞ』


 すると考え込むような意識がザクトラスの方から流れてきた後、ハッキリした思念が頭に叩き込まれた。


『クォーツニュート! お前は土中に居るドワーフに細かい指示を送って奴らのねぐらの床から飛び出させてやれ。その後一番の優先事項は注目を集め、捕らえられたドラゴニュート族から遠ざかること!

 ドワーフ! そういうことだ! 後結界の礎みたいなのがあればぶっ壊せ!

 エルフ! クォーツニュートの指示に従ってドラゴニュートを解放!

 シェルカインドはエルフの護衛!

 残りは俺と一緒に敵性エルフの討伐!

 もし結界が破れたらクォーツニュートは遠視魔術で今以上のサポートを!』


『『『『了解!!』』』』


 今回の作戦は単純明快。全方位からのゴーレムの進撃によって賊は確実にその対処で人員が外に寄る。その中央に土中からドワーフが出現。すると確実に内と外からの攻撃に敵は混乱するはずだ。さらにドワーフにもかなりの人員が割かれるはずだから、その人手不足を突いて比較的素早いシェルカインドとエルフがどさくさに紛れて囚われのドラゴニュートを救出。クォーツニュートは全体の支援。それ以外は取り敢えず突撃して戦略的に最も脅威なエルフを討伐。

 ただエルフは現在ゴーレムが足止めしているハズだから、僕たちはやみくもに突撃するのではなく北東東に向かって走るだけでいい。


 そうこうしている内に地面へと着地、クォーツニュートの指示に従い言われた方向へと進むと順調にザクトラスやクロエ、シャルルと合流出来た。


 そして、結界を跨ぐ。

 瞬間周囲から風の刃が飛んでくるが、僕は大盾、ザクトラスは鱗、シャルルは大剣、クロエは身のこなしとそれぞれ最も得意な方法でトラップを防いでいた。

 なおザクトラスの得物は両手両刃斧(グレートアックス)二本だ。それを片手で持って二刀流で戦う。ドワーフよりも少し刃の厚さは薄いが、その分リーチはかなりある。その装備がありながら何の反応もせずトラップをものともしない奴の強靭性には少々呆れる。


 すると向こうから、粗末というよりかは服装に気を使っていないような野蛮な人間の連中が多数現れた。


「行くぞォ!」


 ザクトラスは一度咆哮を上げると一人で突撃していく。


 僕も援護射撃で主にザクトラスの背面に回ろうとしている人間の頭を次々と破壊する。


「ドミニク嬢。あいつらの中に魔道具持ちは?」


「えっといないです!」


『敵拠点南南西、敵性人間多数出現、しかしながら魔道具は確認でキズ』


『了解ですぞ。しかししんどいですな』


『泣き言を言うなら前線に出てみたらドウダ?』


『失敬、援護に務めさせて頂きますぞ!』


 しかしながら今回最も活躍しているのはクォーツニュートのはずだ。先程の詠唱にも気になるワードがあった。

【セサンタ=【アッパーセンス】【サプライドレイン】】――これは、感覚強化とそれによる脳の負担を防ぐ魔法を、六十重で自身にかけているのだ。

 恐らく耳元に口を寄せて大声で叫べばそれだけで彼は失神するだろう。それほどまで思考回路と魔術回路をフル稼働させているということはつまるところ、ゴーレムは自動制御(オートマ)ではなく手動操作(マニュアル)なのだろう。普通の人間は二本の腕、十本の指すらまともに使いこなせていないのに、やつは64本の腕を手動で動かしているのだ。これは後でザクトラスにいって奴の報酬に多少上積みしてもらわないとな。

 エルフにしてもシェルカインドにしても森の中を巧みに駆け、ドワーフは最も過酷な針のむしろで暴れている。ザクトラスは自分自身が奴隷とされるかもしれないのに先陣を切っている。

 ドミニクにしてもそうだ。息が絶え絶えになるまで詠唱を行い皆に付与魔法をかけた。


 では僕は何をしたか。


 安全なところから人を5人殺しただけではないか。


 僕の不穏な雰囲気を感じ取ったのか、ザクトラスが叫んだ。


「おい! ライフルマン」


「ハハは、はハ」


 きっかけはルートビア姉妹の村での攻防戦だった。

 ただ銃を乱射しているだけで僕は自分で体力を失っていた。

 圧倒的に、緊張感が欠けている。



 思い出せ。昔の僕を。

 人を殺す為だけに生きていた僕を。

 脳漿と血が飛び散る中、飛び回っていた僕を。


 ――僕はいつまで、このままごとに付き合っているんだ?


 僕は大盾を投げ捨て、腰に差してあったレイピアを抜いた。

 左手に銃を持ち右手に剣を持つ。


「このスタイルは、久々ダナ」


「お前……!?

 そりゃあ昔の――」


 ザクトラスに襲い掛かっていた賊の頭上まで跳ね上がり、やや後ろから首裏のくぼみにレイピアを突き刺した。

 即座にレイピアを引き抜くと共に、隣にいた賊の頭部をヘッドショットで仕留める。

 瞬時に血を噴き出す人形が二つ出来た。


 僕に対して横なぎに剣を振ってくる奴がいたので尻が地面に着くかどうかまで腰を落とし、刃を避ける。同時に半歩前へ出て、攻撃者の腹にバヨネットを突き刺し、三発ほど弾丸をおみまいした。


「クズ共ガ。皆死ネ」


 わらわら湧いてくるようにいた人の中でも群がっていた部分にフルオートで弾丸をばら撒きまくる。

 流石に片手だけでは制御できず、レイピアを逆手持ちして右手も銃に添える。


 どんどん血噴き人形が増えていき、そして残った人間は恐怖に囚われ周囲に逃げ去った。その方向に向かって弾丸を3発ずつバーストで土産として持たせてやる。

 そして数瞬遅れて幾つもの短い断末魔が森に広がった。


 血まみれになった僕は皆の方に振り返ると、微笑んだ。


「さァ、敵は排除シタ。行こウカ」


 ふと見やると、クロエも二人、シャルルも一人敵を仕留めていたようだった。結構なことだ。人を殺すときにはしっかり殺せるのが冒険者なのだからな。


「あの時も思ったが、お前が敵でなくてよかった」


「ザクトラスだってソウサ」


 僕たちは拳の甲をお互いにコツンとぶつけると、その先に進んでいく。その後ろから人間三人組が追いかけていく形だ。


『敵性人間、全排除。報告を頼ム』


『ドワーフ殿は善戦、というか無双状態ですな。土魔法は防御向きなので持久戦にも向いているのでしょうな。

 探索組は未だ発見できておらず。ただし戦闘も数回程度に収まっているので作戦は成功しているといっていいですぞ』


『了解。僕達はもうすぐ敵性エルフと接敵出来ると思ウ』


 さて、次が本番だ。

口径:5.56

弾薬:NATO弾

銃身:ロング

   バヨネット

銃口:

銃倉:複列

照準:可変倍率サイト

その他:反動軽減

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