表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
ドラゴニュート編
22/33

22nd shot

 ここは集落の中でも障害物が何もない場所だ。ザクトラス曰く普段はただの広場だが、戦闘の訓練にも使ったりするらしい。

 そんな場所の中央でエルフの彼女がぽつんと佇んでいる。

 エルフが何事か呟くと、周囲の風向きが変わった。彼女を中心に渦を巻く様に、そして徐々に風速を上げながら風が流れていく。その風の中心点が徐々に下がってゆき、彼女の足元に及んだ時、エルフは宙へ浮いた。

 そのまま彼女は何分かホバリングしながら、前世で言うところのドローンのような動きをした。


「とまあこんな感じで、風魔法が得意ね。自分の体重くらいなら浮かせられるし、それ以上重たい物でも押すことで移動させることくらいならできるわ。

 あとは標準的なエルフって感じかしら。木々に溶け込んで、弓でひっそりと狩りをする普通の、ね」


 彼女はエルフであることに誇りを持っているようだった。それは言葉の節々にも表れているし、その表情もニンマリと、承認欲求を満たせたような笑顔となっていた。

 うーん、くっころ。

 いや、ちょっと思っただけ。


 僕以外には中々受けていたようで皆一様に驚いた表情をしている。この世界で体を浮かせるほどの魔力は一級といって差し支えないからな。冒険者で言うなら入会後即座にBランクに入れるほどの戦闘能力を備えているだろう。

 特に魔術師のドミニクとクォートニュートは驚嘆している。僕としては体が石の癖して表情をコロコロ変え、髪の毛一本すら水晶のクォートニュートの方が神秘的で素晴らしいと思うのだが。

 その僕のリアクションを受けてか、ついさっきまでニヤニヤしていたエルフは不満気な顔をしてこちらを睨んでくる。分かりやすい性格だこと。


「次は儂じゃな。ふんっ!!」


 ドワーフのおっさんは場所をエルフと入れ替わると、床を思いっきり踏みつけた。

 すると踏みつけたあたりから太い簡素な槍がジャキンッと何本も突き出した。


「ほれほれ!!」


 ドワーフが床を踏むたびズガガガガッと槍が飛び出るが、よく見るとその槍は岩で出来ていた。


「ま、こんなもんかの。木の上でここまでできれば上出来じゃわい。そんでもっての――」


 そういうとドワーフは離れに一人走っていって、そのまま戻ってきた。ただし帰りは身の丈を大きく超える両刃斧を持ってだが。勿論彼の身長はドワーフだけあって1mと数十cmしかないが、それでもその斧の威圧感は半端ではない。そしてその斧を軽々と担いでいる彼の膂力は以上だ。斧が玩具にすら見えてしまう。


 彼は先ほど出現させた岩槍を、轟音を伴ってへし折った。一本目は油断していてドワーフが何をしたか見えなかったが、二本目からは良く見えた。むしろ彼がゆっくりと振ってくれたのかもしれない。

 つまるところ、彼は思いっきり肩と腰をひねり込み斧を振りかぶって、そのまま力任せに斧を振ったのだ。そして力づくで岩を破壊した。


「儂も標準的なドワーフ、と言ったところかの。地面の上なら槍はもうちょっとデカくて強いぞ」


 そう笑いながら彼は全ての槍をへし折ると離れで見ていたこちらにとことこ歩いてきた。重厚な斧が軽々と扱われていて、そんな異常な膂力を持つ彼は小さくて、歩幅は短い。何もかもが矛盾していて気持ち悪ささえ感じた。

 先程のエルフとは真逆の自己紹介だが、ただエルフと共通するのはそのニヤニヤとした表情だった。ただしこちらは幾分か好戦的であり――おそらくは前々から暴れたかったのだろう――そして意趣返しと言わんばかりにエルフを見ている。

 それを察したエルフは表情をさらに仏頂面にしたが、本来のドワーフの種族性を鑑みるとその対応は少し間違っている。彼はエルフに向かって『どうだ、俺の方がすごいだろう』と暗に語っているのではなく、『いいもん見せて貰ったからこっちも全力出したぜ』という意味合いで笑いかけているのだろうから。


「じゃあ次は俺が。ドワーフ、ちょっと戻ってくれるかい」


「うん? 構わんが」


 シェルカインドがドワーフに声を掛ける。やはり特徴的なビブラートが聞き慣れない雰囲気を醸し出していた。

 シェルカインドの彼は全身を甲殻で覆われていて、分かりやすく言えばカニの殻で作ったフルプレートアーマー装備のような格好をしている。


「《フェルム》!!」


 彼はシェルカインド語で呪文を叫び、その手甲によく似た拳を打ち合わせた。すると高らかな金属音が鳴ると共に彼の全身は淡く光を放っており、その輝きは前世の玉虫のようでもあった。


「じゃあドワーフ。斧で打ち込んできてくれ。ただしゆっくりね。本気は流石にダメ」


「あい分かった」


 二人は修練場の中央で正対する。

 ドワーフがゆっくりと、しかし細部までしっかりと振りかぶると、全身をバネにして斧を横に振るった。速度は無いが、その分重さを感じさせる一撃だ。

 それを、シェルカインドは両手を折りたたむようにして――ボクシングで言うとピーカブーに近い――盾にすると、そのまま斧に直角に当てた。

 ――ガァキィィィーーーンと爆発音に似た金属音が鳴った。しかしながら二人は静止したままとなっている。

 そう、シェルカインドはドワーフの一撃をまともに受け止めたのだ。


「ま、そーゆーこと。ナイス力加減」


 シェルカインドは気安くドワーフに声を掛けるとようやく動き出し、僕たちがいる方向に戻ってきた。

 が、ドワーフはその場にとどまったまま震えている。


「お? どうした?」


 シェルカインドが振り返った時点で、もう我慢ならんといった形相でドワーフは彼に凄まじいスピードで詰め寄ると肩をズガンと叩いた。


「やるじゃあないか!

 シェルカインドも捨てたもんじゃないのう!」


 ガッハッハと満足下に笑うドワーフだが、その隣のシェルカインドは肩を抑えてうずくまってしまっていた。


「ぐ、お、ドワーフ。

 そういうのは魔法が解けてない時にして、くれ。

 ぐおおおおおお」


 なるほど。つまりシェルカインドは光っている時でないとその固さを存分に活かせないと。いや、ドワーフの斧も打撃に近いところがある点を考えると、あの魔法は表皮の硬質化と共に衝撃の無効化を行っていたのかもしれない。故に今もうずくまっているが、衝撃に耐えられなかっただけで殻は傷ついていないのか。


「おイ、ドミニク嬢。回復魔法でもかけてヤレ」


「あ、はい! ヒール!」


「ぐおお、お?

 あ、楽になった」


 やはり、彼は痛みにのたうちまわっていただけのようだ。回復魔法一つで即座に立ち上がった。本来ヒールは傷を回復させるが、自然治癒力を高めている訳ではないので爪や髪は伸びない。よって殻も回復しないはずだが、立ち上がった彼の肩には傷一つない。


「ありがとな。人間」


「は、はい!」


 甲冑が少女に話しかけるというちょっと違和感のある光景が目に入るが、この世界ではこれが普通なのだ。異世界の感性を持ったままでは生きては行けない。

 それでもその違和感に僕がクスッと笑ったところで隣にいたクォートニュートが急に笑いだした。


「ほほう。ほほほほう!

 凄まじいの一言に尽きますな!

 我輩も触発されました!

 では一芸を披露いたしましょう!」


 そう大声で宣言すると、彼は自身の魔力を放出し始めた。彼の魔力は凄まじく、本来魔法に疎い僕にも見えるレベルで魔力を全身に漲らせている。そして、そのオーラとも言える魔力は最初は体表から数センチほどしか広がっていなかったのに、徐々に広がり、ある一定の距離を超えた時点で一気に拡散した。つまるところ、ザクトラスに収集されたメンバー全員がクォートニュートの持つ魔力にまるまる包まれてしまった。


「そうですなぁ。それでは。

 【レンドリース】」


「「うおお!?」」

「「きゃああ!?」」


 シェルカインド、ドワーフ、エルフ、ドミニクが一斉に声を上げた。


「我輩の魔力は原始魔力と呼ばれるものなのですぞ。個人個人に血のように巡っている固有魔力ではなく、空気中に含まれるマナ、その集合体と同じ性質を持つのですぞ。

 故に特殊な加工を必要とせずに魔力を譲渡することが出来るのですぞ。今のは魔法を使って消費した彼ら彼女らの固有魔力に我輩の魔力を継ぎ足したのですな。

 変な感覚がするのは多分多めにいれたからですぞ」


 そう、クォートニュートの言う通り、魔力とは血と同じで血液型がある。しかも血よりもさらに細かく、少しでもズレていると受け手側の技量が必要となってくる。そういったところでいえば、彼の魔力はO型と言える。


「え?

 でも私結構魔法つかったのに……全快してる!?

 なんで!?」


「そうですなぁ。

 そこのドミニクと呼ばれた人間のお嬢さんは平均的な人間の20倍ほどの魔力量を誇っている。これは人間にしては驚異的ですな。しかしエルフのお嬢さんはその10倍。やはりエルフとは魔法を扱うべくして生まれた種族なのでしょうな。しかしながら、我輩の魔力量はその10倍なのですぞ」


「「「「「「は?」」」」」」


 皆の声が一様に重なった。

 つまり、アレか。このクォートニュートは通常の人間の2000人分の魔力があるってのか。


「馬鹿らしくなってくルナ」


「ちなみにシェルカインドのお嬢さんの魔力量は人間よりやや少ないですな。そこな人間の金髪のお嬢さんと同じくらいですぞ」


「えっそうなのか」


「「「「「「え?」」」」」」


 シェルカインド以外の全員が耳を疑ったようだ。声がまたもや一致した。


「お、おい。お嬢、さん?」


 ザクトラスが見たこともないほど動揺している。


「ええ、我輩は生体学者でもありますから。シェルカインド族は魔法を使う際、黒光りするのが雄、黄金色に光るのが雌ですぞ。これは交尾のサインにも用いられるので界隈では有名ですな」


「それホント、なの?」


 クロエがポカーンとしながら口を動かすが、彼女は驚いたらまず疑う癖があるようで、とりあえず問うている。が、結果は勿論分かっているだろう。


「ええ。ね?」


「うん。俺、雌だよ?」


「はぁーーーー!?!?」


 しかし一番動揺しているのはザクトラスだ。恐らく今回は対人間の為に、少なからず人間から拉致被害を受けている種族の戦友に参加を募ったのだろう。つまるところ、この中で彼女と一番長い付き合いなのはザクトラスなのだ。


「え? 俺ずっと男だとばかり……。

 じゃああの時一緒に風呂に入った時妙に恥ずかしそうにしてたのは……」


「うん。交尾のお誘いかなって。

 でもそれから何も手だしてこなかったからびっくりしたよ」


「はーーーーーーー!?」

口径:5.56

弾薬:魔弾

銃身:ショート

銃口:サブレッサ

銃倉:複列

照準:1.6倍サイト

その他:反動軽減

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ