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異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
ドラゴニュート編
21/33

21st shot

 あのうんざりするようなライフルマン自慢から抜け出した僕とドミニクは里の足場を歩いていた。木で作られている筈の足場だが、本来体重が数百キロする竜人が乗る為に建設されただけあって僕らのような小さい人族が乗ったところで一切軋まず、辺りは物音一つない。時折コウモリが羽ばたくような鋭い羽音が耳に障るが、大した音量でも無かった。


「この前はキミから話しかけてくれたのニ、今は黙り込むんダネ」


「……あの」


「なんだイ?」


「――いえ、なんでもありません」


 何というかドミニクからはよそよそしさを感じる。今までは隣人のように接してくれていたのに、急に本の中の登場人物と出会ったような雰囲気でこちらをちらちらと見てくるのだ。

 そうやって歩いている内に里の外周の低い柵についてしまった。遮るものがないからか、他の場所よりすこし風が強く、少し下を見下ろせば高所にいる実感を得ることができる。

 僕は柵に腰掛けると、ドミニクの方をじっと見つめた。今夜は満月だ。ドミニクの困った顔が暗がりの中でも良く見える。


「あの、その。

 ライフルマンさんは……」


「なんだイ?」


「ヒトを食べたことが、あるんですか?」


「あるヨ」


 何故、彼女がそんな答えに行きついたのかは知らない。ただ、僕は彼女らには偽らないようにしている。だから今回も断言した。


「そんなにうまくもないガネ。

 戦争で飯が無いって時に足がやられた奴が出てサ。

 俺たちに担いでいく余裕はない。放っておいたらいつか野生動物に食われて死ヌ。

 だから殺しテ、せめてもの手向けとして食ッタ。

 だかラ、アイツの死は無駄にはなってなイ。腹すかした俺たちのヒーローダ」


 そう答えると、ドミニクはしばらくビクビクしていたが、急に顔を上げるとこちらを信じられないような目で見てきた。


「何も、聞かないんですか?」


「何をサ」


「えっと、私が何でそれを知っているとか」


「聞いてどうするのサ」


「え?」


「パーティリーダーでもない僕が全部理解する必要なんてあるカ?

 キミはとても頭がいいか、知識や記憶系統の魔法が使えるかのどちらかダロウ?

 だったらそれでいいのサ」


 ドミニクはポカンとしていたが、しばらくすると目に涙を貯め始めた。


「じゃ、じゃあ聞いていいですか」


「何ヲ?」


「同じ魔道具使いとして、です。

 私の魔道具は『賢者の宿り木』というものでこの杖のことです」


 そういうとドミニクは背中に背負っていた杖を両手で持つと僕の方に装飾されている先端部を見せてきた。特にこれといって特徴のある杖ではなかったが、しいていうなら杖は赤い水晶玉をなぞる様にして作られており、木の部分は刈り入れ鎌のような形をしている。


「この杖は、持ち主から幾分かの魔力を吸って、その代わりに持ち主に知識を授けます。私は人一倍魔力が多かったので、色々なことをこの杖から学びました。ただ、条件があって、誰かの言葉を聞くと呼応して蘇るように知識が湧くんです。逆に誰からも声を掛けられなければ何も起こりません」


「それで、今回は戦争っていうキーワードに反応した訳カ」


 要は相棒をカスタムした時の記憶のフラッシュバックの軽いのをドミニクはちょくちょく経験しているということだ。

 これで彼女が大人びている原因が分かった。単純に物を年の割に知りすぎたと、ただそれだけなのだ。

 今回はその戦争のフラッシュバックの中でも特に凄惨な部分を見たのだろう。それで精神的にダメージが来たと、そういうことになる。


「なるほど。まあ大体分かッタ」


「え?

 ――信じてくれるんですか?」


 驚くドミニクに、相棒を召喚してみせる。


「コイツも似たような性質があるからナ」


「え、えぇ!?!?」


「僕がクソガキの頃からザクトラスの言ってたことが出来たのは、こいつが知識をくれたおかげナンダヨ」


「な、なるほど」


 最初期のカスタム時に、太平洋戦争のアジアでの決戦のビデオの記憶も蘇っていたのだ。生還した元兵士のとある男の言葉を借りれば『食えるものは何でも食った。カエルでもヘビでもヤドカリでもヒトでも。とにかく食べなきゃ死んでしまうし、食べなかった奴は死んでいった』そうだ。それでも、知識があるのと実行できるのはまた別の話だから、ホントの最初期は出来なかったけれども。


「もしかして、友達から『踏み込み過ぎ』とか言われたりシタ?」


「!?」


「で、その魔道具を持ってることを皆知らないから、キミのことを記憶を覗く魔女扱いしたりトカ、そんなことを里の皆からされたんじゃナイ?

 安心シナ。冒険者になるような奴らはむしろされる側サ。誰もそんなこといいやしないヨ」


「えっえっあのっ」


 当のドミニクは情報量が多すぎて処理に混乱しているようだった。あたふたしているし、汗も少しかいている。


「ああ、それこそ『踏み込み過ぎ』たカ。いきなりでビックリしたロ。悪かッタ」


 確かに結論を急ぎ過ぎたかもしれない。だから子どもは苦手なんだ。こちとら精神年齢最低でも45歳だからな。


「ところで、その杖ってどんな感じに知識を与えるンダ?」


「あっ」


 そう言って僕が杖を掴んだ瞬間、辺りに光が迸る。それと同時に僕の体に大電流が流れ、黒焦げにされてしまった。


「あの、賢者の宿り木は持ち主以外が触れると雷属性の魔法を発するんです」


 そういうことは、早く言って欲しかったな。うん。




 ×××




「さて、これより現状の確認と作戦会議を行う」


 ザクトラスが音頭を取り、昨日の東屋で様々なメンツが一同に顔を合わせる。ただ奇怪なのはドラゴニュートの集落でありながらドラゴニュートはザクトラスを除いてだれもいなかったことだ。エルフ、ドワーフを筆頭に、甲殻を持つ人という超激レア種族のシェルカインドや、全身魔力石で作られた石人間であるクォートニュートまでいる。

 巨大な虫に近い外見を持つシェルカインドは人族領にいることは滅多にない。その外見が嫌われているからだ。極稀に冒険者としているか、人体収集家の貴族の奴隷以外ではみたことがない。クォートニュートはさらに居ない。全身が魔力石という鉱石で構成されている為、ゴーレムや魔法生物と認識されることが多く人として扱われないことが殆どな上に、その体の特異性から魔導師に研究対象として見られている。故にクォートニュートであることが知られれば即座に賞金首にされ、捕まればモルモットと同列に扱われるのだ。

 エルフは勿論だが、クォートニュートであらば捕縛して生きたまま売れば或いは億単位で競売にかけられるやもしれない。勿論金貨で、だ。

 これはマズいな。任務遂行にあたって金の誘惑が強すぎる。ここにいる誰かを一人捕まえて売り払うだけで恐らく相棒を全カスタムした上で、一生を遊んで暮らせるだろう。

 実際に魔術士であるドミニクは目をときめかせてクォートニュートを見ているし、ルートビア姉妹も落ち着かない素振りで辺りを見回している。


「あー、まず確認したいのだけど」


 正に鈴がなるような、という表現が当てはまる声でエルフが挙手をしながら口を開く。


「ねぇザクトラス。貴方は人間は敵で、彼らを退治する為に私達を雇ったのよね?

 なんでそのチームに人間がいるのよ」


「コイツは俺の旧友で、戦争経験を何度もしている歴戦の兵士だ。

 確かにヒトの冒険者というのはがめついのが多いが、コイツはほぼ金無しに遠い人の村から歩いてやってきてくれたんだぞ」


 彼女は相当にお冠らしい。わざわざ人族の言葉でザクトラスに抗議をしている。


「ふーん。それじゃ、確かに貴方はこの人族たちを信用しているようだけど、それを私達にも強要するのは傲慢じゃないかしら」


『少しいいだろうカ』

【少しいいだろうカ】

 〈少しいいだろうカ〉

 《少しいいだろうカ》


 どうせだからドラゴニュート語、エルフ語、ドワーフ語、シェルカインド語で語り掛ける。


『確かに人族が信用ならないのは同感ダガ、それらを何も知らない僕たちにまで当てはめることこそ傲慢ではないカネ』

【確かに人族が信用ならないのは同感ダガ、それらを何も知らない僕たちにまで当てはめることこそ傲慢ではないカネ】

 〈確かに人族が信用ならないのは同感ダガ、それらを何も知らない僕たちにまで当てはめることこそ傲慢ではないカネ〉

 《確かに人族が信用ならないのは同感ダガ、それらを何も知らない僕たちにまで当てはめることこそ傲慢ではないカネ》


 すると周囲が今までとは違う雰囲気に包まれた。半分呆れではあるが、もう半分は僕という不可思議な存在への注目だ。なぜならここまで多言語を操る人族などまずおらず、故に少なくなくとも僕には彼らの氏と接触があったことを示しているからだ。


『ぼかぁ色んな種族の集落へ行ったしここも今回で二度目だ。だが、君達の種族は殺したことはないヨ。勿論、人族は数えきれないほど殺したガネ』

【ぼかぁ色んな種族の集落へ行ったしここも今回で二度目だ。だが、君達の種族は殺したことはないヨ。勿論、人族は数えきれないほど殺したガネ】

 〈ぼかぁ色んな種族の集落へ行ったしここも今回で二度目だ。だが、君達の種族は殺したことはないヨ。勿論、人族は数えきれないほど殺したガネ〉

 《ぼかぁ色んな種族の集落へ行ったしここも今回で二度目だ。だが、君達の種族は殺したことはないヨ。勿論、人族は数えきれないほど殺したガネ》


「ふぅ、さて、ここまで喋られたンダ。そろそろ僕が異種族に対して寛容な精神を持っていると認めてくれないカナ」


 多言語を話せるということはそれだけ多種族に関わってきたということ。それが分からないほど、この場にいる者は阿呆ではあるまい。


「……うん。確かに。さっきのは訂正するわ。

 貴方は確かに普通の人族とは違う」


 少なくともエルフは認めてくれたようで、場の空気も一触即発という訳でもなくなった。


「ま、儂も認めるしかなかろうな。じゃが、儂らより上の使い手には到底見えん。

 とりあえずはお互いの手の内を明かし合うことから始めんと作戦も何もないぞ」


 しわがれた、しかし腹から声をだしてはきはきと喋るドワーフはこちらをじろりと品定めするような目でこちらを見てくる。その視線にへらへらと笑って返すと、ふんっと呆れられた。なんでだ。

 次に妙にビブラートの効いた若干甲高い声で話すのはシェルカインドだ。


「まあ初見から敵意は感じなかったし、人間も一人くらいいてもいいんじゃないの?

 いや4人か。まあ大して変わんないか」


 最後に妙に響く声で、クォートニュートが口を開く。


「我輩は少々怖気を感じましたがな。

 まあいいでしょう。今日はドラゴニュート族の被害とその傾向、こちらの持ち札の確認に費やすとし、その後余裕があれば作戦を練りましょうか」

口径:5.56

弾薬:魔弾

銃身:ショート

銃口:サブレッサ

銃倉:複列

照準:1.6倍サイト

その他:反動軽減

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