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異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
ドラゴニュート編
20/33

20th shot

「グルゥズスィ」

『ついてこい』


 僕が交渉した竜人が戻ってくるなりそう口にした。ただし彼の額は大きく腫れあがっていた。


「ギルズィ」

『どうしタ?』


「ガルルギルズァースル!

 ギリスァーグルガルガ!」

『いいからついてこい!

 飛んでいく方が早いからこいつらの足にでもつかまっておけ!』


「今のは?」


 何やら急に怒気を増した竜人にシャルルが怪訝な顔でこちらに訪ねてくる。


「どうやら集落に入っていいらしイ。

 これから飛んで向かうから竜人の誰かの足でも掴んでおけってサ」


「おお!」


 そうやって僕たち四人は束の間の空中飛行を楽しんだ訳だが。

 集落に近づくにつれ、その独特な文化が垣間見えてくる。大樹の枝に足場を作り、橋を作って繋げ、そしてそこに家を建てる。しかしながら殆どの家には屋根が無く、またあるところもかなり高い建造物に限られた。樹上で暮らす少数民族、竜人。前に一度訪れたことがあるが、やはり未知の集落から感じるロマンは溢れ出るほどだ。初めてくるシャルルやクロエは感動もひとしおだろう。

 そうやって何本もそびえ立つ大木の内の一つ、里の端の足場に着いたところでようやく彼らは着地した。


 周囲を見渡すと活気づいているとは言えないものの、様々な姿の竜人が見受けられた。

 時に竜人とは面白い生態を持ち、卵生でありながら、幼子は人間とほぼ変わらない見た目を持つ。それから成長すると共に少しずつ手足の末端部に鱗をつけてゆき、20歳を過ぎると骨格自体が竜に近づいて行くのだ。竜人と聞きイメージするのは普通のドラゴンが直立二足歩行しているだけのパターンと、鱗や角、翼や尾を持つ亜人であるパターンの二つになると思うのだが、この世界の竜人は20歳から30歳ほどまでが後者で、40を過ぎると完全に前者の姿となる。しかもこの種族は100歳まで成長が止まらないので、最終的には竜人は皆身長が3mほどになる。故にわざわざ天井を付けると頭を打つので彼らの建造物は屋根がないことが多い。樹上だけあって枝葉が雨を防いでくれるのもある。そして竜人は個体差もあるのだが、生きる時は500年ほど生きる。ので100歳までは、成長しているのもあって大抵子ども扱いとされる。

 ここで思い出して欲しいのだが、僕たちに叫び声を上げた5体の竜人はみな身長がバラバラであったということはだ。大体80歳から40歳の竜人達が出てきていたということで、そして迎えに来た竜人の額にいわゆるたんこぶが出来ていたことからして、集落の守衛もどきをしていたのは5体の独断行動であり、本当に人間が来てしまったので報告に行くと怒られてしまったと。それでげんこつを落とされ、迎えに行くよう親に言われた。現状の筋書きはこんなもんだろう。つまるところこの5体は危機感に駆られて勝手に見張りをしていたクソガキ共と、そういうことになるのだ。今までは追い返すだけで報告も何もなかっただろう。しかし上にアポを取っている人間が来てしまい報告せねばならなくなったというのは本当に運が悪いとしか言いようがない。


 僕がそう考え込んでいると村の中心の方からやはり身長3mクラスのデカい竜人がのっしのっしと歩いてきた。歩く姿でさえも迫力を出すその姿は確かに竜の血を受け継いでいることを見る者に実感させる。


「うちのクソガキが悪かったな。

 俺は人間の言葉も話せるから安心してくれ」


 重厚感がありながらも少しかすれた声でそう話す竜人はこちらに手を差し伸べてきた。


「俺の名前は――」


 そんな彼の前に僕は一歩前に出て、手を握り返して言葉を被せる。


「よう、ザクトラス。僕だヨ。ライフルマンサ」


 竜人ことザクトラスは数度目をぱちぱちさせた後、口をあんぐりと大きく開けた。


「お前、ライフルマン!?

 おいおいおいおい!!

 依頼を受けてくれたのか!?

 ありゃーダメ元だったんだが、よかったよ! お前が来てくれるなら百人力さ」


 ザクトラスは僕に覆いかぶさる様にハグをすると、背中をバンバン叩いてくる。体が大きい分腕も太いので結構痛い。


「お、ゴホ、ウ。

 そっちも元気そうでっゴホッ何よりダ。ゴホッ。

 ええイ、叩く力が強いんだヨ! 体のデカさを考えないカ!」


 途中まで何とか耐えようとした僕だったが、流石に我慢ならんとハグを抜け出し、背中をさする。


「おっと、こいつは悪い」


 謝りながらもザクトラスは笑ったままだ。だがその笑顔を一瞬で消し、こちらに真剣に問うてくる。


「お前はいい。強いしな。

 何より頭がキレる。

 だが、後ろの三人は頂けねぇ。

 俺の依頼はお前単独に出したんだが、コイツらは信用できるのか」


「オタクらの事情は分かってルつもりヨ。

 安心しナ。こいつらは盗賊を拷問するのも許さねぇ上に人一人殺すだけでピーピー泣く甘ったれサ」


「おい!」

「ちょっと!」


 僕の文言に文句を言う二人だが、その二人を見てザクトラスは少し笑みを浮かべると、ゆっくりと頷いた。


「……そうか。

 ならいい。くれぐれも、な」


「アア」


「じゃあ色々と説明せにゃならんことがある。

 ついてこい。自己紹介もまだ済んでねぇしな」


 クルリと踵を返すと、またのっしのっしとザクトラスは集落の中央へ向かっていく。ただ、一度だけ咆哮を上げてからだが。


「ガァアアルルルルル!!!!!!」


「「「「「ピィッ!?!?」」」」」


 その言葉に僕たちを運んできた五人組が震え、ついでに何故かシャルルとクロエ、ドミニクもビビっていた。


「しかし、やはり竜族。貫録があるな」


「ていうか超こわいんだけど」


「でもカッコイイです」


 因みにザクトラスの咆哮の意味は『お前ら後で全員ボッコボコだからな』である。




 ×××




「さて本題にはいろうか」


 僕たちは集落の中央よりやや南、公園の東屋によく似た空間で顔を突き合わせていた。


「さっきライフルマンが呼んでいたから分かると思うが、俺の名前はザクトラス。昔は冒険者をやっていた。といっても今は里に戻って守衛の親玉をしている。

 ライフルマンとは昔戦争の時に知り合った。今から、そうだな。11年ほど前だ」


「接点はなんだ?」


「俺は冒険者でコイツは傭兵だった。両方とも戦争するのに雇われるだろ? その時同じ隊だったんだよ」


「なるほど」


「ていうかライフルマン昔は傭兵だったんだ」


 するとザクトラスはクロエのふとした疑問に食い付いた。


「ん? なんだ?

 お前らライフルマンから聞かされてないのか?」


「ああ、奴は何も言わないし聞いてもはぐらかすからな」


 ああ、ザクトラス。余計なことは言うんじゃない。黙ってろ。

 僕がそう思念を込めて睨んでいたのに、むしろそれに気づいているかに僕のことをザクトラスはベラベラ話し始めた。


「コイツの出身地はここより数千キロ南西にあってな。こいつが10のころにその国でクーデターが起きたんだよ。

 内戦でもうなりふり構わず徴兵したもんだから、勿論当時のライフルマンも兵士として前線に出されて、確か斥侯部隊に配属されたんだっけか」


「知らン」


「んでその部隊長が無能で、森林を行く内に遭難して、生き残ったのはライフルマンだけだったってのは俺たちの中じゃ有名な話さ。その後戦争が終わって国が変わってからは戦争の経験を生かしてコイツは傭兵になった。

 だが、傭兵になっても配属されては部隊は全滅してコイツだけ生き残るんだ。その内死神っていう二つ名がついてな。

 その名前が冒険者連中にまで聞こえる様になった頃、俺とライフルマンは同じ部隊に居合わせた訳よ」


「そろそろ止めないカ」


「いいじゃねぇか。こっからが面白いところなんだよ」


 ザクトラスは他人である筈の俺の武勇伝を、まるで自分がしたかのように楽しそうに話す。それをルートビア姉妹は真剣に聞くものだから止めるに止められない。


「それでコイツの戦いぶりを見て、ライフルマンがたとえ部隊が全滅したとしても生還出来た理由が分かったね。

 それは、なんていうか、死を恐れてないんだ。それでかつ究極に憶病なんだよ。

 矛盾してるように聞こえるか? だが事実さ。

 どんな優秀な兵士にだって生きたいって願望はある。だから必然的に死には恐怖を持ってる。

 だが、ライフルマンのその時の目は、まるで一度人生は満喫したからもうこの命は捨ててもいいやって感じだったんだよ。

 それでいて、こいつは死なない為の努力を怠らない。前線では姿勢は常に低く、敵から逃げるより当たる方が武器ってのは威力を殺しやすいから近づく。兵站が来るのが遅れると気付きゃあ泥水を率先して啜り、我先にと毒が入ってるかもしれねぇきのこや虫を食った。手持ちの食料で次来る兵站まで持つかもしれねぇのにだぜ?

 だからコイツは死なない。一見すると死亡率が高いが長い目で見ると死ににくいことを、ノータイムでライフルマンは出来るんだ」


「んん?

 どういうこと?」


「たとえばよ、飲んだらほぼ死ぬ薬を目の前に置かれて、飲んだら見逃す、飲まなかったら殺すと言われたとするだろ。言った奴がかなりの使い手だったとしてよ。

 ライフルマンは自分が弱いのを知ってる。だから、言った奴と戦えば絶対死ぬと分かる。普通のやつならここでやぶれかぶれに言った奴に抗うんだろうが、ライフルマンは言われてすぐにその薬を飲むんだよ。絶対死ぬよりほぼ死ぬほうがマシってな。その判断を一切迷わず即座に下せるんだ。要は冷静に狂ってたのさ。こいつは」


「……はぁー」


 クロエは変人を見るような目でこちらをみてくるし、シャルルは今の話を聞いて硬直している。こうなるだろうから僕は自分語りをしなかったんだ。のにザクトラスの野郎は。


「ただ、昔のライフルマンは今よりギラギラしてたぜ。

 普段から殺気が漏れてるっていうか、世間全部が敵って感じだったな。

 昔のコイツが、世捨て人が打った業物だったとすれば、今のコイツは十徳ナイフって感じだぞ」


「何じゃそリャ」


 そこまで話を聞き流していたところで、どうにもドミニクが暗い顔をしているのが分かった。

 今もそうだ。僕はドミニクが何を考えているのか時々分からなくなる。妙に大人ぶったり妙に幼かったり、つまるところ人物性がブレているのだ。

 このことは依頼遂行前に解決しておくのもいいかもしれない。


「ザクトラス。もういイ。諦めタ。

 二人に色々話しておいてクレ」


 そう言って立ち上がると僕はドミニクに目配せし、この会合を抜け出すよう合図を出した。

口径:5.56

弾薬:魔弾

銃身:ショート

銃口:サブレッサ

銃倉:複列

照準:1.6倍サイト

その他:反動軽減

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