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異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
ルートビア編
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2nd shot

 さて、僕は今、スコープを覗き込み全神経を索敵に集中させている。引き金を引く左手や狙いを定める右手を抑えるのはまだ先だ。まずは得物を視認し、その隙を伺う事から始まる。的を見てからその行動を予測し動く先に十字線を置く、これら一連の精度と速度が狙撃手の格を決めるものだからだ。

 いまのところキルマークは2つ。やつらは保護色を上手く使いやがるがら僕にはさっぱりわからないが、クロエの指示があるおかげで割と順調に狩れている。

 そんな僕らは今かなりの巨木の枝の上にいる。シャルルはその木の下で護衛をしてくれている。


「ライフルマン。正面少し右、巨木の裏にオークが一匹。そこから3歩下がったところに一匹。その近くにも何体かいるみたい。鳴き声が3体以上いるように聞こえるの」


「イエス、マム」


 ゆっくりそちらを見やると動く緑が捕捉できた。イメージ的にはエイムした敵が縁どられるような感じで、一辺意識できるとずっと見えるのだ。

 一度ゆっくりと息を吹き、その後全身から力を抜いた。そしてスコープを覗いている左目だけでなく右目も開いて神経に負担をかけないようにしつつ、右目の視界は完全に脳内から排除する。筋肉で立つのではなく全身の骨という骨を相互に引っかけて固定することで姿勢を維持し、微調整に淡く体幹を使うのも忘れない。

 そしてこれからが本番だ。

 目は光景を脳に伝えるだけで、補正を行い実際に意識に視界を浮かべるのは脳だと言われていたはずだ。それを全力で意識し、敵を脳で確認しているという点を曇りなく頭の底に刻み付ける。すると何故か木々の影に隠れて見えないオークらも見えてくる。そしてその予測される行動後の位置すらもはっきりと縁取りされて浮かび上がる。


「銃口の先に一匹。その後ろに一匹。その左に一匹。そこから後ろの岩を囲むようにして三匹。一気に狩れるナ」


「アナタからはそこまで見えるの?」


「見えないサ。そんな気がするってヤツ。わかるだロ?」


「なんとなくね」


「じゃあ撃つ。耳を塞いデ」


 僕はそう言うと会話する能力すら切って敵を捕捉し引き金を引くことだけに集中する。

 やがて意識上で再生される空間がモノクロになった頃、僕は左手の人差し指を握り込んだ。

 時間がゆっくりと流れるこの感覚は嫌いじゃない。むしろ世界を制した気分になって気持ちいい。今も先頭のオークの頭めがけて一直線に飛んでいく弾丸を眺めて僕はニヤついている。だがスコープは覗いたままだ。

 それから指を元に戻しつつ息を短く吸うと、腹筋に力を入れて体を止める。

 先頭のオークが倒れ、ソイツに後続のオークが駆けよる――だろうから、その時丁度ぶち抜けるようにまた引き金を引く。衝撃は感じない。その感覚はもうかなり前から切ってある。そして少ししてからもう一発余裕をもって打ち込む。そして跳ねる肩を制御しつつ、オークのかなり後方に銃口を向け直した。

 丁度先頭のオークの頭が弾ける。そして一瞬置いて次のオークの後頭部が吹っ飛ぶ。後方のオークらは遠くから聞こえる破裂音といきなり倒れた同族二匹に慄いていた。するとさらに二番目のオークの心臓近くが爆ぜ、そのオークの赤まだらで緑色の体が少し持ち上がった。これは3発目だ。このことに心が折れたのか、残ったオークのうち岩を囲っていた三匹は後方へと全力で逃げていく。

 そう、僕が銃口を向けている後方へだ。

 僕の今の顔はかなり酷い顔をしていると思う。さながら悪魔のような笑みを浮かべていることだろう。だがそれすら小気味いい。思わず鼻歌が漏れた。そして左手の指を落ち着き払って三回握った。


 意識の片隅にパパパンと爆音が聞こえた頃、僕は一般的な人間の感性を取り戻した。


「っっっ!!! っはっはっはっはぁ。すー、はー。

 ・・・あーしんどかっタ」


「アンタ。人間なの?」


 隣に目をやると化け物を見るような目でクロエがこちらを見ている。


「はっはっはっは・・・・。そんなに熱い視線で見つめられると照れるネ」


「は!? 誰が!?」


 だがふざけられるのもここまでのようだ。


「あーダメだこれハ。

 スゥッ、シャールルじょーーお!!!

 落ちるから受け止めテェェェェ!!!!

 それではクロエ嬢」


 そういうと僕は真っ逆さまに落ちていく。僕がいたのは結構な高さの木の枝で、体から力という力が抜けすぎてそのまま枝から落下してしまったのだ。

 目の前を何本もの枝が高速で走っていくが、頭痛がヒドくてあまり考えられない。


 ――ヒューーーダゴンッ!!!


 そんな音が聞こえたが、聞こえたということは・・・。


「確かに、できる限りのことはしよう、とは言った覚えがある。

 だがこれはどうかと思うぞ」


 僕の目には苦笑いしているシャルルが写った。どうやら僕は生きているようだ。体勢はお姫様だっこと格好のつかないものだが。


「ライフルマン!?どうしたの!」


 上からクロエ嬢が降りて声を掛けてくれる。なんだかんだ言って仲間意識はあったようで安心した。


「・・・スパッツか。残念ダ」


「っ!?死ね!!」


 そのまま彼女は拳を額に遠慮なくお見舞いしてきた。しかもシャルルまで僕から手を放しやがった。おかげで僕は落下の衝撃とそれによる頭痛の悪化に悶えるしかない。


「ぐおおおおおオおオお!!」


「死ね! 死ね!」


 クロエがガンガンと頭を蹴ってきたところで見かねたのか一度は僕を捨てたシャルルがクロエをたしなめてくれた。


「あ゛ー。頭がイタイ」


「はぁ!? そんなの自業自得じゃない!」


 大声はやめてくれ。吐いてしまうぞ。


「とりあえずシャルル。僕をおぶってくレ」


「えっ嫌だ」


 シャルルよ、露骨に嫌そうな顔をしないでくれ。割と傷つくんだよその目は。


「あのネ、これは真面目なの。なるべく早い方がいいから取り敢えず背負ってくレ。事情は話すから早ク」


 流石に彼女もおぶってくれたが、少し顔に影を差すのは本当に止めて欲しい。


「言い訳だったらマジで殺すからね!」


「ハァ。叫ぶのはやめてくレ。それでシャルル。なるべく入り組んだ道順でややこしそうに、何度も同じところを通りつつ急いで村に戻って欲しイ」


「なんでよ! あいつらも数が減って混乱してるし今がチャンスじゃない!」


「だから叫ぶナ。吐しゃ物をお前に掛けるゾ。理由は走ってる最中に話すかラ」


 そういうと顔を青ざめさせてシャルルまでクロエを説得してくれる。そんなに上で吐かれるのが嫌か。まあ僕も嫌だけど。






「――――それでどういうことなのよ」


 ガインガイン揺れるシャルルの背の上で嘔吐感を必死に抑える僕にクロエが問う。

 今はグルグル回りながら森の色んなところを僕らは移動している。


「まズ、僕のあの狩り方は体力と精神力、それからエネルギーを異様に使ウ。

 イタイイタイと言っているのは頭に栄養が足りてないからダ」


「痛いってアレ本当のことだったの!?」


「当たり前だろうガ。目眩もするし立てそうにない。指一本すらピクリとも動かせないんダ。

 それで、そうダなぁ。クロエ嬢、ここで問題でス」


「何よいきなり」


「僕がオークを見つけた時、なんと言ったでしょウ?」


「っ!?」


 どうやらシャルルはもう察したようだ。この子は本当に聡い。将来有望というやつだ。

 一方でクロエはなんにも気が付いておらず、むしろドヤ顔で答えている。


「そんなの簡単じゃない。

 『銃口の先に一匹。その後ろに一匹。その左に一匹。そこから後ろの岩を囲むようにして三匹。一気に狩れるナ』でしょ?

 こんなのも答えられないと思ったの?」


 地味に記憶力がいいのと僕のモノマネが上手いのがなんか無性にハラ立つ。

 まあそんなことはおいといてだ。


「じゃあ次の問題。僕は何発相棒を撃ったでしょウ?」


「そんなのパン、パン、パパパンって音がしたから5発に決まってる・・・あ」


 ようやくクロエは気が付いたようだ。


「そウ。一匹逃したの。

 こっからは対峙者のカンってやつなんだけどサ。

 ぼかぁ感じちゃったのよ。最後の一匹。ありゃあ強い上に賢い。

 なんせ動物的な勘だけで僕がいる場所見つけたからネ」


「はぁ?」


「目が合った上に殺気までぶつけてきやがったから間違いなイ。

 それまでだったらむしろ大歓迎なんだケド、アイツは僕の射線を防ぐように逃げて行っタ。

 多分後で夜襲にくるヨ。アイツらは夜目が利くからナ。やっかいなことこの上なイ」


「何故村の場所が分かるか聞いてもいいか」


 やっぱり核心というか痛いところをついて来ちゃった。シャルルには敵わないね。


「賢いキミならもう分かってるんじゃないノ?」


「え?え?

 どういうこと?」


 キョドってる妹君とは大違いだ。


「じゃあ予想を言わせてもらうが。

 その魔道具、音からして内部で爆発を起こすんだろう?

 だったら攻撃してしばらくは周囲が焦げ臭くなるはずだ」


「ソ。奴らは残念なことに鼻も利ク。すーぐに居場所がバレちゃうネ。

 それに一度匂いが付いたら中々とれるもんじゃなイ。しかも5発分もこってりネ。これじゃあ僕らは村に帰れないだロ?」


「だからまるで追手をまくように逃げろと」


「ご明察。シャルル嬢、アンタ冒険者になるより探偵にでもなったほうが絶対大成できル。天職だヨ」


「でも時間がかかるだけで村に追いついちゃうんじゃないの?」


 置いてかれて悔しかったのかクロエも会話に参加してきた。クロエの割にはいい質問だ。


「そうだネ。だからいそいでいるんダ。

 僕の計画を話すヨ――――」


 正直な話、もう頭痛が限界にまで達してきてるから口を開きたくはないんだけど、元はと言えば僕が悪いんだから頑張らないと。

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