16th shot
妙に小奇麗な館、その中でも特別見栄を張っている応接間にて、僕たち四人は革張りのソファに座らされていた。
「ふむ、確かに君達の地図には信頼性がありそうだ」
机越しに話しかけてくるのは例のコネのコネで面会している商人だ。
彼自身もソファに座っているが、生き急ぐ商人の性なのか浅く腰掛けるにとどめて貧乏ゆすりをしているのが印象的である。
「そうだな。金貨30枚でどうだろう」
「おいおイ。どうせそれを他の人間に売りつけるんだロ?
ちょいとピンハネし過ぎだゾ。
順当に見積もっても金貨200枚は下らなイ」
「・・・君は私をからかっているのかな?」
「それが僕たちの命の重さってことなのサ」
僕たちは今、マップの価格交渉を行っている。しかしながら旗色はあまりよくない。そりゃあこっちが吹っかけているのだから当たり前だ。金貨200枚を一介の中小商人に求めるのはふざけていると言われてもおかしくはない。
しかしながら、僕たちはダンジョン攻略隊のメインのスポンサーになる程の大商人とはツテは無いし、他の商人から紹介状を書いてもらったとしても手数料や必要量の賄賂によって利益は消える一方だろう。なので大商人の動きについて回って便乗するしかない商人に売りつけてやるのだ。そうすればその商人もまた大商人に地図を売りつけるだろうから、こちらとしてもそこそこ無茶な要求ができるのだ。商人としても、例え利益が出なくとも大商人との太いパイプができるのだから悪い話ではあるまい。
「なるほど。しかしながらこちらにも事情というものがある。
出せるのは金貨50枚までだ」
「本当にそんなことを言っていいのカ?
もし僕たちが君以外の人間に売りつけたらどうなるか分かるヨネ?」
「なら80枚――」
「150枚」
「ぐ、ぐぐぐ」
多少上から目線でひたすら交渉し続けること数十分。ようやく僕と彼との折り合いもつき、結果として地図は金貨100枚で売りつけることとなった。まあ大商人にはその二倍、つまるところ最初の値段でも余裕で買える経済力があるのだから今回は若干不作気味とも言えるが、それでも大金には変わりない。
そこから四人で金貨を山分けした後、晩に冒険者ギルドで集合するということでパーティは一時解散となった。
そんなこんなで僕は今、冒険者ギルドで例のベテランに絡んでいた。
「ちょいトそこのダンナ。いいお話があるんデスガ」
「ああん? なんだお前」
そのベテランというのはしっかり手入れをされ、使い込まれた上質な皮装備を装備した上でマントを羽織る、いかにもなスカウトマンだった。シーフタイプと言い換えてもいい。
「実はぼかぁ先行組でして、軽ーくダンジョンをマッピングして来たんですが、ちょいと見てみますかイ?
銀貨を幾分か貰えるとこちらとしてモ見せやすいですガネ」
「ほほう。ほらよ」
二枚目に見えて三枚目に見える彼は僕に銀貨を3枚ほど投げ渡してから僕が渡した羊皮紙を広げた。微妙に細かいところや注釈を入れまくっているのでそこらのマッパーよりも幾分か親切な内容となっており、そして実を言うとあの商人に売りつけた地図の写しだ。地図は恐らくだが貧乏ゆすり商人からスポンサー、そして攻略隊へと渡るのでその間のタイムロスを狙って数いる冒険者に地図を金貨単位の値段で売りさばくのだ。金無しにも見るだけなら銀貨でいいという優しさも兼ね備えた優良商売である。昨晩腱鞘炎になるほど書きまくったので在庫も沢山ある為どんどん売り払う。
「そこなベテランさン――」
「新人クン、いいモノがあるんだガ――」
「小売商さんヤ、コイツを転売すりゃあボロ儲けできるゼェ――」
――合わせて金貨20枚。銀貨80枚なり。いやーうますぎる。そして前世の知識でいうところの古いレジの効果音が脳内でなったところでようやく店じまいをする。あんまり派手に稼ぎ過ぎてもここらをシマにしてる半分ヤーさんの上級冒険者サマに怒られてしまうからな。
そして荒稼ぎしたついでに鑑定に出した指輪をギルドのカウンターから受け取って詳細が書かれた羊皮紙に目を通していく。
『名称:ジルニトラの指輪
効果:魔力を蓄積できる。
蓄積した魔力は任意に引き出すことが可能で、要は魔力量を増やす効果と大して変わらない。
なお容量は成人男性の一般人の魔力3人分である』
「エ。しょボ」
ドミニクの魔力量が一般人の20人分と言えばその効果の低さも分かってもらえるだろう。勿論魔力量が人並みの僕が装備すれば魔力量は四倍になったのと同義になるが、僕はそんなに魔法を使わない。水魔法は元の分で問題ないし、火種に使う火石だって魔力を消耗するけど正直現状でもこと足りてる。売り払う方がいいレベルの品だ。
そう思って指にはめて色々と観察してみているが、やはりただのアンティークの指輪である。
すると突然、目の前に半透明の見慣れたウィンドウ――つまるところは相棒のカスタム時に出現するあれである――が飛び出し、僕に前世の言葉でアナウンスをしてきた。
『魔法系アイテムの装備を確認。魔法系カスタムを解放。新系統:エンチャントを解放』
「ハ?」
僕は即座にカスタムを覗き、その魔法系カスタムとやらを覗いた。うん。読めない。前世でいうミリタリーに頻出する語彙はそこそこ思い出してはいるのだが、魔法魔術はどうやら前世では触れる機会も少なかったようで現状では全くもって理解できない。文法が分からないのではなく魔法系の語彙が無いので何を書いてるやらさっぱりだ。一般人が薬学の専門書を読むようなものだと思ってくれればいい。ベンゼンって何!?って感じになる。
ただし、弾薬系統の魔弾は解放しようと思う。というのも名前からして多分これ弾薬費いらないパターンの奴だからだ。ジルニトラの指輪とも相性はいいしな。説明は全然読めないが。
解放にいるのは銀貨20枚。結構高いが新米冒険者にたかった分だけで十分足りる。いや自分でも最低なことを言ってる自覚はある。
そして相棒のスロットに代金を入れ、カスタムウィンドウで解放を推すことでいつもの通り軽い頭痛と前世の記憶が湧いてくる。
今度はかなり幼少期のものだ。
・・・何だこれは。自分で言うのもなんだがド変人だ。何せ小学生の癖して辞書を読んでやがる。
「ぐっおおおぉぉぉぉオオオオ」
あ行から順に単語が大量に頭に流れ込んで来た。現世の言語の記憶と喧嘩して頭の中がどんどんぐちゃぐちゃになっていく。全く形の違う、関連性のない言語同士がぶつかり合っては消えていくのだ。
そうして頭の中が混沌としてきたところで回想は終わった。語彙力が凄まじく高まった代わりに現世の記憶が曖昧になった気さえする。
今一度魔弾の説明文を見やるとここでようやく全文を読むことが出来た。
曰く自身の魔力をコインの投入口辺りからライフルに込めることが出来るらしい。込めた量と撃てる回数の関係は口径に依存し、口径が大きければ大きいほど一発一発に要求する魔力は大きくなり、撃てる回数は減るようだ。逆もまたしかり、口径が小さければ消費する魔力は少なく数が撃てる。またマガジンの装填数がそのまま込められる魔力量に反映されるらしく、例えば5.56mm弾であらばマガジンに入る量は30発になるが、口径はそのままに弾薬を魔弾に変更した時、込められる魔力量も30発分まで、ということだ。また弾薬費に比例して込めるのに必要な魔力量も上昇する、とも言えるだろう。
なお魔力についてだが、十分な睡眠をとることで回復することができる。まあ体力と似たようなものと捉えて貰って問題ない。他にも瞑想という方法があって、その魔力の回復速度は通常時よりもかなり高いのだが、ぶっちゃけ仙人レベルにならないとできないほど難しい。単純にこの血と力で彩られた世界において、どこからナイフが飛び出てきてもおかしくない状況で精神を半ば眠りに近づけるなんてまずまともな人間にはできないのだ。
また、僕が一日に出せる魔力の限界量が丁度5.56mm口径の複列マガジンの容量と同じらしい。つまるところ12.7mmの魔弾はジルニトラの指輪無しじゃ自力で撃てないってことだ。全力で指輪に魔力込めて、その次の日も全力を出してようやくマガジン一つ分とか、魔力式にしても結局燃費はクソじゃねーか。
※カスタム内容に弾薬を追加しました。なお実弾で口径が5.56mmの時はNATO弾、12.7mmの時はマグナム弾を使用しています
口径:5.56
弾薬:魔弾
銃身:ショート
銃口:サブレッサ
銃倉:複列
照準:1.6倍サイト
その他:反動軽減