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異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
ジルニトラ編
12/33

12th shot

 コボルドを撃退してから幾分か進んだが、このダンジョンが洞窟型と言われる所以が分かってきた。

 即ち道が上下左右に曲がりくねり、そして時には分かれ道が僕らの進行の足止めを行ってきたのだ。

 そこで僕は前世の知識である『基本的に迷路は右手をずっと壁に当てて歩くだけでゴールにたどり着く』という知識から分かれ道は全て右に曲がることを提案した。多少の問答はあったものの――といっても頭の固いシャルルが一々文句を言っていただけだが――効率的にダンジョンを全て周れるという理由から僕の案が通り、結果僕らのパーティは比較的スムーズにダンジョンの探索を行えた。行動が半ばルーチン化していたのでマッピングも特に捗った。だがそれだけだと地図に信頼性があまりないので時折壁に相棒で穴を空けてはその場所を記していく。

 時折魔物に襲われたり、逆に襲ったりしたが、大抵はシャルルの振り回しで何とかなっていた。おかげで弾薬費はそこまでかかってはいない。


 探索も往々にしてそろそろ野営の準備を始めようかというところ。

 僕はテントを張る場所より少し先に行った場所で、作業をしていた。

 まず5.56mm弾で壁に向かって垂直に穴を空け、そこに杭を差し込む。そこから相棒のトリガーガードを持って金槌代わりにガンガンと打ち込むと、背面の方の壁にも同じ処置を施した。それらを荒縄でつないで適当なところに鈴を取り付ければ簡易的な鳴り子の完成だ。縄の高さは膝程度。この高さにも理由があって、いつも洞穴に住むコボルドは闇目が効く為トラップを仕掛けるならピアノ線が必要になってくる。そこで中々断ち切れない荒縄を人間にとって膝ほど、彼らにとっては腰程度の高さにすることでトラップというよりかはバリケードとしたのだ。鈴をつけたのはそのついでである。

 余談だが勿論トリガーガードを掴む時はバヨネットは取ってある。だって握ったら血まみれになっちゃうじゃん。


「お疲れ様です。それは冒険者としての経験値ですか?」


 僕が一息ついて立ち上がると、背後から話しかけてきたのはドミニクだった。


「正確には先人の知恵だけどネ」


 んーっと僕が伸びをすれば軽く微笑んで返すドミニクはやはり見た目の年齢の中身の年齢がズレているように感じる。


「訳アリ?」


「? どういうことでしょうか」


 軽く探るも反応なし。しかしながら僕の勘は違うと告げている。

 つまるところ正面の子は本当に大人びただけの少女か、あるいは完璧に嘘が付けるほど老獪な訳アリ少女か。

 どうにもこうにも判別がつかない。


「ライフルマンさんとはまだ付き合いも浅いですから、この際親睦でもと」


「という建前デ本当のところハ?」


「シャルルさんとクロエさんが連携してテントを張ったり色々と野営の準備をしてくれているのですが、連携が上手すぎて私の入る余地がないといいますか、手伝うと言い出しにくかったといいますか」


「つまりきまずかったカラこっちに来たト」


「まあ、そんなところ、です。

 ・・・そこまで分かってるなら聞かないのが紳士の嗜みじゃないですか?」


「ぼかぁ宿無し腕無し根無し草の日銭稼ぎに明け暮れる奴サ。紳士なんて大層なもんじゃなイ。

 それよか少女は見た目通りの言動をして、腹探りは控えた方がいいと思うヨ」


 僕がそこまで言い切ってから少しして、ドミニクはくすくすと笑いだす。何が可笑しいと流し目で問うと、彼女は慌てて弁解する。


「いや、言ってることもアレなんですけど、一番はやっぱりアナタの喋り方が可笑しくて、つい」


「そーカイ」


「ふふ、不快になられたのでしたらごめんなさいね」


 そう謝罪するもやはりドミニクはにこやかだ。

 そこからは他愛もない雑談が続く。テントまで二人で歩きながらだが、少し距離があるのだ。


「いつから冒険者になられたんですか?」


「さあナ。クソガキの頃に枕元に神様がきてヨ、色々吹き込んで行ったのヨ。

 そのすぐ後出身の村が戦争の前線になってナ。義勇兵として戦争に参加したのが多分始まりサ」


「その啓示はどんな内容だったんですか?」


「・・・ま、しょうもないことサ。しいて言うならボクの相棒から出る弾が何故上に逸れるのか、とかナ」


「え? そんな逸れてましたっけ?」


「バヨネットもつけてたシそりゃもうブレブレヨ。

 射程10mってとこだったろうナ」


「それはまた」


 そうして会話を続けて行くうちにキャンプ予定地に付く。何日も野宿をした経験からかテントは既に張られており、また各所が丁寧に設置されていた。


「そういえばうちには魔術師がいたナ。

 ドミニク嬢、水魔法使えル?」


「ええ、普通の人よりかは。魔力量も少し自信があります」


 その言葉に最も反応したのは意外や意外、シャルルだった。益荒男然とした戦士である彼女は時たまこういった存外乙女な反応を見せる。


「じゃあこの桶に水を張ってはくれないだろうか!?」


「ええ、了解しました」


 シャルルは両手に直径30cmほどのタルをドミニクに寄せると即座に頼み込む。

 普通傷跡まみれのデカ女に迫られたら一度引きそうなものだが、ドミニクは一切動じずその頼みをいとも簡単に達成する。

 彼女は魔術師であり、僕たちとは少し魔法の発動条件が違う。僕たちが呪文を詠唱しながら魔法陣を書くことでようやく発動できる魔法を、彼女は杖の一振りでこなす。

 桶には僕であれば重いと感じるほどになみなみと水が注がれ、それを持つ当の本人は目をキラキラとさせていた。


「やはり私の人物眼は間違っていなかった!

 ドミニク、ありがとう!」


 シャルルのテンションは青天井だ。

 洞窟という湿気の溜まりやすい場所で歩き詰めたのだから汗をかなりかいたのだろう。臭いを気にしていたのかもしれない。

 その後にクロエがにこやかに寄って、ドミニクに一言礼を言ってから水で体を拭っていく。


 そんな光景を見ていた僕はというと上着を脱いで逆立ちからの逆スクワットと足下げ腹筋だ。ああ、今日も足が鈍りそうだな。

 因みに三人からの気持ち悪いものをみる目はもう気にしないことにした。


「そういやライフルマン。ここにくるまで何度か鉱脈を見つけたが何故採掘しないのだ?」


 そう、僕はダンジョンに入る前に鉱石の採取を禁じたのだ。しかし理由を言っていなかったとは失念した。


「単純ダ。重いからダ」


「しかし稼ぎにはなるだろう?

 私達は数あるパーティでもかなり探索を進めている。

 当然掘れる鉱石も価値あるものが多いはずだと思うのだが」


 当然の疑問だ。要は金が目の前に転がっているのに無視しているのだから。それ故かクロエやドミニクも同調するように首を縦に振っていた。


「それだとダンジョンの攻略速度が落ちるだろウ」


「落ちて何が問題になるのだ?」


「フゥ」


 僕は筋トレを辞めると一呼吸おいてからゆっくりと、僕の計画を話し始めた。



 本来、ダンジョン攻略とは国家がプロジェクトとして行ってもおかしくない事業なのだ。その土地や近くの冒険者達に仕事が入るので冒険者ギルドが活発化、するとそれを配置した国への納税額も増える。それに中から大量に魔物が湧き出してくるのだから治安維持の観点から見ても看過できない。

 故にダンジョン攻略時には国が先導するしないに関わらず、そのダンジョン専門のコミュニティが形成される。それほどダンジョン攻略とは重要なのだ。

 その点、そういった計画的なダンジョン攻略が行われていない現状は、攻略の過程でも初期の初期と言えるだろう。

 ここで注意したいのは、コミュニティが形成されると更に冒険者や土地が活発化するという点だ。

 コミュニティの初期としては、工夫が冒険者を護衛として雇い、採掘するというものだ。戦闘と労働を分担する小規模なグループが形成されている。

 次に冒険者が集まって、数に任せて一斉にダンジョンに乗り込む。これは攻略というよりかは治安維持で、ダンジョン内の魔物の数を減らすことで工夫が単独でも奥に行きやすくなるという効果がある。

 この時確かに工夫の護衛という仕事は激減するが、代わりに一般人がダンジョンの奥まで進出することによる、ダンジョン攻略の中継地が形成されるのだ。

 例えばダンジョン内に建材を運び込み宿屋を設ければ、どれだけ部屋代で足元を見ても泊まる冒険者は後を絶たないだろう。他にも鉱石の買い取り手がダンジョン内に出張ることで冒険者の奥地からの帰りの負担が減る。買い取り手にしてもほとんどの冒険者がそこで鉱石を売っ払ってしまうのだから鉱石を独占できる。

 このように、一般人と冒険者によるwin-winのビジネスが攻略の進行に応じて発生し出すのだ。

 商人達は金を稼ぐことには鼻が利くからこういったことは既に理解しており、或いは冒険者の集団突撃に際してはスポンサーにさえなりうる。

 ここで、かなり奥まで詳細に記されたダンジョンの地図があればどうだろう。他にも魔物の巣や危険地帯なんかも記してあれば、それはそのスポンサーたちにとって自分たちのビジネスを成功させる最高のアイテムにさえなる。


 よって僕たちは、大商人達やダンジョン攻略のベテランが攻略隊を作る前に最速でダンジョンを歩き回り、それらを詳細にマッピングすることによってその最高のアイテムを作り出そうとしているのだ。

 後々の利益を考える商人達にこの地図を売るならば現状でさえ、かなりの額が支払われることだろう。勿論、金貨単位で。


 僕はそういったことを朗々と一方的に説明した。

 その反応はと言うと、クロエとドミニクはその手があったかという驚きの表情、反対にシャルルの顔はあまり芳しくない、苦い表情をしていた。


「つまりはまア、そういうことなんだガ。

 質問はあるカ?」


「・・・いつからその計画を考えていた?」


 シャルルが少し低い声で僕に問う。何故か彼女の機嫌を損ねてしまったようだ。


「前に別のダンジョンを攻略していたトキ、それをやってる奴がいタ。

 鍛冶屋に話が通せた時点デ探索の進み具合によっては出来ると思っタ」


「では・・・。

 ではお前は名誉や未知の踏破を目指していたのではなく、ただ金を儲ける為にこのダンジョンに潜っていたのだな」


「かく言うシャルル嬢は違うト?」


「当たり前だ!

 それらことが冒険者の本懐というものだろう!」


 ああなるほど。つまりは理想の職業で理想の働きをしていたつもりが、いつの間にか真逆の事をしていたから怒っていると。

 まあ冒険者志望だったのだから冒険者という職業に憧れもあったのかもしれないが、それでもやはり頭が固いな。

 この行動は確実にダンジョン攻略を推し進めるということをまるで理解できていない。


「フム。マ、ボクはやりたくて冒険者やってる訳じゃないカラあんまし分かんないけど、残りのお二人さんは?」


「私は別に。だって私達がしなくても他の人がするんでしょ?」


「私もそんなに、です。寧ろライフルマンさんがこんな頭脳派だったなんて驚きましたよ」


 やはり柔軟な考え方をするクロエや冒険者としてこなれているドミニクはそう憤ってもいないようだ。

 ところでドミニクのセリフは遠回しにお前は馬鹿だと思っていた、と言われている気分になるんだが。


 結局、シャルルをなだめすかすのには結構な時間が必要だった。

口径:5.56

銃身:ショート

銃口:サイレンサ

銃倉:複列

照準:1.6倍サイト

その他:反動軽減


口径:5.56

銃身:ショート

   レイピア系バヨネット(50cm)

銃口:サイレンサ

銃倉:複列

照準:1.6倍サイト

その他:反動軽減

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