10th shot
周りはそこそこうるさいどんちゃん騒ぎ。
冒険者ギルドの建物の中といっても酒場と合併しているものだから喧騒はかなりのものだ。
「初めまして。ドミニク・ザボーツクです」
そう言って目の前で名乗りを上げたのは、自分の胸程もない身長――大体140cmくらいだろうか――の、言ってしまえば少女だった。質素なワンピースを身に着けてはいるものの、ローブや細かい装備品、そして彼女の身丈ほどもある大き目の杖をついていることから魔法使いであることは推察できる。身長的にも胸囲的にも雰囲気的にも、とにかくつつましい印象を受ける彼女だったが、何となく落ち着いた空気を纏っていた。
「彼女は回復魔法と付与魔法が使える。
戦闘中でもその後処理でも十分役に立つハズだ」
そういうのは相も変わらず物騒な大剣を背負っているシャルルだった。その表情は自信満々といったもので見事に僕のオーダーをこなしたつもりなのだろう。
「話を聞いている内に意気投合してね。
あんまりライフルマンのことは話してないから軽く自己紹介してあげてよ」
クロエもノリノリで会話に交じってくる。にやりとした表情が吊り目によく似あっているが、ちょっとばかし問題がないでもない。
「お二人から歴戦の冒険者だと聞いています。
あなたに比べればまだまだだとは思いますが、ここちかくのダンジョンにも潜ったことがあるので色々と力になれると思います。
ライフルマンさんのこともお教え頂けますか?」
「へいへイ。
ぼかぁライフルマンってモンで苗字はネェ。歴戦っつってモ逃げ足と小手先口先で世間を渡り歩いてきたダケサ。なんてことはねぇ魔道具を持った普通のシューターだヨ」
そうして問われた事を返しただけなのに、ドミニクという少女は目をぱちくりさせて首を傾げる。
「あれ?
ライフルマンさん、聞いたことがない訛りでお話しされるんですね。
出身はどちら?」
「出身はもう消えた国だからどことは説明できないナ。幾つか言語を話せるから混じってるんじゃないカナ?」
ドミニクと話していると、なんというかほんわかしているのに彼女のペースに持って行かれそうになる。この幼さで魔法を扱うんだからまあそりゃ普通の子よりかは賢いんだろうけど、この子はこの子で曲者そうだな。
しかしながら、そんなことを考えている場合ではない。
「とまア、談笑にふけるのも悪くはないんだガ、そこな二人。僕は回復役だけじゃなくてガーディアンの調達も頼んだハズだけド?」
「・・・ガーディアンは中々見つからなかったのよね~」
「えっでも――」
顔を青ざめさせて素早くドミニクの小さな口を塞ぐシャルルに、目を合わせずに口笛を吹くクロエ。
もう大体わかった。
「ホッホーウ!?
じゃあ宿ハ?」
「えっいやっそのっ」
シャルルは嘘を吐くのが下手すぎる。
「はぁ。大方話の合う子を見つけてそのままずっと話しこんでタってとこカ」
「・・・面目ない」
しょぼーんとシャルルが項垂れる。思わず背中から紫のオーラを空目してしまったほど分かりやすい。
「まあいいサ。そんなこったろウと宿はもう用意してあル。
編成もまあどうにでもなル。
だけど次からは、だゼ? リーダーさんヨ」
「うっ・・・。
ああ、分かった」
彼女は申し訳なさそうな顔をしていたが、実を言うと僕も最初の頃はマルチタスクができず町の中で野宿もよくしたものだからあまり強くは言わない。
「ボクらの宿はここをでて少し裏路地に入ったところダ。
野宿よりマシ程度だが、慣れりゃダンジョンで寝るよかマシに感じるサ。
ドミニク嬢はどこの宿に?」
「ここの二階です。結構前からいるので空いてる時期に」
「へぇー。
じゃあ話し込んでも大丈夫だナ。
まずはボクらの役割を確認しないといけなイ」
そういうと、ボクは手元に相棒を召喚する。
初めて見たドミニクは勿論、ルートビア姉妹も驚いていた。
そう、僕はまた課金した!
胸を張っていうことではないと前世の記憶が語り掛けてくるけどその辺は無視の方向で。
今回は丈50cmほどのレイピア状のバヨネットを相棒に付与したのだ。これでクルクル回したら辺り一帯血まみれになってしまう。
「二人は見ていたと思うが、ぼかぁシューターはシューターでも殴り合いが出来るタイプのやつなんだヨ。
そしてドン!」
そう言うと僕は腰の荷物からカイトシールドを取り出した。
「これはまさかっ!」
「そウ! ボクがガーディアンになル!
皆まで言うナ! 頭が悪い着想なのは自覚済みダ!」
僕は半ばやけくそにそう宣言した。その方法しか無いのは分かっているのだが、それでも後衛職の前衛というのは情けなくなってくるものなのだ。極稀にエンチャンターは前衛だ!という脳筋も見かけるのはまあ例外としておく。
「じゃあライフルマンさんはシューター兼ガーディアンになるってことですか?」
「そういうことになるネ。
因みにドミニク嬢は攻撃魔法使えル?」
「それは・・・無理です」
「オーケー。
じゃあクロエ嬢がドミニク嬢の護衛。
ていうかそもそもガーディアンなんて希少なジョブやってる奴まずいないから元々こうすル予定だったんだけド」
「おい!」
「まあ落ち着いテ。
それでもってボクの作戦はこうダ。
まずシャルル嬢が飛び出してそのグレートソードを振り回ス。その時ボクとクロエはその援護に入ル。
そこから攻撃にひと段落着いたり相手に反撃の予兆が出始めたらボクが前に出てシャルル嬢は下がる。ドミニク嬢は付与魔法で僕の支援をしつツ、戻ってきたシャルル嬢の回復。
その際には敵も遠隔攻撃を放って後衛のドミニク嬢を狙ってくるはずだから、シャルル嬢の耐久で防ぎつつクロエ嬢の弓で反撃。
この作戦の欠点はボクがそもそも脆いこト。以上。どうかナ?」
僕が一通り言い切ると四人の中に沈黙が一瞬訪れる。
かなり詰め込んだ内容だから口をはさむ隙間もないのもあるだろう。
そんな中口火を切ったのはシャルルだ。
「私からは文句はないが・・・その盾はどこから仕入れた? というかお前に前衛なんてこなせるのか?」
「あのネェ、盾は工房から余り物貰ってきたの。コネは大事っていったでショ。
それにボクがFNF2000を使えない間どうやって冒険者やってたと思ってるのヨ」
例えば幼少期などは反動に耐えられずよくあらぬ方向に弾を撃っていたものだ。
「あーまあ確かにそうか。変なことを言って済まない」
そしてパーティで最も経験のある僕とリーダーであるシャルルという中心人物同士の会話が収まることで、ようやく場の空気も緩みだした。
「はいはーい。しつもーん」
クロエが大仰に手を振って疑問を口にせんとする。
「ナニ?」
「私めっちゃ忙しくない?」
「忙しいネ。
まあ後衛職の定めだヨ。ガンバッテ!」
「なによそれー!」
そのやりとりでさらに四人の間の雰囲気は緩んでくる。だからかシャルルが素っ頓狂なことを言い放った。
「だが、やはり一度打ち合ってみないとどう連携できるかわからないな」
「ハ?」
「よし、ここは冒険者ギルド、鍛錬場もある筈だ!
ライフルマン、一度私と勝負だ!」
そういうとシャルルはすばやく僕の首根っこを掴むと、忙しなく訓練場に走りだしていた。
剣戟が小さいながらも聞こえてくる訓練場の一角、シャルルとボクは相対していた。
「それじゃお互い刃は当てるの禁止。倒れた方の負け。
あと勝負が終わったらドミニクちゃんの治療を受けること。
じゃあ用意、はじめ!」
クロエの掛け声にシャルルは背中の両刃剣を抜くと、刀身を体で隠すように半身に構えた。
一方僕はカイトシールドを正面に構え、相棒自体は未召喚でいる。
彼女の構えは一見して隙だらけだが、実戦では肩や腿には分厚い鎧を重ねる上、半身なので正中線周辺の急所を全て隠している為多少のストッピングも無視して刃を振るうことだろう。
ここでシャルルの動きを止める最適解は、シャルルが半身で突進してくるのをこちらも半身になってステップで進路上から外れることだ。この時彼女と正中線を晒し合う恰好になるよう位置取るのだが、グレートソードが振るわれる前にシールドで止めることで、遠心力を乗せさせぬまま彼女の切り払いを阻止するのだ。
そう分析している間に痺れを切らせてシャルルが僕に突進してきた。
予定通りと足で彼女の突進をさばこうとした時、何か違和感を感じた。その違和感に逆らうことなく僕は盾を正面でなく、両手剣のある方向でもなく、その真逆にカイトシールドを置く。
瞬間衝撃が襲ってきた。彼女は剣で切り払うと見せかけて、逆方向から蹴り込んで来ていたのだ。
また、その蹴りの反動を生かした大剣の薙ぎ払いが来る。
その刃を盾で下方向へ逸らしつつ跳ねることで回避した。
ここでようやく反撃のチャンスが来た。しかしながら彼女の顔は余裕綽々といったものだった。
それもそのはず、大剣のリーチを生かした攻撃であった為、僕と彼女とは80cmほど離れていた。なのでその笑みは油断であるとシャルルに理解させるには、少し卑怯な手を用いる必要である。
僕は相棒を召喚すると、一度離し、そしてストックを掴み直した。本来、バヨネットとして装着したレイピアの長さは精々50cmではあるが、FNF2000の全長は40cm。つまり端であるストックを握れば、その射程は90cmまで延びる。
僕は一閃彼女の頬に掠めるように相棒を振るうと、地面に着地した。
口径:5.56
銃身:ショート
レイピア系バヨネット(50cm)
銃口:サイレンサ
銃倉:複列
照準:1.6倍サイト
その他:反動軽減