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第十三話 予期せぬ再会

8月24日誤字脱字等修正しました。

「通ってよし」


 イェルドの先導のもと裏門に着いた俺たちは王宮に入る為の手続きを行い厳重に取り調べられた。鉄石(くろがねいし)で調べられたのはもちろん、全ての武器や防具、それに下着に至るまで不審物の持ち込みが無いかチェックされる。


「魔石を警戒しているんだ。あれは発動してないと感知魔法(ディテクトマジック)でも調べらんねぇからな」


 徹底的な身体検査を終えて城門の小部屋から出てきたイェルドが不愉快そうな顔つきで説明する。


「ったく、これだけでも俺は王宮に来たがる連中の気が知れねぇ。毎回毎回来るたんびに何が悲しくて男の前で裸を晒さにゃならんのよ」

「はは、確かにこれ毎回だったら大変だね」


 そんなバカ話をしている間もなかなかナーサは合流できなかった。男女差はあるのだろうが、もう少し何とかして欲しい。

 ようやく女性側の小部屋の扉が開かれる頃にはもう二十分ほどの時間が経過していた。


「こんなの疲れるだけじゃない!」


 ナーサは疲労困憊の表情で開口一番文句を垂れ流す。


「来るたびにこれだぞ。どうだ? もう二度と王宮に来たくなくなっただろう」

「やってる意味はわかるけど、あまりに非効率過ぎよっ!」


 ナーサが怒っているのが楽しいのかイェルドはニヤリとほくそ笑む。


「そういや、女王が出来るだけ人に会いたくないから嫌がらせでしてるんじゃないかってどっかの貴族が言ってたな」


 イェルドの与太話にナーサが大きく頷く。

 ……うーん、別にユミスは話すの苦手とかじゃないはずなんだけどな。それとも、誰にも会いたくなくなるくらい貴族連中が最悪だったのか。

 いずれにせよ、こんな状況だと本人に会うのは大変かもしれない。

 せっかくここまで来たのだからちょっとくらい会えたら――せめてひと目だけでも元気な姿を見れたら、と思ってたけど難しそうだ。


「三人揃ったし、行くか」


 イェルドに促され俺たちは王宮の裏手から中へと進んで行った。

 入り口の水晶の通路は太陽の光が乱反射して煌びやかであったが、中に入ると石で出来た普通の壁に様変わりする。おそらく王宮の外観が街の外からわからないことと関係してるのだろう。ただそうは言っても魔石で一定の明るさが保たれており、かえって穏やかな色合いがその場にいる者の心を落ち着かせていた。


「呼びつけられたのはこの通路を左に進んだ先にある階段手前の部屋だ。俺は依頼人に話を付けたらさっさと帰るが、まあ、頑張れ」

「了解。ほどほどに頑張るよ」

「何よ、その適当さは?! ここで頑張れば、今後王宮からの指名依頼が入るかもしれないんだから気合入れなさいよね!」

「……嬢ちゃんは元気だな」


 ナーサの気持ちの入りようにイェルドは呆れた様子で苦笑いしていた。

 だけど確かに指名依頼が来るって考えると何度も王宮に足を運ぶ事になるわけで、そのうちユミスに会える機会が訪れるかもしれない。


「よしっ!」


 俺は気合を入れ直して歩き始める。


「なんだ、カトル。嬢ちゃんに言われて気合入れるなんざ、おめぇも単純な奴だな」

「せっかくやる気出してるんだから茶化すな」


 そして炊事場や食堂、リネン室など主に王宮で使役する者たちの部屋が続く区画を通り過ぎると、雰囲気の違う小さな扉があった。そこでイェルドが一旦立ち止まり小声で俺たちに注意を促してくる。


「ここから先は貴族様が出入りする区画だ。今日の謁見の為に大勢集まってるが、かなり待たされて不機嫌だろうから、とにかく静かに、足音も立てんなよ。視線も向けるな」


 いつものおちゃらけた感じはなくいたって真面目な様子に俺とナーサは声を出さずコクコク頷く。


「じゃ、行くぞ」

 

 果たしてその扉を抜けると、途端に天井が高くなり部屋の空気が一変した。通路は赤いカーペットが引かれ、壁には見栄え良く絵画や人物画が一定間隔で飾られている。

 使用人たちの区画と貴族が出入りする場所との明確な違いにモヤモヤするが、今はイェルドに言われた通り、幾分歩く速度も抑え目に、胸当てがカチャカチャ鳴る音さえ気を付けて歩いて行く。

 隣のナーサはというと若干緊張した面持ちではあったものの、堂々と歩いており様になっていた。イェルドが幾分身体を屈めてソロリと歩いているのとは対照的だ。これではどちらがギルドマスターか分からない。

 ただ俺もナーサの歩き方を真似しようと胸を張って歩いてみたのだが、どうしても胸当ての音が響いて上手く出来なかった。どうやら歩き方にも何らかのコツがあるらしい。

 ユミスに会うまで何度も王宮に来るつもりである以上、機会があればナーサに教わりたい所だ。


 そしてしばらくの間抜き足差し足で歩いていると、通路の向こう側から騒然としたざわめきが聞こえ始めた。

 どうやら貴族たちの(たむろ)する王宮正面側まで来たらしい。イェルドの再確認を促す視線に小さく頷くと、俺たちはより細心の注意を払って進んでいった。

 そして一気に場所が開けると、右手の大広間にたくさんの貴族たちが一堂に会する、さながら立食パーティ会場のような光景が目に飛び込んでくる。

 華やかな様子と美味しそうな匂いに釣られ、思わず視線を向けてしまいそうになるのをグッと堪えた。イェルドの言葉が無ければ我慢出来なかっただろう。

 イェルドはそのまま左手にある階段へ向かい、その手前にある部屋の中にすすっと入り込む。慌てて俺たちもその後に続くが、後ろから殺気紛いの視線を感じるあたり、少しでもボーっとしていたらどこかの貴族に絡まれていたかもしれない。


「ふぃー、ったく勘弁して欲しいぜ。もっと別の部屋とか用意出来なかったのかよ」


 あっという間に汗だくになってしまったイェルドが椅子に座って上着をばたばたする。俺とナーサも隣の椅子に座ると、合わせたかのように揃って溜息が出た。


「申し訳ありません、傭兵ギルドのマスター殿。公女閣下よりこの場所が審査に都合が良いとお達しがありましたゆえ……」


 部屋の中には槍を持ち鎧に身を包んだ衛兵が一人控えていた。


「貴族の連中、もう目が血走ってて(こえ)えの何の。もうチョイあの場に居たら絶対(ぜってぇ)絡まれてたぜ」

「本日は大変な中、お勤めご苦労様です」

「……まあ、お(めぇ)も滅多な事言えねぇわな。あんな連中に配慮しねぇといかんてのはご苦労なこった」

「お言葉、痛み入ります」

「んで、その公女閣下はどちらに?」

「公女閣下は先ほどいらっしゃった傭兵ギルドの幹部の方々を伴って地下三階の演習場に向かわれました。――あ、ただすぐ戻るとの事でしたのでマスター殿にはこの部屋でお待ち頂きたく」


 イェルドがそれを聞いて立ち上がろうとしたので慌てて衛兵が言葉を繋ぐ。


「すぐ戻る――ってのはどういう事だ? テストがそんなすぐ終わるのか?」

「そういうことや」

「……っ?!」


 どこかで聞いた声が後ろから響いたかと思うと、どたどたと誰かが部屋に入ってくる。驚いて振り返れば、ついこの前出会ったばかりの顔が目の前にあった。

 ティロール偵察の時に森で会った女性――タルクウィニアだ。


「えっ……、ターニャ!?」

「なんや、どこぞで見た顔かと思ったらカトルやないか!」


 無事だったんだと思わず嬉しくなって俺は手のひらを上に掲げた。その手にターニャが愛想よくハイタッチしてきて、俺たちは再会を祝し合う。

 だがそんな様子に一同驚愕の表情を隠せない。


「なんだ、なんだ? 何でカトルはこの方を知ってるんだ?」

「ああ、それは――」

「待った! その話はせんといて。うちとカトルは以前()うた事がある、ってだけでええやろ」


 そう言ってウインクするとターニャは悪戯っぽく微笑みかけてくる。

 カルミネを冠していたから何となく察していたけど、やっぱり偉い人だったんだな、ターニャは。


「それにしてもほんまにカルミネに来たんやね、カトル。この前はおおきにな」

「あ、いや、あの時の魔法は俺じゃないし、礼ならラドンに言ってくれ」

「なんや、あのしょーもないおっちゃんも一緒なんか?」

「カルミネには来てないよ。研究があるってさ」

「さよか、それはなによりや」


 ターニャはよっぽどラドンが嫌だったのか、大げさに胸を撫で下ろす。隠密魔法(シークレシィ)はラドンの手柄なのに嫌われたものだ。


「おっちゃんの話はどうでもいいんや。そないなことより、なんでカトルがここにおるん?」

「なんでって――」


 そこにイェルドが割って入ってきた。


「公女閣下。もともと今回の依頼を任せようと思ったのはこいつらです」

「はぁ? ちょい待ち! 傭兵ギルドの幹部はこの四人やろ? この四人が争っとったのとちゃうんか?」

「えっ……?!」


 俺はその時になってようやくターニャの後ろに居たのがギルドの幹部連中であることに気が付いた。あまりにもイェルドの部屋に居た時と様子が違っていたのでわからなかったんだ。

 エーヴィだけはターニャの後ろでいつも通り泰然と構えていたが、他の奴らは息も絶え絶えでげっそりとしていた。あれだけ威勢が良かったのに、皆俯き加減で立っているのがやっとである。


「ええ、まあ。その四人が争っていたのは事実ですが――」


 イェルドの視線が鋭く幹部連中を貫く。今だ顔を上げられない三人はもとより、エーヴィでさえその表情は冴えない。


「どうやら結果は良くなかったようで」

「――そやな、正直期待外れやったわ」

「それはギルマスとして面目ない。まあただ、本命はこいつらなんでね」


 イェルドは俺たちの方を見てニヤリと笑う。


「さよか! まさかとは思ったけど、ほんならカトルもテストするって事でええんやね」

「閣下に任せます。じゃあ、その四人は連れて帰るんで」

「ま、待ってくれ、イェルド! もう一回、もう一回だけチャンスをくれ! オズヴァルドでは決定的に相性が悪すぎただけで、エーヴィと組めばまだなんとかなったはずなんだっ!」


 立ち上がろうとするイェルドに、突然、俯いていたフォルトゥナートがすがり付き懇願し始めた。


「往生際が(わり)ぃぞ、てめぇ。どんな内容か知らねぇが、ダメだったんならひとえにお(めぇ)の実力が足りなかっただけだろ」

「グッ、ぬうううう!」


 その言葉にまるで親の仇を見るような形相でフォルトゥナートはイェルドを、そして俺を睨みつける。

 完全にとばっちりにしか思えないが、依頼を争う以上こうなるのは必定だ。


「まっ、うちはあと一回くらいならやってもええけどな。……さっき惜しかったエルフのじぶんもほんでええんかい?」

「……チャンスを頂けるなら是非」

「さよか。その気概は立派やね」

「ったく、しょうがねぇなあ、お(めぇ)ら。今日は謁見の日だから結構、強制ミッション溜まってるんだぞ。もし次もダメだったら二倍やらせるからな」


 そう言って今度こそイェルドは立ち上がり残り二人を引き連れて部屋を出て行った。それを見届けるとターニャもちょいちょいっと指で合図を送ってくる。


「ほな、うちらも行こか」


 それに続くのは悲壮感漂うエーヴィと、まだ俺を睨み続けているフォルトゥナートだった。


「私たちも行くわよ、カトル!」


 ナーサに促されて後に続くが、なんとなく嫌な感じだ。ギルドの幹部だったらこういうことは日常茶飯事だろうし、もうちょっと後腐れなくして欲しいんだけど……何だか厄介そうな奴に目をつけられてしまった。

 出来れば関わり合いたくないが、下手をすると俺たちの結果にまでいちゃもんを付けてきそうで困る。

 気にしてもしょうがないがやっぱり憂鬱だ。


 俺は若干気が重くなりながら、ターニャの背中を追って階段を下りて行った。

長くなりそうだったので途中でいったん投稿します。

次回は9月25日までに更新予定です。

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