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竜たちの讃歌 ~見目麗しき人の姿で生を受けた竜の子は、強気な女の子に囲まれて日夜翻弄されています?!~  作者: たにぐち陽光
第二章 竜は地道に課題をこなそうとして、火竜の気まぐれに翻弄される
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第四十五話 昇華

8月5日誤字脱字等修正しました。

「さよか……。そないなことになってたんやな」


 俺とターニャは情報のすりあわせをして、今の状況を確認しあった。俺が伝えたリスドの現状はターニャにとっては知らないことが多かったようで、容姿に似合わない唸り声を上げて頭をかき上げている。

 逆に、ターニャの教えてくれた情報は予想の範疇を超えるものではなかった。


「カルミネはティロールに援軍を出さへん。出せへんのや。シュテフェンで不穏な動きがずっと続いとるからね。せやからうちがここまで来よった。うちなら助けられる命があると思ったんや」

「だからって、さすがに一人は無謀過ぎなんじゃないの?」

「なめたらあかん。これでもうちは魔法には自信があるんや。しかもユミスネリア様肝煎りの身体強化(ブースト)を掛けてもろとるさかいに、シュテフェンの連中にもちょっとやそっとでは負けへん。――それにな」


 そう言って合図を送ると、突然周りから複数の衛兵が現れる。


「どや? 全く気付けへんかったやろ。ユミスネリア様が編み出した魔法人形や。魔法の袋の中に入れておけるから感知魔法(ディテクトマジック)にも探知魔法にも引っ掛からん優れもんやで」


 ラドンも顔負けのドヤ顔でターニャはふんぞり返る。


「ほう……! 確かにこれは素晴らしい。動力源が魔力のカラクリ人形か。魔石は……なんと、使っていないのか。うむ! 興味深(おもしろ)い、興味深(おもしろ)いぞ!」

「うわわわ、やめへんか、このドアホ!」


 ラドンが全身くまなく(まさぐ)り始めたので、すぐにターニャは衛兵を魔法の袋に戻した。女性の姿をした衛兵だったので傍から見てたら軽く変態にしか見えない。

 ラドンが不満そうな顔を向けると、それに輪を掛けて怒り心頭のターニャが睨みつける。

 何でこんな事で一触即発の事態に陥っているのかさっぱりわからないが、とにかくターニャの自信がどこから来ているのかわかった。これならたとえ一人だったとしても十分に太刀打ち出来る。


「わしもかの女王に少し興味が湧いてきたわい」

「カトルなら歓迎するけどおっちゃんは来んといて」

「フン、どちらにせよすぐには行かん。わしには今、抱えている研究があるからな。いつ終わるとも知れぬが、もしそれが片付いてもまだ女王が生きていたら、その時は会いに行ってやろう」

「なぁっ?! 偉そうに縁起でもない事、言わんといて」

「はは……」


 ラドンは、それだけ今の研究に時間が掛かるって言いたかったのだろう。そして研究を終える頃、果たしてユミスが生きているのかさえわからない……。それほどに人族の一生は竜族(カナン)にとって儚く短いものなのだ。

 ただそんな竜族(カナン)の感傷がターニャに伝わるはずもなかった。状況が状況だけに、近々カルミネが滅ぼされるという不吉な揶揄に聞こえてたのかもしれない。いや、むしろそう捉えるのが自然だ。

 そんな二人の考えがわかるだけに、俺は何も言えず乾いた笑いを零すしかなかった。


「ったく、やっぱりリスドのもんは信用でけへんな」

「おお、そうだ。何もわしから会いに行く必要はない。研究中、会いに来たければいつでも来いと女王に伝えておけ」

「はぁあ?! 誰が伝えるか、ボケ!」


 結局、最後までこの二人の間で険悪なムードが改善する事はなく、喧嘩別れに終わってしまう。

 それでも、とりあえずティロールとカルミネの状況がターニャを通してつぶさに分かったのは大きな収穫だったと思う。


「一応この隠密魔法(シークレシィ)っちゅう魔法とリスドの状況が分かった点については感謝しとくわ」

「うむ、せっかく掛けてやったのだ。バカな事を仕出かして死なんようにな」

「クッ……ほんま腹立つわ。カトルは何でこんなしょーもないおっちゃんとつるんどるんや? さっさと別れてカルミネに来たらええやん。案内くらいしたる」

「ははは……」


 ターニャはもう最後の方にはラドンの事をボロクソに(なじ)っていた。もちろんこのバ火竜(カりゅう)がずっと高飛車な態度を取り続けたせいなんだけど、ここで下手に注意して、ラドンにへそを曲げられても困る。何しろこのバ火竜(カりゅう)には、ちょっと言っただけですぐムキになってとんでもない事をしでかした前科があるからな。


 ただ、せっかくユミスの知り合いに会えたのだから、ターニャとはもうちょっと歩み寄って話したかった。初めて会ったばかりだけど、俺の直感として彼女は信頼できると思うんだ。

 そう思ったら、別れの言葉を投げかけてくるターニャを俺は無意識のうちに呼び止めていた。


「ほなな。戦場での無事くらいは祈っといてあげる」

「あ、待って!」

「なんや、カトル?」

「小僧、無駄話をしている暇はないぞ」

「すぐ済むって。……一つだけ、ターニャがカルミネに戻ったらユミスに伝えて欲しいことがあるんだ」

「伝えるって……何をや?」


 ユミスの名前を出したら、ターニャの表情が怪訝なものに変わった。ラドンがアホな事を言ったせいで露骨に警戒されているのだろう。

 でもここで怯んではいられない。だって俺はその為に大陸へ来たんだから。


「必ずカルミネに行くから、もう少しだけ待っててって」

「えっ……それだけか?」


 ポカンとした顔でまじまじとこちらを見ていたターニャだったが、やがて口を押さえながら笑い始めた。


「ぷっ、クックッ……ああ、堪忍な。そないな伝言、頼まれるとは思わへんかったから……。了解や。必ず伝えとく」

「ターニャも、カルミネで会えたらその時は宜しく」

「カトルなら大歓迎や。楽しみに待ってんで」


 ターニャは手を振りながら森を東へ駆けて行った。

 何だか初対面なのにターニャとは波長が合う気がする。カルミネに行ったときの心強い味方が出来た感じだ。


「そろそろ行くぞ。かなり時間を無駄にした。これで夕食に間に合わなければあの女のせいだな。その時は小僧、おぬしがカルミネへ文句を言いに行け」

「俺はそんなしょーもないことの為にカルミネに行くんじゃないっての」

「……小僧、女の口癖がうつっているぞ」

「えっ――!」

「はっはっはっ、何を面白い顔している。うむ、少しだけ溜飲が下がったわ」


 そう言って満足そうにほくそ笑むラドンを俺はジト目で睨みつけた。



 ―――



 ターニャと別れた俺たちはいったん戦場を迂回し、飛行(フライト)移動(コンベア)の魔法を使わず徒歩で東回りに南を目指すことにした。

 ラドンが常に感知魔法(ディテクトマジック)で状況を把握しているおかげで、探知魔法を使わなくとも今のところはロレンツォや中将たちに遭遇するような事態にはなっていない。ただラドンからすれば俺の魔力制御がずさん過ぎるとのことで、道中散々ぼやき通されている。


「そもそも小僧、おぬしが探知魔法を的確に使えておればもっと楽に進めたのだ」

「……それはそうだけど」

「せめて鑑定魔法くらいは気付かれず掛けられるようにならんか」

「いやそんなこと言ったって、見つかったら全て台無しだろ?」

「そのくらい制御出来ないでどうする。ほれ、試しにそこにいるフードの男に掛けてみよ」

「い……?!」


 いつの間にか、すぐそばを魔道師ギルドの男が過ぎようとしていた。今の所、相手は気付いた素振りを見せていないが、俺は慌てて木の陰に身を隠す。


「……!?」


 不意に周囲を魔力が覆い始めた。咄嗟(とっさ)に魔力を跳ね返そうとして、これが静寂魔法(サイレント)であることにようやく気付く。


「こんなとこでいきなり魔法使われたらびっくりするだろ、ラドン!」

「いきなりではない! おぬしが鑑定魔法をさっさと掛けんからではないか」

「んなこと言われても――」


 魔法に気付くかどうか、その感覚は完全に受け手次第だ。受け手側が魔力を感じ取る能力に長けていれば、掛ける側がどれだけ制御したところですぐに気付かれてしまう。

 無論、繊細に制御された魔法はそれだけ気付かれ難いのだが、俺の場合、同じ威力の魔法でも扱う魔力量が桁違いに多いのが問題だった。それはひとえに俺が無駄に溢れた魔力を使ってごり押ししているからなんだけど、どうにも少ない魔力だけでは失敗するような気がしてならない。

 おそらく、じいちゃんの特訓がたくさんの魔力で複数の魔法を使いこなす方向に特化してたからなんだろう。おかげで扱える魔力量は増えたが、一つの魔法を少ない魔力でキメ細やかに制御するなんて高度な芸当、出来るはずもなかった。

 今は日々魔法を使い続けているので以前よりだいぶマシになって来たと思うけど、それでも相手に気付かれるかどうかは別問題だ。

 魔力を出来る限り抑え、相手に違和感を与えないように慎重に魔法を掛けきる――。

 今の俺には正直相当の難問であった。


「フン、情け無い奴だ。仕方がない、小僧にも隠密魔法(シークレシィ)を掛けてやる。これなら魔力に気付いた所でわしらの居場所は探れまい」

「それなら、まあ。……でも、何でそこまで俺にやらせようとするの?」

「そんなもの決まっておろう。おぬしが一人で偵察を出来るようになれば、わしがわざわざ出向かなくてよくなるではないか」

「あ、そういうことね」

「わかったのならさっさと魔法を使え。慎重かつ大胆にだぞ」

「って、難しいことをさらっと言うな」


 ラドンにここまでお膳立てされてしまってはやるしかない。冷静に集中して相手の動向を見定める。

 鑑定魔法を掛ける場合は目標とする相手を視界に捉える必要があるけど、少ない魔力で魔法を掛けることに集中するとどうしても注意力が散漫になる。


「ふぅーっ……」


 俺は一度大きく深呼吸すると、出来る限り魔力を抑えて鑑定魔法を発動する。


「……っ!」


 と、その時魔道師ギルドの男がしゃがみ込み魔力を溜め始めた。

 気付かれたと思い慌てて魔法を止めようとするが、もはや起動してしまった鑑定魔法が相手の元へ向かっていってしまう。

 だが、相手の男は何事も無かったように魔力を練り続けていた。――どうやら気付かれたわけではなさそうだ。土属性の術式が展開され、男のいる場所の土が盛り上がり巨大な塊となって城門に向かって飛んで行く。その魔力の高まりに俺の放った鑑定魔法は存在感をかき消されてしまった。


「フン、怪我の功名だな」


 この状況に、ラドンが身を乗り出して来る。 


「魔力を使っている者は自分に魔法が掛けられている事に気付きにくい。しかも小僧が魔法を止めようとした事で結果的に最小限の魔力が奴を覆っただけで済んだ」

「おおっ……!」


 説明されて初めて分かった。あまりの幸運に自分でもびっくりだ。

 相手が土属性を展開してくれて、しかもそれを見た俺がびっくりして魔法を止めようとしたから結果的に魔力を最小限に抑えられたなんて……。



 名前:【アデルモ=ティコッツィ】

 年齢:【28】

 種族:【人族】

 性別:【男】

 出身:【シュテフェン】

 レベル:【22】

 体力:【109】

 カルマ:【魔石強化】【魔力消耗】



 しかもちゃんと調べられている……!

 これは自分の中でもかなり手ごたえがあった。

 俺はいつもとんでもない魔力で魔法を展開していたんだな。きっと魔法が苦手という意識が働いて必要以上に魔力を使う癖がついてしまったんだ。


「これでコツは掴んだであろう? ほれ、次はもう少し先に行ったところの奴にも掛けよ」

「了解」


 俺はラドンに言われるまでもなく、魔法を展開し始めた。



 名前:【カッリスト=ピコット】

 年齢:【31】

 種族:【人族】

 性別:【男】

 出身:【シュテフェン】

 レベル:【24】

 体力:【188】

 カルマ:【魔石強化】【魔力消耗】【身体強化】



 名前:【カロジェロ=スカッリャ】

 年齢:【26】

 種族:【人族】

 性別:【男】

 出身:【シュテフェン】

 レベル:【19】

 体力:【123】

 カルマ:【魔石強化】【魔力消耗】



 何人かに連続で掛けてみたが、全く誰にも気付かれなかった。

 ラドンの隠密魔法(シークレシィ)の効果も多分にあるだろう。だが、少なくとも魔法が研ぎ澄まされていく感覚は確かなものだ。

 このまま突き詰めていけば間違いなく一つ上のレベルに昇華できる、そう確信できた。

 だから――。



 名前:【ウリッセ=デ=ナンニ】

 年齢:【27】

 種族:【人族】

 性別:【男】

 出身:【シュテフェン】

 レベル:【25】

 体力:【129】

 魔力:【198】

 カルマ:【魔石強化】【魔力消耗】



「やった! ついに魔力が確認できた……!」


 それが出来た瞬間、嬉しさよりも先に俺がこれから(いざな)われるであろう運命への道筋に身の引き締まる思いを感じていた。

 ――ユミスネリアの元へ。

 初めてレヴィアと会ってから一ヶ月余り。ようやく俺はリスドの地に別れを告げ、カルミネに向かう準備が整ったのである。

次は8月4日までに更新予定です。

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