表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜たちの讃歌 ~見目麗しき人の姿で生を受けた竜の子は、強気な女の子に囲まれて日夜翻弄されています?!~  作者: たにぐち陽光
第二章 竜は地道に課題をこなそうとして、火竜の気まぐれに翻弄される
73/266

第四十三話 偵察

7月25日誤字脱字等修正しました。

「さて、本題だ」


 ラドンがそう切り出したのは森を戻りもうすぐ街道に出る辺りだった。なにやら不穏な空気を悟ったヴィオラが眼鏡をクイと上げながら話を遮る。


「待った。今度は何をやらかそうってわけ?」

「何を言っている、ヴィオラよ。王子が言っておったであろう? 魔道師ギルドの動向を探れと」

「はい? 今しがた十二分に確認してきたでしょう?!」




 ―――



 敵の中将(エドメ)が不承不承同意した不戦条約および捕虜返還の取り決めに際して、ロレンツォは明確に期限を定め締結を迫って来た。


「あと七日のうちに状況が変わる。それを踏まえず不戦条約を結ぶとこちらにはデメリットしかない。それを是とするのだ。ある程度はこちらに融通を利かせてもらおう」


 たった一週間でティロールを陥落させる――。

 俺にはそもそもティロールという都市がどんな感じなのか、そして魔道師ギルド数百人による攻撃がどんなものか知る術はなかったので、それを当然の事と聞き流していた。

 だがヴィオラにとっては信じ難い発言だったらしい。驚きの表情を隠せず、一瞬口を大きく開けた後、慌てて体裁を取り繕っていた。


「はっはっはっ、ヴィオラよ、何を驚くことがある? 落ちない城は無い。七日で落とす、その為に造作をかけているだけであろう?」

「そうは言うけど、いったいどうやって!」

「わしはたった一夜でリスドの王宮を落としたぞ」

「……」


 ラドンの言葉にヴィオラは二の句が継げなかった。一週間で驚いていたら、こっちはたった一晩だったよ。


「一夜……?」


 会話を聞いていた中将(エドメ)がギョッとしてこちらを訝しむように見てるけど、そりゃあ、たった一晩で王宮を制圧するなんて誰も想像出来るわけがない。

 ただロレンツォは状況を把握していたようで、特に顔色を変えることなく淡々と説明を続ける。


「一年だ。それ以上の不戦条約は必要ない」

「そんな! いくら何でも短すぎます。一年したら開戦すると言っているようなものでしょう!?」

「不服か? 我らはもっと短くても一向に構わないぞ」


 ロレンツォにすげなく一蹴されヴィオラは臍を噛む。だが他に手立てはなく結局その条件を受け入れるしかなかった。

 渋い表情で項垂れる彼女に溜飲が下がったのか、中将(エドメ)も最後は笑みを浮かべ握手を交わしていたのが印象的だった。




 ―――



「魔道師ギルドは北の森に野営地を作り、一週間以内にティロールを陥落させる目論見で行動中。南側には戦力を割いていない。これだけ情報が手に入ったんだから問題ないでしょう?」

「不十分だ」

「何でよ?!」


 ラドンはあっさりヴィオラの発言を却下する。


「わしと小僧だけでもう一度戦場を眺めてくるとしよう。万が一見つかってもヴィオラよ、リスドのギルド幹部であるおぬしが居なければ、どうとでもごまかしが利くであろう?」

「おたくはっ、何を勝手な事言ってるわけ?! 今、不戦の契りを結んだばかりなのよ?! そんなごまかし利くわけないでしょうが!」

「せっかくの機会だ。魔道師ギルドとやらの戦力を推し測っておかねば後々後悔するぞ」

「なっ……!?」


 ラドンはそう言うと、珍しく魔力を練るべく瞑想を始める。


「わしも温かい飯が食べたいからな。日が落ちるまでには帰るつもりだ。北門で待っておれ」

「ちょっ、待ちなさい! もし見つかったら、リスドの信用が失墜するわ!」

「ヘマをするとしたら小僧であるな。まあ、何とかなるだろう。では行ってくるぞ」

「待てって言ってんでしょ! こらっ、おたくはっ!」


 ラドンの右手がぼんやりと光って俺を包み込み、真四角の空気の箱を作り出す。――どこかで見たと思ったら、髑髏岩の洞窟から西の森を横断した飛行(フライト)移動(コンベア)の魔法だ。でも、それこそ森の上空を飛べばあっという間に見つかってしまう気がするんだけど。


「これって飛行(フライト)移動(コンベア)の魔法だよね?」

「そうだ」

「まさか、森をこれで縦断する、ってわけじゃないよね?」

「何を言っている。森を突っ切れば戦場まであっという間ではないか」

「いや、間違いなく見つかるだろっ!?」

「フン、愚か者め。誰がそのまま飛んで行くと言った? 目くらましを使うに決まっておろう」

「そうなの? それなら、まあ。……あ、でもどうやって降りるんだ?」

「上空から飛び降りて隠れれば問題あるまい」

「飛び降りるっ?! それこの前より酷い――」

「四の五のうるさい小僧だな。おぬしは黙って付いてくれば良いのだ」

「……俺に発言権は?」

「あるわけなかろう。だいたい、おぬしの看破と鑑定の魔法が肝なのだぞ?」


 すでに俺の身体は空中を飛び始めており、不意に視線の合ったヴィオラとお互い溜息を吐く。

 ……てか、何か目配せされたぞ。

 きっと「ラドンのお守は任せた」とでも言いたいんだろうけど、それが出来たら苦労はしない。


「では行くぞ」

「絶対に見つかるんじゃないわよ!」

「はっはっはっ、わしが見つかるものか。言ったであろう? ヘマをするならこの小僧だ」

「だから、カトルくんも含めて見つかるなって言ってるわけ!」


 その怒声を最後に飛行(フライト)移動(コンベア)の魔法がグンと加速し始めた。


「はっはっはっ、これならあっという間であるな。ほれ、遠く向こうに見える城壁が目的地で間違いあるまい」


 大地を覆う森の先、崖のように高くなった山間の中腹にリスドと同じような高さの城壁が聳え立っていた。その周りに魔力の輝きが見え隠れしており、熾烈な魔法戦が繰り広げられているのがわかる。


「いや、これ向こうからだと完全に丸見えじゃんか。その目くらましってもうやってるの?」

「いいや。まだだな」

「なっ……」


 このバ火竜(カりゅう)は暢気に何言ってんだ!


「このまんまじゃ見つかっちゃうじゃないか!」

「フン、急かすな小僧。良いか、モノが見えるのは色や形などを光の情報として捉えることで――」

御託(ごたく)はいいから早くしろって」

「くうっ、生意気な小僧だ」


 そう言ってラドンは右手から魔力を放出すると、飛行(フライト)移動(コンベア)の魔法で作った真四角の空気の箱の周りを何重にも魔法の障壁が覆っていく。


「戦いの最中であればこの程度でも十分に誤魔化せるであろう」


 ラドンが使ったのは見たことのない魔法だった。おそらく風属性の系統だろうけど、音魔法も混じった高等複合魔法に違いない。おそらく空気を幾重にも巡らせているのだろうが、その本質は皆目検討が付かなかった。魔力が自分の周りを覆っているのにその効果が分からないってのは結構悔しいけど、とりあえずはこれで安心できそうだ。


「ほれ、どんな魔法か気になるのではないか? んん?」


 この面倒くさいバ火竜(カりゅう)の口さえ何とかなればだけど。


「そりゃ気になるけど、でも今は戦場に注目すべきだろ!」


 ラドンの飛行(フライト)移動(コンベア)の魔法であっという間に森を抜けた俺たちは、山間の切り取られた崖の真上に到達していた。前回と違ってかなり上空まで高度が上がっており、人が豆粒のようだったが、だからこそ俯瞰(ふかん)で見渡せる戦場の様子に気もそぞろで居ても立ってもいられなくなる。


「これがティロールか」


 ここティロールは切り立った崖の上に存在する為、城門が二つしかなかった。北側はより山間の崖に近いほうにある為、南側の門が日常で使われている場所なのだろう。実際、数多くの兵が城壁の上に点在しており、配備されたバリスタと魔法の詠唱で何とか魔導師ギルドの攻撃に対抗しようとしている。

 だが――。


「ほぼ一方的か」


 ラドンが面白くもなさそうに(うな)る。

 それもそのはず、魔道師ギルドによる攻勢はその全てを無力化するほどに破壊的であったのだ。

 飛んで来る強弩や石の(やじり)といった(たぐい)のものは全て暴風の魔法により振り払われ、反対に何人かの魔道士が協力して生み出した苛烈を極める炎の渦は軽々と城壁を越え、木造部分を全て焼き焦がしていく。

 それでいて都市内部に壊滅的な打撃を与えぬよう適度に水流が降り注ぎ、城門は土属性による打突(だとつ)で半壊状態にあった。

 これでは、ほぼ攻撃側に損害は無い。

 城門が破られた時、防衛側は玉砕か投降か選択を迫られるのみである。


「魔石の有無であれだけ魔力に差が出るのか」


 魔法の威力の差は明確であった。魔道師ギルドの放つ魔法に守備側はほとんど対応出来ずやられっぱなしなのだ。


「それだけでもなさそうだが、魔石の功罪は大きいだろうな。……フン、わしにはあんなものを体内に取り込もうとする気持ちはさっぱりわからん。確かに魔力は向上するであろうが、微妙な感覚や繊細な情報を肌で感じられなくなる」

「それって感知魔法(ディテクトマジック)や鑑定魔法を受けても感覚が鈍って分からなくなるってこと?」

「そういうことだ。――つまり小僧! 今なら魔法を使いまくっても余程の事が無い限り見破られることはないぞ」

「おお!」

「わかったら、さっさと調べよ。休んでいる暇はない」


 俺はラドンの指示で看破と鑑定魔法を片っ端から掛け続けた。

 確かにラドンの言う通り魔法を繰り出している魔道師ギルドの連中にはどれだけ俺が魔法を掛けても全く気付かれる素振りはない。試しに守備側の兵士に掛けたら、こちらの位置は分からないようだが、あっさり気付かれたので、魔石を使って魔法を展開すると感覚が鈍るのは間違いなさそうだ。


「それでどうだ? 魔導師ギルドの連中は」

「ほぼ全員レベル20オーバー。体力も100以下の奴は皆無だね」


 あのロレンツォって奴だけ強かったのかと思いきや、どいつもこいつもヴィオラと同じくらいのレベルだった事に驚く。リスドの王宮で対峙した兵は一人もレベルが20を超えてなかったことを考えると、いかに精鋭揃いなのか分かる。


「あと【カルマ】に魔石強化、魔力消耗ってあるけど」

「フン、魔石を用いれば自身の魔力を制御出来ず消耗が激しくなる。魔力は増えるかもしれんが、精神はすり減らされるのだ。どれだけ割に合わんか、考えんでも分かるだろう?」


 ラドンは忌々しげに吐き出すが、俺はその言葉でピンときた。魔道具を使った者ならば、魔石を体内に取り込んででも魔力を上げたいと考えるはずだ。

 魔石によってどの程度魔力が上がるのか知らないが、さらに研鑽を増して高みを目指そうとする者がいたとしても不思議ではない。


「ふむ、なるほど。ならばなおの事、魔力が分からないのは痛手であるな」

「うぐっ……悪かったね」


 くっそー。

 それは俺が一番痛感しているんだ。これだけ鑑定魔法を使い続けていれば今までなら二、三個レベルが上がっていてもおかしくないはずなんだけど、何故か一向に変化が見えない。

 ……もしかしたら気付いていないだけでレベルが上がっていたりするのかな。そういや前もこんな事があったような――。


「小僧、あれを見よ!」


 突然ラドンに話しかけられて俺の思考は彼方に消え去った。


「あれって……人影?!」


 ラドンが指し示したのは城壁が連なり切り立った崖となっている東側の区画だった。ちょっと見ただけでは岩壁の下に広大な森が広がっているだけとしか思えないその場所に、結構な数の人影が散見されたのだ。


「どうやら戦火に紛れて落ち延びるようだな。こんな戦いで無駄死にしたところで魔道師ギルドを利するだけだ。賢明な判断と言えよう」

「でもあんなところから、どうやって?」

「抜け道でもあるのだろう。麓までの道を封じられると身動きが取れなくなる山城ではよくある話だ。そんなことも知らぬのか、小僧」

「悪かったね」


 ドヤ顔で言われ少しイラッとしたが、ラドンが偉そうなのはいつものことだったので気持ちを切り替える。


「で、どうするの? あの人たちも調べる?」

「ふむ……見る限り戦えない者の方が多いか。調べるのもそうだが何もしないで万が一きゃつらの魔法に巻き込まれたら後味の悪いことになりそうだな」


 数人の鎧姿の者が混じっているだけで、どちらかと言えば軽装の者や小さな子供が多く、乳飲み子を抱える母親の姿もある。


「仕方あるまい。手助けしてやろう。隠密魔法(シークレシィ)を掛ければそう簡単には見つからぬはずだ」


 そう言ってラドンは森の広域に魔力を放ち始める。


「俺たちにも使っている魔法?」

「バカ者め。隠密魔法(シークレシィ)で音波の壁を作り上げては音魔法が使えんではないか。説明を聞かず戯言(ざれごと)(わめ)くは愚か者の所業だ」


 ここぞとばかり、さっき説明を遮った事を(とが)められる。


「悪かったって、謝るよ。でもあのまんまラドンが説明し続けてたら俺たち見つかってたんじゃないか?」

「……それよりだ、小僧」


 あっ、誤魔化したな。


「どうやら少々まずい事になってきたぞ。あそこにいる女に気付かれたかもしれん」

「えっ?」

「さっきから上空(こちら)を注視しておる。……少し甘く見過ぎたか。厄介な事になったな」


 そう言いながら、なぜかラドンはニヤリと不敵な笑みを浮かべるのだった。

長くなったのでいったん投稿します。

次回は7月28日までに更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ