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竜たちの讃歌 ~見目麗しき人の姿で生を受けた竜の子は、強気な女の子に囲まれて日夜翻弄されています?!~  作者: たにぐち陽光
第二章 竜は地道に課題をこなそうとして、火竜の気まぐれに翻弄される
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第三十四話 音魔法の極意

7月15日誤字脱字等修正しました。

「看破って、そんな高等魔法使えるわけないって」

「フン、詐称の方がよほど難しい魔法なのだがな。しかしそうか、使えぬか……」


 そう言ってラドンは苦い顔をする。


「仕方ない、特別サービスだ。おぬしを通して看破の魔法を使ってやろう」

「……えっ?」


 どういうことだ?

 そう聞く前にラドンは静寂魔法(サイレント)を解くと、俺の背中越しに立って後ろから首の付け根を掴んで来た。


「なっ……」

「誰でも良い。まずは鑑定魔法を掛けてみよ」

「ちょっと、おたくたち、今度は何をやらかそうとしているの?」


 ラドンが明らかに怪しげなことをし始めたのを見て、ヴィオラの怪訝な視線が飛んで来る。――こいつと一緒にまとめられるのは何となくモヤモヤするんだが、今はしょうがない。


「ちょっとした実験だ。……おお、そうだ、ちょうど良い。ヴィオラよ、おぬし実験台になれ」

「何でそうなるわけ?!」

「怒るな。必要なことなのだ」

「お、何をおっぱじめるんだ?」

「いい。僕が許す。何なら、僕を実験台にしてくれて構わない」

「アルフォンソ様?!」

「そうか。ヴィオラが嫌だと言うなら仕方あるまい。小僧、王子に鑑定魔法を掛けよ」

「なっ……王族相手にそんなこと許されるはずないでしょう! わかったわよ、私が受けて立つわ」

「じゃ、遠慮なく」


 俺にもラドンが何をやろうとしているのか良く分からなかったが、看破というフレーズに好奇心の方が(まさ)った。そのまま緊張で強張るヴィオラに向けて鑑定魔法を放つ。



 名前:【ヴィオラ=アクセーン】

 年齢:【24】

 種族:【人族】

 性別:【女】

 出身:【大陸外メノルカ島】

 レベル:【21】

 体力:【146】

 カルマ:【なし】



 ……えっと、本当は気にしちゃダメなんだろうけど、24歳なんだ。もっと年上だとばかり思っていたよ。

 ――って、もしかしてレヴィアと仲が悪い原因はそこだったりして。

 それはともかく、レベルも体力も予想以上に高くてびっくりだ。特にレベルはマリーよりも高いなんてどういう基準かさっぱりわからないけど、きっと彼女(ヴィオラ)彼女ヴィオラでいろいろと大変な経験を積んでいるのだろう。

 しかし、このメノルカ島ってのはどこなんだろう。まあ、あの王の間(ばしょ)に居れたのだから問題ないと判断されたんだろうけど。


 ……?!

 そんなことを考えていたら、またラドンの奴が静寂魔法(サイレント)を使ってきた。


「次はヴィオラに詐称を使え」

「は?!」


 どういうことか聞き返そうとして、次の瞬間静寂魔法(サイレント)が解かれるものだから詳しく聞くことも出来ない。

 俺は良く分からないままにヴィオラに向かって詐称の魔法を掛けた。

 変えるのは……まあ、適当でいいか。


「よし、では行くぞ」

「――うっ?!」


 その言葉と同時にラドンに掴まれた首筋からビリビリとした神経を圧迫する何かが身体中を駆け巡る。それは昔どこかで味わったような不思議な感覚だった。ぼんやりと脳裏にイメージが湧いてくる。

 ……そうか、この痺れる様な感じは雷だ。孤島に居た時、じいちゃんの授業で文字通り雷を落とされた記憶がよみがえってくる。この雷よりかなり微弱な信号が脳内を流れていて情報を送りあっているって習ったっけ。

 この、今俺の中で駆け巡っているものもその類なんだろうか。

 だんだんと()()が形作られ、駆け巡っていたものが収束していく。そして次の瞬間ヴィオラへ向かって波が覆っていくように解き放たれた。


「ふう、終わったぞ。小僧、鑑定魔法を使え」

「えっ?! あ、ああ」


 俺は言われるがままにもう一度ヴィオラに鑑定魔法を掛けた。



 名前:【ヴィオラ=アクセーン】

 年齢:【24】

 種族:【人族】

 性別:【女】

 出身:【大陸外メノルカ島】

 レベル:【21】

 体力:【146】

 カルマ:【なし】



 なっ!? そんなバカな。俺は確かに詐称で数値を適当に変えたはずだ。年齢をレヴィアと同じ22歳にしたはずなのに、なぜ元通りの数値に戻って――。


「これが看破だ」


 ラドンのささやき声が後ろから聞こえる。そして首筋から手が解き放たれた。その瞬間ビリッとした痛みがわずかに残る。


「どうだ、わかったか」

「あ、ああ……」


 これが、看破の魔法か。

 あの、身体中を駆け巡ったビリビリとした痺れる感覚が雷魔法なんだろう。そして収束した時、波のように放たれたのが音魔法ということだ。

 膨大なイメージが脳を刺激して、震えが止まらなくなる。俺は以前、あのビリビリとした感覚を味わったことがあった。それでいいなら、俺にもきっと出来るはず……!


「次はおぬし一人でやってみるがいい」

「わかった。ありがとう、ラドン!」

「フンッ! わしがおぬしに教えてやるなど二度とない、特別サービスだ! だいたい、わしは誰にも教わることなく独力でここまで編み出したのだぞ。それをだな……」


 ラドンは照れたような、それでいて不機嫌そうな微妙な顔つきでぶつぶつと文句を言いながら離れていく。

 俺はもう一度ラドンに頭を下げると、ゆっくり深呼吸をしてから集中し始めた。


「えーと、何がどうなったんだ? カトル。俺にはさっぱりわからん」

「じゃあ、今度はフアンを実験台にして試そうか」

「ああ、(よろ)し……って、てめ、何適当なこと言ってんだよ! ……あの、ちょっと怖いからほんとにやめてくれません?」

「冗談だって。いいよ、自分自身にやるから」


 えーと、まずは自分に詐称を掛けて、それから鑑定魔法を使う。



 名前:【カトル=チェスター】

 年齢:【19】

 種族:【人族】

 性別:【男】

 出身:【大陸外孤島】

 レベル:【9】

 体力:【75】

 カルマ:【なし】



 よし、詐称はきちんとかかったな。

 じゃあ、本番だ。さっきのビリビリとした感覚をイメージし、それを魔力として収束する。この何かが作られていく感覚がとても難しい。空のような風のような、それでいて突き破っていく雷のような強いモノを想定しゆっくりと紡いでいき、それらを歌うように声に乗せて自身に放ってみた。

 いったん身体の外へ出たものが自身に戻ってくるのは難しそうだったが、やってみると案外イメージしやすい。音イコール声という単純な発想だったが、結構しっくり来る。

 やがて魔力の波長が身体に到達してビリッとした鈍い痛みを感じると、自分の中の何かが弾けた気がした。

 ――なかなかいいんじゃないか? これでもう一度鑑定魔法を掛けてみる。



 名前:【カトル=チェスター】

 年齢:【19】

 種族:【竜人】

 性別:【男】

 出身:【大陸外孤島】

 レベル:【9】

 体力:【748】

 カルマ:【なし】



「……っ! よしっ! 出来たぁ!!」

「本当か?! フッ……はっはっはっ。たった一度で完璧に使いこなすとはな。さすがのわしも脱帽するしかないわい」

「あのさあ……、だから何がどうなっているんだ?」

「実験は成功した、ということだ」

「おい、魔法使い。僕には教えてくれるんだろうな?」

「はっはっはっ、そうがっつくな。そんなに揃って興味深(おもしろ)い顔をしていると、愉快でたまらなくな――」

「実験台にされた挙句、何をしたかダンマリ、なんてことはないわよね? 偉大なる魔法使いさん……!」

「あ、ああ。落ち着け、ヴィオラよ。……そうだな、飯を食い終わったら教えてやろう」

「……おたくはっ!」


 何だかラドン相手に他の三人が揉めているけど……。

 まあとにかく、俺は晴れて看破の魔法を使えるようになった。こんなに嬉しいことはない。多分、何となくだけど音魔法のコツもわかった気がする。これなら熟睡魔法(サウンドスリープ)も使えるかもしれない。


「ありがとう、ラドン!」

「フン」


 もう一度ラドンに大きな声でお礼をする。

 その赤ら顔がさらに赤くなっていくのを俺は見逃さなかった。



 ―――



 結局、本部前で瓦礫撤去をしている人たちの中に怪しい者はいなかった。みんなリスド出身者であり、気心知れたメンツだとダンが教えてくれる。

 だったら最初から教えて欲しかった。魔法の練習になったからいいけど。

 ちなみに皆には鑑定魔法を掛けるとだけは伝えたが、看破魔法については教えていなかった。ラドン曰く「敵を(あざむ)くにはまず味方から」とのことだが、そもそも鑑定魔法を掛けてる時点で敵なら近づいてこないと思うんだけどね。


「これ、道行く人にも続けるの?」

「当然だ、小僧。何の為にわしが同行していると思っている」

「了解、ヴィオラはフォロー宜しく」

「……頭が痛いわ。せめてその灰タグをしまって銀タグだけ堂々と胸の辺りに掲げてくれない?」

「これでいい?」


 精銀(ミスリル)タグがギルドの証明書代わりになるらしく、鑑定魔法程度であればこの状況下そこまで嫌な顔はされないだろうとのことだった。

 俺としては貴重なものだと聞いてたので服の内側に首から掛けていたんだけどね。さっそく言われた通り、陽の光に反射してキラキラ光る精銀(ミスリル)タグを出し鈍い色合いの灰タグを服の中にしまい込む。


「何か、途端に注目されてるんですけど」

「そりゃ精銀(ミスリル)だぜ? 下手すりゃ金銀より価値があるお宝だし、しゃーねえって」

「トム爺さんの部屋の壁にいくらでもあったじゃないか」

「あれは本当にもったいないよな。ギルマスが自分で稼いだ金を何に使おうと勝手だけど、あんだけあれば王宮の一つや二つ買えそうだしな」

「フアン、貴様! 何を不埒な事を!」

「ほう、ではわしもタグを出しておくか。そろそろ何か魔法を使う頃合かと思っていたのだ」

「だあああっ! ちょっと待った! おたくは何をする気なわけ?!」

「何を怒っている、ヴィオラよ。わしは感知魔法(ディテクトマジック)で北の不審な奴らの動向を探るだけだ」

「何を……えっ? あら、そう。それは宜しく頼むわ」


 俺とラドンの二人で胸の辺りに精銀(ミスリル)タグを掲げると、行き交う人々の視線がこちらに集まってくる。


「鑑定魔法を忘れるな」


 それを知ってかラドンは殊更大きな声で俺に話しかけてきた。……わざと聞こえるように言っているんだろうけど、その声に周りの人々がビクッとなるのを見ると申し訳なさが先に出てしまう。

 ただ意外なことに鑑定魔法についてはあまり目くじらを立てられなかった。もっと警戒されると思っていただけになんとも拍子抜けである。それだけ傭兵ギルドのお墨付きとも言える精銀(ミスリル)タグの効果が絶大なのかもしれない。


「まあ、アルもいるしな。次期王が街の視察で不審人物が居ないか調べているのに面と向かって咎める奴はいないって」

「確かに」


 フアンに言われて納得する。

 最初は精銀(ミスリル)に視線を奪われても、最終的に人々の注目を集めたのはアルフォンソであった。傭兵ギルドのお墨付きに次期王まで居るとなれば、普通の住民が露骨に歯向かうはずもない。

 だが、ヴィオラはフアンの言葉を否定し盛大に溜息をついた。


「そうも言ってられないわよ。……ふう、これは思った以上に難題のようね」


 何が難題なのかヴィオラに尋ねようとした俺は、すぐにその理由を思い知らされることになる。

 だんだん貴族街へ近づくにつれて貴族らしき者が散見され始めると、それと比例するようにあからさまな視線が増え出したのだ。


「おいおい、結構睨まれてるな俺たち」

「仕方あるまい。僕たちは勝者で、貴族だった者の大多数は敗者なのだから」

「そろそろ鑑定魔法、やめた方がいいんじゃね?」

「何を言うか。ここに不逞の輩が潜んでいたらどうする?」

「魔法使いの言う通りだ。貴族だからこそ、身を正さねばならん」


 ラドンの意見にアルフォンソも賛同する。


「小僧がもっと気付かれないよう魔法を使えば良いだけだ」


 ラドンの痛烈な皮肉に、俺は何も言えず苦虫を噛み潰した。

次回は6月21日までに更新予定です。

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