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竜たちの讃歌 ~見目麗しき人の姿で生を受けた竜の子は、強気な女の子に囲まれて日夜翻弄されています?!~  作者: たにぐち陽光
第二章 竜は地道に課題をこなそうとして、火竜の気まぐれに翻弄される
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第三十三話 ラドンの奸計

7月14日誤字脱字等修正しました。

 支部を出た俺たちは王宮経由で本部へと向かった。

 必然的に激戦だった貴族街を抜ける道を進むことになったのだが、まだまだ叛乱の爪あとが色濃く残り、特に石礫(いしつぶて)の残骸が今もあちこちに散乱していた。下手をするとラドンがめちゃくちゃに破壊した壁より酷い状況かもしれない。屋敷の方は多くの貴族が叛乱に参加していた為かあまり被害が出ていなかったが、その分道路は行き来するのが困難なほど石の山が積み上がっていた。

 ただ、それでも城壁の外を回って南門から向かうルートよりはるかに早い。

 意外と貴族街は狭く、そのまま市街地に差し掛かるとあっという間に本部前の並木道が見えて来た。


「壁の外を回るより全然早いね」


 俺の感想に皆が頷く。


「ここ絶対公道作るべきだろ。おい、アル。今のうちにこの辺一帯買い取っちゃって、商店街にしちゃえばいいんじゃね?」

「ふむ、フアンにしては良い考えだな。考慮しておこう」

「貴族街に済む者がなんと言うか次第ですね」


 そんなこんなで、俺たちはまだ日が出ているうちに本部に到着することが出来た。きっと壁沿いをぐるりと回っていたら、あと1時間くらいは平気で歩く羽目になっていただろう。


 ただ、その肝心の本部の状況は惨憺たるものであった。

 貴族街も酷かったが本部はさらに輪を掛けて被害が大きい。石礫(いしつぶて)の魔法で重点的に攻撃されたのだろう。壁は鈍器で打ち付けられたかのようにボロボロで中が露出しており、上の階層は床や扉にさえ穴が空いている有様だ。5階建てというのも(あだ)になったのかもしれない。支部があまり被害を受けていないのに比べると本部は半壊と言っても差し支えない状態だった。

 今も本部前のスペースにかなり大人数が集まって瓦礫の除去作業が行われていたが、元通りにするには相当な時間がかかりそうである。


「うわっ、凄い事になってんな……」

「マスターに惨状は聞いてたけど、確かにこれは酷いわね」

「本当にこれで依頼を受けることが出来るのか?」

「――その辺は大丈夫だ。安心してくれ」


 アルフォンソの言葉に、建物前の瓦礫をどかしていたうちの一人が反応してやってくる。この見覚えのある丸坊主の筋肉は、ギルドマスター補佐のダンだ。


「大変そうね」

「うちの建物は目の敵にされたみたいだからな。半壊で済んで何よりってとこだ。……まっ、そのうちなんとかなるだろ。見通しは暗いがな」

「マスターは?」

「自室に(こも)って依頼処理だな。あそこだけ全くの無傷だったんでね」

「さすが精銀(ミスリル)造りね」

「あっはっは。完全にギルマスの道楽かと思ってたが、まさかこんな所で役立つとは当人も思ってなかっただろ。そして晴れてギルマスは仕事三昧ってわけだ。これぞまさしく自業自得。それでも瓦礫除去よりはマシみたいなことを言ってたけどな。……まあ、そんなわけだから依頼を受けることは出来るぜ」


 そう言ってダンは二カッと笑う。それにつられて肩から胸あたりの筋肉がムニムニ動くので見た目はちょっと微妙だ。


「ダンはずっと本部の修繕?」

「建築ギルドの奴らが、もう手一杯でこっちに人を廻せねえなんて言いやがったからな。仕方なく力仕事ってなわけだ。――今こそ筋肉の出番だな」


 そう言ってポーズを取り筋肉を見せ付けると、ダンは笑いながら持ち場に戻っていく。


「はぁ……、こりゃあ大変だな」

「まさか、フアンたちのお守りの方が楽に思える日がやって来るとは思わなかったわ」

「けっ、言ってろ言ってろ」


 ヴィオラは上機嫌に笑っていたのだが、……それはどうかと思うぞ。


「はっはっはっ。わしもちぃーっとばかし壁の破壊はやりすぎたかと思っていたが、ここに比べれば全くもって問題なかったな。むしろ、もっと派出にすべきだったか」


 後ろでとんでもない事をのたまっているバ火竜(カりゅう)のお守りを含めたら、どう考えてもこっちの方が大変だろ。

 もちろん、せっかく浮かれ気分のヴィオラにそんな事を言って機嫌を損ねるなんて愚行はしないけどね。




 ―――



「とりあえず、この“貴族リカルド=レンテリアへの督促”でいいわね?」

「ぶーっ、ぶーっ! こんなの横暴だ!」

「仕方ないでしょ。これが一番期限の差し迫っている依頼なのよ!」



 受付で強制依頼ミッションを確認したヴィオラは一つの依頼を俺たちに提示してきた。



 【内容】:貴族リカルド=レンテリアへの督促

 【依頼人】:アラゴン商会ロメロ酒店

 【詳細】:一月分溜まったツケの回収

 【ランク】:灰2

 【数】:10銀貨

 【報酬】:1青銅

 【期限】:1

 【品質】:―



 正直、報酬がえらく渋い。青銅貨1枚って1食分だ。それで銀貨10枚をせしめて来いというのは確かにみんな敬遠するはずだ。


「こんなもん、誰がやるんだよ。下位貴族のツケの回収なんて自分の店でやれってんだ。しかも、これ叛乱全くカンケーないじゃん!」


 フアンはいきり立つがどこ吹く風、ヴィオラは全く相手にしようともしない。……ってゆーか、これアラゴン商会って書いてあるし、フアンがやらなきゃダメなんじゃないか?

 俺がそれを指摘すると、フアンは初めて気付いたのか脂汗を垂らしながら首を横に振る。


「お、俺はまだアラゴン商会の会長になってないからセーフだ」

「何がセーフだ。完全アウトだろ」


 俺の突っ込みにフアンは口笛を吹いてごまかす。


「ううむ、数枚の銀貨に困窮するほど貴族の暮らしは逼迫(ひっぱく)しているのか……」

「アルフォンソ様。確かに日々の生活に困窮する下級貴族はおりますが、さすがに銀貨10枚で苦しむ貴族は少ないので誤解されないよう――」

「いや、それでも!」


 むこうではアルフォンソが本気で困惑していた。

 貴族は国に従事する者として税金から対価が支払われる。だが上位の貴族ならともかく下位の貴族だとその額も微々たるものであり、何か別の稼ぎが無ければ生計を立てることが困難だそうだ。ただ、その窮状をアルフォンソは知らなかったようで、ヴィオラの説明にいちいち驚きを口にする。


「ちなみに酒屋で一月銀貨10枚ってのは?」

「一般庶民の感覚からすれば破格の酒代ね。余程高い酒を買っているのか、それとも酒に入り浸っているのか――」

「そりゃあもう、お貴族様は何の苦労もなく毎月一定の金が手に入るからな。俺たちが苦労して稼いだ報酬やタグの更新料がそんな奴らの酒代に消えているかと思うと、ほんと貴族なんざいらねえって思うわな」


 いつもの如くフアンの貴族批判が始まったが、普段注意するはずのヴィオラは苦笑しているだけで何も言わなかった。――もしかすると彼女も何か思うところがあるのかもしれない。 


「ともかく、そのリカルドとやらの屋敷に向かおう。僕もいろいろ気になって来た」

「なっ、結局この依頼やんのかよ、アル」

「当たり前だ、フアン。こんな依頼(モノ)簡単ではないか」

「……あーあ、知らねーぞ俺は。どうなっても」


 フアンが匙を投げてお手上げのポーズを取る。


「とりあえず依頼を受けたら飯という話はどこに行った?」

「魔法使い。食事はこの依頼が終わってからだ!」

「それならアルフォンソ様、ご案内いたします」


 やたら乗り気になってしまったアルフォンソにヴィオラが意気揚々と案内係を買って出た。それを見てフアンは溜息を付き、ラドンは憮然としたまま本部から外に出て行ってしまう。


「おい、小僧! 探知魔法と鑑定魔法を忘れるな」


 慌てて付いて行くと途端にラドンがイライラしたように言って来る。食事の約束を反故にされて面白くないんだろうけど、どう考えてもこっちはとばっちりだ。

 ただ言っていることは納得出来たので、俺は探知魔法を展開し、本部前で瓦礫の撤去作業をしている人たちに向けて鑑定魔法を放ち始めた。


「ちょ、ちょっと! カトル君、そんなあからさまに魔法を……」


 俺が淡い光を手に集めて周囲の注目を集めながら魔法を打ち始めると思わなかったのだろう、ヴィオラが驚いて注意してきた。だけど俺が探知魔法と鑑定魔法を使えば当然こうなる。


「レヴィアみたいにこそっと魔法を掛けるなんて出来ないから」

「――っ」


 レヴィアの名前を出した途端、ヴィオラの表情に険しさが増す。……そういえば、レヴィアとヴィオラは犬猿の仲だっけ。名前を出したのはまずかったか。


「いや、魔法を使っていると分かった方が効果的だ。そのままでいいぞ、小僧」

「ん? どういうことだ、魔法使い。もしこの場に密偵がいたとして、相手が警戒すれば隠れるか、最悪逃げてしまうのではないか?」

「フン。その為の探知魔法であるが、案外敵は堂々と詐称魔法(フォルステイメン)を使うやもしれんな」

「――っ?! 詐称魔法(フォルステイメン)って、おたくは何を?!」


 ヴィオラが怪訝な表情を浮かべているのを見て、ようやくラドンは満足そうにほくそ笑む。


「さて――」


 ……?! この感覚は静寂魔法(サイレント)か。

 でもなんで静寂魔法(サイレント)を今使ったんだ? しかもこの粘りつくような感覚は……魔法が俺の身体の表面を這うように展開されているのか。

 まさか、こんな芸当が出来るとは思わなかった。

 何しろ俺が歩くテンポにあわせて魔法の膜が身体に張り付いてくるのだ。レヴィアが前に展開したのはちょうど箱みたいな空間だったが、これは俺とラドンの二人だけを覆っていた。さすが音魔法についてはレヴィアよりも上手とのたまうだけのことはある。これなら誰も気付けないだろう。仮に感知能力に長けた者がいたとしても、今は常に探知魔法を掛けているから、傍目からは俺が発した魔力としか思えないはずだ。

 それだけ万全の態勢を整えてラドンが伝えてきた事は全く予想もしない問いかけだった。


「小僧。おぬし、看破を使えるか?」


長くなったのでいったん投稿します。

次回は6月17日までに更新予定です。

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