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竜たちの讃歌 ~見目麗しき人の姿で生を受けた竜の子は、強気な女の子に囲まれて日夜翻弄されています?!~  作者: たにぐち陽光
第二章 竜は地道に課題をこなそうとして、火竜の気まぐれに翻弄される
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第三十二話 依頼の続きと精銀タグ

7月14日誤字脱字等修正しました。

 王宮を出た俺たちは、ラドンが壊した城壁を横目に見ながら支部を目指して歩いていった。意外と修繕作業が捗っており、赤と金の縞模様の紋章を胸につけた大勢の者たちが所狭しと駆け回っている。


「あれ、うち(アラゴン)の徽章だ」


 フアンが指差して説明してくれた。指された方もフアンに気付いて会釈している。どうやらロベルタの指示ですでに大勢のアラゴン商会の者が駆けつけているようで、さきほど決まったばかりなのに、まるでこうなる事を予見していたかのような迅速な対応だ。

 俺が王宮に向かう時も結構な人数が瓦礫の除去作業を行っていたが、今はその比ではない。数百人規模の集団が手際よく修繕作業に勤しんでいた。


「ふむ。ここに門が出来ると行き来が楽になりそうだ」

「アルは入り浸る気満々だな」


 すかさずフアンが茶々を入れるとアルフォンソは顔を真っ赤にする。


「失敬な。あくまで依頼をこなす為に行くだけだ。貴様のようによからぬ目的を抱いてはいない」

「馬鹿な! アルはあの受付のお姉さん方にロマンを抱かなかったというのか!?」

「……そんなことを考えていたの? お前は本当にバカね」


 そんないたって普通の会話を繰り広げながら、俺たちは支部にたどり着いた。

 建物の中に入ると、夕方近いこともあってかなりの人で賑わっており、昨日まで叛乱で騒然としていたとは思えないほど活気に満ちている。


「ったく、ここの半分でもいいから本部で依頼を受けてくれればね……」


 本部の状況をトム爺さんに聞いているヴィオラが憮然とした表情で愚痴を零す。


「はっはっはっ。それをこの小僧どもが行うのであろう? わしもついておるし安心せい」

「はいはい、ありがとう。言う事だけは頼もしいのよね……」


 その呟きを聞いて思わず噴き出しそうになった。ラドンがついてくると助かることより絶対気苦労が増えるから、ヴィオラの気持ちは凄く理解出来(わか)る。


「アルフォンソ様、私は上で待ってますので、達成報告を済ませましたら3階にお越し下さい」


 そう言ってヴィオラは放っておくとどこへでも行きそうなラドンの首根っこをひっつかまえて階段を上がっていった。


「さっさと済ませようぜ」


 フアンは面倒くさそうに伸びをしながら列の後ろへとアルフォンソを促す。

 結構な人数が並んでいるなと思ったわりにはあっという間に列が(さば)け、自分たちの番がせまって来た。ふと隣を見れば、なぜかアルフォンソがそわそわしている。


「はい、おまたせしました。次の方どうぞ」

「あ、う、うむ」

「お名前と依頼の品があればお願いします」


 受付の女性に呼ばれ、前に出たアルフォンソは緊張の面持ちで袋から萎れたミツバを取り出した。


「僕はアルフォンソ=アストゥリアス。そしてこれが頼まれていた依頼の品だ」

「はい、では鑑定します」


 受け取った女性はすぐに鑑定魔法をミツバにかけ始めた。

 そういえば品質値が問われるんだったっけ。品質が良ければ追加報酬も出るが、最低品質値に満たないと依頼は失敗扱いになってしまうんだ。


「品質値は4ですね。見た目より意外と高品質で驚きました」

「アデリナの収納魔法で保管していたからな」

「収納魔法ですか。それなら納得です。では現在のタグをチームの皆様ともども拝見します」

「俺は青タグなんでパス。カトルは青目指してるんだろ?」

「え? ああ」

「じゃあアルだけだ。ほれ、さっさと灰タグにランクアップしろよな」

「……っ」


 これ見よがしに青タグを見せびらかすフアンだったが、アルフォンソは応じることなくいそいそと自身の茶タグを提示する。

 それを受け取った受付嬢はすぐに手元の魔石にタグをかざした。するとタグがぼんやりと輝き、隣の紙に今回の依頼の成果が書き込まれていく。


「はい、終わりました。タグの返却と達成報酬、ならびに確認用紙です」

「ありがとう……!」

「とっとと行こうぜ」


 フアンはまた一つ欠伸をしつつ、さっさと階段へと向かい始めた。だがアルフォンソは受付のそばを離れず受け取ったものをじっと眺めている。


「なんだかとても感慨深いものがあるな」


 アルフォンソは返却されたタグを触りながら感動していた。そう言えば、俺の時はのっけから強制ミッションだったから、こういう紙みたいなものは無かった。それどころかいきなり新しい灰タグを渡されて、報酬もポンと手渡しで終わっていたっけ。

 その後のじいちゃんの依頼もネーレウスが手続きを終わらせたとか言ってたけど、俺自身はトム爺さんがタグに何か魔法をかけていたのを見ただけだったので、実際どういう作りになっているのか少し気になってきた。


「そんなのどうせアルが灰にランクアップした後、嫌ってほど確認出来るだろ?」


 だが、それをフアンに言うとにべも無く却下されてしまう。


「僕のを見るか? いくらでも見ていいぞ!」


 興奮覚めやらぬアルフォンソが快く見せてくれた。



 【内容】:ミツバの採取

 【ランク】:灰6

 【数】:20

 【報酬】:3青銅貨



 っとと、これは依頼の方か。報酬が3青銅貨(アス)って三人で食事したらすぐなくなるような額だな。依頼を何にするかはアデリナに任せてたから、きっと人数の所だけで判断したんだろう。



 【名前】:アルフォンソ=アストゥリアス

 【ランク】:銅

 【達成】:1

 【合計報酬】:3青銅貨

 【ランクアップまで】:9



 ランクアップまでの功績とかわかるんだ――!

 これめちゃくちゃわかりやすい。俺も次は活用しよう。


「ほんとはこんな依頼、ちゃっちゃと終わらせて次の依頼に取り掛かれるはずだったんだけどな」


 フアンは俺が少し恨めしそうにしているのを(おもんばか)ってかそんな事を(うそぶ)く。


「貴様は初めての感動というものがわからんのか?」

「そんな昔のことは忘れたよ」


 フアンはそう言って明後日の方を向く。

 その仕草だけ見ていると、単純に照れているだけのような気がして少し微笑ましかった。まあ、そりゃあそうか。フアンだって最初はそれなりに感慨深いものがあっただろう。


「ほらっ、もういいだろ? さっさと3階行くぞ。早く行かないとヴィオラにどやされそうだし」

「了解」


 ようやく俺たちは受付近くを離れ、階段を上り始めた。




 ―――



「お・そ・い!」

「ほうれ見ろ、ほうれ見ろ。やっぱり怒られた!」

「何よ、遅くなった挙句にその態度は!」

「なっ?! 待った待った。俺は早く行こうと二人を急かして――」

「問答無用!」

「ぎょえええー!」


 まさか階段の所にヴィオラが仁王立ちで待っているとは思わなかった。だが得意気な顔で俺たちのせいにしようとしたフアンが、かえって防波堤になって彼女の怒りを一身に受けてくれたのはありがたい。


「はっはっはっ、フアンよ。なんという面白(おもしろ)い顔をしているんだ」

「うるひゃい」

「ほらっ、バカやってないで行くわよ! 今日中に本部に行って依頼の一つも受けないと、マスターに後で何を言われるかわからないわ」


 少し怒り気味のヴィオラに案内されて、俺たちは奥にある一室に向かった。その部屋の前には五人の警備兵が座って談笑していたのだが、油断無く警戒している様子から見てかなりの手練れであるらしい。それだけ中に重要なものがあるということなんだろう。


「ご苦労様」


 ヴィオラが話しかけると彼らは立ち上がって敬礼し、そのまま俺たちを中へ通してくれた。


「うおっ!」


 中に入ってすぐ視界に飛び込んできたのは、鎮座された巨大な魔石であった。受付のお姉さんが扱っていたものとは比べ物にならない、もはや石版と言っていいサイズの魔石だ。なぜか常に鈍色で光って魔力を放出しており、なんとも薄気味悪い。


「これは?」

「本部と連動してギルドメンバーの情報管理をしている魔石よ」

「ふむう。かなりの魔力を秘めた魔石だな。会計石の一種、にしては魔力の質が少々異なるか……」

「見ただけでわかるとはさすがだな、魔法使い」

「ふーん? 俺には街灯を照らす魔石と何が違うのかさっぱりだな」

「バカおっしゃい、フアン。そんなものとは比べ物にならないくらい貴重な魔石よ。本当は国賓クラスでないと招いてはならない場所なんですからね」

「はっはっはっ、わしが来るに相応しい場所ということだな」

「おたくは!」

「いやいや、それ言うならさぁ、一応これから王になる奴だろ。そして義理とは言えその弟。それに叛乱を鎮めた魔法使いと、結構な重鎮揃いだと思いますがね」

「くっ……、言ってることは正しいけど、何だか釈然としないわね」


 フアンの言葉にヴィオラが悔しそうに返答する。――本当の事なのにフアンが言うと嘘っぽく聞こえるから不思議だ。まあ、本人も絶対国賓なんて思ってなさそうだけど。


「とにかく貴重なものなわけ! ったく、さっさと準備するから少し黙って待ってなさい」


 ヴィオラは魔石の方に進み出ると後ろ側を確認しながら、繋がっている二つのタグを持ってきた。――銀、いや精銀(ミスリル)だ。


「カトル君とラドンは魔石に触れて」

「こう?」

「ふむ。鉄石(くろがねいし)とは違うか。……なかなかに興味深いシロモノだ」


 特に魔力が自分の周りに発動するということはなかった。もし自分の能力(ステータス)を見られたらやばいなと思っていただけにほっとする。


「二人の印を刻んだので、これでタグとして活用できるわ。この精銀(ミスリル)タグは貴重だから肌身離さず持ち歩いて欲しいわね」

「わかった」


 俺は精銀(ミスリル)タグを受け取るとすぐに首にかける。灰タグもあるので一見すると同じに見えるのはご愛嬌か。


「これで魔法が使い放題というわけだな」

「だからそんなこと言ってないわけ!」

「だがこの小僧に探知魔法と鑑定魔法をかけ続けさせずに、どうやって間者を(あぶ)り出すつもりだ?」

「――! それは……」

「わかったら黙っておくがいい。我らの陣頭指揮を執るなら、冷静に戦局を読み大胆に舵を取れ。されば戦場で有能な将になれるであろう」

「……なんで私が戦場で将にならなきゃいけないのよ!」

「つい昨日まで、ここ戦場だったじゃん」

「うむ。フアン、貴様の言う通りだ。よしっ! ヴィオラがやらないと言うなら僕が指揮しよう。皆の者、続け!」

「……いえ、アルフォンソ様。アデリナ様とロベルタから任された以上、私が責任を持ってやり遂げます」

「そうか? それならば仕方ない。経験ではヴィオラの方が一日の長があるしな」

「……ふう、やれやれだぜ。なんで茶タグのアルに指揮されにゃならんのよ」

「なんだと貴様! 今に見ていろ。あっという間に貴様と同じ青タグになってやるからな!」

「おう、早くなれなれ。アルが青タグになれば、このクソみたいな依頼も終わりだしな」


 ぎゃあぎゃあといがみ合うアルフォンソとフアンの二人にヴィオラは大きく溜息を吐いた。


「ほらっ、もう本部に向かうわよ」

「わしは腹が減ったぞ」

「依頼を受けてから!」


 声を荒げるヴィオラに、傍若無人なラドンさえ目を見張りそれ以上何も言えない。不機嫌そうにどすどす歩いていく彼女の後を皆何も言わず黙って付き従うのだった。

次回は6月15日までに更新予定です。

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