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竜たちの讃歌 ~見目麗しき人の姿で生を受けた竜の子は、強気な女の子に囲まれて日夜翻弄されています?!~  作者: たにぐち陽光
第二章 竜は地道に課題をこなそうとして、火竜の気まぐれに翻弄される
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第二十四話 闇の布石

7月7日誤字脱字等修正しました。

 探知魔法を展開し王宮内を駆け巡っていく。

 だが、引っ掛かるのは十数人程度で、そのほとんどが抵抗する暇もなくラドンの魔法で無力化されていった。

 まだどれだけ敵が残っているかと思いきや、完全に拍子抜けだ。もしかすると叛乱に参加している貴族自体そんなに多くないのかもしれない。


「ふうむ、大したことないな。もう少し歯ごたえがあると思ったが」

「ファウストの奴が牛耳っていたからな。俺様を除けば雑魚ばっかなのも当然だ。もう何人か魔道師ギルドの連中が居たような気もするが、ファウストがやられて逃げ帰ったんだろう、ガッハッハ」


 ラウルの笑い声がこだまする頃にはあらかた王宮内の探索が終わり、探知魔法の反応はあと一つ、中央廊下から続く螺旋階段上の小部屋のみになっていた。

 叛乱の首謀者と目される王子はまだ見つかっておらず、王宮内に残っているとすればそこしかない。


「行くぞ」


 俺は先頭を切って螺旋階段を慎重に上がっていく。

 そしてたどり着いた場所は、ポツンと一つだけろうそくがテーブルに置かれただけの薄暗い部屋だった。

 他には何もない。


 そんな空虚な佇まいの部屋の中央に、その男は座っていた。


 震える身体を支えるように両手で抱きかかえながら、大きく見開いた(まなこ)をこちらに向けてくる。どことなく風貌はアルフォンソに似ていたが、(たたず)まいはまるで真逆の沈鬱とした空気を(まと)っていた。


「マウレガート殿下、いえ、反逆者マウレガート!」


 ヴィオラが威勢よく前に出た。

 マウレガートの目がギョロリと動く。


「フルエーラ王を解放しなさい!」

「フルエーラ……父王か?」

「さあ、どこです。答えなさい!」

「……っく、ふふ……くっくっく」

「何がおかしいの?!」


 ヴィオラはやや苛立って声を荒げる。だがマウレガートは薄気味悪く笑い続けるだけだった。

 ――何かがおかしい。

 俺は落ち着いて周囲を見回した。今は夜ということもあるが、それにしたってこの部屋は暗い。窓もなければ、通路も俺たちが来た階段以外に存在しない。

 何よりやっぱり探知魔法にこの男以外ひっかからないのだ。

 警護する部下も身の回りの世話を行う従者も、誰もいない。

 これではまるで、マウレガートこそが監禁されているかのようではないか――。


「父王は罪の責任を取り、しいし(たてまつ)られた」

「……なっ?!」

「母や弟たちは行方が知れないと聞いた。私は変わらず、この部屋で幽閉され続けるのみだ」

「……っ」


 ヴィオラは衝撃のあまり声も出ず言葉にならない嘆息を漏らす。

 出回っていた檄文にマウレガートの名前がなく勝手に首謀者扱いしていたが、アルフォンソの信じた通りこの王子(マウレガート)は変わらず幽閉されたままだったのだ。

 それなら、一体ここで何が起こっていたというのか。


「ほう、何か話が大きく異なっているようだな。わしはおぬしこそこの混乱の元凶と聞いていたのだが」

「私が元凶? くっくっ……私に何が出来る。私は常にこの部屋に居ただけだ。私に届くのは薄気味悪い魔道師ギルドの連中からの執拗な催促と脅迫と扇動だけ」

「ではおぬしを捕らえても、何も終わらないということか」

「終わる……? 何が終わると言うのだ。何も始まってさえいないのに」


 話が通じない。

 マウレガートの言葉には、耳障りで異質な感情が見え隠れしている。いくら何でも王宮内に居て、町の混乱を知らないはずがない。にも関わらず何も始まっていないと言うなら、これからいったい()()()()()と言うのか。


「ファウストは俺様が切り捨てたぞ」


 だが、しれっとラウルが言い放った言葉にマウレガートの表情が一変する。一瞬何を言われたのかわからず怪訝そうな顔を見せていたマウレガートは、次第に驚きを大きくしていった。


「そんな、バカな!? あの神出鬼没の悪魔をどうやって?!」

「がっはっは、俺様に不可能はない。首を()ねてやったわ」

「そんな……」


 初めて動揺を表に出したマウレガートは、俺たちの顔を次々と見やった後、頭を抱えてその場にうずくまった。


「お、おお、おおお……、なんということだ! せっかく……、せっかく魔道師ギルドから逃れる為に私は幽閉を受け入れ、父王の死を受け入れ、ここまで耐え忍んできたというものを……貴様は、貴様は全てを無為にしたというのか!!」


 床を拳で叩きつけ、突如として半狂乱に叫び声を上げるマウレガートに皆、絶句してしまう。


「お前たちは魔道師ギルドがどれだけ恐ろしいのか知らんのだ。奴らは急に現れ、全てを見透かし、逃げ道を一つずつ塞いでいく。父王はカルミネの魔女に助力を頼んだが状況は変わらなかった。それどころか、ファウストのような恐ろしい魔法の使い手を送り込んできたのだ――!」


 その時、階段の方からガタッという大きな音が響いた。


「……マウレガート、兄さん」

「アルフォンソ……!?」


 振り返るとそこには階段を駆け上がって紅潮したアルフォンソが呆然と立ち尽くしていた。マウレガートも弟の声に反応し、兄弟はおよそ数日前までは考えもしなかった形で再会を果たすことになる。

 だがお互い言葉が続かず、黙って視線を交わすだけの重苦しい雰囲気が部屋に漂っていった。

 その間にも階下から歓声が聞こえ、にわかに喧騒が増してゆく。


「皆様、ご無事ですか? 反乱はおおよそ鎮静化しました。後はここだけ――」


 アルフォンソとマウレガートが対面する中、アデリナの声が下から響いてきた。だが、二人の様子を目の当たりにすると、一呼吸置いてその間へ静かに歩み寄っていく。


「若、話は後に致しましょう。今はこの混乱をお治め下さい」


 その言葉にもアルフォンソは動じず視線を逸らさない。だがアデリナはさらに重ねて王子を諭した。


「若っ!」

「……っ、わかった。マウレガート兄さんを王の間へ。監視は――」

「わしがやっておこうかの」

「トム爺さん!」

「おお、すーぱーるーきー、また活躍か。フォッフォッフォ」


 トム爺さんは自慢の白髭が若干煤けていたものの、疲れの色も見せず飄々としていた。ここ数日ずっと貴族街の前線で指揮していたはずなのに元気な爺さんである。


「活躍したのはわしであるぞ」


 トム爺さんの発言に納得がいかなかったのはラドンであった。もはや王子たちをそっちのけで爺さんに食って掛かる。


「なんじゃ? このヒョロ長の陰気な男は」

「貴様こそやせ衰えた白ジジイではないか。この偉大なる魔法使いたるわしを何と心得る」

「おぬしの顔は見たことないのう」

「マスター。数日前にお伝えした例の胡散臭げな男です」

「誰が胡散臭げだ、(ヴィオラ)

「おお、おぬしがヴィオラの案内役を買って出たという男か」

「それだけではないぞ。わしが壁を破壊し、反射魔法(リフレクション)で石礫を防ぎ、共鳴魔法(レゾナンス)で魔石まみれの男を気絶させたのだ」

「フン、ファウストを切ったのは俺様だがな」

「あ、やっぱり反射魔法(リフレクション)を使ったのもあなただったんですね! お陰で助かりました。ファウストの命令で魔力を魔石に費やさせられて大変――あいた」

「こら、俺様の従者(モノ)が勝手に誰かと喋るんじゃない」

「ううう、ごめんなさい、ラウル様。でもお礼は重要じゃないですか」

「フン」


 トム爺さんが現れたのを皮切りにそれまでの張り詰めた空気が一気に和らぎ、皆の表情が穏やかなものに変わっていった。

 そんな雰囲気に感化されたのか、アルフォンソもまた大きく息を吐くと、先ほどまでの強張った表情がなくなり覇気が戻ってくる。そしてアデリナの催促に力強く頷くと、マウレガートを一瞥だけして今度こそ前を向いた。


「この混乱を収拾するぞ」

「はい、参りましょう、若!」


 階段を駆け下りるアルフォンソにアデリナが付き従っていく。その後ろでのっそりとマウレガートが立ち上がり、トム爺さんに促されてゆっくりと歩き始めた。


 いろいろ気になる所はあるけど、これでようやく一段落って感じか。

 気付けばもう0時を超えている。さすがに眠い。これ以上起きていると明日に差しさわりが出てくる時間だ。

 一度ロベルタの居る場所まで戻りましょう、というヴィオラの言葉に従い、残りの一行はこの主を失った寂寞たる一室を出てアラゴン商会の屋敷へと向かうことになった。


「どうだ? わしが動けばあっという間に方がついたであろう、はっはっは」


 わざわざ俺のそばまで来て高笑いしてくるラドンに少しだけイラッとした。



 ―――



 次の日の寝覚めは最悪だった。


 あの後フアンたちとも合流し、ロベルタの招きに応じてアラゴン商会の一室で一晩を明かすことになったのだが、男部屋と女部屋に分かれて寝ることとなり、何の因果かラドンにフアン、ラウルというおよそ関わりたくない筆頭三人衆と相部屋になってしまった。

 それでも、かなり眠かった俺は興奮気味に祝杯だと騒ぐ三人を無視し、洗浄魔法と乾燥魔法もそこそこにすぐに布団に入り眠りにつく。


 そう、そこまでは良かったんだ。

 だが悪夢は唐突に訪れる。


 俺は寝入ってしまうと滅多な事では起きないのだが、その俺が驚いて飛び起きるほどの爆音が突如部屋中に轟いたのだ。

 そら何事かと思えば、隣で寝ているラドンのがなり立てるようないびきであった。まるで音魔法でも使っているんじゃないかと勘繰りたくなる轟音に、俺は両耳を塞ぎながらガックリと肩を落とす。

 いくら俺が寝ぼすけでも、こんなのが耳元で鳴り響けばさすがに飛び起きる。


 酒を飲んで爆睡しているラドンは叩こうが抓ろうが何の反応もなく、途方に暮れた俺はラドンに酒を与えてはならないという教訓を胸にさてこの後どうしようかと部屋を見渡して、フアンとラウルの二人が部屋から居なくなっていることに気が付いた。

 こんな凄まじいいびきの中じゃ寝れるわけないので、どこか別の場所に行ったのだろうか。だったら俺も安眠出来る場所に行きたい。そう思ってふらつく頭に喝を入れながら部屋の扉を開くと、そこにはボロボロの姿で正座させられヴィオラに説教されている二人の姿があった。

 ラドンのいびきが(うるさ)過ぎて聞こえなかったが、こちらもこちらで大変そうである。

 どうやら女を求めて旅立ったものの、安易な出会いに走ったようで、アラゴン商会の従業員に手を出そうとした途中ヴィオラたちに見つかりボコボコにされたらしい。

 この後ヴィオラは男部屋の中にまで入り、しばらくの間ラドンのいびきをかき消すほどのキンキンした声で二人に説教を続けた。

 このヴィオラの叱る声がまたくせ者で、俺は全く関係ないのに、聞いていると何とも言えない焦燥感を炊き付けられてしまい、説教が終わった後もなぜか頭の中をぐるぐる回って離れなかった。

 幼い頃に悪戯をして怒られた記憶がよみがえったのかもしれない。

 ニースの睡眠魔法(スリープ)で皆が眠った後も俺だけなかなか寝付けず、結局落ち着いて眠りに付けたのはもう空が白じむ頃だった。


「ふあぁーあ。眠ぃなあ」

「お前のせいでしょう、フアン!」

「わ、わかった。わかったからヴィオラ、朝っぱらから頭に響くんだって」

「がっはっは、だらしないぞフアン。俺様は一晩くらい寝なくとも全然平気だぞ」

「ラウル様が元気なのは昨日昼過ぎまで寝ていたから――アイタ」

「お前は黙っとれ」

「朝食を終えたらすぐ王宮に行って状況を確認しなきゃならないのよ?! この忙しいのにこれ以上手間を掛けさせないで頂戴!」

「はっはっは。王子には契約を果たしてもらわんといかんからな」

「がっはっは、俺様も恩賞をがっぽり貰わんといかん」

「ラウルが貰えるなら俺だってアルに何か貰わないと割に合わないじゃん」

「だぁあああ! おたくらは! 恩賞の話の前にやることがあるでしょう!」

「朝から元気だな、ヴィオラ。そこの夢うつつの小僧に少しわけてやったらどうだ」


 騒がしい面々に囲まれて、俺はふら付きながら何とか起き上がったものの、この後すぐ王宮なんてとてもじゃないけど行ける気がしない。


「ラドン……、熟睡魔法(サウンドスリープ)を頼む……」

「なんだ、小僧。あの睡眠時間では足らんのか」

「あんたのイビキがうるさすぎて……」

「失敬な奴だ。わしはイビキなど掻かん……むっ、何だ貴様らその目は」

「いや、おっさんめちゃくちゃうるさかったって。それこそヴィオラの説教くらい」

「なんですって?!」

「うむうむ。俺様もニースに魔法を掛けさせてようやく寝れたからな」

「あんな真夜中に睡眠魔法(スリープ)の為だけに起こされるなんて酷いです、ラウル様。おかげでもう眠くて眠くて……」

「ダメよ、寝ては。これから王宮に行かなければならないのだから」

「そこの女はともかく、小僧はダメだな。覚醒魔法(アウェイクニング)もたいして効かんようだ」


 ラドンは俺とフアン、そしてニースに魔法をかけた。だが他の皆はすっきりした様子なのに、俺は全然眠気が取れないどころか余計に頭の中にもやがかかった感じになってしまう。


「しょうがないわね。カトル君だけ残して他の皆で向かいましょう」

「金輪際、ラドンと同じ部屋では寝ないぞ……」

「はっはっは。わしの方から願い下げだ。では魔法をかけるとするか」

「いや、布団に行ってから掛け――」


 俺の言葉も虚しく、かのバ火竜(カりゅう)熟睡魔法(サウンドスリープ)で世界が暗転する。

 ああ、それにしても熟睡魔法(サウンドスリープ)だけはダメだな。

 他の魔法は掛けてもらえば割とどんな感じかわかるけど、すぐ眠っちゃうからよくわからないままだ。

 最後に俺はそんなことを考えて深い眠りに落ちていった。

次回は5月14日までに更新予定です。

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