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竜たちの讃歌 ~見目麗しき人の姿で生を受けた竜の子は、強気な女の子に囲まれて日夜翻弄されています?!~  作者: たにぐち陽光
第二章 竜は地道に課題をこなそうとして、火竜の気まぐれに翻弄される
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第十五話 予期せぬ訪問者

6月19日誤字脱字等修正しました。

「それで、確認してなかったけど、カトルの言うアテってのはやっぱり――」

「ん? そうだよ。皆で行った髑髏岩(どくろいわ)の洞窟だ」

「ゲッ、やっぱりあそこか。確かにあんなとこ誰も行かないだろうが、俺だって嫌だぜ」


 フアンは露骨に嫌そうな顔をする。まあ、あれだけ大変な思いをしたのだから無理ないけど、あそこはじいちゃんが調査して問題ないとわかっている場所なんだ。

 ただそれを包み隠さず話すわけにもいかない。


「何だよ、じゃあどこか他にアテがあるのか?」

「いや、パッとは思いつかないんだけどさ」

「お前な」


 駄々をこねていただけかよ!

 そういえばこいつはこういう奴だった。


「そこはそれほどに誰からも見つかりにくい場所なのですか?」


 見かねたアデリナが若干不安そうに問いかけてくる。


「あそこなら大丈夫」

「絶対に見つかるもんか」

「それなら安心ですね」


 くしくも俺とフアンの言葉が重なり、彼女はホッとしたようだった。ただフアンは不満そうだ。


「でもなあ。贅沢言わんから、もう少し快適に過ごせて、それから綺麗なお姉さんが一人二人いるような心にゆとりが持てる場所で過ごしたいなと、そんなささやかな願望を持っているわけですよ」

「それ、全然ささやかじゃないからな」


 とりあえずこいつのことは放っておこう。


「いや、貴様の心意気は買おう」

「お、わかってくれるかアル! 持つべきものは親友だな」


 ……なんか一人増えた。

 がっしと肩を組み分かち合う二人に、アデリナが頭を抱えている。


「とりあえず進みましょう。カトル殿、その髑髏岩(どくろいわ)の洞窟はあとどのくらいで着く見込みですか?」

「俺が夜番しないでいいなら、明後日(あさって)までには」

「カトルは夜寝ないと次の日夢遊病患者になるからな」

「……うぐっ」


 何も言い返せない!

 ……くっそー。そのうち熟睡魔法(サウンドスリープ)をマスターして汚名返上してやるからな。


「夜番は私とテオで行いますからご安心下さい」

「僕は何をしたらいい」

「若はしっかり休んで下さい。若さえ無事なら何とでもなります」

「そうか。休むのも重要な仕事なのだな」

「ほれほれ、わかったか、アル。お前は逃げることだけ考えてればいいんだって」

「貴様が言うと非常に不愉快だな」


 そんなこんなで、一行は俺を先頭にして先を急いだ。

 変わったことと言えば、俺がテオの長槍を持ってあげたことぐらいか。それにより格段に進む速さが上がった。かなりアルフォンソはきつそうだったが、休憩を促しても意地でも休もうとせず、かえって歩みを早くしてくる。

 気がつけば行程の四分の一はとうに過ぎており、森深く月明かりだけが木々の間から地面を照らす宵闇の世界が広がり始めた。

 

「そろそろ夜ごはんにしましょう」

「もうダメぇー。一歩も動けないや」

「フン、情けない。だが、腹が減っては戦が出来ないと言うしな。休憩にするか」


 アデリナがそう切り出したのをきっかけに、テオが倒れこみ、アルフォンソが強がりを言いながら近くの木に寄りかかる。


「念のため、近くを見てくるよ」


 俺はそう言ってフアンにこの場を任せ出来る限り野営地から距離を取るべく来た道を戻り始めた。

 午前中に受けた気持ちの悪い感覚はロベルタの店での一件以来全くなかったが、油断したところを突如襲ってくるかもしれない。それに俺は感知魔法(ディテクト・マジック)の存在がどうしても気になっていた。探知魔法を使っていての探索は移動中は良いかもしれないけど、夜営地を決めた後は都合が悪い。まあ、そう簡単に使える魔法ではないが、万全を期すに越したことはない。


 ある程度野営地から離れると俺は全力で走り始めた。こうやって距離を稼いでおけば万が一場所を知られても俺一人ならなんとかなるだろう。それに目的地の目くらましにもなる。今日来た道を半分以上戻るというのは地味に疲れる作業だったが、夜営をしなくても良いならこれくらい積極的に請け負うべきだ。


「これくらい離れればいいか」


 俺は少し開けた場所を探すとゆっくり瞑想をして探知魔法を展開し始めた。

 普段は移動しながら使う探知魔法も、こうやってしっかり瞑想し魔力を高めてから使うと格段に精度も範囲も上昇する。ただ、身体から力が抜ける感覚は結構あるので、この前の一件で倍増した魔力を惜しげもなく使うことで成り立っているのが実情だ。


 そういやマリーが「瞑想に効果があるなんて初めて知った」と言ってたっけ。

 レヴィアによれば俺くらい魔力が大量にあって初めて魔法効果の上昇を実感出来るそうだから、いかに魔力を無駄遣いしているかってことになる。普通は魔法の質をそのままに、出来るだけ魔力を疲弊しない為に瞑想するらしい。


 ただ、こうして調べるとある程度状況が見えてきた。

 少なくとも現時点では森の奥深くまで探索の手が伸びていないということだ。

 ロベルタの店に居た時点では森での夜営の準備が整っていなかったとしても、急げばこの近辺に足を伸ばすことくらい出来たはずである。だが今俺が探る限り、傭兵パーティらしき影は全く感じ取れなかった。探知魔法から逃れる術はいくつかあるけど、それをするのは探される側であって探す側ではない。

 そう考えればギルドの傭兵がこぞって俺たちを捕まえに来たというのが嘘だったのだろうか?


「いや、あの状況で姉ちゃんが嘘を吐くなんてありえねえって」


 野営地に戻ってフアンに尋ねると、呆れたような冷笑が返ってきた。


「おおかたギルドの依頼が取り消されたんじゃねーの?」

「そうですね。その可能性が高いでしょう。たとえどんな事態だとしても、あのギルドマスターが若を捕らえるなどという無礼極まりない依頼を認めたままにするとは思えません」

「勝手に誰かが認可しちゃったんだろ? 良く考えりゃ、ギルマス居なかったからアルのしょうもない思いつきのお守りをさせられる羽目になったわけだし」

「フアン、貴様! しょうもない思いつきとはなんだ!」

「そうだよー。傭兵として依頼をこなすなんて若にしては人様の役に立つ立派な思いつきだったんだから!」

「テーオー!」

「うわああああ。ごめんなさい、ごめんなさい。許して、若ぁ」


 アルフォンソに捕まったテオが頭を両手でグリグリされていた。

 しかし、言われてみればトム爺さんは朝から涙目でマリーに貸していた屋敷の修繕指揮にあたっていたんだよな。なんだか途中でとんずらしたってイェルドが言ってた気もするけど。どちらにせよ、ギルドは緊急事態だったわけだ。


「それなら戻っても平気?」

「いえ、予断は許しません。このまま当初の予定通り進むべきでしょう。それにカトル殿、あなたを疑うべきではありませんが、相手の罠ということも考えられます。いずれにせよ、複数の傭兵らしき者たちによって囲まれた事実を重要視すべきです」

「でも、それならますます情報収集が重要になるね」


 俺の言葉にアデリナは頷く。


「ですが、情報収集に重きを置きすぎて若の警護をおろそかにするわけには参りません。やはりその安全という髑髏岩(どくろいわ)の洞窟を目指し、それから行動するべきでしょう。と言っても出来ることは限られそうですが……」


 彼女の表情に不安の色が宿る。だが、それを吹き飛ばしたのはフアンの一言であった。


「だーいじょうぶだって。あの姉ちゃんが店の中をめちゃくちゃにされたまま指をくわえて見てるはずないじゃん。逆にそんなだったらどれだけ俺はこれまで安らかに過ごせたんだか……」

「フアン、貴様! またロベルタ殿の悪口を言っているな! そこに直れ。成敗してくれる!」


 懲りもせずまたフアンとアルフォンソの鬼ごっこが始まった。こいつらは肩を組んで親友と呼び合ったかと思えば、真剣で切りあいをやったりと、仲が良いのか悪いのか本当によくわからない。真面目に付き合っているとこっちが疲れそうだ。

 そろそろ夜ごはんも食べた事だし寝る準備を、と考えたところで思い出した。


「あっ、そう言えば出来損ないだけど、洗浄魔法と乾燥魔法は必要?」

「えっ……?!」


 その時、アデリナの瞳が妖しく輝いた。



 ―――



 きっちり三日後、俺たちは髑髏岩(どくろいわ)の洞窟にたどり着いた。


「確かにこの場所なら見つかる可能性は低いでしょうね」


 アデリナが周囲を見渡しながら満足そうに答える。


「奥にも通路が延びてるから、万が一大勢の追っ手が来たとしても逃げ込んでしまえば、多勢に無勢で負けるってことはないと思うよ」

「カトル殿がそう仰るなら、全く心配ありませんね」


 そう言ってアデリナは笑顔を向けてくる。


「一休みしてから今後の方針を話したいのですが、その前に……」

「あ、ああ。了解」

「宜しくお願いします」


 そう言って顔がほころぶアデリナを見て、俺は大きな溜息を吐いた。

 この三日で何回目の洗浄魔法だろう。

 とにかく、俺が洗浄魔法と乾燥魔法の両方が使えると知ったアデリナの変わり様と言ったら凄かった。最初は恥ずかしそうに顔を赤らめながらだったのが、だんだん遠慮が無くなり、もはや事あるごとに魔法をねだって来るようになっていた。


「アデリナはほんとお風呂好きだからねー」


 テオが笑いながら話しかけてくる。そう言えば、アデリナの豹変以来、テオたちとの距離がグッと縮まった気がする。やっぱり人間誰しも身体を清めることが出来れば穏やかになるってことかな。


「俺もカトルのように洗浄魔法と乾燥魔法を覚えれば、あんな風にアデリナさんに笑いかけてもらえるのか。これは真剣に検討する価値がある……!」

「おい、フアン。ロベルタ殿はどうなんだ。お風呂は、その、好まれるのか?」

「姉ちゃんの話は今どうだっていいだろ」

「良くない! 答えるんだ」

「ったく、姉ちゃんに限らず女性なら綺麗になりたいんじゃないか?」

「おお、やはりそうか。……だが洗浄魔法と乾燥魔法は簡単に覚えられるものなのか?」

「……っ! いや相当の困難を極めるはずだ。あのマリーさんでさえ死に物狂いで練習してやっと乾燥魔法が出来るようになったとボヤいていたくらいだからな。――だが、全ては出来るか出来ないかではない。やるか、やらないかだ! カトルに出来て俺に出来ないことがあるもんか。いや、人は全て崇高な目的の為なら神にすらなれると俺は信じているっ……!」

「うむ! 見事だ、フアン! それでこそ我が盟友にふさわしい」


 また再び両雄はがっちりと肩を取り合って感涙に(むせ)び泣いていた。

 ……それにしても、よくこんなことで意気投合出来るな。言っていることは凄そうだが、内容考えれば全然崇高な目的じゃない。まあ、目標に邁進すること自体は良いと思うけど。


 とりあえず全員に洗浄魔法と乾燥魔法をかけ終えると、皆疲れがどっと出たのか仮眠を取る事になった。ちょうどいい機会なので夜番をしていない俺が見張りを買って出て、レヴィアからの課題をこなしていく。

 てか、これだけ洗浄魔法と乾燥魔法を使いまくっているんだから複合魔法の練習はいらないだろう。残りの四元素と鑑定魔法の練習に集中すればいい。あとは剣術の練習だが、これはフアンかアルフォンソが暇そうな時にでも付き合ってもらうとして、問題は音魔法か。熟睡魔法(サウンドスリープ)の習得には必須だからやらなきゃダメなんだけど、何をどうすればいいのか皆目見当さえつかない。

 何かきっかけがあれば良いんだけどね。


 結局、そんな感じで洞窟に居たままあっという間に時間は過ぎ去っていく。

 やっぱり積極的に行動するのは危険、というアデリナの意見と、姉ちゃんのことだから待っていれば絶対に向こうから誰かしら来る、と言い切ったフアンの根拠のない自信に皆が同調したからだが、その言葉は確かに先見の明に優れていた。というか、姉の怖さを骨の髄まで味わっているフアンならではの正しい選択だったと言えよう。


 ちょうど町を出てから五日目の昼、洞窟の外で食後の運動に俺とアルフォンソが剣術の稽古をしている時だった。初めて俺の探知魔法に二つの人影が引っ掛かったのである。

 こんな火山の(ふもと)だと獣が来るのも稀だったので勘違いではない。しかも、探知魔法をもの凄い魔力で()()()()()()

 かなりびっくりしたけど、なぜか俺にとっては心地よい魔力だったので、咄嗟にそれを自分のものにする。これが相反する魔力なら結構なダメージを負っていたかもしれない。


「誰か来る」


 すぐ皆に伝えると、アルフォンソは洞窟の中に入り、入り口をアデリナとテオが固めた。探知魔法が跳ね返されたってことは、相手に俺の存在がバレているのは確実だ。それなら俺の方から向かった方がいいだろう。


「……あ」


 意外と近づくスピードが速かったようで、大して歩かないうちにこちらに向かってやって来る人影が見えた。

 フアンの言うロベルタからのつなぎ役で間違いない。何しろ俺もよーく見知った顔ぶれだ。


「ふう、やっぱりあの女の所にいた少年で間違いないわね」

「ヴィオラ! ……さん」

「とって付けた()()()()ならいらないわよ、カトル君」


 誰あろう、レヴィアの天敵にして彼女もまた眼鏡の良く似合うギルド秘書、ヴィオラその人であった。そういやロベルタと仲が良かったんだっけ。それなら彼女の信頼するヴィオラがここに来るのは必然だ。

 しかし、俺はその隣にいたもう一人の顔を見てさすがに驚きを隠せなかった。思わず口を開けて二度見してしまう。きっとその表情がつぼに入ったのであろう。その男は下卑た声で笑い始めた。


「はっはっは。なんと面白い顔でわしを見ておるのだ、小僧。愉しくなってしまうではないか」

「ラドン! 何であんたがここに?」


 ヴィオラの隣に居たのは、じいちゃんに孤島へ強制送還されたはずの火竜ラドンだったのである。

次回は4月12日までに更新予定です

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