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竜たちの讃歌 ~見目麗しき人の姿で生を受けた竜の子は、強気な女の子に囲まれて日夜翻弄されています?!~  作者: たにぐち陽光
第二章 竜は地道に課題をこなそうとして、火竜の気まぐれに翻弄される
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第十二話 波瀾の序曲

6月17日誤字脱字等修正しました。

「ものども、行くぞ! 僕に続け!」


 アルフォンソが高らかに号令を発するとお付の二人が続いていく。それを笑顔で手を振り見送るイェルドがなんとも小憎らしい。


「任せたぞ、フアン、カトル!」

「これ貸しだからな! イェルド」

「はっはっは。また会えた時にでも返すぜ。じゃあな」


 なんとも憎めない奴だったが、最後がこれはあまりに酷い。カルミネに行ったら絶対倍にして返してもらおう。

 それにしてもだ。この容姿端麗な王子に従うのは二人だけ――そんなにトウは立っていないものの横長の眼鏡を掛けているためか気が強そうに見えるメイドと、自分の身長の倍くらいある槍を持ってふらふらしている少年だけだった。護衛というには甚だ心許ない。二人ともどちらかと言えば身の回りの世話係だろう。

 そこから察するにイェルドは俺たちに王子の護衛という役目を完全に丸投げしたってことになる。


「おい、フアン。これって俺たちがギルドの代わりに護衛するって事か?」

「護衛って、そんな大げさな。一応アルの奴もそれなりに剣は使えるぞ。街中でちょっかい出すような馬鹿はいないって。大体、アルが狙われてるなんて聞いた事……まあ、数回しかないぞ」

「あるのかよ!」

「その辺のゴタゴタは俺の範疇じゃないからなあ。アル本人に聞いてみるか?」


 フアンは意外と冷静だ。俺はどうしても王族と聞いてしまうと、じいちゃんの授業で習った人族の歴史のイメージが先行してあまり良い感情をもてない。だが、この町に来て今まで王の話なんか聞いたことも無かったので、町の人は皆、不満を感じていないんだろう。


「そりゃ王様はギルドにしか直接関わってないからな。姉ちゃんのような貴族でさえ、あんま関わらないし」

「ふーん」

「まあ、裏ではドロドロかもしれんけど。いろんなギルドのギルマスたちが集ってあーだこーだやってるから利権に群がるハエどもの争いとかあっても不思議じゃあない。――アルは三男だから関係なさそーだけど」

「おい、そこっ! 何をひそひそ話してる」


 後ろで若干距離を取りながら話していたのが気に障ったのか、アルフォンソは目を吊り上げて文句を言ってきた。


「いやー、すまん、すまん。こいつがいろいろ聞いてくるもんだからさ。アルがどれだけ凄いか聞かせてやっていたんだ」

「嘘を付け! ……三男で悪かったな」

「聞こえてんじゃん! まあ聞こるようにしゃべってたけど」


 そのままアルフォンソは、ずかずかと俺とフアンの間に割り込んでくる。


「話すなら僕を介して話せ。特別になんでも教えてやるぞ。ありがたく思え」

「若ぁ。そんなに肩肘張らなくてもフアン殿なら大丈夫って言ってたでしょー?」


 腕組みしながら偉そうに話すアルフォンソの後ろから、暢気な少年の声が聞こえてきた。途端に真っ赤になって慌てる王子の表情がコロコロ変わって面白い。


「ば、ばかもの! アデリナ、テオを黙らせろ」

「仰せのままに。ほら、いらっしゃいテオ」

「ひぇえー。おゆるしをー若ぁ」


 メイド(アデリナ)少年(テオ)の耳を引っ張って連れて行こうとするのだが、その途中で首だけぐるんと回してこちらを見てきた。俺もちょっと驚いたけど、隣であからさまにアルフォンソがびくっとなっている。


「若。いらぬお世話かもしれませんが、()()()()若の友人と言える方に、そう上から目線で会話をしてはなりませんよ」

「ぐぬぬぬ……。わ、わかっている!」


 メイド(アデリナ)はそれだけ言うと、少年(テオ)を連れて下がっていった。アルフォンソは俺とフアンの間でうなっていたが、やがて意を決したように口を開く。


「その、あれだ。……すまなかったな」

「ふんぞり返って言うセリフか?」

「はっはっは。アル、お前らしいな。俺は別に気にしてないぞ。カトルはどうだ? こいつ面白い奴だろ」

「面白いというか、いい奴だってのはわかった」

「ふっ、カトルか。貴様はなかなか見所がありそうだな」

「そりゃどうも。えーと、アルフォンソさん――」

「呼び捨てでいい。特別に許そう」

「んじゃあ、そうする。アルフォンソ、宜しく」

「ああ、宜しく頼む。貴様の事は支部に詳しいとリュングバルに聞いているぞ」

「……はっ?!」


 俺まだリスドに来て1ヶ月も経ってないんだけど、イェルドの奴、何適当なこと言ってるんだ?!


「ってか、アルは何しに来たんだ? いつもみたいに暇つぶしか?」

「失礼な! 僕がいつ暇つぶしに来たというんだ」

「だってさあ、前来た時もいろんな店で料理を食べるとか、漁船で魚を釣るとか、どう考えても思いつきで行動してんじゃん。帝王学とか学ばなくていいのか?」

「街を歩いて下々の暮らしを知るのも立派な帝王学の一つではないか」

「で、今回は?」

「こ、今回はフアン、貴様と同じだ。僕も傭兵ギルドの一員となり、その首からぶら下げている青銅のタグをもらうつもりだ」


 それを聞いて、俺とフアンは思わず顔を見合わせて苦笑いする。

 ……なるほど。アルフォンソがギルドから出てきたのは依頼をしに来たわけじゃなかったんだ。しかし、本人がまさか傭兵になりたいとは。


「本当はドゥンケルスに頼みに来たのだが、あいにく急な仕事で出払っていた。そこに、カルミネのギルドマスターになるリュングバルが居たのでな。僕に相応しいパーティメンバーを選ぶと言っていたが、それがお前たちだったというわけだ」


 どうやらイェルドは最初からこの厄介ごとを押し付ける気満々だったらしい。護衛の依頼ならもっと上のランクの傭兵が駆り出されたのだろうが、パーティの一員となるとメンバー的には灰タグの俺がちょうど良いわけだ。


「支部に行ったら早速依頼を受けるぞ。僕はまだ銅タグだが、十の依頼をこなせば(すず)のタグになるのだろう? この僕が底辺でモタモタしている場合ではないからな」

「そんなことしなくても、アルなら王族特権で金タグもらえるだろ」

「それでは意味がない! 僕は実力で青銅タグを勝ち取るんだ」

「ったく、今度は何に触発されたんだか。困ったもんだ」


 フアンが呆れるというのも珍しい。いつもは呆れられている方なのに。

 まあ、俺としてはフアンのアホな(こだわ)りに付き合ってるより依頼数をこなしたいので、そのまま何も言わずに付いていくことにする。


「受けるとしても女の依頼だからな。野郎(やろー)のは絶対受けねーぞ」

「誰からの依頼でも構わないのだが、まあ、貴様がそう言うなら僕もやぶさかではない」

「なんだなんだ、素直じゃねえな。お前だって綺麗な女性にお礼を言われた方がいいんだろ? このムッツリが」

「なっ、ぼ、僕はムッツリじゃないぞ。僕だって綺麗な女性にお礼を言われるのは嬉しいさ。そうだ。そんな出会いから芽生える恋というのに非常に憧れる。僕の周りにはびこる女性は皆しがらみだらけだからな」

「けっ、これだから坊ちゃんはよ。俺の周りにいるのなんて、女と呼べるかわかんない怖い(こええ)のばっかだぞ」


 あーあ、完全にフアンのペースに巻き込まれてるな。こいつの言う事は話半分で聞いておかないとダメなのに、ものの見事にかき乱されている。

 そう思っていたら、ゆらりと歩いてくる影があった。――アデリナだ。


「若。そのようなお言葉、フルエーラ王のお耳に届いたらどれだけ悲しまれることか。それに――」


 そしてフアンとアルフォンソが打ち震える。


「はっきり言って二人とも、気持ち悪いですね」

「……はい、すいません」


 二人揃ってアデリナに謝っていた。

 ――何だろう、この既視感(デジャヴュ)は。


「うう、ぶるぶる。やっぱり姉ちゃんみたいにおっそろしいんだよな……」

「ふざけるな貴様! 姉君(ロベルタさん)は見目麗しい河原撫子のような素敵な方ではないか。それに比べ、うちのメイド(アデリナ)と来たら――」

「……なにか?」

「イエ、ナンデモアリマセン」


 とりあえず、なぜいつものようにフアンが突撃しないのかわかった。この二人の事はアデリナ嬢に任せてるのが良さそうだ。


「あっはは、バッカだなあ、若。聞こえるところで悪口言ったら、こわーいアデリナに怒られるの当然じゃん」

「「テオ!!」」

「ひぃいー」


 とにかく道中賑やかになるのは間違いなさそうだった。



 ―――



「何だ、こんな簡単に見つかるのか」


 そう言ってアルフォンソは俺が鑑定魔法で調べたミツバの葉を無造作に抜き取る。


「こらこら、もっと次の事を考えて抜かんかい! 今は大量にあっても、搾取していたらあっという間になくなるぞ」

「ああ、すまない。フアン、貴様にしてはまともな助言だ。礼を言う」

「お前な」


 俺たちは早速依頼を受けて森の中へと歩みを進めた。

 驚いたのは世話係と思っていたアデリナとテオも後ろから静々と付いてきたことだ。テオは長めの槍を持っていたからまだしも、まさかアデリナがメイド服のままでクロスボウを使いこなすとは思わなかった。しかもかなりの腕前だ。メイド服のどこにしまっているのか次々に矢を放ち獣を追い払っていく。ちゃんと一体だけはアルフォンソの為に残し、その戦いぶりを高みの見物するあたり、ただの世話係ではない。


「俺の出番はないな。がんばれー、アル。やられたらアデリナにどやされるぞ」

「貴様も少しは手伝わんかい!」


 フアンは暢気そうに口笛を吹きながらアルフォンソを揶揄(やゆ)する。だが、俺も最初こそは手伝った方がいいのか迷ったけれど、アルフォンソの軽快な剣さばきを見て、ミツバを探す方に集中し始めた。


「花が咲いていないと毒のある“(キツネ)の牡丹(ノボタン)”と間違えやすいと聞いております。カトル殿。あなたの鑑定魔法は実に重宝しますね」

「どうもです」


 いつの間にか隣にいるアデリナから褒められちょっと嬉しくなる。



 名前:【狐の牡丹】

 年齢:【0】

 種族:【双子葉植物】

 カルマ:【毒】



「あっ、その葉は毒があるから気をつけて」

「ひあ! ど、ど、ど、毒?!」

「触らなければ大丈夫ですよ、テオ」

「確かに、これは少し薄暗いと見分けつかないな」




 ―――


 依頼を受ける前に、俺は支部の受付のお姉さん(アイラ)からレクチャーを受けていた。

 何だか来るたびに顔を見るけど、マリー専属かと思っていたら違うようだ。支部の受付嬢の中では結構人気もあり、それなりの役職についているそうだが、俺がその辺を訪ねるとアイラは笑ってごまかしてしまう。


「えっと、この依頼内容は灰タグ用の簡単なものって位置づけなんだけど、良く似た葉に毒があるから敬遠されがちなのよねー。カトルくんも気をつけて、ってそう言えば鑑定魔法使えるんだっけ? なら安心ね」


 もう初対面の時と違って気さくに話しかけてくれるのだが、そんな時に周りから敵意のこもった視線を感じてしまう。


「ところでアイラ嬢。この依頼が終わったら今晩二人っきりで食事でもどうでしょう?」

「ごめんなさい。あなたのように浮名を流している人の相手をするほど暇じゃないの」


 馬鹿(フアン)は周囲を気にせず、いや、周囲に見せ付けようと言い寄ったが、瞬時に爆死していた。それを聞いた回りの男どもからの下卑た笑い声が聞こえ、なんとも微妙な空気になる。


「はぁ。カトルくんこそどう? マリーさんたちいなくなって大変でしょ? 私たちと食事に行かない?」

「お誘いは嬉しいんだけど、俺まだ宿も決めてないし、レヴィアからの課題がたくさんあるから」

「あらら、断られちゃった」


 その言葉にまたしても周囲の嫉妬が集中する。

 俺は苦笑いするしかなかったが、でも、こういうのは社交辞令だってじいちゃんが言ってたっけ。マリーのファンである彼女たちと一緒に食事をするのはマリーが居てこそ楽しめるけど、俺だけのこのこ行ったところで一人浮くだけだ。


「フン。なかなかやるようだな、カトル。僕の好敵手(ライバル)に認定してやってもいい」


 何かアルフォンソが言ってたようだが無視する。……後ろから目を光らせている(かた)の動きが怖いんだ。

 案の定、アデリナに捕まったアルフォンソが耳元で何かぼそぼそ言われ、さっと顔色を変えていた。何を言われたかは想像に難くないが、ほんと俺まで同類に思われてはかなわない。



 ―――



 とまあそんな感じで、注意深く鑑定魔法を使っていたので毒にやられることもなく、依頼の品を短時間で集めることが出来た。


「ふう。数はこんなもんか」

「OK! よく頑張った、カトル」

「お前も働けよ」

「俺はこの依頼ノータッチってことで。言わば監督役だな」


 適当なことを言ってサボっているだけのフアンを無視して収穫したミツバの数を確認する。隣で息をつくアルフォンソの顔にも終わったという安堵感が広がっていた。

 何だかんだで初めての森で初めての依頼だ。口では偉そうにしてても緊張はしていたんだろう。


「じゃあ、戻ろうか――」


 俺がそう言って皆を促した時だった。突如ざわっとした感覚が背筋を駆け抜け、咄嗟に周囲を見渡す。


「……っ?!」


 この感覚は――探知の魔法か。

 しかも、やたらと長いな。ずっと探っている感じだ。


(おかしい……)


 森は危険だから万が一に備えて魔法を使うのはわかる。

 だが、ここら辺はまだ森の中とは言ってもそこまで奥ではない。獣の多くはより西の大きな池辺りに生息しているし、今この辺は俺たちが追っ払ったから全然居ないはずだ。

 普通ならそれがわかればすぐやめるはずなのに、ざわついた感覚は残ったままである。

 俺も探知魔法を使ってみたが、誰も引っかからなかった。もう昼前だし皆昼食を食べに一度町へ戻っているのだろう。この辺は町からそんなに離れていないし、誰もいないこと自体不思議ではない。

 だが、そうなると一体誰がこの探知魔法を使っているんだ?

 少なくとも使い手は俺より優れた術者で間違いない。それなりにランクも高いだろう。そんな強者が、こんな場所でずっと探知魔法を使い続けている。


「探知魔法は街中や森に入ってすぐの場所では極力使わないようにしている。日が暮れたら別だが」

「魔法を感知出来る者にとっては不快だからね」


 マリーやレヴィアの言葉が思い出される。

 魔力感知など出来るはずがないと高を括っているのだろうか。まあ、確かに俺もつい最近まで出来なかったわけで、逆に出来るようになったことを知っているのはマリーとレヴィアの二人だけだ。

 他を見ても誰も気付いた様子はない。


「おい、カトル。どうした?」

「あ、いや……」


 訝しげにフアンが俺の様子を伺ってくる。


「そろそろ昼だし、依頼も終わったんだろ? 町に戻って飯にしようぜ」

「おお! 下々の食事をまた堪能出来るわけだな!」

「若ぁ、ゲテモノ食いは直そうよ。おいら美味しいもんが食べたい」

「アルが好きな料理って臭いのキツイもんばっかだからな。納豆、クサヤ、ブルーチーズ、にんにく……」

「失礼な! 皆栄養があって、味わい深いものばかりではないか!」

「俺らが居ないところでこっそり食ってくれ。他の飯がまずくなる」


 食事に反対の者などいるはずもなく、皆、手早く荷物をまとめ始めた。

 まあ、町に入ってしまえばさすがに探知魔法を使っては来ないだろうし、美味しいご飯を食べながらゆっくり状況を整理すれば、何か良い考えも浮かんでくるに違いない。


 この時の俺はまだそんな感じで事を安穏と構えていた。

 そして同日同時刻、国を揺るがす大事件が起こっていたなど気付くはずもなく、皆と一緒にのんびりと町に向かって歩いていたのである。

次回は4月4日までに更新予定です

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