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竜たちの讃歌 ~見目麗しき人の姿で生を受けた竜の子は、強気な女の子に囲まれて日夜翻弄されています?!~  作者: たにぐち陽光
第二章 竜は地道に課題をこなそうとして、火竜の気まぐれに翻弄される
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第六話 空洞の真実

6月2日誤字脱字等修正しました。

「おお。一応は洗浄魔法を使いこなしておるようじゃの」

「どんなもんだい!」

「浄化の割合が少なく、普通に石鹸で洗うより劣っているのは大いなる課題じゃが」

「……はい」


 まだ出来るようになっただけの洗浄魔法にそんなことを言われても。

 まあ確かに人様に掛けるような水準には到達していないので、返す言葉もなくただじいちゃんの言葉に頷くしかない。

 くっそー。ここまで頑張ったんだから絶対に使えるレベルにしてやるぞ。


「それで、乾燥魔法はどんな案配じゃ」

「うっ……」


 じいちゃんはこと修業になると本当に容赦がない。今ようやく洗浄魔法が使えるようになったばかりなのに何で乾燥魔法が出来るって言うんだ。

 俺は口をすぼめて咎めるような視線を送ったが、じいちゃんはにこにこしながらこちらを見てくる。

 何をそんなに期待しているんだか。昨日まで普通の人族なら大火傷しそうなほど熱い熱風を浴びていたのはじいちゃんだってのにな。


 でも実際どうやったら乾燥魔法を成功させることが出来るんだろう?

 洗浄魔法の時は、俺の土属性の弱さもさることながら、洗い流すというところに主眼を置いてしまったという判断ミスがあった。乾燥魔法でもそんな思い違いがあるのだろうか。

 俺は火と風なら風属性の方が上手く操る事が出来る。だから火属性に最大限の注意を払い慎重に使っているつもりなのに、結果は火傷しそうなほどの勢いなのだ。

 土属性とは別の意味で火属性も使いこなせていないのは明らかだった。

 照明魔法はネーレウスの助言に従うことで上手く拡散出来るようになったが、マリーと違ってあまり遠くまで照らせてはいない。つまり火の制御が出来ていないので、不必要に強い明かりになってしまっているということだ。

 ということは火属性の意識を極限まで下げる感覚で使えばいいのか。

 ものは試しと、洗浄魔法でずぶぬれになったじいちゃん目掛けて乾燥魔法を掛け始める。


「カトルよ。これでは風で水気を飛ばしておるだけじゃ」

「えっ……」


 ダメか……。素っ裸なら風だけでも自然と乾くのだろうが、実際は服を着たまま洗浄魔法、乾燥魔法と連続で使うわけで、この体たらくではなかなか水分を取り除くことは出来ない。


「どうやったら上手く乾くんだ?」

「カトルよ。乾燥魔法の原理は教えたはずじゃぞ」


 乾燥魔法の基本は風の力で水気を飛ばし、火の力でその勢いを促進させることだ。だが、いざ実践しようにも濡れた服に風を当てるだけではそう簡単に乾くはずもない。じゃあ熱風なら乾くのかと火属性の力を強めると少し加減を間違えたら服が燃え尽きてしまう。

 思い返すとレヴィアが俺に掛けてくれた乾燥魔法は一瞬息が出来なくなるほどの圧迫感があった。その次の瞬間、少し暖かな空気が身体を撫でるように吹いたかと思うとあっという間に全身乾いていた。だから、風、火の順番かなと思うのだが、それだと複合魔法ではなく単体の連続魔法だ。やっぱり俺は何か思い違いをしているのかもしれない。


「乾燥魔法、じゃなくて乾燥する仕組みを教えてよ、じいちゃん」

「魔法ではなく乾燥そのものをか」


 じいちゃんは少し驚いた様子で俺の顔をまじまじと見てくるが、やがて高らかに笑い始めた。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。知識を元に考えて魔法を使おうとはカトルも成長したものじゃな」

「なっ……!」


 そんなことをじいちゃんに面と向かって言われたのは初めてだったのでとても嬉しかった。でもめちゃくちゃ気恥ずかしくて俺は真っ赤になりながらさっさと先を促す。


「それよりも教えてくれよ、じいちゃん。何となくだけど、乾燥の原理がわかれば魔法も出来そうな気がするんだ」

「ふむ、良かろう。乾燥の仕組みはの。空気圧と水蒸気圧の差による蒸発を促進させるべく気化熱によって失われた熱を――」

「ちょっ、待った、待った! ぜんっぜん言ってることがわかんないよ!」

「なんじゃ、少し褒めたらすぐ情けないことを言いおって」

「そんなこと言われても……」


 じいちゃんの魔法の説明はわからない用語を並び立ててくるので半分も理解出来ない。だからわざと魔法を外して説明してもらおうと思ったんだけど、結局まるでわからないとは思わなかった。


「僭越ながらカトル様。ヤム様が仰せの内容はそんなに難しいことではございません。水は蒸発すると蒸気に変わって空気中に存在し続けるのはご存知ですか?」

「うん、それくらいならわかる」

「蒸発は常に起こっておりますが、かと言って際限なく起きません。空気が湿り気を帯びたり、温度が下がったりすると蒸発しづらくなります。この湿った空気を押しのけ、周囲を暖かくすることで蒸発を促進させるのです」


 なるほど! なんてわかりやすいんだ、ネーレウスの説明は。

 いや、じいちゃんの言っていることが無駄に難しいのがいけないんだ。いきなり気圧、とか言われたって何のことだかわかるわけない。


「水は蒸発する際に周囲の熱を取り込む、というのが乾燥のポイントですね。その失われる熱を供給し続け、かつ衣服を傷めない程度に暖めるのです」

「なるほど」


 そうか。なんとなくイメージ出来てきたぞ。レヴィアの魔法で最初に受けた凄い圧迫感は乾燥した空気の塊だったんだ。少し暖かい程度の状態を保ちながら蒸発して湿った空気を外に押し出すことを繰り返せば、今までより格段に早く乾くはず。


「ネーレウスよ。その説明では次の段階へ進む知識の(かて)にはならぬ。乾燥魔法はあくまで複合魔法の練習の為じゃ。物質の状態の差異を理解し、圧や熱で様々に変化する仕組みを理解せねば高位魔法の習得の際に苦労するのは結局カトル自身となるのじゃぞ」

「仰せの通り、まことに申し訳ございません」

「いや、その知識の勉強は町に戻ってするからさ。もうレヴィアとの約束の日は明日なんだし、先に出来るようになったって良いんじゃないの」


 じいちゃんの発言で一気に雲行きが怪しくなってきたが、なんとか言い訳してその場を乗り切る。じいちゃんも「仕方がないのう」と言ってくれたのでとりあえずは大丈夫なはずだ。

 あとは俺が乾燥魔法を成功させればいい……!


「よし!」


 俺は早速じいちゃんに洗浄魔法を掛け、続けざま乾燥魔法を掛け始めた。


「どうだ! ……あ、れ?」


 風を収束し圧迫するほどの空気を集め、それをじいちゃんの周りにぶつけるのだが、思っていたほど水気が引かない。自分の感覚では先ほどより格段に進歩しているように思えるのだが、これでは風で水気を吹き飛ばした方が早かったような気さえする。


「助言が必要かの?」


 にやにやしながらじいちゃんが尋ねてくる。……悪戯好きの真骨頂だ。


「いや、この感覚で間違いない。もう一回試させて!」

「その意気や良し!」


 ほら、じいちゃんは俺を試していたんだ。ったく、ここで頼ろうとしたらきっとあのわけわからん知識の授業が待っていたはずだ。

 俺はもう一度じいちゃんに洗浄魔法を掛けてから乾燥魔法に着手する。

 考え方は間違ってないはずだけど、さっきはなぜ上手く行かなかったんだろう? 温風を浴びせた方が全然ましだったように感じたけど……。


 いや、その感覚も間違いじゃないのか。

 先に風を送り込んで水気を飛ばし、そこにもう一度圧を加えてみよう。


「今度こそ!」


 洗浄魔法でずぶ濡れのじいちゃんの身体にまとわりついた水滴を勢いのある温風で吹き飛ばし、そこに乾燥した気団をまとわせる。


「お? お、おお!」

「カトル様、まだです! 湿った空気を外にやり、乾燥した空気を送り込むのを継続して下さい!」


 なんか上手く行きそうだ、と調子付いていた所にネーレウスの指示が届く。俺は慌てて風属性を駆使して循環を行い、じいちゃんの表面についた水分を拭い取るようなイメージで空気を送り込んだ。


「こ、んな、感じ……?」

「まだ髪の毛などは微妙に濡れておりますが、一応宜しいのではないでしょうか」

「やっっ――!」

「これではダメじゃ」

「――っな?!」

「こんなに長く圧迫され続けては、わしならともかく人族では死んでしまう」

「あっ……」


 ふひゅる、ふひゅる、と息を荒くするじいちゃんを見て、俺は出来たと思って増長しそうになった自分を呪う。原理的には今までで一番上手く言ったように思えたし、火傷とかもしないように火属性の調整も上手くいっていた。

 だが、根本的にこれでは時間がかかり過ぎるんだ。


「だが、悪くはない」

「――え?」

「衣服を着ていれば顔以外なら大丈夫であろう。首から下は同じように行い、髪の毛をより時間を掛けて乾かせば良いだけじゃ。顔はささっと行うが良い」

「それじゃあ?!」

「洗浄魔法よりは乾燥魔法の方が合格点を与えられそうじゃな。良くぞ頑張った。あとは町に帰って知識の習熟に努める約束を忘れるでないぞ」

「……やっっったぁあああ!!」


 俺は今度こそガッツポーズで飛び上がった。


「おめでとうございます、カトル様」

「そんなに、やってはいないのじゃがのう。まあ、今ぐらいは良いか」


 二人の対照的な言葉が聞こえてくるが、とにもかくにもノルマだった二つの魔法をお粗末ながら使えるようになって、俺の中で何か自信のようなものが芽生えた気がする。


「しかしカトルの修業を見ておったから、昼飯がまだじゃったの」

「ご用意は出来ております」

「では食事にするとしよう。その後で最後の仕上げじゃ」


 じいちゃんがキナ臭い発言しているが、喜びに満ち溢れていた俺の耳には残念ながら届いていなかった。

 そして、この後すぐに俺は地獄を見ることになる。



 ―――



「では中に入るぞ」


 じいちゃんに従い、俺とネーレウスは空洞の中に導かれた。

 相変わらず空洞内はどういう構造かわからないが、明るく照明魔法いらずの様相である。

 空洞内では魔力の制御が難しいので魔力を使うなとレヴィアに言われていたのを思い出す。今、中が明るいのはラドン辺りの照明魔法がまだ効力を発揮しているからであろうか。魔法がこれだけ長期間保持される構造がどんなものなのかさっぱりわからない。


「この辺でよいかの」


 中に入って5分ほど歩いた場所で、じいちゃんは座り込み胡坐をかいた。

 ただ、何をするのか注意深く見つめていたもののいっこうに微動だにせず、ひたすら瞑想を続けるのみである。

 ネーレウスは傍でじっと微笑みを崩さず立っていたが、俺には何の説明もないままただぼーっとしているだけというのは我慢出来なかった。


「何を始めるの? じいちゃん」

「急いては事を仕損じるぞ。暇ならカトルも座って瞑想せよ」

「うっ……はい」


 瞑想しろと言われたってことはしばらく時間がかかるのだろう。俺は諦めてその場に座り込む。

 だが、やってみてはじめて気が付いた。

 この場所では魔力の制御が上手く出来ない為、ちょっと瞑想しただけで魔力がすぐに膨張してしまうんだ。自分の意思に反して魔力がぐるぐると体内を駆け巡り、この状態で魔法を使おうものなら、その圧倒的な魔力で俺自身の神経が焼き切れるんじゃないか、そんな怖さを感じる。

 もしかしてじいちゃんも魔力の制御に四苦八苦しているのかな?

 でもじいちゃんは大陸で魔法を使わないという誓約があるんだよな。それなのになぜ魔力を高めるべく瞑想をしているんだろう……。


「よし、わしの準備は整った。ネーレウスよ、万が一の時は即座にレヴィアを呼ぶのじゃ」

「かしこまりました。一命に変えましても必ずや」


 な、なんだ……? ネーレウスの声がやたら緊張感に包まれている。

 レヴィアを呼べって、まさか遠話をしようってのか? この魔力が安定しない危険な場所で?


「じいちゃん、一体何をするの?」

「カトルよ。この場はの、龍脈なのじゃ」

「……えっ?」


 じいちゃんが突然、わけのわからないことを言い出した。

 龍脈とは地中で脈を打っている大地の力の源のことだ。こんなわけのわからない空洞そのものが龍脈だなんてどう考えてもあり得ないはずだ。……確かに異様な力が漂う場所ではあるけど。


「カトルよ、お前はこの場の管理をする気はないか?」

「…………はい?」


 じいちゃんの言葉が俺の理解を超えていく。


「本当ならばレヴィアに任せたいところであるが、あの島も重要な龍脈の場じゃ。それにあやつはこのような辛気臭い場所は好まぬじゃろう」

「俺だって好きじゃないよ」

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」


 なんとなくとっさに反応したが、実際はまだ好きとか嫌いとかそんな発想にまで至ってなかった。そもそもじいちゃんの言ってることに頭が全然追いついていないんだ。


「この場の龍脈を持って、劇的に力は増幅されよう。それならばわしも安心して孤島に引っ込んでいられるのじゃが……、仕方ないのう」

「では、やはりレヴィア様が?」

「少しは反省したであろうラドンに任せる。無論、レヴィアの下でな」

「……仰せのままにと申し上げたいところですが、レヴィア様はそれを明らかに望んではおりません」

「まあ、そうじゃろうて。それに、あの小僧もレヴィアの下では窮屈と言いそうじゃな」


 ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、とまた笑っているじいちゃんだったが、俺は全く話しについていけてない。

 そもそも龍脈の管理って何だ?

 管理すると力が増す? ……この場の力で? 

 ――いや、瞑想すら満足に出来ないほどの強大な力を得たところで、制御できずに飲み込まれるのがオチだ。


「ところでカトルよ。一度、この力を余すところ無く味わってみてはどうじゃ? 考えが変わるやもしれぬぞ」

「いやいや、制御できない力なんて必要ないよ。瞑想だって無理だったし」


 またなんか怒られそうな気がしたが、潔く瞑想が失敗したことを告白する。だがそれを聞いてじいちゃんはさらに笑い始めた。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、いきなり独力で成功しようものならわしも高いびきじゃ。すでにネーレウスへ制御の補佐を委ねておる。もし何かあってもわしの魔力を使わせるからの、安心するがよい。最悪、わしの魔力を通じてレヴィアにこの場へ来るよう伝える算段じゃ。あれの本気ならすぐに来れよう」


 じいちゃんはそう(うそぶく)くが、これってすでに俺の逃げ道が封じられているってことじゃないか。レヴィアなら何かうまい言い訳を考えてくれそうだけど、俺だけじゃ何も思いつかない。

 うーむ。これはもうやるしかないのか。


「覚悟は決まったか? ならばカトルの一番得意な魔法を使ってみるがよい」


 得意な魔法? ってなると今なら鑑定魔法だな。

 まあ、もうなるようにしかならないなら、パパッと済ませて早く終わらせよう。

 俺はそう覚悟を決め、自身へと鑑定魔法を展開し始める。


「ただし、鑑定魔法はやめてお――」


 ……えっ?

 ちょ、今更そんなこと言われても遅いって――!


 そうじいちゃんに文句を言おうとした瞬間だった。頭の中に、遠話でレヴィアと話した時のようなとてつもない力の奔流が押し寄せて来たのである。




 名前:【カトル=チェスター】

 年齢:【18/364】

 誕生:【6/18/12786】

 種族:【竜人族】

 血統:【火竜】⇒

 性別:【男】

 出身:【大陸外孤島】⇒

 レベル:【7】

 生命力:【1923】⇒

 体力:【510】⇒

 耐久力:【1145】⇒

 魔力:【2259】⇒

 精神力:【1……】⇒

 ……力:―――

 …………―――――-

 ―――――――――



 すごい……! いろんな能力(ステータス)が見える――。

 そう思った時にはもう俺の意識は彼方へと押し流されていた。遠くで、じいちゃんとネーレウスの声が聞こえたような気がしたが、もはや何も聞こえてこない。

 暗く何も見えない漆黒の海の底へ沈んでいくかのように、俺はそのまま力の奔流に飲み込まれ混濁の中に溶けていった。




 ―――



『ごめんね、カトル。私が桜を見ようなんて言ったから』


 ユミスは泣きながら謝ってきた。

 ああ、この前の夢の続きなんだな。


 桜が、綺麗だ。

 ユミスもあの時のままで、可愛らしい。


『このお返しは絶対再来月するから』


 ユミスのせいじゃないのに。俺だって何で泣いてたのかわからないのに。


『カトルの誕生日できっとするからね! 楽しみに待ってて』

次回は3月13日更新予定です。

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