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竜たちの讃歌 ~見目麗しき人の姿で生を受けた竜の子は、強気な女の子に囲まれて日夜翻弄されています?!~  作者: たにぐち陽光
第二章 竜は地道に課題をこなそうとして、火竜の気まぐれに翻弄される
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第四話 最大の弱点の克服に向けて

5月31日誤字脱字等修正しました。

「さて、魔力制御も出来るようになったことじゃ」

「いや、まだ全然出来てないって!」

「次の課題をこなしてもらうとするかのう」

「聞いてよ!」


 螺旋状に入り組んだ通路を下りて、ようやく空洞の入り口にたどり着いたと思ったら、じいちゃんがとんでもない無茶振りをしてきた。

 俺がどれだけ言ったところで何も変わらないんだろうけど、それでも何かを言わずにはいられない。だがこの理不尽な要求はまだほんの序章に過ぎず、この後にさらなる試練が待っているのは確定事項であった。

 何しろ道中で二人が会話をしていたのが耳に入って――いやあれは絶対わざと聞こえるように言ってたんだろうけど、じいちゃんが空洞の奥を調べている間、俺は()()でもより高度な魔法である複合魔法の習熟することになっているらしい。


 複合魔法とは基本の四元素の掛け合わせである為、四元素が使いこなせないと話にならない。必要が無いにも関わらず土属性の浄化魔法を使うよう指示されたのはまさにこれが理由であった。火属性は照明魔法、風属性は清浄魔法、水属性は水洗魔法と何とか使えるようになったので、ここまでくれば次の課題が何かはおのずと察しがつく。


「探索に必要とレヴィアが言っておった乾燥魔法と洗浄魔法を覚えることじゃ」

「やっぱりそれか」


 それこそレヴィアが前にこの洞窟に来た時に厳命したのがこの二つの魔法の習得だった。マリーも死に物狂いで覚えたとか言っていたし、実際一人で傭兵として生活する上では必要不可欠な魔法と言っても過言ではない。

 だが何度も言うが、やる気があるのと出来るのとではわけが違う。


「まだ碌に四元素を使いこなせないのに、複合魔法なんて出来るわけがない!」

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。わしも身体を洗うくらいは魔法でなくても良いと思ったのじゃが、レヴィアにきつく怒られてな。この二つを完全に使いこなせないうちは絶対にカルミネへ行かせないとまで言っておった」

「なあっ?!」

「今回ここまで探索に赴いてみたが、確かにレヴィアの言うことも一理ある。カトルよ。お前がユミスネリアと二人でここまで来たと考えてみよ。そんな土煙で汚れたままの身体で数日過ごすのはお互い不本意であろう?」


 そりゃそうだけど、ユミスなら両方とも使えるし俺が使えなくても問題ないじゃん。だいたい、こんな埃塗れになったのは無駄な浄化魔法の練習が原因だろ!


 そんな突っ込みを入れたくなるのを俺はグッと堪えた。

 別に修業をしたくないわけじゃないし、俺自身必要性を感じていた事でもある。

 ただ一方的な言い分に納得がいってないだけだ。


 ってか、やっぱりレヴィアの奴、カルミネに連れて行ってくれる気なんてさらさらなかったんだな。

 まあ、当初はレヴィアがカルミネに行く予定じゃなかったから、連れて行く、という発想自体が甘えなんだろうけど。

 もともと俺一人で全てこなすつもりだったんだし、だからこそ彼女の判断は当然とも言える。


 一つずつ地道にやってくしかないが、それにしても俺は一体いつになったらカルミネに行けるのだろう……? 思い描くようには遅々として進まず少しだけ落ち込んでしまう。


「わしも本来ならばここまで性急に魔法の習得を求めんでも良いと思っていたのじゃが、ひとつ大きな問題があっての」


 俺はじいちゃんの言葉に顔を上げ、怪訝そうな表情を浮かべた。


「問題?」

「レヴィアから指摘されて、わしもようやく思い至ったのじゃが。――カトルよ。お前は夜に弱い、そうじゃな?」

「……っ!」

 

 夜――そうか、夜番のことか。

 仲間とパーティを組んで依頼を請け負う場合、日数が掛かる探索だと順番に夜営の番をしなくてはならない。前回の探索で俺は睡眠不足がたたり皆に多大な迷惑をかけてしまった。結果として行程が一日余分に掛かったのは間違いなく俺のせいだ。帰路の夜番からも俺は当然のように外された。

 そんな俺を間近で見ていたレヴィアが問題に思わないはずがない。

 ただ直接何も言ってこなかったことを考えると、彼女もどうしたら良いか考えあぐねていたのだろう。


「夜番の仮眠となると大体3時間程度か。わしも竜人化したこの姿であれば一日二日は問題ないが、本来の姿ならば到底耐えられまい……」


 じいちゃんでも耐えられないのか。


「まあ年を取ると睡眠がよりたくさん必要になるもんな」

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。否定はせぬ。じゃが、年を取ると生きてきた分の知恵も働くのじゃ」

「知恵?」

「睡眠を取るのは脳を休めるため……ならば脳を短い時間で休ませればよい。その方法をカトルはいくつ思いつくかのう?」


 えっ、いきなり難問を振られたけど全く想像もつかない。短い時間で脳を休ませるって寝る以外にどういう方法があるんだ?


「降参だよ、じいちゃん。茶化した俺が悪かった。答えを教えて欲しい」


 じいちゃんに茶々を入れるとすぐこんな感じで反撃される。ここで下手に逆らうとさらに事態が悪化するのは学習済みなので俺はすぐに謝った。

 もちろん間違っていると思ったら喧嘩してでも言い返すけど、そういう時は大抵ユミスが援護に回ってくれて、彼女に弱いじいちゃんが折れるのが常だった。

 今回は、先に軽口を叩いたのは俺なので平謝りである。


「年寄りには敬意を持って接するべきでじゃ。最初から謝るくらいならばなおさらであろう」

「ごめんなさい」


 俺がもう一回謝ったらやっとじいちゃんの眉間の皺がなくなった。

 

「それで、何の話であったかの」

「どうやって短い時間で脳を休めるかって話!」

「おお、そうであったな」


 わざとやってるんじゃないか、と思いつつ我慢我慢と心に言い聞かせて次の言葉を待つ。


「まず基本は瞑想じゃ」

「はぁ? 瞑想?」


 俺は思わず非難の色を声に乗せてしまい、じいちゃんにギロリと睨まれた。

 でも瞑想って、何で魔力を増幅することが脳を休めることに繋がるんだ?


「信じられないという顔じゃな。まあ聞くが良い。深い瞑想は魔力の増幅だけが目的ではない。脳を休め智識を整理しより深い睡眠へと脳を誘う最適な方法なのじゃよ」


 仮眠の前に瞑想し睡眠の質を上げる。

 ――理屈はわかるが、そんなんで寝不足の倦怠感に耐えられるなら気合でなんとかなってそうな気もするんだけど。


「レヴィアから話を聞く限り、全く起きれないわけではなかったのであろう? ならば基本は睡眠の質を上げることじゃ。それと起きてからのケアじゃな。軽い運動をすることや、食後に15分程度の短い仮眠を取ることも大事じゃぞ」

「食後の仮眠はしなかったけど運動はしたよ。でもそれじゃ全然ダメだった」


 歩いているのに記憶がなくなる程、意識が飛んでいた。もっと根本的に脳を休める方法がないとあの状況は対処しきれない。


「まあそうであろうな。あくまで基本を話したに過ぎぬ。我らの脳はそう簡単に重要な睡眠を削って活動できるようには創られておらぬからの」


 俺が疑問を呈したらじいちゃんは当然と言わんばかりに肯定してきた。

 なんだか良く分からないけど、良かった。何か対策があるんだ。


「瞑想により脳が休まる態勢を整えたら、次は脳を完全に休息させることが重要になる。これにはいくつかの方法があるが、カトルよ。お前が短期間で使いこなせるとすればより限定的にならざるを得まい」

「それって――!?」

熟睡魔法(サウンドスリープ)じゃな。複合魔法でも比較的高位に位置するが、より高レベルの魔法に比べれば簡単に使えるであろう」


 ……いや、ちょっと待って。

 熟睡魔法(サウンドスリープ)って初めて聞くんですけど。眠りに付く魔法なら睡眠魔法(スリープ)をさわりだけ習ったのを覚えている。もちろん全く使えないが。


睡眠魔法(スリープ)では神経細胞の働きを止めることは出来ん。それでは脳を短時間で休めることに繋がらないのじゃ。本当は仮死(アスフィクシ)魔法(エイション)の方が効果的なのじゃが、さすがに死に物狂いで特訓したとしても一年はかかろうて」

「……仮死(アスフィクシ)魔法(エイション)って、死んじゃうってこと?」

「もちろん死にはせぬ。死に見せかける高位魔法じゃ。ありとあらゆる精神的な攻撃から身を守ることが出来るから、魔力に長けた者と戦う時があれば重宝するかもしれぬの」


 なんかとんでもない魔法のようだ。俺には全くイメージ出来ないが、ユミスなら使えるのだろうか。


「さすがにユミスネリアも当時はまだ使いこなせていなかった。今はどうか知らぬがの」


 ……ユミスに出来ない魔法を俺が使えるわけがない。まあ、思い込みはダメかもだけど、とりあえずまだ見込みのある方から頑張るべきだ。


「じゃあ、その熟睡魔法(サウンドスリープ)って魔法を覚えれば良いんだね」

「まあ、端的に言えばそうじゃな。風属性と水属性が基本じゃが、音魔法へ水属性を乗せるイメージじゃから若干難しいかもしれぬの」 

「……へっ?」

「何を驚いた顔をしておる」

「いや、あの音魔法ってめちゃくちゃ難しいんじゃ……」

「四元素に比べれば難しいが、カトルよ。お前がもう既に使いこなしておる鑑定魔法や詐称魔法と変わらぬレベルじゃ。問題は熟睡魔法(サウンドスリープ)の場合、水属性の要素が必要じゃから、複合魔法を使いこなせなくては話にならんという所じゃの」


 だから先に乾燥魔法と洗浄魔法の修業ってことか。

 ……ってか、じいちゃんさっきからなんとなく出来そうな雰囲気で話してるけど、実際はとんでもなく大変な修業なんじゃね?


「ちなみに、じいちゃんも竜の姿だったらその魔法を使うの?」

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。わしはそんな面倒なことはせぬぞ。普通にゆっくりと寝かせてもらう」

「いやだから、寝れない時の話をしてるんだって――」

「時を操れば、造作もないからの」


 ……聞いた俺が馬鹿だった。

 そういや時空魔法という概念があるってじいちゃんの授業で習ったっけ。俺もユミスもポカーンとして聞いていたけど、ユミスでさえ何の取っ掛かりもつかめないような文字通り次元の違うとんでも魔法だ。


「今日はもう遅い。カトルの洗浄魔法と乾燥魔法でさっぱりとして寝たいものじゃな」


 ……マジですか。ハードルめちゃくちゃ高いんですけど。


「初めては誰にでもある。失敗しても構わぬのでどんどん魔法を使って来るがよい」

「ヤム様。洗浄魔法はともかく乾燥魔法の場合、御身は大丈夫かと存じますが、防具や服はカトル様の魔力に耐えられないかと」

「むむ、確かにそうじゃな」


 言うが早いかじいちゃんは着ていたものを全部脱ぎ捨て凶悪な裸体をさらけ出した。イェルドもびっくりの筋肉の塊が現れる。

 ネーレウスもさすがに苦笑していたが、じいちゃんに習って執事服を脱ぎ始め、なかなかに鍛えられた肉体をさらけ出す。

 ……こんな洞窟の奥深くで一体何をやっているんだか。

 真っ裸のごつい老人二人を目の前に、俺は本日最大級の溜息を吐くのだった。

次回は3月7日深夜までには投稿予定です。

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