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第八十話 疑惑

「そんなことより、その魔石をどこで手に入れたんだ?! それがどれだけ危険なものか、分かってるのか!?」

「危険……とは?」

「ユミスの好みまで調べたお前がそれを知らないとは言わせないぞ。シュテフェンの奴らが全滅した原因は、全部その虹の魔石のせいなんだからな!」

「……フッ、何を世迷言を。この魔石は神の石を制御する為にメロヴィクス様がご用意くださったものです。近付くことさえ出来なかった“危険な”神の石をオブスノールから切り離し、かの地の砂漠化を食い止めたこの力、称賛されこそすれ誹りを受けるいわれはありません」


 落ち着きを取り戻したベリサリウスが、こちらを見下すように鼻を鳴らす。どうやらこいつはメロヴィクスの用意した魔石に絶大な信頼を寄せているらしい。

 ってか、何で“危険”な竜魔石を制御出来る力を秘めた魔石を危険だと認識しないのだろう。まさか本気で安全だ、とでも思っているのか?


「その虹の魔石から天魔(モンスター)が生み出されたんだぞ! このアグリッピナにも天魔(モンスター)が現れたらどうするつもりなんだ!?」

「フフッ、それは面白い冗談ですね。もし本当に魔石に生命が宿るのであれば、天魔(モンスター)は魔力から誕生することになるのですが、だとすると魔力を有した我らはさしずめ神というわけですか。……バカバカしい」

「なっ……」

「仮にその天魔(モンスター)とやらがこの地に現れたとして、魔道師ギルドに見捨てられたカルミネの弱卒如きで駆逐出来た奴ばらなど敵にもなりません。我らはアルヴヘイムと正式に和議を結ぶ前から、魔法強化に努めてまいりました。弱点の知れた相手など容易く討伐出来ましょう」


 冷静に答えつつベリサリウスは僅かに笑みを浮かべる。その表情の変化に違和感を覚えていると、遠くから大勢の足音が響き始めた。どうやらベリサリウスはこの援軍を待っていたらしい。道理で落ち着きを取り戻すわけだ。


「何で地下にまで援軍がいるんだよ!」

「フフ、あらゆる可能性に備えるは当然のことです。それでも神の石の無力化は想定外でしたがね」


 そう言いながら、ベリサリウスはジリジリと扉の方へ下がっていく。援軍と合流されたら多勢に無勢、俺一人じゃなすすべもなく捕らえられてしまう。だが逃げようにもこの高さじゃ地上へ戻るのは絶望的だ。

 竜魔石の効果が無くなった以上、きっと待ってればユミスが駆けつけてくれる、そう信じて時間を稼ぐしかない。

 せめて虹の魔石だけでもなんとか、と思っていると、急に視線を感じた為ベリサリウスに気付かれないよう視野を広げてみる。


「……!」


 視線を向けて来た相手は倒れたままのルフであった。

 ずっと無言だったので気絶でもしてたのかと思いきや、どうやら機会を伺っていたらしい。今から何か仕掛けるみたいだ。

 ……でも何でこのタイミングでこっちに視線を向けてくるかな。俺、そういうの顔に出ちゃうんだけど。


「――何を企んでいるのです?」


 案の定、ベリサリウスは怪訝な顔で俺を睨み、そして何かに気付いたように周囲を警戒し始めた。

 ――まずい。

 こうなったら出たとこ勝負でルフの奴に賭けるしかない。ベリサリウスが視線を逸らした瞬間、特攻だ。

 幸いヴァルハルティから溢れ出た魔力のお蔭でいつもより身体強化(ブースト)の効果が何倍も増している。これなら一気に距離を詰められるはずだ。


「っ?!」


 俺のなりふり構わぬ突撃に気付いたベリサリウスはすぐさま後方へ逃げ出そうとした。だが、ワンテンポ遅い。油断はしてなかったんだろうけど、竜魔石の傍に陣取って動かなかった俺が急に飛び掛かったので面食らったに違いない。

 そしてその戸惑いは、ルフが何かするには十分過ぎるほどの、ほんの僅かな隙となった。ルフの投げた石がベリサリウスの右手に直撃し、持っていた虹の魔石を弾き飛ばしたのである。

 ベリサリウスは慌てて拾おうとするも、ここぞとばかり喚声を上げて突っ込む俺の勢いに気圧されたのか、恨めしそうに魔石を見ながら逃げていく。俺とルフ、両方を相手するのは完全に計算外だったのだろう。

 扉の外にまだ援軍が来ていないことを確認した俺は、とりあえず魔石を拾いズボンにしまうと、時間稼ぎをするべく瓦礫でバリケードを作り始める。


「カ、トル……殿……」

「今忙しいんだ。話は後に――」

「大事な、話、なんだ……」

「ああ、もう! ってか、お前は俺の敵じゃないんだろ? だったら後で聞くよ。ほら、瓦礫はどかすから回復に専念してくれ」


 ルフは真剣な表情だったが、だからこそ片手間で聞くわけにはいかない。俺としても問いただしたいことは山のようにあるけど、今は時間稼ぎの方が重要だ。

 ユミスは必ず助けに来てくれる。

 武闘会場に敵がどのくらい残っているか分からないけど、竜魔石の影響さえなくなれば叛乱の鎮静化にそこまで時間は掛からないだろう。

 むしろ地下にいる援軍の方が不気味だ。ベリサリウスもさっきはメロヴィクスの傍にいたのにここへ来てたし、皇帝の命を奪うのが最優先のようなことを言っておいていろいろ矛盾しまくってる。

 奴らの狙いが分からない……。ルフなら、何か知っているんだろうか。


「……こんなもんか」


 考え事をしながら瓦礫を積んでいたら、いつの間にか扉が見えなくなるくらいの山になっていた。我ながら結構頑張ったもんだと一息つき、そして未だ襲撃されない事実に違和感を覚える。

 さっきはあれだけ足音が響いていたのに、今は何も聞こえてこない。瓦礫を運んでいる最中は気付かなかったけど、この静寂は異質だ。

 ……嫌な予感しかしてこないが、とりあえず先にルフの話を聞いてみることにする。まあ、内容はきっとアレについてなんだろうけど。


「で、話って何? 正直、お前の話より俺の方が聞きたいこと山積みなんだけど」

「カトル殿が、神の石の力を、奪った、というのは……本当なのか?」

「ああ、やっぱりその話か」

「私にとっては、命の次に、大事な話だ……」

「はぁっ……。じゃあ、ちゃっちゃと説明しますか。まず、あれは神の石じゃなくて竜魔石。その中でもかなり特殊なやつだ。普通は長い年月をかけて魔力を注いで作るんだけど、あれはじ……ん、んんっ、竜の魔力が長年たまりっていたオブスノールで自然に出来たものだから、劣っているというか、精錬されてなくてね」

「な……にを、言って……」

「だからヴァルハルティで取り込めたんだ。この剣はちゃんとした竜魔石から作ってもらった魔剣だから、賭けだったけど、うまくいったよ」

「……」

「ルフの話はそれで終わりでいい? なら今度はこっちの番――」

「カトルーー! 無事!?」

「えっ、ユミス?!」


 上空から響く呼び声に慌てて見上げると、魔力に包まれた一団がふわふわと宙に浮かびながら舞い降りて来た。あれはユミスの空中浮揚魔法(レビテーション)だ。


「カトル! あんた、また無茶したでしょう?! ほんとこっちは大変だったんだからね!」

「そうだぞ、カトル。ちょうど敵に囲まれている時にとんでもない魔力が溢れてきて、私は本当に生きた心地がしなかった。何も出来ず意識が遠のいていくあの無力感は二度と味わいたくない……」

「あ、はは……。ごめんなさい」


 怒りの形相のナーサと悲嘆に暮れるマリーを前に、俺はひたすら謝り倒す。

 自分的には竜魔石の魔力を短時間でうまく対処出来たと思ったんだけど、やっぱり“誓願眷愛”の影響が出てしまったらしい。皆に魔力が流れたおかげで倒れずに済んだんだから、ほんと感謝の気持ちでいっぱいだ。


「ん……今回はそこまでじゃなかった。びっくりしたけど」

「おお!」

「おお、じゃないのよ、あんたは! ユミスだからびっくりした、くらいで済んでいるけれど、こっちは――って、ルフ?!」


 舞台の上から降りたナーサが俺に文句を言おうと近付いてきて、初めて横たわったままのルフの姿に気が付いた。驚いて後ろへ飛び退くナーサを尻目に、すぐさま入れ替わるようにマリーが俺の傍までやってくる。


「なぜお前がこんなところにいる? 返答次第では容赦しな――」

「待った待った、マリー。落ち着いて」

「これが落ち着いていられるか! この場にあった魔石の影響で陛下は危うく命を落とすところだったんだぞ!」

「な、ん……!?」


 興奮状態のマリーを何とか宥めていたら、ルフが驚愕の表情を浮かべ顔面蒼白になっていくのが分かった。どうやら皇帝が襲われたのを知らなかったらしい。もしこれが演技だとしたら立派な道化師だ。


「先ほどの、ベリサリウスの戯言は、そういう意味、だったのか……」


 俺が簡単に武闘会場で起こった出来事を伝えると、ルフはショックを受けた様子で項垂れてしまう。襲撃の際にこの地下にいたなら何も知らなかったとしても不思議ではないが、マリーはそんなルフ相手に容赦なく突っかかっていくため、必然的に俺が間に入ってなだめ役にならざるを得ない。


「なぜカトルはルフを庇う? この部屋に居る時点で信用に値しないではないか」

「その辺の事情はこれから本人に聞くとして、一応ベリサリウスから“これ”を奪うのに協力してくれたし」

「む? なんだその妙な色の魔石は」

「い……?!」

「ん! 虹の魔石!」

「ほう、これが散々聞かされていた虹の魔石か。不気味な色をしているのだな」

「って、なんでこれをベリサリウスが持っていたのよ?! まさか、今回の叛乱って……」

「だから詳細を聞きたいんだって。でも怪我して喋るの辛そうだから、ユミスに回復魔法(リカバリー)を掛けて欲しくてさ」

「ん……」

「待て」


 ユミスが魔力を展開しようとするも、マリーがそれを制し、そして厳しい表情でルフに向き直る。


「お前は本当に我らに対する敵意が無いのだな?」

「……ああ」

「ならば潔白を誓えるか?」

「当然だ。……大いなる、ピラトゥスの大地を統べる、気高き竜族(カナン)の神名に誓って、カトル、チェスター殿に、協力を、約束しよう……」

「いぃ?! 俺ぇ?」

「ん、殊勝な心意気。それならいい」

「あのな、ユミス」


 ユミスの判断基準がおかしい。ってか、マリーまで奴の言葉に頷いているし。

 ……うーん。ま、いっか。


「ん……回復魔法(リカバリー)

「助かりました、ユミスネリア陛下」

「陛下は余計。それと、ちゃんと話したら二人にも魔法を掛ける」

「……お心遣い、感謝いたします」

次回は二月中に更新予定です。


追記:コロナでずっと倒れていました。

更新遅くなるかもしれませんが、気長にお待ちください。

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