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第十七話 青天の霹靂

4月19日誤字脱字等修正しました

「すまない、マリー。洞窟の件を長老に報告する為、一緒に境界島まで来てくれないか?」


 サーニャの店で料理を食べ始めてすぐレヴィアが話を切り出した。


「ちょっと待て、レヴィ。まだ店内には他の客も多い。誰かに聞かれてしまうではないか」


 慌ててマリーが声を潜める。

 竜族(カナン)の俺たちよりマリーの方が周りを気にしてそわそわしているなんて、何だか立場が逆転してしまったみたいだ。

 

「心遣いには感謝だけど、マリーにバレて構わないならいくらでもやりようがあるのよ。――静寂魔法(サイレント)ね。今は音を遮断してこちらの声を周りに聞こえないようにしているわ」


 ふふん、と幾分上機嫌にレヴィアは笑った。いつもより饒舌なのは竜族であることを隠さなくても良いという開放感のなせるわざだ。

 しかし、魔法を使っているなんて全然気が付かなかった。街中で魔法を使うならこれくらいにならないとダメってことか。


「何か魔法を使っているとは思ったが、そんなことまで出来るのか? レヴィは凄いな」


 マリーは目を丸くしてレヴィアを称えているが、俺としてはマリーがレヴィアの魔法に気付いたことにびっくりだ。

 そんな俺を見透かしたようにレヴィアはニヤニヤしながら脅しを掛けてくる。


「この魔法は重要な防御魔法の一つよ。音は極めて凶悪な武器だからね。たとえば竜族(カナン)の咆哮の中には耳にしたモノの心を虜にするものがあるけれど、相手の魔力を感じ取ることも出来ずまともに受けたら、キミ。たとえ竜族(カナン)の強靭な肉体をもってしても簡単に心を蝕まれるよ」


 そういえば、あの洞窟に最初に入ったギルドのメンバーも恐怖に(さいな)まれてまだ外出できないんだっけ。

 心を蝕まれるって怖いな。


静寂魔法(サイレント)は気配を断つことも出来るからね。死角から狙われないように気を付けなさい。逆に、キミも静寂魔法(サイレント)が使えたら戦いを有利に運べるわ。内緒話もお手軽だしね」


 なるほど、確かに重要な魔法だ。俺もそのうち覚える必要が出てくるかもしれない。

 それにしても今日のレヴィアはやたら竜族(カナン)の話に拘るな。普段話せない鬱憤を解消してたりして。


「うう、しかし何だか落ち着かないな。こんな誰かに聞こえそうな場所で秘密の話をするというのは」

「ふふ、根掘り葉掘り聞くのではなかったの? マリー」

「それはそうなんだが……。二人とも竜族(カナン)、なんだよな。こうして面と向かっていると人にしか見えないからまだ信じられないところもあるが」


 マリーがマジマジと俺とレヴィアの顔を見る。


「あの洞窟にいたラドンみたいに竜になれば信用出来るかな? まあ、私は自分の竜の姿が嫌いだから見せたくはないけれどね」

「俺はそもそも竜の姿になれないんだ。生まれた時からこのまんまだから」

「竜になれない? 竜族(カナン)なのに?」

「竜が人と同じ姿になる竜人化という秘法があるんだけど、俺はその竜人なんだ。飛べない竜なんだよ、俺は」


 俺の中で、どうしても拭えない事実(いたみ)がポロッと出てしまった。孤島でも母以外には誰にも言わなかったのに、マリーやレヴィア相手だから甘えてしまったのだろうか。

 それとも、竜になれないという言葉が心を抉ったからなのか。


 飛べない竜。

 

 その覆しようがない事実を前に、俺の心は忸怩たる思いに苛まれる。


「キミはそれがどれだけ素晴らしいことかわかってないみたいだね。私はキミが羨ましくて仕方ないよ。だってそうでしょう? 竜人の姿は本来の1割以下の力しか宿せないのに、キミは竜族(カナン)の力の全てが使えるのだから」


 レヴィアの声は不思議と俺に響いた。嬉しいというよりホッとした感じだ。レヴィアにそんな風に思われているとわかって心が晴れやかになる。


「ちょっと待て。レヴィは本来の1割の力でその強さなのか?」

「魔法の力はたいして変わらないけれどね」

「いやいや。あの火竜が尻尾を巻いて逃げ出すくらいだし、めちゃくちゃ強いよ」

「キミ。人を怪物か化け物みたいな言い方をしないで欲しいね。確かにこの姿でも竜の姿のラドンに勝つ事くらいは出来るでしょうけれど」


 ゲッ、マジか。正直そこまでとは思わなかった。あの火竜も相当強そうだったけど、実際はまだ若い竜の部類に入るのかな。

 マリーもレヴィアが火竜に勝てると断言したことに唖然としている。まあ、あの恐怖を味わった身からすれば当然だろうけど。


「話を戻すよ。マリーは私たちが竜族(カナン)だと知ってしまったけれど、それでも変わらず接してくれている。だからこそ長老と話をしてもらいたいの。あなたなら私たち竜族(カナン)と対話を持っても自分を見失うことなく前を向けるはずだからね」


 長老は人族との相互不干渉を貫いている。実際にそれを誓った相手はとっくに死んでいるが、それでも約束は変わらない。

 ただ、人族は弱い。力ではなくその短い寿命が故に生じる心の隙間から弱さを露呈してしまう。もし竜族(カナン)との対話を持ち、その力を活用できるとなればそれまでの関係性を見失う可能性が高い。


「つまり今と同じならいいのだな?」


 けれどマリーは、なんてことなく普通の様子でそう答えた。


「そういうことね」

「なんだ。てっきり私はもうレヴィやカトルと一緒にいられなくなってしまうのかと思ったぞ。なら安心だ」


 その言葉にレヴィアが目を細める。なんとも心地よい言葉だ。自然と顔が緩んでしまう。


「竜の姿ではなく、竜人として関わるなら問題ないと私は勝手に解釈しているよ。長老もなんだかんだで結構竜人としては大陸での人族との関わりを謳歌しているしね。まあ孤島に住む連中の中には頭の固いモノも数多くいるけれど」


 ああ、そうだった。

 俺が普通に歩いているだけで蔑みの目を向けてくる奴らだ。父と母は普通に愛情を注いでくれたが、そういった目に晒される俺を見て、長老が引き取って育ててくれたんだ。


「その確認の為というなら、とても重要なことだな。うむ、了解した。私を連れて行ってくれ、レヴィ。あ、ただサーニャには事情を伝えておく必要があるな。しばらくは出発できないと」


 レヴィアに静寂魔法(サイレント)を解いてもらい、マリーがサーニャを呼ぶ。そう言えば今日はサーニャがいなかった。見ると店内を動き回っているので相当忙しそうだ。そんなに混雑しているってわけでもないのに汗だくになっている。


「ごめんなさい、マリーさん。今、どうしても手が放せなくて」

「忙しいなら後でもいいんだが、今日はどうしたんだ?」

「だって、マリーさんが戻ってきたでしょ。少しゆっくりするとしてもそろそろ出発じゃない。だから従業員の子にあと少しだけって伝えたら、あっという間に別の職場見つけちゃったみたいで」


 どうやら、今まで働いていたウェイトレスが別の店で働き出したので人手が足らなくなってしまったようだ。


「そ、うか。大変なところに話すのは申し訳ないのだが、そういう事情なら余計に早く伝えなければならない」


 マリーは頭を下げながら、しばらく出発が出来なくなった旨を伝える。サーニャはしばし絶句したあと、お店を早めに閉めて相談したいので待っていて欲しいと言い残し、厨房の中へ入っていった。


「何かまずいことになっているみたいね」

「うーむ。私も軽はずみだったか。しかし、従業員も契約があるのに新しい所に行ってしまうとはな」

「それは仕方ないでしょう? 首を切った側とすれば、次の職場が見つからなくても助けてあげられないわけだしね。飢えを凌ぐためなら情状酌量の余地はあるわ」

「でも、なんで手が回らないことがわかってるのにお店をお休みにしないのかな」

「それこそ出来ない相談だろう。食材は仕入れてしまってるわけだ。それが出せないとなるとすべての損を被るのはサーニャになってしまう」


 さすがのマリーもそんな状況ではあまり注文をするわけにも行かず、まずはお店が落ち着くのを見守っているのだった。無論、今テーブルにある料理は全部平らげたが。



 ―――



「ふぅ……。お待たせ」


 結局、店を閉めた後も店内に残っていた客の対応に腐心していたサーニャは、最後の客を見送ると空いてる椅子に座ってぐったりしてしまった。


「お疲れ様、サーニャ」


 マリーが優しく労をねぎらう。

 気付けば、もう宵の口だ。日のあるうちに店に入って、その時からずっとサーニャは走り回っていたわけで、いつもより早く店を閉めたとは言え彼女がどれだけ大変だったのかは容易に想像ができる。


「とりあえず、お水を一杯もらうね」


 ごくごく飲み干すサーニャを皆が心配そうに見つめる。それに気付いたのか、少し顔を赤らめて逆に彼女が謝ってきた。


「心配かけちゃったみたいでごめんね。どっちにしても従業員の子たちには早めに話さなきゃいけないことだったからいいのよ。どっちかって言うと、この状況を想定出来なかった私の落ち度ってとこね」


 サーニャは深く溜息をつく。


「本当はお店を売却してまとまったお金が入ったら、明日で閉店にして出発の準備をしがてらのんびり観光でもしようって思っていたのよ。でも、その話が今日突然流れてしまって」

「流れた?」

「そう。よくわからないけど、取引先の意向で西部の開発が頓挫したからこのお店を買っている場合ではなくなったと言われちゃって」


 ……西部の開発が頓挫? この町の西側って森の事だよな。それ以上西になっちゃうと、俺たちが行ったあの山になるけど。


「今日このタイミングで頓挫って、まさかとは思うがギルドはあの山の開発を計算に入れていたわけか?」

「間違いないでしょうね。あの狸ジジイと女狐の考えそうなことよ」


 ひどい話だ。それが原因でサーニャが今苦しんでいるなら完全に他人事ではない。


「契約不履行の違約金を受け取ったはいいけど、まとまった金額はパァになっちゃったわけでしょ。出発費用やら向こうについてからの開店費用やらで結構かつかつになっちゃって」

「また別の人にお店を売るってのは?」


 俺が思った疑問をそのままぶつけてみるが、それに答えたのは意外にもマリーだった。


「契約はそう簡単に決まるものではないぞ、カトル。この店の立地、今の支部周辺の盛況ぶり、今後の状況を加味して相場は決まる。価格を安易に下げると他が迷惑を被るから商人ギルドが黙っていないし、ならば商人ギルド自体に任せようとすると買い叩かれて大損することになる。適正な金額で購入してくれる人を見つけるというのは、なかなかに骨の折れることなんだ」


 なるほど。いろいろと大変なんだな。その辺の屋台で売っているものを買うのとはわけが違うってことか。


「はぁ……。やっぱりマリーさんは頼りになるわね。実は、マリーさんに追加で依頼しようと思っていたの。新しい交渉相手を見つけて欲しいって」

「なるほど。確かにマリーなら適任ね。今回でランクも上がったし、この町では顔が利くからね」


 レヴィアが頷く。


「でも、しばらく出かけちゃうわけでしょ?」

「いや、そういう事情ならサーニャの件を優先しようと思うんだが、どうだレヴィ?」

「構わないわ。私もラドンの奴を捕まえる必要があるから、マリーにはそれまでのんびりしてもらうつもりだったの」


 あ、やっぱりあの火竜も連れて行くわけね。まあ、誰かに責任を押し付けるならあの火竜以外考えられないか。

 でもどうやって見つけるつもりだろう。話しぶりから一人で探しに行くみたいだけど。

 しかし、レヴィアが火竜探しで、マリーが買い手探しか。俺だけ暇が出来そうだな。いろいろ試したいことがあったから好都合かも。鑑定魔法の修行も頑張らないとだしね。


「なら決まりだ。早速私は明日から動こう」

「ありがとう! マリーさん」

「レヴィはどうするんだ?」

「私も明日の朝には出かけるわ。おそらく三日ほどで戻れるはずよ。一応、その後すぐに行けるように準備するけど、マリーはそれで平気?」

「三日だな。了解だ。それだけあれば、成否はともかく何らかの結果は出せるはずだ。サーニャはどうする? もし買い手が見つかったとしても、店の下見には来るだろう。そうなれば営業しているかどうかで印象が全く変わってくるぞ」

「そうよねえ。マリーさんもその後しばらくいなくなっちゃうわけだし、店は開けた方がいいわよね。うーん、でも今日ホールを私一人でやって全然手が回らないのがわかっちゃったのよねえ……」


 サーニャは大きく溜め息をついてうな垂れた。


「当座だけでも誰か雇うことは出来ないか?」

「私も昼間、商人ギルドとかで一応探してみたんだけど、この周辺て大盛況とは言っても荒くれ者が多いでしょう? それに壁の外だから女の子がぽっと来てちょっとだけ働くってわけにはなかなかいかないのよね」


 昨日まで働いていた人も傭兵崩れの女の子だったらしい。そういう事情じゃ簡単には見つからないだろうな。お店で給仕をするわけだからそれなりに可愛い方がいいだろうし、傭兵が飲んで騒ぐわけだからそれをあしらえる強かさも必要と。

 うーん。これは相当難しそうだ。


 そんなことを考えていたら、なぜか三人の視線が俺に集まっていた。なんとなく首筋がヒヤッとしてごくりと息を呑む。

 ……マリーとサーニャの目が不自然にキラキラしている。レヴィアのニヤニヤはいつものことだが。

 しばらく見つめ合ったまま沈黙が続き、そしてついにレヴィアが口火を切った。


「キミ、しばらく暇よね?」

「へっ?」

「そもそも、私がマリーを連れていくことになったのはキミが原因なわけだ」


 いや、絶対に俺じゃなくて火竜のせいだ。

 だが俺にそれを言う隙を与えるようなレヴィアではなかった。


「私とマリーはキミの尻拭いの為に奔走するのに、原因となったキミがのほほんとしている場合ではないでしょう?」

「いや、俺だって謝らないとダメ――」

「キミが行ったら話が拗れるかもしれない。それよりは私が間にたって全部の責任をラドンに押し付けた方が良いのよ。キミはその間、約束を違えたことで迷惑が掛かるサーニャさんの為に働くべきだと思わない?」

「ちょ――?!」

「キミは幸いマリーやフアンが女と見紛うほどの容姿をもっているし、その辺の傭兵なら簡単にあしらえるでしょう? 料理も勉強したいと言っていたね」

「なっ――」

「それは私が保証しよう。カト――カトレーヌほどの可愛い女の子は見たことがない!」

「だああああああああ!」


 なんだ、この流れは。

 ヤバイって。え、なんでそうなる。


「私からもお願い! カトル! あなたなら化粧なんかしなくったって大丈夫! あっという間に看板娘よ! 三食寝泊りつきで給金も弾むわ。それに料理習いたいなら全力で教えてあげる!」

「誰が看板娘だああ!」

「こんなおもしろ……いや、こんな大変な時だからこそ、ギルドのメンバーとなったキミは頑張らないとな」

「レヴィア、今、面白そうとか言わなかったか?!」

「コホン。どちらにしろキミに拒否権はないよ。だってそうでしょう? 私がどう話すかで、キミの今後が決まるわけだしね。観念してキミはウェイトレスをやりなさい!」

「なっあああ……」


 そんな、バカな……。なぜこんな羽目になるんだ。サーニャも目を輝かせているがさっきまでの落ち込みようはどこ行った?


「そうと決まれば早速、服を用意するわね。確か今日辞めちゃった子が昨日まで着ていた服でちょうど背丈が合いそうなのがあったはずなの。用意するから奥の更衣室に来てね」

「いや、ちょっと。サーニャ!」


 それはめちゃくちゃ恥ずかしい。昨日まで女の子が着てた服を着ろって……。この前来た時に働いていた子の服だよな。結構可愛かったけど……。

 ダメだ。頭の中が真っ白になる。


「キミ。往生際が悪いよ。さ、マリーは左腕を持って。連れて行くよ」

「すまない、カトル。ただ私は是非とも見てみたい。カトレーヌの雄姿を!」

「はなせええええええええ!」


 マリーはともかく、とんでもない力でレヴィアに抑え付けられ身動きも出来ず俺は更衣室の前まで連れて来られてしまう。

 いや、本当にこの三人は何かに取り付かれたようにめっちゃ積極的だな。

 ちょっとみんな冷静になってくれ。

 俺はまごうことなき男だぞ。

 ここ()()更衣室って書いてあるんですけど。ああ、何か大切なものが失われそうな予感しかしない。

 サーニャが中から扉を開けて手招きする。レヴィアは本当に凄まじい力で俺をがっしりと押さえつけているのでマリーの支える左半身しか動かせない。ってか、レヴィアはこんなところで本気を出して誰かに感付かれたどうする気なんだ? どう考えたって人が出せるような力じゃないぞ。

 ――でもサーニャもマリーも全く気にする素振りがないな。くっそー。

 女子更衣室に入ったら、何か、少しポヤーンとする。頭が少しクラクラするような、変な感じだ。


「さあ、これ着て」


 サーニャがとびっきりの笑顔で俺にウェイトレスの服を渡してくる。黒地に白いエプロンのシンプルなデザインのワンピースだ。


「キミ、こういう服を着るのは初めてでしょう。着付けを手伝ってあげるわ」


 俺はレヴィアに服を引っぺがされ、何もかも失ってしまったような気がした。もう抵抗する気もない。てか、俺がこういう服を着るのなんて初めてに決まっているじゃないか。


「おお……! 見た目は普通なのに、肌は何と言うか……」


 マリーが興味深そうに肩の後ろ辺りをさすってくる。

 そりゃあね。人と違って俺は曲がりなりにも竜族(カナン)なわけですよ。鱗は無いけど、それと同じくらい皮膚は頑丈に出来ている。って、マリーは俺の正体を知っているからいいけどサーニャにバレたらまずくないか?!

 と思ってたら、レヴィアが、俺のズボンまでずり下ろしやがった……。俺の尊厳はいずこかへ飛び立った。

 まあ、もう、しょうがないよ……。レヴィアにとってみれば俺なんて赤ん坊と同じような感覚なんだろ。


「わ、私はそこまでは、なんというか、えーっと」

「ほわわわわ……」


 さすがにサーニャもマリーも回れ右している。それが普通だよな。良かったよ。

 レヴィアがおかしいだけだ。


「マリーは見慣れていないのか」

「ば、馬鹿にするな。私だって、その、家族や部下の……上半身くらいなら動揺せんぞ。でもその、下までは、その……」


 マリーは動揺で真っ赤だった。


「サーニャさん、下着はどうする?」

「えっ?! ……あ、えーと、変なお客の中にはスカートを捲ろうとするのもいるから、念の為可愛いので」

「……っ?!」

「と思ったけど下着まではさすがに無いね。キミ、付けたいなら明日買って来ようか?」

「――いやいやいや。全く必要ない! スカート捲られなければいいんだろ」

「そう? まあ、それなら仕方ないね」


 何が、仕方ないんだ。全く、これっぽっちも必要ないだろが。 

 俺は何とか最後の尊厳だけは守りぬいた。だが――。


「うーむ。何と言うか……素晴らしい」

「きゃあああ。もう、すっっっごく可愛い……! 黒でシックな感じのところに紅い綺麗な髪が後ろで映えるわぁ。白いエプロンもとっても似合うわよ」

「髪型は結わせるのではなくポニーテールにしてみたよ。カトレーヌにはその方が似合うからね」


 完全にレヴィアのおもちゃとなって出来上がった俺は、見た目可愛らしいウェイトレスになっていた。側にあった姿見にうつる自分が女にしか見えない……。

 なんだか無性に悲しくなってきた。

 でももう覚悟を決めよう。これでサーニャを助けることが出来るんだ。


「もう破れかぶれだ。やってやる!」

「その意気よ、カトレーヌちゃん!」


 サーニャにまでカトレーヌちゃん呼ばわりされた。俺の精神力はもう尽きる寸前だ。


「でもね。その言葉遣いじゃダメよ。今晩中に徹底的にウェイトレスのいろはを叩き込んであげるから覚悟しなさい!」

「……ええええ?」


 その後、俺は夜更けまで今後の人生で全く必要ないであろうウェイトレスの立ち回りを延々とサーニャから指導される羽目になった。

 レヴィア、マジで恨むぞ。どうしてこうなった。


 俺はその夜の布団の中でさめざめと涙を流すのだった。

次回も何とか早めに更新出来るよう頑張ります。

最悪でも23日までには。


宜しくお願いします。

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