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第十六話 報告とランクアップ

4月14日誤字脱字等修正しました。


1月18日レヴィアのタグに誤りがあり修正しました。

 城門から歩く事、数十分。住宅街が途切れ、少し下り坂になっているところに出た途端、眼下に視界が開けた。


「おお!」


 イチョウ並木の大通りを見下ろせば、帆船やガレー船が何隻もとまる波止場が目に飛び込んで来る。初めてこのリスドの町が港町なんだと認識できる光景に、テンションがググっと上がってきた。レヴィアに乗せられて来た船も結構大きかったが、さすがは港町。船の規模が違う。

 町の北東部全てが港になっており、その両側を囲むように岬があった。どれもごつごつした岩がまだ残る状態で、昔の溶岩流の痕跡が見受けられる。


「いびつな形の港でしょう。この町は元々溶岩流が流れてきたところに出来たから、削りやすいところだけ削って波止場を作っているの」


 レヴィアの説明にもう一度港を見渡すと、確かに波止が四方八方に伸びていた。それなりに邪魔をし合うまではいかないのでなんとかぶつからないで済んでいるのだろうが、船の停泊が大変そうな造りである。


「本当は新しい場所を埋め立てて作り直せば便利になるのに揉めていて一向に改善しないからね。この町では高ランク者にいろんな恩恵が与えられているから、その既得権益の問題で新しいことがほとんど出来ないのよ」

「レヴィアの(あね)さん。入りたての新人にギルドの恥部を話さんで下さい」


 レヴィアの説明を聞いているうちにギルド本部についたらしい。待っていた三人が出迎えてくれる。

 本部は5階建てで年季の入ったレンガ造りの建物だった。並木道の一角にそれなりの大きさで陣取っており、周りと比べると威容を誇っている。


「こういうときだけ新人扱いかよ」

「そう言うなカトル。結構ナイーブな話なんだ。本部の目の前でこんな話してたら俺がどやされる」


 そう言ってイェルドは首を竦めながら中に入っていった。

 本部の中は支部に比べると若干、手狭な印象を受けた。同じような作りなのだがそこまで人を収容できそうにない。ただ、支部と違ってあまり人がいないので足りているといえばそうなのだが。


「港だけではなく町全体が悪く言えば飽和状態だからね。支部周辺に人が流れたのも頷ける話よ」

「いやもう勘弁だ。(あね)さん」

「そうは言うがカトルもこれからギルドの一員として過ごすのだろう? 知っておいて損ではないと思うぞ」

「いやわかりましたから、別の場所でおいおいってことで」


 マリーにまで言われ、イェルドは大汗をかいている。後ろから見ると汗が滝のように首の後ろを伝って流れているのだが、あっという間に服がびしょ濡れだ。

 髪の毛の役割って結構重要なんだな。


「おう! 兄弟。帰ってたか!」


 唐突に大男が現れて、イェルドに声をかけてきた。


「おっ、ダンか。帰ったぜ!」


 イェルドの方も仲良さそうに右手でグータッチした後、右ひじを掛け合わせ、その男と肩を組んで陽気に笑い始める。

 その光景はまさに異様であった。

 何しろ、筋肉なのだ。俺の視界は完全に二つの巨体で塞がってしまった。もう一人も丸坊主で、筋肉ダルマ二人が肩を組んで踊らんばかりに声を上げて笑いあっている。

 すでに周りの連中は関わらないようにそそくさと逃げ出し始めていた。それもそのはず、俺だってこんな暑苦しい光景、出来ることなら逃げ出したい。隣に居たフアンはすでに吐き気を催しながらササッと距離を取っている。


「レヴィアの姉さんやカトルは初めてだったな。紹介しよう。ダン=パーション。俺と同じギルド補佐だ」

「よろしくな! 特にレヴィアさん。あんたの噂は耳にたこが出来るほど聞いてる。凄腕の魔術師で槍の使い手。なによりあのギルマスを素手で海にぶん投げたんだってな。痛快すぎて笑えてくる」


 レヴィア……ギルドマスターを海にぶん投げたのかよ。何だかその情景が何の違和感もなく目に浮かんで来てしまう。

 マリーも苦笑しているが、きっとあの岬からポイっと無造作に放り投げでもしたんだろう。


「フン、なんて下劣な。マスターもなぜこの女を指名したのか理解に苦しみます」


 筋肉の影に隠れてわからなかったが、甲高い声がした方をよく見るともう一人、白いシャツに黒のタイトスカートが特徴的な眼鏡女史が立っていた。若干とうが立っているが、小ぎれいな感じの女性である。


「私もギルドマスターが半年前の約束を反故にしておいて、よくもまあ悪びれもなくもう一度依頼を指名してきたのを問い詰めたいところよ」

「そんな約束自体、ギルドとしてありえないわ!」

「ありえないかどうかはギルドマスターに言って欲しいね」

「まあ、まあ。落ち着いて下さいよ、レヴィアの(あね)さん」


 イェルドが間に入り宥めすかすとレヴィアが露骨にそっぽを向く。ここまでレヴィアが感情的になるのも珍しい。どうやらこの二人、究極的に相性が悪いみたいだ。


「おお、こえぇー……! これが女の戦いか。でも一度でいいから俺がその争いの原因になってもみくちゃにされてみたいぜ」

「何か言いましたか、フアン。あなたに罵声を浴びせれば良いと?」

「ブルブルブル」


 おお、この馬鹿(フアン)の馬鹿発言に素で突っ込みを入れてくるとは、この女史なかなかやるな。


「申し遅れました。私はヴィオラ=アクセーン。マスターの秘書を勤めさせて頂いております。皆様方をお迎えに参りました。どうぞ、こちらへ」


 レヴィアの招きで、俺たちは7人の大所帯でギルドマスターの居る部屋へ向かうべく階段を登っていった。

 周囲の傭兵たちは遠巻きにこちらの様子を伺っていたが、俺の視線に気付くとすぐに目を逸らしてしまう。受付のお姉さんでさえ後ろを向いてしまう辺り、傍から見ても不穏な空気が漂っていた。


「だから私は来たくなかったのよ!」

「まあまあ」


 隠すことなく文句を言い続けるレヴィアをイェルドがなんとかご機嫌を取ろうとしているのだが、イライラをまともに受けて四苦八苦しているようだった。


「イェルド。この借りはいずれ大きく返して貰うわ」

「……肝に銘じておきやす」

「この奥がマスターの部屋ですが、中では私語を慎んで頂きたいですわね」


 ヴィオラが眼鏡をクイッとしながらレヴィアをジロリと睨む。それに対しレヴィアもまた眉を寄せ睨み返しているのが怖い。

 なんでこの二人はそう交戦的なんだ。

 首筋が寒くなるような思いをしながら歩いていると、二階の奥まった場所に他とは違う光沢の壁で出来た部屋があった。どうやらこの部屋がギルドマスターの部屋らしい。他は普通のレンガ造りなのにこの区画だけ扉から何から全て違う造りになっているのが非常に気になる。


「何でこの部屋だけ他と違うの?」

「ははっ、それはだな。レヴィが一度ここを完膚なきまでに粉砕したからだ」


 マリーに聞くととんでもない答えが返ってきた。

 どうやらさっきのギルドマスターを海に叩き落した事件はこの場で起こったらしい。

 ……てか、ありえないだろ、レヴィア。よく正体がバレなかったな。

 その時はマリーも現場に居たらしく、二人の破天荒ぶりがギルド職員の間に広く知れ渡ったとのこと。

 どう見ても年下のマリーたちに巨漢のイェルドが(へりくだ)っているのが不思議だったんだけどこれで理解できた。機嫌を損ねたら次に災いが降り注ぐのは自分だもんな。


「まあそのお陰でこの部屋だけ魔力のかかった精銀(ミスリル)で作り直されたんだ。結果的に威厳のある造りになって良かったと思うぞ」


 そう締めくくるマリーの言葉に俺は目を細める。

 そうか。これが噂に聞く精銀(ミスリル)か。

 竜族(カナン)は銀を好むが、その銀が長い年月を経て魔力を込められるとより頑強な精銀(ミスリル)という鉱物になる。俺も一度長老に製作途中の銀を見せてもらったことがあったけど、製作には長老ですら多大な時間がかかる為、孤島では貴重な品であった。大陸でもこれを作り出せるのは魔力に長けた妖精族だけと聞いており、かなりの貴重品であるのは間違いない。

 その貴重な素材を惜しげもなく使って作られたのがこのギルドマスターの部屋である。確かに見た目重厚な趣のある様相を醸し出しているが、誰のせいでこうなったかは深く考えないようにした方が無難だろう。


「マスター。マッダレーナ様他4名をお連れ致しました」

「入ってもらえ」


 コンコン、とヴィオラ女史がノックすると中から入室を促す声が聞こえる。もう壮年を過ぎた老いを感じる声だ。

 レヴィアの発言から一体どんな人物が現れるのかと思っていたが、扉の反対側にある椅子に座っていたのは白髪でしわだらけのやせ細った老人であった。長い眉毛と長いあごひげ、そして長い耳たぶが特徴的で、目元も優しそうなおじいちゃんである。

 本当にこんな老人をレヴィアは海に投げ落としたのか?

 さすがにそれはやりすぎなんじゃ、と思った瞬間、俺は自分の眼を疑うことになる。

 やせ細った身体に突如として筋肉がみなぎり、身長も俺を超えるぐらいに伸びたのだ。驚く俺を横目に老人はレヴィアの元に駆け寄り抱き付こうとして、次の瞬間思いっきりビンタをくらって壁にはじけ飛んでいた。


「うほほほほ、久しぶりのこの感触。さすがはレヴィアちゃんじゃ」

「はぁ……、頭が痛い」

「まったく、ギルドマスターにも困ったものだ。もっとちゃんとして下さい」

「おお、マリーか。ありがとうレヴィアちゃんを連れてきてくれて」

「違います。今回の依頼の報告に来たのです」


 なんだ、この光景(これ)は。俺だけ付いていけてないのか、と思って周りを見るとさすがのフアンも唖然としていた。

 叩き付けられて、壁からずるずると床に落ちる間にまた痩せこけてしまった老人をヴィオラが手早く介抱する。

 どうやらこの場にいる女性三人には見慣れた光景らしい。あれだけレヴィアを敵視していた秘書(ヴィオラ)が何も言わないのを見ると、さすがに今のはヴィオラ的にもこのじいさんの非を認めているのだろう。

 しかしさっきの覚醒は一体なんだったんだ? 人族の魔法は突き詰めるとあそこまで進化しているのか。

 恐ろしい技だ。

 そんなことを思っていると、じいさんと目があった。


「おお、新顔じゃな。そうか、おぬしが今話題のすーぱーるーきーじゃな」

「スーパールーキーって……」

「わしがギルドマスター、トム=ドゥンケルスじゃ。気さくにトム爺とでも呼んでくれて良いぞ」

「カトル=チェスターです。宜しく」


 トム爺さんはフォッフォッフォと高笑いしながら握手をしてくる。隣にいたレヴィアは露骨に嫌悪の表情を見せマリーの後ろに隠れた。

 なんなんだ、この爺さんは? 女好き、というわけでもなさそうだ。マリーには特になにもしないし。


「驚かせてすまなかったの。わしはほれ、この年じゃ。もう若いおなごにはとんと興味は湧かんはずなんじゃが、どうしてもレヴィアちゃんだけはオーラを浴びただけで疼きが止まらなくなってしまうんじゃよ」


 若いおなごには、ってことは年増好き……。 

 ……

 ……くっ、絶対に、絶対に笑わないぞ。

 ここで少しでも笑えば俺が海に突き落とされる。


「なんでかのう。わからんのじゃが、きっとレヴィアちゃんから溢れる気高く妖艶な雰囲気がわしを狂わせるのじゃろうて。フォッフォッフォ」


 だから爺さん、そこで追い討ちをかけるな!

 精神集中。精神集中。

 おお、そうだ。長老とのつらく苦しかった修行の日々を振り返ろう。あの時はつらかった。長老は本気で俺を殺しに来ているんじゃないかって思うほどの攻撃を繰り出してきてたなあ。


「まあ良い。せっかく来てもらったことじゃ。イェルドの報告がてら詳細を聞かせてくれるとありがたいのう」


 そう言って、トム爺さんはギルドマスターの椅子へと座りなおした。

 ふぅ……危なかった。なんとか耐え切ったぞ。ひくついた口元を全力でかみ締め笑わずに済んだ。マリーの後ろで見えなかったのか、どうやらレヴィアには気付かれずに済んだようだ。

 しかし、この爺さんは危険だ。

 こんな場所からは一刻も早く逃げ出さなければ命がいくつあっても足りない。後は皆に任せて隅っこで大人しくしていよう。


「ギルマス。言われた通りモンジベロ火山(ふもと)で髑髏岩を見つけ、その中の洞窟をくまなく探索して参りましたぜ」


 イェルドの報告が始まった。

 最初は穏やかに進んでいたのだが、火竜の話が本当であったことや、奥の空洞のいびつ性、そして最奥のマグマ地帯についての報告が終わると明らかにヴィオラが苛立った様子で眉を吊り上げている。


「そういうわけでして、つきましては、あの洞窟の中は危険ってぇことで、火竜もいることですし管理は厳しいかと思います」

「そうか」


 トム爺さんはイェルドの報告を聞いて目を細める。だがヴィオラがギルドマスターより先に食って掛かってきた。


「そんな新人みたいな報告で済ますつもりですか、補佐殿」 

「そんなこと言ったって、俺らは死ぬかと思ったんだぜ?」

「その火竜とやらもいずこかへ姿を消したのでしょう? なぜもっとその空洞をつぶさに調べなかったのです」

「だから説明したじゃねぇか。魔力が不安定で下手に調べる事が出来なかったって」

「詭弁ですね。調査する方法はいくらでもあるでしょう。大体、魔力が安定していない場所が空洞の中だけなら行き来して調べれば良かったのでは?」

「なっ?!」

「本当にマグマなのかもわかりませんが、その奥の通路から空洞には入ってこなかったのでしょう? 何の問題もなかったのではないですか」

「てんめぇ……」


 その場にいなかったものが報告だけで判断して問い詰めている。正論かもしれないが、俺もその言い方には頭にくるものがあった。

 理不尽さを感じる。


「いや、あなたの話はおかしいよ」


 そこにレヴィアが割って入った。表情はまだ固いが声に冷静さが戻っているので少し安心だ。


「何がおかしいのです。調査の依頼なのですから、それを達成しなかったのは明白でしょう?」

「私が確認した依頼内容は、その場所に行って状況を調べるだけのはずよ。それを歪めるのは勝手だけど、達成しないと言われるのは納得出来ないね」

「何ですって!?」

「そもそも鉱物資源の探索は出来る範囲内と事前に確認したぞ。私が直接ギルドマスターに聞いている。それに、本来の目的はドラゴンを見たという報告に対する確認調査だったはずだ」


 レヴィアとマリーの援護射撃にイェルドがほっと一息ついた。

 確かに、こんな場所で一人だけで文句を言われ続けたらどうにかなってしまいそうだ。レヴィアに懇願していたイェルドの気持ちがとてもよくわかる。


「だからと言って、ギルドマスター補佐ともあろう者が手ぶらで帰ってきて、それで報酬だけよこせというのは許されないことよ!」

「それこそ私たちには何の関係もない話ね。そもそも前回のランクアップの報酬をうやむやにされた挙句、今回の依頼まで難癖を付けるのなら、私にも考えがあるわ。そちらが約束を守らないのであればこちらも約束を守る必要はないでしょう?」

「それは何? ギルドを脅迫しようとでも言うの?!」

「脅迫とは穏やかではないな。仮にも祖国で私は貴族であり軍人だ。その誇りを汚すのであれば、レヴィだけではない。私にもそれ相応の覚悟がある」


 レヴィアとマリーの二人がヴィオラと睨み合う。その争いに男連中は誰一人口を挟めないでいた。


「おい、フアン。お(めぇ)はこういう女の争いが好きなんだろ? 何とかできねぇのか?」

「ば、バッカ、てめ、ふざんけんなイェルド! そもそもお前の責任なんだからお前が何とかすべきだろ? お、俺はこういう険悪なのは苦手なんだ。何だか姉ちゃんに怒られているみたいで……ああ、あの時のトラウマがよみがえってきたぁ!」


 フアンは両手で自分を抱きしめながらブルブル震え上がっている。こりゃダメだと言わんばかりにイェルドは額に手をやって天を仰いだ。


「そこまでじゃ」


 もはや一触即発の状況の中、ギルドマスターの声が響き渡った。さきほどまでダメッぷりを露呈していた爺さんとは思えない、重く渋い声である。


「ダンの意見を聞かせよ」

「マスター!」


 ギルドマスターの言葉にヴィオラが凄い剣幕で食って掛かるのだが、眼光鋭く一睨みされると声も出ずすごすごと引き下がっていく。


「俺としては、頼んだ事は間違いなくやってるわけで報酬は提示通りで何の問題もないと考える。だが、成果がないのに破格の報酬を渡すのは事情を知らない者には不公平に映るだろう。だから……」


 ダンの提示した条件に、ヴィオラはまだ何か言いたそうであったが唇を真一文字にして無言を貫いた。

 皆が納得出来る内容にギルドマスターも大きく頷く。


「よし、では報酬についての議論はここまでじゃ。イェルドはもう少し残れ。マリー、レヴィア、フアン、そしてカトル。依頼の達成見事じゃった。感謝する。また機会があれば宜しくのう」


 ようやく俺たちがギルドマスターの部屋を出る頃にはもう太陽は陰りを見せ始めていた。




 ―――



 階段を降りて1階の歓談スペースに皆腰掛けたのだが、どの顔も一様に疲労の色が見える。


「俺、何もしてないけどヘトヘトだぁ」


 そう言ってフアンがソファで大きく仰け反った。


「金輪際あの狸ジジイと女狐には会わないと決めたよ」

「はは、お疲れ様だ。レヴィ」


 マリーとレヴィアも何だかんだで憔悴している。

 俺も別の所で疲れた。あの爺さんにレヴィアと一緒に会うのは危険だ。


 それはともかく。

 結局、報酬はそれぞれが妥協できる範囲のものになった。

 まずはランクアップの報酬だが、俺が灰タグ、レヴィアは黒タグ、そしてマリーは白タグとなった。

 白というのは身分証が銀細工で出来ており、ランク的にも他の追随を許さない破格の地位であった。一応その上に三つランクがあるのだが、大陸中探しても両手で数えるほどしかいないらしい。どれも国を救うような英雄級の働きをして付与される階級らしく、実際のところは白タグが普通にギルドメンバーとして到達できる最高ランクと言っても良いとのことだ。

 そんな所まで上り詰めたマリーは正真正銘リスド一の傭兵であると言えよう。

 ちなみにレヴィアの黒タグは鉄で俺の灰タグは錫で出来ている。茶・灰・青・黒・黄・白の順番なのでレヴィアは俺より二つ上だ。

 灰タグまでは誰でも上がるが、その上の青銅の青タグや鉄の黒タグとなってくるとランクを上げるのはかなりシビアである。それでも茶タグは剥奪の危険があるので、毎年の更新料さえ忘れなければずっとギルドメンバーとして生活できる灰タグになれたのはありがたい。

 俺は名前が刻まれた灰色のタグを受け取ると大事に胸元へしまい込む。

 あっさりランクアップして受け取ったタグであったが、それなりに感慨深い。


 ちなみに今年分の更新手数料をこのリスドで支払う事がランクアップの条件だった。

 俺は銀貨10枚分の支払いを要求されたが、一応全員に報酬としてそれぞれ金貨5枚(=銀貨500枚)ずつが支払われたので問題なかった。

 だがレヴィアとマリーの二人はなかなかに大変そうであった。レヴィアの手数料は銀貨300枚でマリーに至っては銀貨1000枚だったのだ。レヴィアは手数料が報酬に含まれないことに相当頭に来ていたようだが、そこはランクアップ自体が本来破格というトム爺さんの説明に渋々条件を飲んでいた。

 トム爺さんとしては見事に報酬を掻っ攫った形である。

 しかもマリーはこの後故郷のラヴェンナに帰る為、せっかくのリスドにおける白タグ保有者の特権をほとんど使えず仕舞いなわけで、狸ジジイ呼ばわりも当然の所業であった。

 しかし俺的には巨大な収入だ。いろんなものが食べ放題である。宿も含め一年は何もしなくても過ごせるのではないだろうか。


「とりあえずランクアップのお祝いだ。食事にしよう!」


 マリーが気分を切り替えるべくそう提案してくる。


「それなら、俺の姉ちゃんの店は? 客を連れて来いって命令されてるんで」

「ああ、すまん。お誘いはありがたいが、もうサーニャの店に行くと先ほど伝えてしまってな」


 マリーはいつの間に予約したんだ。ああ、あの鳥串を食べている時か。食べることにかけては一分の隙も無いな。


「うわ、そうかぁ。まあしゃーない。俺は姉ちゃんの店で食べないと後が怖いんでじゃあこれで。レヴィアさんの美しさは今日まで生きてきた俺の新たな財産になりました! 一緒に旅できて嬉しかったっす!」

「あら、ありがとう」

「カトルもじゃあな。また依頼で一緒にする機会もあるだろ」

「ああ、フアンも元気で」

「おうよ。それとマリーさん。依頼誘ってくれてありがと。もしかしたらこれで二度と会えないかもだけど、もし俺がラヴェンナに行くような奇跡があったら暇なら案内してください」

「ああ。案内ぐらいならするぞ。遠慮なく家に来い」

「じゃあ、お元気で」


 フアンは手を振りながら颯爽と去っていく。本当に話す内容がまともなら好青年なのにな。

 残念極まりない。


「では遅くなってきたし、サーニャの店に行こう」


 マリーを先頭に俺たちはまた城門を出て支部へと歩き始めた。

第一章もようやくクライマックスが近づいて来ました。


次回は最悪週明けまでに更新出来ればと思います。

宜しくお願いします。

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