表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/267

第四十一話 伝えたい思い

11月4日誤字脱字等修正しました。

「ああ、じいちゃんの見解を実践しようとして反発されたってやつか」


 その話ならマリーから聞いたことがある。確かそれでサーニャが混乱を避けてリスドへ避難したんだ。俺はこれまでいまいち実感が湧いてなかったけど、あのサーニャが酒場を放ってまで避難したくらいなんだから、相当酷い状況だったんだろう。

 ……どうやら、またユミスにはつらいことを思い返させてしまったみたいだ。

 ただそんな気持ちとは裏腹にユミスは思わず顔を綻ばせた。


「カトルがそう言ってくれるのはとても嬉しいよ。でも……実際は違うの」

「え、違う?」

「ん……」


 ユミスはそれ以上なにも言わずはかなげに微笑むだけだった。

 ……うん。

 昨日までの俺だったら、さらなる詮索はしなかっただろう。

 だけど、今の俺ははっきりと言い切る。


「教えてくれ、ユミス。俺はあまりにもいろんな事を知らなさ過ぎたんだ。もっと情報を共有してれば、たとえ何も出来なかったとしてもユミスと同じように悩むことは出来たはず」

「え……。でもそれはお爺様の誓約に反することに――」

「それは竜族(カナン)としての、だろ? 俺がじいちゃんから言われた誓約は四つだけだよ。だから――」

「わっ、待ってカトル! 私がそれ聞いちゃっていいの? 竜族(カナン)にとって誓約は命よりも大切なはずでしょ?!」


 ナーサが慌てて会話に割って入ってくる。

 だけど、俺は迷わなかった。

 ユミスに、あんな悲しげな顔を二度とさせたくないんだ……!


「……そうやって、この三人の間でさえ知らないことがあったから、昨日の失敗に繋がったんじゃないのか?」

「ちょっとカトル?! 失敗って――」

「俺たちは最大限頑張った!」

「……えっ?」

「ユミスはあのフェリクスとかいう爺さんを説得しようと頑張ったし、ナーサはつらい時も殊更元気にふるまってくれて、退路も切り開いてくれた。俺だって、あの時出来ることはやれたって思ってる。……けれど、それでもユミスがあの時の事を後悔しているなら――やっぱり、何かが足りなかったんだ」


 その言葉に、ユミスは心底驚いたように口を大きく開け、ナーサは心中穏やかではない顔つきでこちらを睨みつけてくる。

 だけど何も言ってこないところを見ると最後まで話を聞いてくれるようだ。


「足りないもの。――そう考えた時、すぐに思ったのは、もっとユミスと話し合いたいってことだった。そりゃあ、もっと情報共有出来ていたとしても結果は同じだったかもしれない。けれど、少なくとも今ユミスが抱いている感情を俺だって感じれたはずなんだ」

「……そう言うってことは、カトルは今、私とは違う思い、ってことなのね……」


 ユミスがどこか諦めにも似た表情で淡々と尋ねてくる。


「うん。昨日の事だけで言うなら、俺はユミスを無事にカルミネまで連れ帰ることが出来て正直ホッとしたよ。……ユミスが帰り道浮かない顔をしていた事が不安だっただけ」

「……そう、よね」

「だからユミスの事をもっと知りたい。そこに懸念があるなら……、ユミスはもちろん、ナーサの事だって信用している。この三人の間でなら俺は誓約の話をしてもいいって思ったんだ」

「カトル……」


 ユミスは迷っているような、それでいて嬉しそうな素振りでこちらを見ていた。だが対照的にナーサは睨みつけたまま、ついに怒り始める。


「ったく、ああ、もう! そんなこと言われたら(ほだ)されちゃうじゃない。……だいたい卑怯よ。昨日の女将さんとの会話も聞いてたみたいだし」

「う……それは、その、ごめん」

「うう―、ああー、……もうっ! ちょっと待って。私にも考える時間を頂戴。今は()()ぐちゃぐちゃだから整理しなくちゃこんがらがっちゃう」


 そう言ってナーサは何度も頭を左右に振った後、最後に大きな溜息を付いた。


「今ってユミスが静寂魔法(サイレント)を掛けているんでしょ? そこから私を外して」

「……ん。でも、いいの?」

「しょうがないでしょ! まだ覚悟とか、その……いろいろ切実に考えなきゃいけないことがいっぱいなの! だから、もし心構えが出来たらその時は……ううん、なんでもない。早く二人で話しちゃって!」

「ん……わかった」


 ユミスは小さく頷くと静寂魔法(サイレント)を掛け直した。

 ナーサはぶつぶつ言いながら、ソファから立ち上がり扉の前を行ったり来たりし始める。なんとも落ち着かない様子で繰り返し髪をすくのは癖だろうか。

 とりあえず今は一人にさせておいて、ユミスとの話を優先しよう。


「私はもう孤島の住人じゃないけど、本当にいいの?」


 そう思っていたら、俺より先にユミスが不安そうな顔つきで尋ねてきた。

 俺が本音をぶつけたせいか、ユミスとの距離感は縮まったと直感する。不安そうな瞳の裏に、やっとユミスの心が見える気がするんだ。

 それ自体はいい傾向なんだけど――でも、その心配は大きな間違いだ。


「あのな、ユミス。確かにユミスは人族で俺は竜族(カナン)かもしれない。でも、その前に俺たちはずっと一緒に過ごしてきた家族だろ。だいたい、俺がじいちゃんと交わした誓約の四つだけど――」


 そして俺はユミスに誓約の内容を告げる。



 一つ、決して竜族(カナン)であることを漏らさないこと。


 二つ、同胞に会ったなら孤島へ一度は戻るよう伝えること。


 三つ、一年に一回は孤島に帰ってくること。


 四つ、ユミスネリアに会ったら、状況が許せば孤島に一度は帰って来てほしいと伝えること。



「この四つ目なんて、自分が会いたいだけっていうじいちゃんのわがままだよな」

「……うん」

竜族(カナン)が人族と関わらないっていう誓約だって、竜人になれば問題ないとか屁理屈言って、じいちゃんはリスドでおいしい料理をずっと堪能してたんだ。それなら、そもそも竜になれない俺は何の問題もないじゃんって話だよ」

「そう、なの?」

「そうなの! それに、じいちゃんはユミスのことを竜族(カナン)の娘とまで言い切ったんだ。だから俺がユミスやその周りの人たちに関わるのだって何の問題も無い。逆に、もしユミスに何かあればそっちの方が問題だよ」


 気付けば、ユミスの目から涙が零れ落ちていた。

 もしかしたら、ずっと一人で堪えていたのかもしれない。


「だから、ユミスが抱えているものを全部俺に話して欲しい」

「……うん」

「ユミスの事だからどうせ今も一人で頑張りすぎてたんだろ?」

「ん……」

「これからはずっと俺がいる。絶対に一人にはさせないから」

「うん……うん……」


 静寂魔法(サイレント)の空間が二人きりという空気にさせたのか、傍にナーサがいるのも憚らずユミスが俺の胸に飛び込んで泣きじゃくり始めた。

 これには難しい顔をして考え込んでいたナーサもさすがに驚き、なんともいたたまれずにそっぽを向いて何事かうなり始めている。

 静寂魔法(サイレント)だとこちらの声は聞こえないけど、向こうの声は聞こえるからやりにくくて困る。だが、ユミスは全く気にせず泣き顔のままこちらを見上げてきた。


「もし私が、長みたいになっていたら、お爺様はお怒りになっていたのかな?」

「そんなの当たり前だろ? ……まあ、その前に俺が怒り狂ってただろうけど」

「そんなことしたら一つ目の誓約が守れなくなるじゃない……って、もうナーサやターニャに知られちゃってたね」

「厳密には、()()、漏らしてないから、代わりに怒られてくれ」

「ええー、ひどいなあ、もう。……カトルのバカ」

「……それに、あくまで俺自身の誓いはユミスを守るってことだしね」


 やっとユミスと心を交わすことが出来た。そう思えたら自然と笑みが零れて来る。

 そしてユミスも大きな瞳を見開いて、嬉しそうに顔をほころばせた。


「うん。ありがとう、カトル。私も昨日寝る前はずっと……ううん、カトルと再会してからもうずっとカトルのことばかり考えてた。でも、私は竜族(カナン)じゃないから竜族(カナン)の誓約を破れないと思って……」

「そんなこと――」

「だから……私の話を聞いてくれる? ちょっと長くなると思うけど」


 いつの間にかそこには、涙を拭いて真剣な表情をしたユミスの顔があった。

 俺が小さく頷くと、一息おいてユミスは語り始める。


「三年前、カルミネに着いた私は、真っ先にある場所へ連れて行かれた。それが、王都の地下に施された封印の部屋だったの」


 封印――。

 確かユミスがフェリクスの爺さんと話していた時にも話題に出てたよな。

 それが何なのか二人の会話だけじゃいまいちピンと来なかったけど。


「でも部屋と言っても普通の場所じゃないの。それこそお爺様が羽を広げて飛びまわれるほど広くて、信じられないほど巨大な魔力が蓄積されてる空間だった」

「広い空間?」

「高さは50メートルくらいで横幅はピッタリ1キロ。奥行きにいたっては10キロ以上は間違いなくあったよ」


 なんだか、まんまラドンのいた空洞みたいだな。

 あそこは龍脈だってじいちゃんが言ってたけど、結局俺には何なのか分からず終いだった。でもとんでもない力が漂っていたのは間違いない。

 ……え?

 ちょっと待って。

 あれと同じ場所があるのに、そんな危険な場所をじいちゃんが管理もせずに放置したのか?!


「封印の存在に半信半疑だった私は、その光景を目の当たりにして否が応にも信じざるを得なかった。王家の伝承は先王が即位した際にほとんど焼き払われてしまって、ターニャもあまり詳しくなかったみたいだけど……」

「ターニャも……って、もしかしてユミスを導いたのは――」

「……ん」


 ユミスは俺の問いにニコッと笑っただけだった。

 ……あ、なるほどね。

 やっと理解したよ。ユミスが俺に話さなかったのはじいちゃんとの間に誓約があるってことか。

 きっと俺に話しちゃダメとか、そんな類のことを約束させられたに違いない。

 ……ったく、何で俺だけのけ者扱いにしてそんな重要な事を話もせずに……って、あれ?

 なんか、おかしくね?

 何か言葉に出来ないけれど、もの凄い違和感が――。


「どうしたの? カトル」

「いや……うん」


 不安そうにユミスが見上げているのに気付き、俺は意識的に笑顔を向ける。

 まだ、もう少し考え足りない。

 ユミスに相談するのはもうちょっと整理出来てからにしよう。

 俺はユミスに話を促す。


「ん、じゃあ続けるね」

長くなったんでいったん投稿します。

次回は1月11日までに更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ