プロローグ ~さよなら、現実~
誰もが一度は他人と違う力にあこがれるであろう。
自分がある日ヒーローになって世界を救ったり。
自分の特技で人を助けることができたり。
内容は人それぞれだが皆一度は考えたことがあるだろう。
そしてそのどこにでもあるような高校で平凡に生活を送る生徒、俺こと影谷颯真も同じことを考えていた。
運動も勉強も並大抵の人と同じでどこにでもいる普通の高校2年生である。
確かに自分にも特技はあるがこの日常的な場面では到底使うことができない。
だから自分の特技を使って人を助けることにあこがれてしまう。
そんなことを教室の窓際の席で空を見ながら考えていると俺に話しかけてくる人がいた。
「よう颯真。なに空なんか見てたそがれてんだ?」
「別にたそがれてねぇーよ。なんか用か和也」
こいつは俺のクラスメイトで親友でもある山下和也だ。
身長180センチで、俺より背が高く、勉強は苦手だが、
運動はできる、いわゆる体育会系な奴だ。
ある意味俺と違って日常生活に使える特技を持っている。
俺から見れば本当にうらやましい限りだ。
「いや特に用があるわけじゃねぇーんだけどさ」
と頭をかきながら、にやけた顔で和也は話を続ける。
「それより部活行かねぇーのか?もう放課後だぞ?」
そういいながら和也は時計のほうを指さす。
確かに部活が始まる時間が近づいている。
「ああもうそんな時間か。いつの間にホームルーム終わってたんだ・・・」
「なに言ってんだよ、15分以上たってんぞたそがれてるから時間がわかんねーんだよ」
「だから考え事してたんだって・・・」
と言いながら俺は席を立った。
「おお?やっと部活に行く気になったか」
「皮肉か?サッカー部のエース様よ」
「ひっでー言い草だなおい・・・」
「そっちが先に言ったんだろうが、じゃあな」
言葉を吐き捨てるように俺は教室を後にした。
「おう、部活頑張れよ、弓道部の主将殿」
教室を出た俺は自分の入っている弓道部の部室の方に歩いていく。
廊下を進んでいると一人の女子生徒が小走りで俺の横を通り過ぎていく。
するとその時、女子生徒が何かを落とした。
見るとハンカチのようだ。
「あ、ねえ君!」
俺が呼びかけると女子生徒が立ち留まりゆっくりと振り返る。
振り返った女子生徒は息を飲んでしまうほど綺麗だった。
その女子生徒を一言でいうなら清楚。
振り返った時になびく長く綺麗な黒髪。
咲いた紫陽花のような紫の瞳。
整った美しい顔立ち。
「あの・・・何か?」
少し不思議そうな顔でその女子生徒は首をかしげる。
「え?あ、ごめん!!」
俺はその女子生徒に話しかけらてようやく自分が見つめていたことに気付いた。
「えと・・・ハンカチ落としたよ。」
「あ、すいません。」
俺は拾ったハンカチを差し出す。
そしてその女子生徒は慌ててハンカチを受け取る。
「拾っていただいてありがとうございます。」
女子生徒は笑顔で答える。
その笑顔にまた見とれてしまったことは言うまでもない。
俺は女子生徒が小走りで去っていくのを見送ると自分も部室の方へ歩き出す。
(さっきの子なんて名前の子なんだろう・・・)
俺はあまり恋というものが昔からわからない。
なので今の気持ちをうまくは言い表せないが・・・
(これが・・・まさか俗にいう一目ぼれか!?)
ただ部活に行っていただけなのに初めて恋をしてしまう。
(いや、ないないないぜっっっっったいにない!!)
(むしろハンカチを拾っただけの女子にこんな気持ちになるとかありえないだろう!)
そんな意味のない自問自答を繰り返しながら俺は弓道部の部室を目指していった。
弓道場にある弓道部専用の部室に到着する。
しかし俺の頭の中ではひたすらに無駄な自問自答が続いていた。
弓道衣に着替えていると仲のいい後輩たちに話しかけられる。
「あ、先輩じゃないですか。お疲れ様です」
「・・・」
「あれ?先輩?」
「・・・! え?あぁお前らもお疲れ様。」
「どうしたんですか先輩?なんか上の空って感じでしたけど」
「なんでもねぇよ。ほれお前らも準備を始めろよ」
はぁーいというまのぬけた声をあげながら後輩たちは準備を始めた。
「はぁー」
思わずため息が出てしまう。
(いや・・・射撃をするときは無心でなくちゃな)
そんなことを考えながら準備を終えて射撃の体勢にはいる。
(・・・くそ)
うまく照準が定まらない。
(ともかく無心で・・・!)
そして俺は矢を放つ。
「・・・先輩、今日調子悪いですか?」
矢を打ち終えると後輩が心底心配そうに話しかけてくる。
「・・・まぁな」
「先輩いつもは全射的中じゃないですか。それがこんなにも外すもんだから・・・」
「すまないな。ちょっと考え事をしていたんだ。でも心配してくれてありがとな」
そういうと後輩はどういたしましてと言い射場に戻り構え始めた。
ちなみに今回の結果は10回中7回命中。
普通に考えたらそれなりの成績だが俺の場合は違う。
俺の特技、それは射撃の正確さ。
狙った物は確実に命中させることができる。
ただこんな特技は日常では使えないし、あったとしてもこの弓道部でしか使えない。
だから、思ってしまう。
この力で誰かを助けることはできないのかと・・・
一瞬なぜかさっきの女子生徒の顔が思い浮かぶ。
(・・・なんでその顔が思い浮かぶ)
これは本当に一目ぼれかもしれないと思っていると
「お疲れ様でした~。」
後輩の声で我に返る。
日も落ち、部員たちは帰っていく。
それでも俺は残って時間ぎりぎりまで練習する。
この時だけ自分の特技が有効的に使えるからどうしても
少しでも長く居たくなる。
そして今日だけはこの思いを晴らすために。
(一目ぼれなんかじゃない。絶対に違う)
そう思いながら日が陰り的が見えなくなるまでひたすら矢を打ち込んでいく。
「今日はここまでか・・・」
的が見えなくなると道具を片づけて帰る準備を始める。
的に刺さった矢を引き抜き、弓を仕舞い、部室で制服に着替えた後、部室を後にした。
「はあ・・・」
俺は今日の散々な結果を気にしながら歩いていた。
(この特技で誰か救えたら・・・そしたらあの子だって・・・)
考えるたびにあの女子生徒の笑顔が思い浮かぶ。
「ああ、くそ!!なんでこんなにもあの子がでてくるんだ!!」
俺が悩みすぎて訳が分からなくなっていた時だった。
その時、ゴーンゴーンと鐘のような音が辺りに響いた。
「なんだ・・・?」
明らかにチャイムの音とは違う
不思議に思って、辺りを見渡していると部室から光が漏れていた。
「変だな、さっき電気を切ったはずなのに・・・。」
もう後輩も先輩も皆帰っている
部室の電気をつけるような人間は誰もいないはずだが・・・
俺は気になって部室に戻り、そして恐る恐る部室の扉を開いた。
「ぐっ、なんだこれ!!」
中は目が痛くなるほどの光であふれていて、その光はどんどん強くなりなぜか体も吸い込まれていく。
(くそっ!どうなってんだ!)
何とか扉を掴んで抵抗を試みるが、吸い込む力はどんどん強くなる。
・・・だんだん手がしびれてきた。
(ああ・・・意味わかんないけど俺は多分ここで死ぬんだろうな・・・)
諦めて手を放した瞬間。どこか遠くで女の子の悲鳴が聞こえたような気がしたが、
俺はそのまま光の中に吸い込まれていった。
どうも、初投稿のアルト&ノアです。( ゜Д゜)/\(?ω?)
この小説には自分たちのやりたいことをたっぷりと
詰めていけたらいいなとと思います。
応援よろしくお願いします。




