アリア
翌朝、僕は起きて直ぐに少女を呼びに行った。少女は、今日もいつもと変わらない笑顔でカウンターにたっていた。まぁ、客が居ないから苦笑いだが。
「話があるんだ」
僕は、一方的に話を切り出し彼女を自分の部屋へと連れていった。彼女は、特に困った顔をせずにすんなりとついてきた。この子、騙されそうだな……………。
「君には、サラスバティの回復魔法を覚えてもらおうと思うんだ」
僕は、サラスヴァティを呼び出しながら彼女へと告げた。やはり、彼女は驚いていたが次第にいつもの顔へと戻った。
「わかりました。あんまり、深くは聞かないことにします。ですが、あの………名前を教えてもらっても?」
そうか。名前を名乗ってなかった。言われてみれば彼女の名前も知らない。
「 望……リオだ。ただのリオ。」
「リオ様………。私は、アリアです。宜しくお願いします」
彼女の突然の笑顔に思わずドキッとした。きっと今の僕の顔は相当赤いことだろう。オタクには、刺激が強い。科学の実験のアンモニアのようだ……………。いや、この例えは無いな。
「敬語はいいよ。その………年も近そうだし?」
やべぇ!何言ってんの僕!あぁ、終わったよ。せっかく築き上げた信頼が………。そんな後ろ向きな考えを頭に張り巡らせているとアリアこら意外な答えが返ってきた。
「は……うん!」
おぉ~!やったよ!女子と仲良くなるなんて陽以外で初めてじゃないかな?いや、そこまで仲良くなかったけどさ……………。というか、仲良くなる前には……………。やめよう。
「えと、早速始めようか。」
それからは、教える、魔力切れ、教える、魔力切れの繰り返しだったがついに目標のレベル5まで覚える事が出来た。
「良くできましたね。1日で覚えるのは不可能に近かったですが。貴方には才能がありますよ」
サラスヴァティからもお墨付きが出た。そう。アリアは1日で全て覚えたのだ。これを才能といわずしてなんと言うのだろうか。
「サラスヴァティ、もう?」
「はい。もう十分でございます。」
僕は頷き、受託を行う。
「【受託】サラスバティ」
サラスヴァティは輝き、そして光の粒子となり消えていった。アリアはもう驚かなくなっていた。僕はステータスを確認する。
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望月理緒 17歳 男 村を救いし者
職業 青の契約者
スキル 召喚 契約 受託 武道の心得 鑑定
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新しく、鑑定のスキルが増えていた。更には、称号も変わっていた。サラスヴァティの中でも欲しかったスキルだ。これがあれば情報収集がしやすくなる。しかし、詳細を見ると僕のは所謂、劣化していて、自分の物のみ鑑定できるそうだ。
「ありがとうアリア。君のお陰だ。」
「ううん、私も魔法を教えてもらったから」
僕達は、笑顔で握手をしあった。そして、荷物を持ち外へと出る。アリアは分かっていたようで何も言わなかった。いつまでもここにいるわけにはいかないからそろそろ出ていかなければ。宿屋の外に出ると村人全員が集まっていた。もう、体調はよくなったのか。
「この度は、本当に有り難うございました。お礼もできず申し訳ありません。」
村長がみんなを代表として、僕に言う。
「いや、勝手にやったことだから」
「いやはや、流石は村の英雄。ご謙遜なさるとは。アリア。英雄であるリオ様に付いていきなさい」
「は、はい!」
村長……………グッジョブ!アリアは、宿屋へと準備をしに戻る。さて、俺は、村長に、聞きたいことがある。何故、俺の名前を知っているのか。アリアに教えて貰ったってことは無いだろう。つまりは、
「盗み聞き……か」
「いえいえ、偶然通りがかったら聞こえてきたものですから」
「さいですか」
「えぇ」
村長と話していると、アリアが荷物を持って戻ってくる。格好もいつものワンピース姿ではなくしっかりと冒険者の格好だった。そして、僕たちは村人に見送られながら村を出たのだった。
「良かったの?僕についてきて」
「良いの良いの!」
まぁ、それなら良いが。それにしてもどうしようか。次に行く場所決めてないんだよなぁ。言ったら怒られるかな?ん?待てよ?これだと僕が怖がってるみたいじゃないか!
「これからどうしようかな……?なんも決めてないんだけど」
「え?決めてないの!?」
「う、うん」
「はぁ~、じゃあとりあえずこの先にある、冒険者の街を目指そう!」
「お、おう!」
………駄目だ。怖ぇ。諦めよう。………それにしても、やっぱり一人じゃないって良いなぁ。アリアを守るためにも力をつけないと。
歩いているうちにいつのまにか夜になっていた。危ないので野宿することになった。焚き火を起こし、横になる。しかし、目は冴えていた。アリアはこういうのに慣れていなくて全く寝付けなそうだった。僕は、自然と話をしていた。
「……僕はさ、王都でさ戦ってたんだよ。そこでさ、僕のことを好きだと言ってくれる女の子が僕を守って死んだんだよ。だから、僕は守るだけの力がほしかった。そんなときに職業に目覚めたんだ……」
それから僕は、全てを話した。異世界から召喚されたことを除いて。アリアは、そんな僕の話を黙って最後まで聞いてくれた。そして、最後に
「そっか。」
たった一言。その一言で僕は、涙が止まらなくなっていた。くそっ!泣く資格なんて無いのに!
「うっ!………ぐぁうぁぁぁぁ」
その日、僕は号泣した。アリアは何も言わなかった。只、僕を抱き締めるだけだった。僕は、やがて泣きつかれて寝てしまっていた。
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村の英雄。弱くて、とても優しい。そんな彼が心をさらけ出してくれた。それが嬉しかった。本当は、喜んじゃいけないけど。リオの話は、聞いているだけで泣きたくなるような話だった。リオは気付いてないかもしれないけれど、その話をしているときから泣いていた。
そんな彼が、大事にしていた女の子に少し嫉妬してしまった。自分でも最低だと思う。でも、これくらいは許されても良いよね?アリアは、彼を抱き締めながら眠りについた。
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「糞がっ!」
俺は、側にあった樽を蹴り飛ばした。昨日、俺の子分とそのまとめ役が殺された。それも、全滅だ。この仕返しは絶対にしなくてはならない。それが盗賊団の棟梁ってもんだろう。
「おい、女をさらってこい。」
その子分を殺したやつ、そいつの弱みは間違いなくその側にいる女だ。あいつが助けに来たところで俺があの女を犯す。最高のシチュエーションじゃねぇか!
「グハハハハハ、あいつの絶望する顔が楽しみだ。」
この時、この事件が後にあんな結末を迎えるとは誰も想像していなかった。