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青の大罪~最強の契約~  作者: 幽玄の奏者
第二章 才能開花編
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奴隷の双子

「ん……………?」


 頭への衝撃で気絶してしまったらしい。油断していた。彼らはもう、襲ってこないものだと。しかし、そうではなかった。私は、急いで立ち上がり魔法詠唱の準備をする。私はてっきり、理緒も倒れているのではないかと思っていた。最悪の場合すら想定していた。


「ウッ……………アァァァァ!……………ハァハァ」


 聞こえてきたのは理緒の呻き声のような怒りの声だった。私は、自身の目を疑った。理緒が殺そうとしていた。自身の欲のために。過ごしてきたなかで理緒はそういう、人物ではないと理解していた。いや、そのつもりだったのだと目の前の光景が証明していた。しかし、理緒は怒りで我を忘れていたわけではなかった。しっかりと、自制心を取り戻しラナさんの首から手を退かす。ラナさんは、ゴホゴホと咳き込む。涙目になり、恐怖で顔を歪ませていた。


「あ…………………………」


 次の瞬間。ドサリ。理緒が糸の切れた人形のように倒れこむ。それこそ、死んでしまったのではないかと思うほどに。私は、平静を保っているように見せながら近づく。すると、息を吐く音が聞こえてきた。大丈夫だ。しっかりと、生きている。問題は理緒ではない。(いや、理緒も充分問題だが)


「ラナさん……………話し合いは出来ませんか?」

「……………どうせ無駄なのに」


 ボソッと溢した言葉。聞き取れるかどうかも怪しい声量であることから、本当に呟いただけなのだろう。だが、私には聞こえてしまった。


「無駄かどうかはやってみないとわかりませんよ」

「っ!?………スラムでの暮らしも、奴隷としての生活も知らないくせに」

「…………………………」


 胸を何か鋭い物で刺されたかのようだった。いや、それよりももっと衝撃がある。きっと、ここで間違えてはならない。だから、嘘を言うことは間違いだ。私は、今産まれて初めて真実を明かす。


「私は……………『                 』です」


 それを聞いたラナさんの顔は酷く歪む。きっと良い印象はないはず。それに、この顔を忘れはしない。いつしかの私と同じ目、顔。それは復讐・・のそれだ。


「う、嘘よ!だって、あなた無いじゃない!」


 それは、『   』である象徴。無ければ可笑しい。


「私は隠蔽魔法が使えます」

「そ、んな」


 隠蔽を解く。すると、みるみると驚愕の顔になる。青ざめている。それほどまでに衝撃を与えてしまうほどの事実だった。


「なんでお前が、『  』が!こんなとこにいるんだ!」


 それは、吹き飛ばされていたライト君だった。ボロボロの体に鞭を打って立ち上がっていた。左手はだらりと垂れていた。右手にはダガーを握っている。やはり、それは復讐心だ。


「私は……………嫌だった。『      』というだけで贔屓されるのも、好奇の目を向けられるのも。だから、逃げた。しかし、その逃避行も上手く行きませんでした。幼子である私は悪質な奴隷商人の手に捕まり、奴隷としての生活を余儀なくされました。幸い、幼すぎたため夜枷の練習などは一切ありませんでした」


 語られる真実。それは、二人の想像を越えていた。自分たちとは余りにも違いすぎた。しかし、それは反対だった。ライトたちが可笑しいのだ。奴隷としては厚待遇すぎるのだ。カマルトが狂人であれば、こんなことは、あり得ない。それが示すのは―――


「そう、だっんですね……………」


 何故か敬語になっていた。スルリと自然に出た敬意の念が込められていた。


「えぇ。そのあと、私は逃げられましたけど。……………父を無くしました。最後の家族を……………。だから、貴方たちとは、分かり合えるはずです。何故、攻撃してくるのか分かりません。ですが、私は、理緒は、貴方たちを助けられるはずです!」


 熱意の込められた言葉。その言霊が二人の心を震わせる。だから、白状するのだ。罪を認め、助けを求めて。


「理由なんて、大それた物は無かった。ただ……………恵まれているあいつを拒否したかった」

「お兄ちゃん……………正直に」

「分かってるよ!……………似てるんだ。あの顔」

「似てる?」


 顔の造形は似ているようには思えない。因みに十人に聞けば十人がライトの方がカッコいいと言うだろう。閑話休題。


「あの、悲壮感が。あの頃の俺に」


 そして、始まるのはライトの過去だった。ただ、ただ、憐れみしか抱けなかった。


「――――そして、私たちは和解。あとは、当初の任務通りです」


 幾つか、脚色はした。例えば私の話だ。ただ、説得したとだけ言うしかなかった。これを知られてはならなかったから。


「そっか……………。ラナさんは居る?」

「……………」


 グランデの後ろから出てくるラナさん。すっかり、怖がられてるなー。理緒は苦笑する。それも、当然だ。なんせ、僕は殺しかけたのだから。


「ごめんなさい。本当に酷いことをしました」


 だから、謝るのは人として当然のことだった。彼女の言うことは出来る範囲で叶えていく。近づくな、と言われればその通りにする。それが、僕への罪だ。


「その……………ごめんなさい。酷いことをして」


 和解は出来たものの、しこりは残った。ラナさんは、萎縮してるし他人行儀だ。いつか、わだかまりが消えたらいいのに、と切に願う。そして、僕が謝るべき人物はもう一人いる。


「ライト君は?」

「外にいます。夜のスラム街は危ないですから気を付けて下さいね……………」


 僕は、ベッドから立ち上がり外へと向かう。外に出ると寒さで左腕が痛んだ。周りを見ると、石垣のようなものに座っているライト君を見つけた。


「「…………………………」」


 目と目が重なり合う。互いにするべきことを理解した瞬間だった。







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