覚醒
暗い暗い闇の中。木霊する、声。そこには、僕の求めるものがあるのだろうか?いや、きっと無いのだろう。それでも………………。それでも、僕は、欲しい。それを求め続けたい。
やがて、木霊する声は鮮明になる。少女の様な少年の様な声。しかし、不思議と安寧をもたらしてくれるような…………そんな声。
「…………しい?」
この声は、僕の望む物をくれるのだろうか?答えが出ないまま声に手を伸ばす。なんでもいい。力を……………。力をくれるなら。
「……欲しい!………の力がっ!」
「……契約された。」
その声が途切れ、僕は―――――――――――
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「…………っは!」
僕は、目を覚ました。何か夢を見た気がする。とても大事な夢を。…………まぁ、今起きていることが既に夢物語なんだけどさ。
僕は、そんなことを考えながらいつものように訓練所へと向かう。すでに皆、超人的な力を発揮している。………僕を除いて。流石、チートキャラクター達だ。雑魚には、用はないってことだね。
僕は、そんな卑屈なことを考えながらクラスメイトと顔を合わせる。訓練所の前にはチートの中核が集まっていた。
天田翼 職業 勇者
巡音陽 職業 巫女
瀬戸川凉 職業 侍
潮風楽 職業 賢者
脇坂隆希 職業 竜騎士
この五人が主な戦闘力になるそうだ。職業の説明は、クルト団長が話していた。
勇者、全ての攻撃を半減、剣術が隊長並になるなどの色々な加護がある。オールマイティーな職業で、成長速度が異常に速い。
巫女、これはサポート特化の職業。回復、支援などの魔法を得意とする。又、魔法詠唱に対してのスキルなんかもあるそうだ。
侍、攻撃だけならば勇者を凌ぐ。又、その速度は勇者に、並ぶほどのものだ。しかし、スキルが特殊すぎるため扱い勝手が悪い。
賢者、炎、氷、雷、風、土、の五属性の魔法を扱う魔法のエキスパート。また、その名の通り情報系のスキルを持っている。
竜騎士、竜と心を通わし共に戦う職業。まだ、相棒の竜がいないため、あんまり意味がない。しかし竜がいなくても、十分強い。
隆希とは幼なじみで昔から仲が良い。昔はよく遊んだりしたものだ。隆希は、僕がオタクになるにつれて距離が離れていった。だが、最近、また仲良く話すようになった。本人いわく、僕と話してはいけないという暗黙の了解で守らなければならなかったらしい。
「おはよう、調子はどうだい?」
翼は、持ち前のイカした顔で挨拶をしてくる。正直、むかつく。答えはわかってるくせに。
「いや、相変わらずの無職だよ………」
やっぱり、という顔でそうか。と言い、天田君とその取り巻きは訓練所へと入る。そして、それにつられるようにクラスメイト達は訓練所へと入っていく。僕の横を通るとき殆んどの人が嘲笑うかの様な目で見てきた。…………応援してくれたのは、陽と隆希だけだ。
そして、僕も訓練所へと入った瞬間だった。地面が左右に激しく揺れた。あまりにも、突然な事だったので皆、あわてふためく。
「っ!じ、地震!?」
「………!いや、違う!襲撃だっ!」
クルト団長は、皆、クラスメイトを連れて外へ出た。そこで
見たのは、魔人と魔物が一般人を襲っている光景だった。その光景に相応しい言葉は、『地獄絵図』だ。
「私は、ヤング。王都を潰しに来た。」
その男は、空中に浮いていた。それは、骸骨のような男で、魔人だった。その骸骨の男は、僕らを見下すように言う。僕は肌で感じていた。こいつは、やばい。平和ボケした僕の脳が危険信号を出していた。
そんな相手に、クルト団長は真っ先に動いた。
「私とグランデであいつを相手する。お前らは各自で判断し、市民を助けろ!」
クルト団長の命令が言い終わると同時に、理緒のクラスメイトは、動き出した。あるものは回復魔法で支援を、あるものは剣で魔人を斬り、あるものは槍で攻撃を始めた。
しかし、皆が動く中、理緒だけが動かなかった。いや、動けなかった。恐怖で足がすくんでいた。
(なんで、お前らは動けるんだ!?怖くないのか?もしかしたら、死ぬかも知れないんだぞ!)
動揺し、足がすくみ、動けなかった。そんな奴を逃すわけがない。異世界人は、魔族にとって恐れるべき存在。理緒もまた、その一人だ。例え、それが無職の、無力の少年でも。相手には、そんなこと分かるわけがないのだから。目の前では、既に一人の魔人が自分を剣で刺そうとしていた。
(怖い。怖い。怖い。怖い!怖い!怖い!いやだ、死にたくない!)
「ッ!リオ!!」
横から、隆希が魔人を殺した。助かった。その安心からか、その場に座り込んでしまった。前からは、陽が駆けつけているのが見えた。
「理緒君!大丈夫!?………隆希君は、他の所に行って!理緒君は、私が守るから!」
「っ!わかった!任せたぞ!」
隆希は、再び、前線へといき、魔人や魔物をなぎ倒していった。理緒は、息が荒くまともな状態ではなかった。
「理緒君。君は、私が守るから。」
「…………ま、も、る?」
「うん!」
彼女は、理緒の言葉に頷き、微笑みかけた。その笑顔に理緒は救われ、少しでも頑張ってみようと立ち上がろうとしたその瞬間だった。
ーーーーー陽の首が撥ね飛ばされたーーーーー
その光景は、あまりにも一瞬で儚かった。それでいて、とても残酷だった。その光景は、焼き付かせるかのように理緒の目を離そうとしなかった。
「うぇ?え、あ…あぁ…………うぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!!」
理緒は、助けを求めた。ひたすら、言葉にならない悲鳴で。目の前の魔人は泣き叫ぶ理緒を見て、ニヤリと醜悪な笑みをこぼした。
「ふ、はははっ!いいか?よく聞け小僧。この女が死んだのはお前のせいだ!お前が、弱いから、死んだんだ!」
この男は、人の絶望した顔が大好きだった。それが故の言葉だった。本来ならば、殺したのは、この男であり、理緒が悪いわけではない。
だが、理緒は彼女を亡くしたショックで狂っていた。
(そうか…。僕が、彼女を陽を殺した。僕が!陽を!殺したんだ!僕が弱いから、僕に力がないから!力が欲しい!…………僕(俺)には力がいる!)
ふと、今朝の夢がフラッシュバックする。
ーーーーーーーーーーーー
……………………。
「力が欲しい?」
欲しい。大切なものを守れるだけの力が。
「貴方は守るための力を欲した。そして、その思いは青に契約された。」
ーーーーーーーーーーーー
ドクン。ドクン。心臓が脈をうつ。
さぁ、喚べ。
現れろ
「 あ、現れろ…… 」
「あぁ~?どうしたんだ?」
我が力よ
「 我が…………力よ! 」
「あ?壊れちまったのか?……はあ、つまんねぇなぁ。……!うっ、ぐぎゃあぁ!!」
何が起こったのか、理解できなかった。理緒は顔をあげた。そこには、中性的な顔立ち。真っ白な体。額から生えた捻れている角。背中には、大きな三枚二対の真っ白な翼。…………天使がいた。
「 我が名はルシフェル。神に愛されし大天使。我を喚びし者よ。契約を結ばれよ。我が求めるは、人の感情。さぁ、契約を。 」
なんでもいい。力をくれるなら。どんな危険な力だろうと、使いこなしてやる。
「契約だ。お前の力を貸せ!」