ガルメハ砦の人狼(1)
出すのが遅れてすみません!グランデ目線です。
「すみません!」
私は、理緒に謝った。何故、謝ったのかというのもソルトさんの尾行――――――もとい、護衛を一緒に行うはずだったからだ。しかし、ギルドからの要請でガルメハ砦の調査をしなくてはならない。都合の悪い時にこんなことがあるから、冒険者としては働きたくなかったのだ。
「いや、いいよ」
理緒はそう言っているが、額には汗が流れている。口元も僅かにひきつっていた。仕方がないとグランデは思う。何せ、相手は今の理緒には格が圧倒的に上なのだから。
(とか思ってるんでしょうね…………)
しかし、実際には逃げる《だけ》ならば問題がないといったところだろうか。何も壊滅させる必要はないとグランデは考えている。そうすると、ソルトさんへの試練は失敗になるのかもしれないが命あってだと思う。勿論、それは理緒には話していない。意味がないと分かっているからだ。きっと、彼は何としてでもソルトさんを幸せにしようとする。それが、分かっているからこそ私が一緒に行けないのが懸念される。
「グランデさん、そろそろ」
カマルトさんに声を掛けられる。カマルトさんやジークフリートも今回のメンバーで、既に馬車の準備を始めていた。ガルメハ砦は、理緒の行き先とは反対方向の森を抜けた先にある砦で、その昔に人間同士が戦争を行っていた頃に使われた砦で、古びてはいるが決して壊れはしない。
「じゃあ、行ってきますね」
「うん、気を付けてね」
「ただの調査ですから、大丈夫ですよ」
「そっか。じゃあ、僕もそろそろ準備するよ」
そう言って、理緒は門の近くに隠れる。私たちは、馬車に乗り、門を出ていく。ガラガラと馬車の引く音が聞こえる。
「今回の依頼の事、話してないんですね」
不意にカマルトさんが話しかけてきた。
「はい。理緒には盗賊の方に集中してもらわないと」
「でも、驚いたな」
「何がですか?」
「君と仲良くなる人が現れるなんてね」
そう言ったカマルトさんは、笑う。いや、普通に失礼ではないだろうか。私だって普通に仲良くなる人ぐらい……………あれ?いない?まず、始めに出てくるのは理緒、そしてシャルル姫だ。他には同僚だった……………いや、それは違う。仲がよければこんなことにはなっていない。
「はは、何か難しい事考えてる?」
「いえ、別に」
「そう?なら、いいけど。……………というかさ、このメンバーはどう考えてもおかしいよね」
「ええ。それほどまでに、この依頼が難しいのでしょう」
「それでもさ……………」
この馬車には、依頼の要請が来たメンバーは全員乗っている。その、どれもが二つ名持ちだ。しかし、そこまで人数はいない。
Aランク
《炎姫》と呼ばれていて妙に私に対抗意識を燃やしているララディ。
《氷姫》こと私、グランデ。不本意な名前だ。
Sランク
《豪剣豪腕》ことジークフリート。その一撃はドラゴンの一撃に勝ると言われている。
《疾風迅雷》ことカマルト。速すぎるがゆえに雷のようだとされている。
《鎧獣》と呼ばれるアルド。頑丈すぎる防御、獰猛な攻撃は恐怖を抱かせる。
正直、私らAランクは必要ないと思う。しかし、相手はAAレートだ。それにこれも、現在の推測でしかない。ギルドの予想としてはSランクだと言っていた。
「おいおい、怖がってんのかよ?」
「そう言うな、ジークフリート。誰でも怖いさ」
優しくフォローしたのは、《鎧獣》ことアルド。彼は、とても紳士的な人でその引き締まった体は見るものを惹き付ける。そして、相変わらずジークフリートの世話をしている。実を言うとこの二人は最強のコンビとして知られている。実際、この二人が組んだ依頼は失敗などない。
「あら、私は怖くないわよ?グランデは怖いんでしょうけど」
「はいはい」
そして、ララディが茶々を入れ、カマルトさんがフォローする。この二人は、幼馴染みなのだ。
「おっと、ガルメハ砦が見えてきたぜ」
ジークフリートの目線の先には古い砦があった。苔が生えているが、その強固な外囲いは壊れていない。周りは森に囲まれているので今回の依頼には不利だが、ここにいるというのだから最悪だ。
「うっわー、身体能力で劣ってるのに、地形でも劣るなんて最悪だね」
カマルトさんは、嫌そうに言う。皆は、それに同意の言葉を漏らしている。ララディなんかは、思いっきり首を縦に振っていた。その気持ちはわかる。だって、魔法を使うには最悪な地形で更に周りは森だ。ララディの得意な火魔法は活躍しない。それでも、選ばれたのはその他の魔法も優れているからだが。
「さて、奴さんがくるまで作戦会議といこうか」
「そうだな」「そうね」「ああ」「はい」
カマルトさんの言葉に、アルド、ララディ、ジークフリート、私の順に答える。全体的な指揮や統括はカマルトさんということになっている。
「先ずは、ララディとグランデの魔法による牽制。後に、アルドさんが相手を引き付けて下さい。」
「「「了解です(だ)(よ)」」」
「そして、僕とララディとグランデが主力となる。ジークフリートは……………待機。」
「おいおい!何でだよ!」
「お前が速い動きができる武器か?」
「アルドはいいのかよ!?」
「アルドさんは、今回盾役だ」
ジークフリートとカマルトさんが、言い争う。しかし、こんなのは日常茶飯事だ。二人は親友らしい。
「ちっ、わかったよ」
「よし、じゃあ」
その時だった。
「クウォォォォォォォォォン!」
それは、遠吠え。耳に響き渡る轟音に体が怯む。来たのだ。今回の依頼。それは、ガルメハ砦に、生息する人狼の討伐。獣人族には人狼へと変身できる者がいる。しかし、今回は犯罪者だ。殺人を犯した。しかも、村二つを潰すほどの人数をだ。
「グァ」
どこからとまなく、血を吐く音が聞こえる。まさか、そんな。何一つとして見えなかった。
「コレデヒトリメ」
私達の前には人狼がいた。人狼はアルドさんの首を持っていた。ララディは既に走り出していた。
「逃げるわよ!」
「ええ!」
その声に続き、走り出す。これは、想定外だ。明らかにこのパーティでは負ける。いや、あの二人ならば。ちらりと、後ろを見るとそこにはカマルトさんしかいなかった。ジークフリートがいない?何処に?しかし、その疑問は衝撃で返された。
「……………ッ!」
「もういいよ。お疲れ」
「アア」
「ど……………ういうこです?」
「簡単さ。この人狼は僕の飼い犬なんだ」
「カマルト……………あなたは一体」
「《赤い月》」
「……………!」
確か、理緒が向かっているのは赤い月の拠点。まさか、と嫌な予感が頭をよぎる。
「ジークフリートは今頃、貴族の娘を連れてリオ君を殺しに向かっているはずさ」
「そんな……………何故ですか?貴方は理緒に技を教えたのでは?」
「それは成り行き上仕方なくさ」
「《赤い月》の関係者なんですね……………?」
「関係者っていうか、設立者だね。んで、ジークフリートは棟梁だ。」
まさか。なら、私達は騙されてここにいるのですか。何の狙いがあって?
「ふふ、僕の狙いはただ一つ。君さ、グランデ」
妖しく笑い、すり寄ってくるカマルト。逃げようとするが、衝撃で足が動かない。カマルトは、じわじわと私に手を伸ばしていた。ララディは逃げ切ったようだ。助けを呼んでくれるのを期待したいが街からは遠い。それまでに、私の貞操が守れるだろうか。カマルトが私の服に手を掛ける。それは、理緒から買って貰ったものだった。ビリビリと音がして服が破ける。肩のところが破け、肌が露になる。ああ、このまま私は喪うのだと早々に諦めがついた。
「ふふ、良い子だ」
それを感じ取ったカマルトは、妖しく笑い手を胸へと伸ばしていた。触られる!瞬間的に目を閉じ、その時を待つが一向にこない。
「は、ははは。本当に君は嫌いだよ!リオ!」
「僕は何もしてないけどね。どちらかというと」
理緒は息を思いっきり吸い込み叫んだ。
「お前だろうが!」