大暴走
「我、仇なす敵を打ち破りて、彼の力を示さん!その氷、全てを砕き、道を開かん!『氷雪爆破』」
グランデが魔法を唱えた。すると、大きな氷の塊が少女の前に現れる。少女を襲おうとしていたゴブリンは、肉片となって飛び散っていく。うわー、くらいたくないな。自分の顔がひきつっているのが、わかる。その間にグランデは、少女の前まで行き両腕で抱えるようにしていた。
「彼、死して尚我を愛さん。幾度も会いて抱き締めん。『終わりなき愛』」
グランデが唱えると、少女が光で包まれていきく。それは、ゆっくりとだが少女の傷付いた体を癒してく。
「グランデはその子を連れて町へ!」
「理緒は!?」
おっと。初めて、理緒って読んでもらった気がする。てか、聞かなくても分かるだろうに。
「勿論、時間稼ぎさ」
「分かりました!」
グランデは、走る。町の中は安全だ。ただ、中の人が門を閉めようとしているから、僕ははいれないだろう。僕は、ダガーを構える。左は通常通り、右手は逆手に持つ。ダガーの二刀流だ。ナイフは使わない。
「はぁ……………よし、行くか」
一度、深く息を吐き思いっきり走り出す。相手は数千のゴブリンだ。僕は、自分の中のギアを入れる。瞬間、意識が変わる。
相手は数千。しかし、一撃で倒せば問題ない。
止まるな。駆け抜けろ!
必要な情報はただひとつ。相手の首の位置。
それ以外の情報は捨てろ。
自分に言い聞かせる。僕の世界は急激に色を失い。ゴブリン以外が真っ黒に染まる。まるで、拒否するかの如く他の情報を受け付けない。
僕は、すれ違うゴブリンの首を斬っていく。的確に一撃で。ひたすら。流れるように進み、作業のようにダガーを振るう。
「うぉぉぉぉぉぉぉーー!!」
更に、スピードを上げる。
誰も俺を傷付けられない。誰も僕を倒せない。弱者は、死ぬだけだ。僕こそが、強者。僕こそが……………!
「が……………はっ!」
吹き飛ばされる。ゴブリンごときに?ありえない。顔を上げると、そこには小鬼ではなく、鬼が立っていた。確か、こういうのを
「……………オーガ!」
「グァァァァァァァァォォア」
オーガは雄叫びを上げ、その手に持つ大剣を掲げる。オーガは、赤く血を連想させた。その、額に生えている角は立派で恐怖を感じた。
それでも、理緒は立ち上がった。吹き飛ばされた、衝撃で左腕が動かない。右腕にダガーを握り、オーガに向かって走り出す。
「アァァァァァァ!」
恐怖を隠すために叫びながら。オーガは、そんな僕を見て、笑みで顔を歪ませながら大剣を振り下ろす。まるで、赤子を扱うように易々と。僕は、それをダガーで受け流しながす。
「……………ウガッ!?」
オーガは驚いたようだった。ざまぁみやがれ。しかし、代償は大きい。右手首が痛い。気にするな!自分に言い聞かせて、受け流した勢いをそのままに、オーガの手を斬りつける。そのまま、ダガーを走らせ、腕を斬る。そこで、前転をして足の間を通り、オーガの後ろへと出る。そこで、思いっきり
「背面打突!!」
突き刺す。心臓を狙って。本で見た真似をしただけの技だ。僕の戦いの技術は全てがライトノベルや漫画の真似だ。
「グァァァゥゥゥ!?」
オーガは、痛みで咆哮をあげる。右手をふりまわさられ、それに当たり再度吹き飛ばされる。しかし、直ぐに起き上がり折れているであろう右腕と左腕でダガーを持ち、前進する。
「うぉぉぉぉぉぉぉー!」「グァァァァァァ!」
お互い叫びながら、僕はダガーをオーガに、オーガは大剣を僕に。僕に大剣が当たる寸前
「アイスボール!」
氷の玉が大剣に当たり、軌道をずらす。グランデだろうか。分からない。でも、僕がいますべき事は、オーガを殺すことだ。
「ウァァァァァァ!!」
心臓を貫く。と、同時に倒れる。痛い。死ぬ。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。死ぬ。
すると、暖かな光が僕を包む。目を開くと、グランデが膝枕をしていた。
「あ……………と」
ありがとう。と言ったつもりが、血が口の中に溜まっていて、上手く言えない。そして、次に僕が見たのはゴブリンの屍だった。全部、僕が殺したゴブリンだ。周りを見るに、あのオーガで最後だったらしい。てか、数千も倒したのか。
しかし、僕は見てしまった。赤鬼を。数千を越えるオーガが迫って来ているのを。
「嘘……………だ、ろ!?」
無理だ。そう思ったとき、筋肉が僕の目の前に現れる。それは、赤毛の、あの冒険者だった。
「Bランクのオーガを倒すとはやるな、お前さん。まぁ、こっからは俺の仕事だ。」
その、言葉が聞こえると僕は意識を失った。最後に微かにだが、赤毛の大男がオーガの群れを一人で戦って、いや、無双しているのが見えた。