我が主
「…………」
パンドラが、開幕速攻で魔法を撃ってきた。それは、紫色の球で速度はあまり早くはなかった。油断せず、当たらないようにしっかりとその魔法弾を見ながら横に避ける。しかし、その魔法弾は背中に直撃した。
「ーーーーッ!」
それは、思ったよりも、痛かった。後ろから、鈍器で殴られたような痛みだ。あまりの、痛さに目の前に相手がいることも忘れてうずくまる。
「避けたのにもかかわらず、当たった。……まさかホーミング弾?」
「ホ、ホーミング弾って何?」
そういうことには、詳しくない陽が隆希に聞いていた。立ち上がって見ると、二人の回りは透明な壁で覆われていた。何をしたのかは分からないがきっと安全だろう。
「……………簡単に言うとホーミングってのは自動追尾みたいなもん……………かな」
そう。つまり、避けるのでは意味がない。むしろ、逆効果だ。追い詰められていくだけ。
「仕方がない…………。アザゼル、あの魔法弾が来たら全て防いでくれ!」
アザゼルの空間・空気支配のスキルがあれば大抵のものは防げるはずだ。現にあの大蛇を防いだ時の空間の歪みはこのスキルだろう。
しかし、そう簡単にはいかなかった。パンドラの上空に何十もの魔法弾が浮かび上がっていた。
「………………嘘だ」
流石に何十もの魔法弾は防ぎようがない。僕は諦め、地に手をつく。その時に、ペインが手から外れた。……………ペイン?あった。起死回生の方法が!防ぐんじゃない…………。そうか、そうすれば良かったのか!希望が垣間見えた僕は、立ち上がる。
「来い!」
その声に反応するかのように、パンドラが魔法弾を撃ってきた。しかし、それを避けずにペインを構える。そして、弾が当たる直前
「【霜月】!」
武器スキルを発動させた。たちまち紫色の霧が辺りに蔓延する。このスキルは、全てを反射する霧だ。つまり、ホーミングの魔法弾は全てパンドラへと返っていくはずだ。これが、起死回生の一撃。
「ど、どうだ?」
中々の手応えに思わず言ってしまった。フラグを立ててしまった。当然、フラグを立てたら……。霧が晴れ見えたのは傷ひとつついていないパンドラだった。
「さ、流石に傷の一つはついててもいいんじゃない?」
あまりの、強さに愚痴をこぼす。更には……。
ピキピキーー。ペインと鎧がが粉々に砕け散った。まさか、あの魔法弾に耐えきれなかった?でも、威力は…………高いわけではないのに?分からない。
この時、理緒は気付いていないが、いや知る由もないが、この魔法弾は、相手の魔力を奪い取る魔法なのだ。だから、魔法を使えない理緒は気付かない。そして、ペインや鎧は魔力を大量に持つ幻獣の素材だ。だから、こそ耐久値を無視して壊れたのだ。
「……………幻魔級の武器が…………」
これで、パンドラに勝つことは不可能に近くなった。僕が唯一対抗できる最大の切り札だった。最大限の強みがなくなったのだ。
「終わったな………。アザゼルは使えな、いし?……………え?」
僕が見たのは、白い燕尾服を来て背中に細長く下に垂れ下がっている翼がある9頭身でやけに白い肌の男だった。
「やっと…………やっと真の姿を見せられました。改めて、私はアザゼルと申します。我が主、あの少女……私に任せてもらえませんか?」
「あ、あぁ。うん、た、のむよ?」
アザゼルと名乗った男は、膝を付き頭を下げながら懇願してきた。困惑しながらも、返事をすると、
「承知しました。」
とだけ、言いパンドラへと物凄い勢いで飛び出した。先程まであった、十メートルの距離をたったの一歩で縮めると、
「ご退場願います。」
その言葉と共に手をかざしパンドラを消し去った。……え?もう、終わり?さっきまでの苦労は?シリアスな雰囲気は?そんな僕の気持ちを知らずに戻ってきたアザゼルは
「任務達成……ですかね?」
爽やかな笑顔をみせるのだった。
………………ごめん、誰?
ーーーーーーーーーーーリュウキside
「リオ……このままじゃやべぇぞ………………。」
俺は、リオが魔法弾に攻められているのをみて呟いた。その瞬間だった。
ドサリーーーー。
何かが落ちる音がしたのでその方向を見るとハルが倒れていた。
「な!?どういうことだ?」
俺は、慌ててテスカトリポカに確認しようとするが、
「お前……お前がやったのか?」
「そう悪く思うな。少々お主と話がしたかったのじゃ。」
「話ならハルがいてもできるだろ……!」
のじゃ喋りをするテスカトリポカにイラつきを覚えていた。
「いや、秘密の話じゃからのう。その子は駄目じゃ。」
「……そうかよ。で?何だ?話って?」
「はぁ、何でそんなに急かすのじゃ?全く……。まぁよい。……お主、力が欲しいと思ったことはないかの?」
そう言ったテスカトリポカの顔は笑みを浮かべていた。