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一話

「………………」


周りは全て闇に飲まれた空間。そこに一人の少女が、まるで胎児の様に丸まって眠っていた。

そこへ、小さな光の球が少女の顔のすぐ前を横切った。少女は目を開き、光を見つめると少し微笑み、桜色の唇が僅かに上下した。



「……魔力の異常増幅を確認………これより対処する……」



そう呟いた少女は光の球を手に取ると、まるで最初から居なかったかのように、その姿を消した。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







月夜に輝く黄金の城、ゾルディア城。それは世界有数の守護結界陣を保有してる魔導帝国セントガルドの首都、シヴァルトの象徴。その城下はいつもの清楚な雰囲気を漂わせる静寂では無く、兵士達の焦りが浮かぶ叫び声が慌ただしく響いていた。


「探せ!絶対にお連れするんだ!」


「くそっ!一体どこにお逃げになったんだ!」


兵士達の会話で、身分の高い人物を探していることがわかる。そこに、1人の兵士が隊長らしき男に向かって走ってきた。


「ハルマータ隊長、ご報告です!調査の結果、東門の方に姫様と思わしき女性とその従者が軍用馬で走っていくのを、この近くの住人が目撃した模様です!」


「何んだって⁉︎くそっ……馬で逃げられてはこの装備では追いかけられない……それに外は危険だ。」


隊長と言われた青年は苦い顔をしながらも、逃げた要人を心配していた。


「ですがハルマータ隊長、姫様の剣術の腕は相当のもので、歴代の英雄を彷彿させるほどだとお聞きましたが…」


「それでもだ。姫様はまだ子供でいらっしゃる……世の中にある危険をまだわかりきっていない……。馬を用意しろ!」


「はっ!」


ハルマータは部下に指示をすると、探し人の向かった方向を向いて思わず舌打ちをした。


「まずいな……東は“魔物”の目撃情報がある。それに、東はあの村があったな……」


「あ、確か隊長の故郷も東の方でしたね……」


近くにいた部下の女性兵がハルマータに話しかけていた。


「あぁ、小さな農村だから戦力は少ない。魔物に襲われてなければ良いんだが……」


ハルマータは表情を少々強張らせて唇を噛み締め、いつも優しそうな目は、鋭く獰猛な目をしていた。そこへ、ハルマータの部下が馬を連れ戻ってきた。


「隊長、馬のご用意ができました」


「ありがとう。隊の半数は首都に残りここの防衛を!残りは私に続けっ‼︎我らに戦乙女の加護があらん事を!」


『うおぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎』


ハルマータの叫びと共に、真夜中の首都に雄叫びが鳴り響いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「カリム……そっちへ行ったぞ……!」


「あぁ……まかせろ……」


親友の声が聞こえる。俺はカリム・ヴェレーム。この村、ラストン村に住むただの狩人だ。今、親友のテスタと鹿の狩りをしている。


「カリム、落ち着けよ。相手はいつもの鹿だ。」


「わかってる。今は気が散るから話しかけんなよ?」


いつもより集中し、弓を引く手が震えてるのがわかる。狩りは、その震えも命取りとなる。落ち着くためにと深呼吸をすると震えが少し治まり、目が冴える。流れるように矢を引く指を離し、くの字に曲がった弦は一気に元の姿に戻り、その運動により矢は速度を得て獲物目掛けて飛ぶ。矢は獲物の丁度心臓部分に突き刺さり、その息の根を止めた。


「よし!鹿丸ごと1匹確保っ!」


「最近の狩りは調子いいな。それに、鹿の肉付きもいいし、皮も頑丈で良いものが作れそうだ」


「おう!………あれ?」


「どうした?テスタ」


「いや、これ見てみろよ……」


テスタが指差した先には俺たちがさっき仕留めた鹿。いつもより肉付きがよく、頑丈な皮を俺が射抜いたからか、矢が根強く鹿に食い込んでいる。赤い血がどくどくと流れ、このまま血抜きせずほっとけば血生臭くなってしまう。だがその流れている血が妙だった。


「血の量が多い……?」


血はまるで鹿の体から湧き水のように異常なほど流れている。


「あぁ、弓矢で心臓を射抜いてもこんなに血を流すんなんて普通ありえねぇ。」


「……とりあえず村長に報告してみよう、今の俺たちじゃとても対処しきれない。」


俺は困惑しながらも、今日残りはここまでだと思い、狩りの道具を片付け、血抜きの作業をしようとしたとき…


「キャァァァァァ!!」


「っ‼︎……悲鳴⁉︎」


突然森の自然な音に混じって女性の悲鳴が響いた。俺は即座に近くの木に近づき、木の表面に掘られた東西南北の印を確かめ、悲鳴が聞こえた方角が西だとわかった。


「テスタ!村長の報告は任せた!」


そう言うと、俺はテスタを置いて、いつも通っている獣道を選び、走った。


「え⁉︎ちょ、おま!危ねぇだろ!戻ってこい!」


「大丈夫!矢はまだ残ってるから!」


「そういう問題じゃねぇ!」


テスタの叫びは、もうテスタの視界から見えなくなった俺には聞こえなかった。




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