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「それはこの前も言ったでしょう。わたしは、スチュアンティック家の娘なのですよ。」
あなたの敵の娘なのですよ。
心の中でそう付け足し、それ以上にはないと伝えるために真っすぐレオンハルトの目を見た。
しかし、レオンハルトも簡単には信じなかった。
「本当にそれだけか?」
「えぇ。」
アメリアは表情が変わらないように気を付けながらうなずく。
「わたしがあなたを憎んでいるわけではありませんが、立て前は必要でしょう。スチュアンティック家が王家の敵と公言しているから、貴族たちは今の均衡を保てているのではありませんか?」
王家に不満を持つ者は少なからずいる。
そして、そういう貴族たちは必ずスチュアンティック派となる。スチュアンティック家が、反国王派の中で一番力を持ち、血筋の良い家だからだ。
でも、それだけの力が集まってもスチュアンティック家が反旗を翻さなければ、他の者たちも動かない。
それが近年続いている、この国の均衡を保った平穏だった。
「確かに、先の戦争の後、スチュアンティック家が反国王派と名乗りながら、裏で反国王派を抑えていることは薄々気付いていた。」
これ以上の血を流さないためにと、スチュアンティック家は反国王派を抑え、王家を支えることに決めた。
レオンハルトはそう聞いているはずだ。
「ですから、わたしはあまり王家の方、とくに男性と親しくしてはならないのです。そんなことをすれば、言うことを聞かなくなる貴族たちが出てくるでしょうから。」
実際にはそんなつもりはなくても、スチュアンティック家が親国王派になったと思われれば、裏切り者と言う人がいるだろう。
貴族社会とはそういうものだ。
「俺はな、アメリア。」
レオンハルトが静かに言った。
「スチュアンティック家との対立とか、そういうものはなくしたいと思っている。」
「それは・・・とても難しいことだと思いますけど。」
それはもちろん、とレオンハルトがうなずいた。
「だが、今現在戦争のない国となったイザリエに、再び王位争いの戦争を起こしたくない。」
「・・・。」
アメリアたちの祖父、そして父が戦った先の戦争では、王侯貴族を含め多くの国民が亡くなっている。
もう意味のない戦いによって誰も死なせたくない。
レオンハルトの言葉に強い決意を感じて、アメリアは息を飲んだ。
「そして、スチュアンティック家が一公爵として、王とともに政治を行えるようになった時、俺は・・・」
レオンハルトの瞳が、熱っぽさを伴ってアメリアの瞳と合わさる。
「俺は、お前を王妃にしたい。」