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ヴィクターは薄暗い牢獄の廊下で、高い靴音を鳴らしながら歩いた。牢番と、捕らわれているアメリアに気づかせるためだ。
「ファドリック侯爵。」
牢番をしていた兵士がヴィクターに気づき、敬礼する。
「ご苦労さま、中へ入ってもいいか?」
「はい。」
兵士が三重にかかった鍵を開ける。
暗闇の中で、恐ろしいほど美しく輝く銀髪を揺らしてアメリアがゆるりと振り向いた。
「誰?」
不安げな声が、誰が来たのかと問う。
「国王近習をしております、ヴィクター・ブラッドフィールドと申します。」
「ファドリック侯爵さまですか。」
先ほどよりも少し落ち着いた声で、アメリアは呟いた。
「陛下からご命令を受けまして。」
「・・・えっ?」
牢の扉を開けて、ヴィクターは右手を胸に当てて頭を下げた。
(これでいいのですね、陛下。)
「陛下はあなたを求めていらっしゃいます。一緒に来ていただけますね。」
・・・・・・・
王都の東の端、ハシュヴァ平原と呼ばれる場所で、スチュアンティック反乱軍とイザリエ王国軍は向かい合っていた。
それぞれに陣を構え、代表者を交渉に行かせるだけではらちがあかず、双方の指導者同士で話し合うことになった。
いきなり戦争をするのでは、双方とも利がない。それを分かった上で武力行使をせずに交渉が始まった。
「ディファクター公爵にお聞きしたい。なぜ、今になって反乱を起こしたのだ。」
レオンハルトにとって不思議だったのはそれだ。
イザベルの王妃推薦を断られたからでは、理由としては弱すぎる。それに、アメリアが王妃になるというのに。
「アメリアと婚約をして、油断していると思ったのだ。我々はずっと反乱の時期をうかがっていた。かつて我がスチュアンティック家が有していた、王位継承権を取り戻すために!」
ヘンリーが胸をそらして叫ぶと、反乱軍からは歓声が湧き起こった。
「それは先の戦争で決着がついたはずだ。長年の戦争の末、スチュアンティック家からラン=シュバーウェン家に王朝が変わった。それを理解したからこそ、スチュアンティック家は一公爵家となることを了承したのではないか?」
「一公爵とは無礼な!ラン=シュバーウェン家は武力という野蛮な力で王位を奪った。このヘンリー・スチュアンティック、命をかけてでも我が一族の名誉を取り戻す!みなのもの、剣の抜け!」
ヘンリーの声で一斉に剣を抜く、甲高い金属音が曇天の低い空の下で反響した。
レオンハルトをはじめ、王国軍の兵たちが身構えた、そのときだ。
「お待ちください!」
これから血の海となるこの場にふさわしくない、若い女性の声が聞こえた。
二頭のひづめの音が坂を駆け下りて、レオンハルトとヘンリーのいる中央へと走る。
砂ぼこりを巻き上げ、雨を誘う強風に輝く銀髪をなびかせるその少女。
「アメリア!」
愛しい少女の登場に、レオンハルトは驚きのあまり剣を取り落とした。