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ヘンリー・スチュアンティックが反乱を起こしてから三日。反軍との交渉は、平行線をたどっていた。
王国軍の本営になっている王都のはずれの城塞。物見台に登ったレオンハルトは、遠くディファクターの方角を見つめる。
すでに、方々で小競り合いが起き、怪我人が出ていた。
イザリエ王国の王都は広く、視界に入るのはすべて王都の町並みだ。ここに住む人々を、レオンハルトは守らなくてはならない。
「すまない、アメリア・・・」
ここにはいない、愛しい人に向かってつぶやく。
「お前を傷つけるだけだと、分かっていたのに・・・」
家同士の溝は埋まらず、いつ関係が崩れるか分からない。
そんな状況の中、幸せな時間だったからこそ、失ったときの衝撃は大きいものだった。
「・・・ちっ」
舌打ちをして、物見台の柱を力いっぱい殴る。
「陛下・・・」
後ろに控えていたファドリック侯爵ーーヴィクター・ブラッドフィールドが、苦々しい表情でレオンハルトに声をかけた。
「なんだ、ヴィクター?」
「あの・・・いえ、なんでもありません。」
何か言いかけて、しかしためらったのか、結局口を閉ざす。
普段は国王のレオンハルトとも気さくに話男である。その気遣いが、妙に苛立たしい。
「なんだ?言いたいことがあるならはっきり言え!」
刺々しく言い放たれた言葉に、ヴィクターは驚き、困ったようだった。
「はい。・・・それほど、アメリア嬢を大切になさっているのだなと思いまして。」
返す言葉を失った。
大切だ。
愛している。
そんな言葉では、言い尽くせない。
王は国と結婚する。王妃を持つことも世継ぎをなすための仕事のひとつ。それでもせめて、と思い選んだのがアメリアだった。
しかし、スチュアンティック家は王家の敵。アメリアとも限度を保って接してきたはずだった。
スチュアンティック家が、ラン=シュバーウェン家に、ひいてはイザリエ王国に害なす存在となったときに、アメリアのことも含めて早急に切り捨てられることができるように。
それらをすべて忘れて、彼女を愛した。
「陛下!」
物見台の下で、一人の伝達兵が叫ぶ。
「申し上げます!反乱軍が間もなく王都の東に入るもよう、ご采配を!」
国と民の未来はレオンハルトにかかっている。ここで迷っている暇はない、それなのに・・・!
「・・・陛下。このヴィクター、陛下にご恩がございますれば、どのような命令も覚悟しております。もちろん、命令違反も。」
芝居がかったセリフで、ヴィクターは笑った。
「ヴィクター・・・感謝する。」
不適にニヤリと笑ったレオンハルトは、物見台の下、己を見上げて敬礼する多くの兵たちに向かって叫ぶ。
「進軍だ!全軍、反乱軍本陣を狙い、ヘンリー・スチュアンティックを打て!」
わぁぁー!と、歓声が上がり、進軍の準備が始まる。
過ぎたことでくよくよしていても仕方ない。
叶えたい願いがあるなら、自分の手でつかみとるまでだ。
(アメリア、お前が欲する平和な未来のために。)