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異常なほど静かな王城の廊下に、コツコツと軍靴の音が響く。
両手首を戒められたアメリアの肩で、つややかな銀髪が揺れた。その細い肩が不安に震える。
しかし、少しも怯えていないと示すように、真っすぐに前を見据えていた。
フォークナー少佐が、廊下のつきあたりにある大きな扉を叩いた。
「国王陛下、アメリア・スチュアンティック嬢をお連れしました。」
「・・・入れ。」
短く返答があり、扉が開かれる。
「失礼します。」
フォークナー少佐に続いて頭を下げながら部屋に入ると、そこには数人の男たちが椅子に腰かけてこちらを睨んでいた。
宰相アーレーンズ侯爵、国王近習ファドリック侯爵、将軍カーウェンス伯爵。五卿と呼ばれる高位貴族官僚のうち、4人。あとの一人は、ここにはいないスチュアンティック家ディファクター公爵である。
そしてもう一人、中央で優雅に足を組んで座る青年。
「・・・レオン。」
ふいにアメリアの心が揺らいだ。
本当は怖く泣きたくてたまらないのに、アメリアの立場がそれを許さない。
小さく呟かれた己の名を聞き、レオンハルトは眉間にしわを寄せて苦しげな表情をした。まるで、ほとばしりそうな激情を身の内で押し殺すかのように。
「レディ・アメリア。あなたは父君の反乱のことを知らなかったと聞いたが、それは真実であるか。」
カーウェンス伯爵が重々しく口を開く。
「はい。」
「だが、レディ・イザベルは父君とともにいるぞ?」
「よく、分かりません。父が反乱の計画の立てていたことなど、存じませんでした。」
言葉を、はっきりとゆっくりと紡ぐ。
「わたしに知らせずに反乱を起こした。ならばわたしは、人質にはなり得ませんね。」
父はアメリアを見限ったのだろう。
自分の意のままにならない娘など、反乱を起こす際はじゃまでしかない。
ふっと悲しげに小さく笑みをこぼしたアメリアに何を感じたのか、アメリアに刺さる視線が幾分弱まる。
「アメリア・・・。」
レオンハルトが何か言いたげにアメリアの名を呼んだ。
もどかしそうに口を開いては閉じるが、何も言えない。
あたりまえだ。
婚約者として慰めたくても、彼は国王で、アメリアは敵の娘。
(幻が終わったのね。)
ずっと、レオンハルトとの穏やかな日々が続けばいいと願っていた。できることなら、彼の妃になりたいと。
だが、所詮夢は夢でしかなかったのだ。
レオンハルトは唇をかみしめ苦しげに息をつくと、兵たちに指示を出す。
「アメリア・スチュアンティックを、牢に連れて行け。」
アメリアは縄を強く引かれてよろめいた。
痛みに顔をしかめたが、毅然と前を見る。
「屋敷のものたちには、何もしないで。彼らも何も知らないわ。わたしなら、いうことを聞くから・・・」
兵たちに連れられ、レオンハルトの返事は聞こえなかった。