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2

 異常なほど静かな王城の廊下に、コツコツと軍靴の音が響く。

 両手首を戒められたアメリアの肩で、つややかな銀髪が揺れた。その細い肩が不安に震える。

 しかし、少しも怯えていないと示すように、真っすぐに前を見据えていた。

 フォークナー少佐が、廊下のつきあたりにある大きな扉を叩いた。

 

 「国王陛下、アメリア・スチュアンティック嬢をお連れしました。」


 「・・・入れ。」


 短く返答があり、扉が開かれる。


 「失礼します。」


 フォークナー少佐に続いて頭を下げながら部屋に入ると、そこには数人の男たちが椅子に腰かけてこちらを睨んでいた。

 宰相アーレーンズ侯爵、国王近習ファドリック侯爵、将軍カーウェンス伯爵。五卿と呼ばれる高位貴族官僚のうち、4人。あとの一人は、ここにはいないスチュアンティック家ディファクター公爵である。

 そしてもう一人、中央で優雅に足を組んで座る青年。


 「・・・レオン。」


 ふいにアメリアの心が揺らいだ。

 本当は怖く泣きたくてたまらないのに、アメリアの立場がそれを許さない。

 小さく呟かれた己の名を聞き、レオンハルトは眉間にしわを寄せて苦しげな表情をした。まるで、ほとばしりそうな激情を身の内で押し殺すかのように。


 「レディ・アメリア。あなたは父君の反乱のことを知らなかったと聞いたが、それは真実であるか。」


 カーウェンス伯爵が重々しく口を開く。


 「はい。」


 「だが、レディ・イザベルは父君とともにいるぞ?」


 「よく、分かりません。父が反乱の計画の立てていたことなど、存じませんでした。」


  言葉を、はっきりとゆっくりと紡ぐ。


 「わたしに知らせずに反乱を起こした。ならばわたしは、人質にはなり得ませんね。」


 父はアメリアを見限ったのだろう。

 自分の意のままにならない娘など、反乱を起こす際はじゃまでしかない。

 ふっと悲しげに小さく笑みをこぼしたアメリアに何を感じたのか、アメリアに刺さる視線が幾分弱まる。

 

 「アメリア・・・。」


 レオンハルトが何か言いたげにアメリアの名を呼んだ。

 もどかしそうに口を開いては閉じるが、何も言えない。

 あたりまえだ。

 婚約者として慰めたくても、彼は国王で、アメリアは敵の娘。

 

 (幻が終わったのね。)


 ずっと、レオンハルトとの穏やかな日々が続けばいいと願っていた。できることなら、彼の妃になりたいと。

 だが、所詮夢は夢でしかなかったのだ。


 レオンハルトは唇をかみしめ苦しげに息をつくと、兵たちに指示を出す。


 「アメリア・スチュアンティックを、牢に連れて行け。」


 アメリアは縄を強く引かれてよろめいた。

 痛みに顔をしかめたが、毅然と前を見る。

 

 「屋敷のものたちには、何もしないで。彼らも何も知らないわ。わたしなら、いうことを聞くから・・・」


 兵たちに連れられ、レオンハルトの返事は聞こえなかった。



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