5:カラクリ
見知らぬ光景が見える。
いや、ちがう。この光景は見たことがある。近所の通りだ。
でも知らない。だって、この道はこんなに赤くなかった。
赤い?違う・・・紅い
なぜだろう。知っているはずなのに・・・・・・知らない。
曖昧だ。頭がうまく働かない。
ぼー、とする。そっか、夢だ。
夢を見ているんだ。
目が覚めると休憩所の長椅子に寝ていた。時刻は夕方で窓の外は綺麗なオレンジ色で輝いて見える。ただ、寝起きの目にはあまり優しくない。
起き上がると誰のものか上着が掛けてあったことに気づく。ぼー、とする頭でまるで機械のように上着を畳む。
「あ!警部補!目が覚めたんですね」
トイレから出てきた霧本が私を見て安心したようにため息をついた。
「ごめん。眠ってたみたい。」
「眠ってたって・・・・・・まぁ、なんともないのであれば別に良いですけど。」
そう言って霧本は私の向かいの椅子に座る。私は無言で畳んだ上着を霧本に返し、コーヒーでも飲もうと立ち上がった。しかし霧本が
「俺が奢りますから警部補は休んでいてください。」
と、強引に私を座らせて私がいつも飲んでいる銘柄のコーヒーを買って渡してくれる。
「ありがと。悪いわね。」
「いえいえ。前回のお釣りですから、あと3回は奢れますよ。」
奢れるって・・・それは元々私のお金では?ま、パシらせたからあげたつもりだったけど。
「それよりこれからどうします?捜査の方は続けますか?」
コーヒーを飲む手が止まる。今回の事件は謎が多すぎる。新たな情報が出てくる分には一向に構わないがそこに現実ではありえない矛盾が起きている。霧本もあの資料を見て混乱しているのだろう。
「今更になって『解決できないからやめます』とは言えないのよ?上を目指すなら何らかの形でケリをつけなきゃならない。中途半端は許されない・・・・・・」
黙って私の話を聞く霧本。その顔にはまだ不安の色が残っている。
「・・・って、大昔に課長が言ってたって話。別に無理強いはしないわ。責任者は私だから今の話に君は完全には当てはまらない。捜査を抜けてもっと簡単そうな事件で手柄を立てるのも利口なやり方だと思う。ただ、もし君が私と同じ立場になったらさっきの話を思い出して、考えてから行動しなさい。」
デスクに戻ろうと立ち上がろうとした私に霧本は尋ねた。
「一つだけ答えてください。今回の事件、解決できますか?」
一瞬考えた後、私は霧本を見ないで答えた。
「ケリは必ずつけるわ。それが『解決』になるかどうかは分からないけど」
これが正直な気持ち。まだ諦めるには早い。
「・・・フッ。相変わらずカッコイイなぁ、警部補は。」
「女性にはあまり嬉しくない褒め言葉ね。」
「そうですかね?それはそうと、さっき西木から連絡が入りまして工場付近で黒いコートを着た人物を見たという人から話を聞いているそうです。」
すぐに仕事モードに切り替わる霧本。こちらもいつまでも寝ぼけているわけにいかない。
「分かった。それじゃ―――」
早速動き出そうとした私はエレベーターを見て止まってしまった。別におかしな所は何もない、それなのに私は前に一歩踏み出すことすら出来ない。二つあるエレベーターの内、右の扉が私の目の前にある。1階で止まっていたエレベーターが私がいる4階へと近づいてくる。
「あ・・・あ・・・・・・あぁ・・・」
逃げろと本能が叫ぶ。逃げたい、けど逃げる理由が分からない。なぜ?なぜ逃げる?何が来る?
ポーンという電子音が響いてエレベーターが4階止まる。扉が開き現れたのは
「ん?どうかしたのか?」
課長は目の前にいた私が固まっているを見て声をかけたが私の耳には届かなかった。課長の後に続いてエレベーターから降りた青年しか見えていなかった。季節はずれの黒いコートを着て静かに現れた青年は私に気づくと悲しそうな笑みを浮かべ、こう言った。
「ごめんね。 時間切れだ。」
この日、私は目を覚ました。
目の前にいつか見た光景が広がっている。今度は鮮明に、リアルに
そうだ。私はまだ新人だったころ、この道で不良に絡まれ私刑にされていた。その時、彼が来た。
「助けてほしい?」
周りの不良など視界にすら入らないかのようにまっすぐ私の前まで来て囁いた。
「いいから・・・逃げて」
私は助けを拒絶した。巻き込まれないうちに逃げてほしかった。
「君はすごいね。この状況で他人の心配をするなんて」
でもね、と一度区切ると青年は近くにいた不良の頭を掴み、
「もう遅いんだ。」
と言ったように聞こえた。でも自信が無い。だってグシャッって音と同時だったから。倒れている私から見えたのは青年が不良の一人の頭を掴んだトコまで。そこから視界の外に消え、いろんな音が耳に入ってくるだけだった。
グシャ バキ ゴリ グチャ ドス ビリ グチャetc
所々悲鳴のような声も聞こえたような気がした。
「てめぇ、こんなことしてただで済むと思うなよ。俺の兄貴はブラッディクロスのリーダーだぞ!」
誰かの声が聞こえる。あの青年ではない。この台詞は聞いたことがある。『ブラッディクロス』とはこの頃それなりに大規模な不良集団の名前だ。暴走族だったかギャングだったか
「必ず後悔するぞ!?」
「それはない。この前、殺したはずだから」
青年の冷たい声が聞こえる。殺した?人を?殺したのか?
ゴトッ、と視界に何かが飛び込んできた。それは頭部と左腕が欠けた人間だ。
「大丈夫か?」
青年が私の目の前に時計を置く。綺麗な銀色の懐中時計だ。
「この時計であと30秒後に君は夢を見る。それはとても長い夢だ。もし君がその夢の中で強くなることが出来れば、きっとこの世界でも生きていける。」
青年はそれだけ言って、去った。
そして私は夢を見た。およそ6年間も夢の中を生きて今、夢から覚めた。
本当の私の時間から1秒も進んでいない。いや、今、やっと追いついたのだ。現実に。 携帯に目をやるとメールが10件、着信も10件来ていた。てきとーに一番新しい着信履歴に掛けてみる。
「警部補?!どこにいるんですか!?」
スピーカーから耳を離す。全身ボロボロなのに聴覚まで潰す気か、こいつ。
「霧本。心配してくれているならボリューム下げて」
「警部補?あ、すいません。って!そうじゃなくて大丈夫なんですか!?」
「大丈夫じゃないわね。悪いけど私のアパートまで救急車呼んでくれない。途中に転がってるから」
そう言って通話を切る。6年前と比べて街の光が届くようになったのか周りがよく見える。道路は紅のペンキをぶちまけた様になっている。
バラバラの死体が散乱し、臭いもすごいことになっている。昔の私なら胃の中が無くなるまで吐いていたかもしれない。
これも彼の思惑なのだろうか?いや、配慮と言った方が良いかもね。
〜霧本〜
状況が全く分からないが警部補と連絡が取れたことで一先ず安心できた。言われたとおり救急車を手配し、パトカーで現場に向かう。
「途中に転がってるって言ってたけど・・・どこだよ」
あと5,6分でアパートに到着するというところで車を止めた。暗闇の中、車のライトに照らされた道路に何かがある。
「・・・足跡?」
しかも紅い。どう見ても血だ。
一瞬脳裏に一番嫌な画像が、“アノ人がこの色に染まっている”もっとも見たくない画像が想像される。
すぐさま携帯を取り出しリダイヤルするが一向に出る気配がない。それでもスピーカーを耳に当てたまま足跡を逆に辿ってみる。大きさからしてまず男と断定。
意外にもすぐに目的の場所に着いた。誰かの携帯の着信音が鳴り響くその空間はいつか見た廃工場の光景を思い出させた。比較的冷静でいられたのは規模が小さかったからか、もしくは一度経験したからか。この際どちらでも構わない。
ゆっくりと紅い水溜りの上を歩いて行く。頭を半分摩り下ろされた様な死体の脇を通り、散乱した四肢を避け、道路に置かれた生首に睨まれながらも先に進んだ。
街灯の下、丁度良く水溜りが避けている場所に生存者を発見した。
「警部補?・・・大丈夫ですか?」
肩を軽く叩こうと手が触れるとガシッと捕まれた。警部補は虚ろな目でこちらを見る。
「やっと来た。もう少しで寝るところだったわ。悪いけど肩貸してくれない?」
その声はいつも聞く声とは少し違って女性というよりは少女のようだった。いや、声だけではない。身長も自分とほぼ同じだったはずが肩を貸して立ったときには軽く屈んだ状態で丁度良い高さになる。顔つきもどこか凛々しさが減って幼さがあるように見える。
パトカーに戻る最中、
「警部補。一つ聞いても良いですか?」
「・・・え?・・・なに?」
「若くなってません?」
我ながら馬鹿なことを聞いてしまったと後悔。不意のツッコミに備えて警戒したが警部補はなぜか笑いながら言った。
「ははは。もう気づくとは。なんと言うか鋭いな。」
「・・・は?」
「そうだな。・・・この場合、今は23歳になるのか」
23?あれ?警部補は確か・・・
「私が若くなったからといって変なことをするなよ。」
「し、しませんよ!!ていうか・・・え?どういうことなんですか?」
「あとで説明する。とっとと病院まで運んでくれ。これでも軽症じゃないんだ。」
救急車が到着するまでの間、彼女はどこか満足したようにずっと夜空を見上げていた。
状況はさっぱりだったが、無言で上を見上げている時間は不思議と心地よかった。
まず、読んでくれた方ありがとうございます。
こんなgdgdなストーリーですがとりあえずこれで終わらせようかと思います。
昔、暇つぶしに書いた小説なのでここまでしかありません。一応大まかにこの後のストーリーは考えてあるんですが大まか過ぎてさらにgdgdになりそうなのでとりあえず終了。
気が向いたら続きを書きます。
次はもう少しマシな内容の話にします。大丈夫です!たぶん!
では、もう一度。ありがとうございました!m(__)m。




