4:事件-III
前回のあらすじ:謎の大量殺人事件を捜査している内に不審な点に気づき始め、さらに捜査を進めていく。
「こんにちは」
病院独特の匂いがする病室に入ると彼女は体を起こして笑顔で迎えてくれた。
「はじめまして。連絡してきた刑事さんですよね?」
「はい。水野と言います。怪我の方は大丈夫ですか?」
今日は事前に許可を取って面会に訪れた。
一週間前に起きた廃工場での行方不明者大量殺人事件は捜査の結果、死者11名、重傷者2名と発表された。 そして今日はその生存者の一人に事件の詳細を聞くために出向いたのだ。
彼女の名前は白木くらか。被害者の中でただ一人の女性で一番軽傷だった。
「ただの骨折ですから大丈夫ですよ。無理に動き回らなければすぐに治るって言ってました。」
と言って彼女は明るく振舞う。
発見された直後、彼女は放心状態で声をかけても反応しなかったらしい。服は元の色が分からないほど血まみれで慌てた西木が急いで救急車で病院に運ばせたが目立った外傷は無く右肘と足の骨折だけだった。
すでに何度か部下に事件について聞いてくるよう病院に行かせたが、その頃は精神状態が不安定で特に男性が近づくのを極端に恐がって話が聞けない状態であった。そこで今回、私一人で訪れたのだ。
私は近くの丸イスに座り、名刺を渡した。彼女は丁寧に両手でそれを受け取り、じっと見つめる。
「水野・・・カヅキ?・・・って読むんですか?」
「いえ、カゲツって読むんです。花に月で“花月”です。ただ、呼ぶのであれば苗字で呼んでください。」
「あれ?もしかしてご自分の名前が好きじゃない・・・とか?」
恐る恐るという感じで聞いてくる。
「まぁ・・・そうですね。嫌い・・・というか、あまり気に入ってないんですよ。」
自分としてはもうちょっとカッコイイ名前が良かったと思っている。
「私はちょっと羨ましいですね。花に月って良いじゃないですか。私の名前なんて意味不明で、何を思ってこの名前を付けたのか・・・」
確かに“くらか”なんてあまり聞かない名前だけど悪くないと思う。
まぁ、人それぞれ名前に対する感じ方が違うということだ。
それにしても彼女が元気に微笑む姿が見れて安心した。入院当初は返事も出来ず、ただ目だけを動かすことしか出来なかったらしい。今でも見知らぬ男性が廊下を通り過ぎる姿を見ると少し怯えてしまうと担当医師は言っていた。『話を聞くのなら無理はさせずにゆっくり訊いてください』と念を押して。
「そろそろ本題に入ってもよろしいですか?」
私の問いに彼女は笑顔を消して小さく頷いた。
「事件について、くらかさんが知っていることを話してください。一度だけで結構ですし、急ぐ必要もありません。」
「わかりました。」
そうして彼女は意外にも落ち着いた様子で語り始めた。
あの日、私は死神に会ったんです。
オレンジジュースのボタンを押して缶を取り出す。そういえばオレンジジュースなんて最近飲んでなかったなぁ
病室に戻るとくらかさんは落ち着いたようで笑顔でおかえりと言った。
彼女から話を聞いた後、喉が乾いたという彼女に何か買ってあげようと一度席を外した。話を聞いたら席を外そうと決めていたが要らない心配だったみたいだ。
ジュースを手渡し、一息つく。もう用件は済んだ。あとは邪魔にならないように退室するだけ。けれど私はどうしても彼女に聞いておきたいことがあった。本当なら事件について必要以上のこと聞くことはあまり被害者に対して好ましくない。それは分かっていたのだが彼女の様子を見て大丈夫だろう、と勝手に思った私は訊ねてしまった。
「なぜその人に対して『死神』なんて言葉を使ったの?」
彼女の話に出てきたある男。今回の事件の起こした犯人であると同時に彼女を救った人物でもある。
しかし彼女はその言葉を終始使っていた。確かに11人の人間を虐殺した人物をそう呼んでもおかしくは無い。けれど彼女から嫌悪の感情は一切無く、むしろ好意を持っているように見えた。
「あ、そのこと?別に私が名づけたわけじゃないわ。私、去り際に聞いたの。貴方は誰ですか?って。そしたらちょっと悩んでから『死神だ』って」
「そう。なんていうか・・・変わった人みたいね。その死神さんは」
犯人はまともな精神の持ち主では無いことが100%になりました。まぁ解っていたことだけど。
「それではそろそろ署の方に戻ります。すいませんでした。長居してしまって」
「いえいえ。私も話が出来て何かすっきりしました。」
時計を見ると丁度昼の12時だった。彼女はこれから軽く検査を受けるらしく、途中まで見送ると言った。彼女を乗せた車椅子を押しながら他愛も無い世間話。笑顔で会話をする彼女は年相応の笑顔で・・・って・・・
あれ?ちょっと待って・・・彼女はたしか・・・
入り口近くで別れを言い、病院を後にする。待ちくたびれて眠っている霧本を叩いて起こし、署に向かった。
自分のデスクについて被害者の資料を読みながら事件について自分なりに考えてみる。
くらかさんが語った話はおよそ私の考えとは全く違うものだった。
彼女は昔からの男友達に『面白いものが見れる』と誘われ、工場へ足を運んだ。そしてそこで待ち伏せていた数人に捕まった。逃げられないようにと腕と足の骨を折られ、一人を除く6人に集団暴行を受けていた。唯一暴行するのに反対した青年一人が参加せずに彼女の財布だけを奪って工場の奥に移動。そのとき、突然外が騒がしくなり全員が動きを止めた。外の騒ぎは数秒で収まり、工場内に一人の男が乱入してきた。真っ黒のコートを羽織ったその男は周りの少年達を無視して彼女に語りかけた。
「助けてほしいかい?」
少年達が呆気に取られる中、彼女は答えた。
「助けて」と
「わかった。」
その言葉から3分後。6人はバラバラにされて血の池と化し、工場内は静まり返った。彼女は何が起きたのか理解出来ずただ呆然としていた。そして唯一、暴行に参加しなかった少年に重傷を負わせて男は彼女に向かって言った。
「ごめんね。不器用だからこうするしかなかったんだ。・・・それじゃ、いい夢を」
そうして男はポケットから懐中時計を取り出した。それを彼女に手渡してそのまま去っていった。
事件の内容としては彼女の話どおりなのだろう。男が残した懐中時計は証拠品として保管してる。時刻がズレていること以外に特に変わったところは無い。しかしそれでは何故死亡した彼らは事件を起こす数日前に姿を消したのだろうか。事件を起こす前に何らかの行動をすれば逆に周囲から怪しまれる。
なんのメリットも無いはず。それとも何か理由があったのだろうか。
それと今日病院を出る前、くらかさんに感じた違和感。年相応の笑顔・・・とつい思ってしまった。資料を見ると『白木くらか』は現在24歳。いい大人だ。しかし、病院で見た彼女はとても24には見えない。高校生だと言われればすんなり納得しただろう。大学生だと言われれば一瞬戸惑うも納得できたかもしれない。もし社会人だと言われたら・・・・・・。
もちろんこれは私の個人としての考えだ。他人からすれば『童顔』だという理由で納得できるのかもしれない。
そして事件の犯人である自称『死神』。調べた結果、まずバラバラになった死体の傷口を見る限り刃物で切り落としたのではなく力で無理やり千切ったような傷口だという。そのため犯行はすべて素手で行われたものと考えられる、が・・・実際にそんなことが人間に出来るものなのか、という疑問が発生する。被害者からの証言から推測するに一般成人男性と対して変わらない体型だと思われる。なら素手でも何らかの手段、方法があるはず。
「警部補!ちょっとこれを見てください!」
霧本が乱暴にドアを開けてデスクまで駆け寄ってきた。
「な、なに?どうかしたのか?」
とりあえず落ち着かせようと声をかけたが霧本はこれを無視。持っていた封筒を私の目の前に突き出す。
「これを・・・見てください。」
受け取った封筒の中身の資料を見て驚愕した。およそ現実ではありえない事実が書いてある。嘘だと、でたらめだと思うことも出来た。しかし私はなぜか嘘ではないと第一に思ってしまった。
資料にあった3つの矛盾
1つ、死体が見つかった廃工場は3年前に取り壊しが決まって存在しない。付近の住民、解体業者に確認が取れている。
2つ、死体で発見された男たちの内一人が1年半前に不慮の事故で死亡したことになっていること。墓地も確認。
3つ、生存者で現在意識不明の男も半年以上前にバイク事故で死亡している。2つ目同様、墓地も確認。
封筒には他にも工場が取り壊された後の写真、バイク事故現場の写真が同封されていた。
もう何が起こっているのかわからない。
突然、心臓が重くなるような感覚が襲う。理解が、思考が、追いつかない。
そのまま暗闇へと落ちた。
時間を置くと前回どんなことを書いたのか忘れちゃいますね^^;
自分でもたまに混乱しますorz
こんな読みづらい小説を呼んでくれた方に深く感謝します。本当にありがとうございます。
次回でとりあえず完結させて新しいのを書こうと思っています。実はすでに内容はだいたい出来上がっています。そしてタイトルが決まっていない・・・orz




