1: 夢
『正義の味方』に憧れていた。
幼い頃、兄と一緒に戦隊モノのTVを見ていた影響か当時小学生だった私でも正義の味方というものに夢を持つようになり、兄とよく『一緒に悪者を倒そう』と話したのを今でも覚えている。
しかし、兄は中学に入学してからプロのサッカー選手になることを目指し始めた。男の子と言うものはコロコロと夢が変わるものなのだろうか。
「俺は夢を変えるけどお前はどうするんだ?」
いつの日か、兄は私を部屋に呼んで真剣な眼で訊ねた。
「私は変えるつもりは無いよ。最後まで目指してみる。」
小学校高学年になっていた私は小さな頃からの夢を諦めずに目指していた。と言っても小学生に出来ることも無く、ただ闇雲に勉強をして成績を上げて夢を心の中から消さないようにしていた。
いつも優しかった兄は私の言葉を聞いて静かに言った。
「それがお前の本当の夢なら最後まで頑張れ。応援しているから」
今になって思えば兄は悩んでいたのかもしれない。
小さな頃から兄に付き合わされて、兄と兄の友達とよく公園で日が暮れるまで遊んだものだ。いつも皆の中心にいた兄を私は尊敬していたし、兄のようになりたいと思ってひたすら追いかけていた。そのため、小学校に入学して友達が出来るまでいつも兄と行動を共にしていた気がする。
それを兄は後悔していたのかもしれない。自分が妹を連れまわして勝手に自分の夢を押し付けてしまったのではないだろうか、と
その時の私は兄の質問を深く考えずに、
「うん、大丈夫。これは私の夢だから。兄貴は兄貴の夢を叶えれば良いじゃん。」
と無邪気に答えた。
その日以来、兄は何かが吹っ切れたようにサッカー部でどんどん活躍していった。キャプテンも勤め、高校受験ではスポーツ推薦で有名校に進学した。
兄が自分の夢に向かって進んでいく姿を見て自分も頑張ろうと喝を入れるのだった。
それから9年。兄はとうとう自分の夢を叶えて選手として活躍している。まだそれほど有名ではないがいつか世界でも活躍すると信じている。
私も中学、高校を卒業して警察学校に入り、晴れて卒業。警察官となり、夢を叶えた。
しかし、
「おらよ!!」
現実はそう簡単ではなかった。国家権力を持とうがただのちっぽけな人間であることに変わりはなかったのだ。
この日、帰宅途中だった私は不良グループに呆気なく捕まり、サンドバックにされていた。警察手帳を見せたのがまずかったみたいだ。
時刻は午前零時。まだ起きている人もいるだろうに誰も助けに来てくれない。もしかしたら人が存在しないのではないかと思えるほど周りの民家は静かだった。
「オイオイ、あんま無茶すんなよ。死んだらどうすんだよ。」
「サツなんか死んだって別にいいだろうが、よ!」
誰かが歩道に倒れている私の腹をサッカーボールのように蹴りつける。体をくの字に折り、痛みに耐える。もうすでに十分吐いているため肺の空気しか出てこない。
「あーあ、こうなったら誰もミッチー止めらんねぇよ。まだパクられたこと根に持ってるみたいだし」
「おーいミッチー。頼むから殺すなよー。あとでソレで遊ぶんだから。」
ぎゃははは、と下品な笑い声が周囲に響く。釣られて仲間からミッチーと呼ばれた少年も笑い出す。
私は明滅する意識の中、願っていた。
(せめて誰も巻き込まれませんように)
今、この場に何も知らずに通りかかった者は男だろうが女だろうが無事では済まないだろう。だったらせめて自分だけが・・・
しかし、私に残った最後の正義すら届かなかった。
少年たちは一斉に笑うのを止めて突如現れたその人物を見た。
“そして死神は今日も人を連れて行く。”
ちょっと短いですよね。初めて書いたんで文章で変でも勘弁してくださいm(_ _)m




