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世間は案外狭いもので

 お祭り騒ぎと女の子が好きな、ちょっと軽い人。出会ったばかりの秋山さんには、相手が誰だろうときっとこんな第一印象を持ってしまうんじゃないだろうか。

 木犀荘の三号室に住む大学二回生の秋山啓太さんは、どこかチャラいと形容してしまえるような雰囲気がある。世間で言われる「DQN」――とまではいかないけれど、まあとにかくノリが良すぎてバカっぽく見える人だ。……言いすぎたかな?

 その気さくな性格と有り余る行動力のせいか、秋山さんはどんな場所にでも、誰にでも溶け込める人で、彼の交友関係はとても幅広いのだ。


「あ、おーい! 伊織ちゃん!!」


 学年が一つ上の秋山さんと祐希さんは、学部も違うけれど共通系の授業で一緒になることがある。今日はその授業の日で、大教室に入った時に秋山さんに声をかけられた。右側の真ん中くらいの席で、秋山さんが元気に手を振っている。


「秋山さん! 朝ぶりです」


 近づいて秋山さんの隣に荷物を下ろす。教室に先に来た人が席を確保するのが私たちの暗黙の了解だった。今日は秋山さんが一番乗りだったらしい。


「祐希は選択必修の課題提出でギリギリになるかもって言ってたから、伊織ちゃんつめといてね」

「はーい」


 返事をして、真ん中の席に荷物を下ろす。筆記用具とルーズリーフを出して準備していると、そうだ、と秋山さんが口を開いた。


「伊織ちゃん、今日の午後は予定ある? 授業なかったよね?」

「いえ、特にはないですけど」

「おっ、それじゃお昼食べに行かない? この前友達が美味しいとこ教えてくれてさ――」

「秋山……お前またナンパしてんのかよ、相変わらずだな」


 私の予定がないと聞いてとたんに何故かノリノリになる秋山さん。そんな彼を遮るように、不意に知らない声がかかった。反対側へ顔を向けると、呆れ顔の男の人が立っていた。


「違うって、ほら、この前話したじゃん! 木犀荘の新入りちゃん!! 俺らの新しい妹」

「え、私いつ秋山さんの妹になったんですか?」


 突然の妹発言に私は上半身だけ秋山さんから距離を取って引きつった顔を見せた。ちょっと大げさな私の反応を見て、秋山さんの友人は面白そうに笑う。


「妹って……普通に嫌だろ、こんなバカっぽい兄貴」

「あ、わかります?」

「ひっど! 佐上は通常運転だとして、伊織ちゃんまで言っちゃう? えっ何この扱い俺不憫……」


 彼の言葉に便乗すると、秋山さんはわざとらしく肩を落とす。彼はそんな秋山さんを無視して私の方に向き直る。


「秋山は構えば構うだけ調子に乗るから、適当にスルーしたり弄り倒したりしていいからな。……そういえば、伊織さんって、『五号室の伊織ちゃん』か」

「え、あ、はい。そうですけど……」


 何故それを知ってるんだろう。怪訝な顔で見つめると、気づいたその人はああ悪いと苦笑した。


「菜々子に聞いてるんだ。可愛い新入りが来たって嬉しそうに話してた」

「……菜々子さんに?」

「あー、だから、佐上は言葉が足りないっての! 伊織ちゃん、こいつは佐上弘、菜々子さんの従弟なんだよ」

「あぁ、なるほど」


 秋山さんの説明を受けて、納得。そう言われてみると、佐上さんは鼻の形とか目元とか、顔立ちがどことなく菜々子さんに似ている気がする。世間って案外狭いなあと思いながら堤伊織です、と自己紹介すれば、佐上さんは緩く笑ってこちらこそよろしく、と言ってくれた。

さっきから思ってたけど、なんというか、この二人は正反対だ。それでいて仲が良く見えるからなんだか不思議に感じてしまう。


「佐上と俺は高校からの仲でさ、共に甘酸っぱい青春を謳歌したんだよ。いやあ、懐かしいね高校時代!」

「今とあんま変わらないだろ。特にお前は色んな人間に声かけまくってさ。いつだったっけ? 女子だと思って声かけたら女装男子だったの」

「やめてそれ黒歴史! 秋山啓太人生ワースト五位以内の汚点!!」


 佐上さんの言葉に秋山さんは目尻に涙を浮かべながら彼の肩を揺さぶった。ちょっとぎょっとしたけど、両者の口元には笑みが浮かんでいてどうやらふざけて楽しんでいるよう。テンポの良い二人のやり取りに、私も思わず声を出して笑ってしまう。


「たまに木犀荘に遊びに行くから、その時はよろしくな」

「はい、こちらこそ」


 口に出したら絶対に調子に乗るだろうから言わないけど、秋山さんの事は呆れてしまう部分も多い一方で、やっぱり素敵な人だと私はこっそり思っている。そんな秋山さんの友人は、秋山さんと同じように素敵な人なんだろうと思って、私はにっこり笑ってみせたのだった。

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