いなくなった小人さん
それから幾日か過ぎ、トータにも高校に入って初めて仲の良い友達と呼べる
ような人が何人か出来ました。
もう毎日の学校生活も味気ないものではなくなり、友達と何を話すかと言う事が
一番の楽しみになってきていました。
その様子をまるで父親のような優しい眼差しで見つめる小人さんでした。
トータに友人が出来てしばらくしたある夜更け、トータの部屋で小人さんが
一人トータの机の上で何かを待っていました。
しばらくして小さい影が一つ、小人さんの前に近付いていきました。
それはあの時目が覚めたトータに気付いて逃げ出した大勢の小人さんたちの
中の一人でした。
そう、小人族の救援がやっとやってきたのです。
「隊長、もうそろそろ帰ってきて下さいませんか!」
「うん、そうだね」
「良かった、隊長が居ないと新しい旅も出来ませんからね」
「じゃあ行こうか」
「そんなにアッサリしていいんですか?」
「うん、その方がいいんだ」
短いやり取りの後、小人さんたちはそれがまるで予定通りだったかのように
元の世界に帰っていきました。
その時、トータはいつものように夢の世界で遊んでいました。
小人さんが元の世界に戻ったなんてさっぱり気が付かないままぐっすり眠り
続け朝を迎えたのです。
目が覚めたトータはやけに静かなのが少し気になりました。
いつもなら小人さんが朝からやかましく話しかけてきていたからです。
だから、小人さんと一緒に生活するようになってから目覚まし時計が要らない
ようになっていました。
今朝はやけに静かなのが逆に気になってトータは少し早めに起きてしまったのです。
「ぉーぃ」
「何処に居るんだー?」
トータは小人さんに声をかけましたが、しかし返事はありませんでした。
当然です、小人さんはもう帰ってしまったのですから。
返事を待ち続けたトータはあんまり遅くなって親に急かされてしまいました。
「あれッ?もうこんな時間?」
親の声に気付いて時計を見るともう普段なら学校に行く時間でした。
トータは朝ごはんもそぞろに急いで支度を済ませ学校に向かいました。
教室に入るとクラス中がトータに注目しました。
もちろん殆どが小人さん目当てです。
しかし、トータの傍に昨日まで一緒にいた彼の姿はありませんでした。
「トータ、小人さんはどうしたんだよ?」
堰を切ったように喋り始めたのは関谷でした。
トータと関谷は今では気軽に話せる仲になっていました。
でも今日のトータはそんな関谷に対しても普段のように気軽に返事を返す
事は出来ませんでした。
しばらくの沈黙が続き、関谷は心配そうにトータの顔を覗き込みました。
トータはどう話していいか言葉を組み立てられずにいました。
でも、ずっと黙っている訳にもいかず、搾り出すように要点だけを伝える事に
しました。
「…居なくなった…みたい」
そのトータの言葉にクラス中がざわめき始めました。
そんな中、小嶋さんが信じられないと言う顔でトータの前に出てきました。
「帰っちゃった?元の世界に…」
「分からない…でもそうかも…」
小嶋さんの質問にトータは搾り出すように答えました。
その淋しそうな表情にみんな静かになりました。