トータ、話題の中心に
「ねぇねぇ、トータの家なんかより私んちに来ない?」
「嬉しいお誘いだけど、今あそこを動く訳にはいかないんだ」
「えー?どうしてぇ?私ならきっともっと大事にしてあげるよ」
「仲間が迎えに来るからね、その時に自分が居ないと」
「そうなんだー?ざーんねん」
小嶋さんの交渉はあえなく決裂。
彼女はものすごく残念そうな、それでいてすごく恨めしそうな顔をトータに
見せるのでした。
何だかその言葉にも出来ない迫力に思わず息を呑むトータでした。
クラス中がトータと小人さんについて話している内にやがて一時間目を告げる
チャイムが鳴りました。
みんな急いで自分の席について授業の準備を整えます。
トータは先生に小人さんの姿を見られないかとても心配になりましたが、小人
さんはそんな事を気にする気配は全然なくて、むしろ堂々と机の上に立って
初めて見る教室を嬉しそうに眺めているのでした。
ヤバイと思ったトータが小人さんを捕まえようとどんなに頑張ってもさらりと
軽くかわしてしまいます。
トータと小人さんのバトルはしばらく続き、やがて教室に一時間目の数学の
教師が教室に入って来ました。
トータはしまった!と思いました。
小人さんが大人の目に入ったら騒ぎがどれだけ大きくなるか分かりません。
でも、教師は小人さんを目にしても普段と別に変わった風でもなくいつもの
ように授業を始めたのでした。
不思議な事に教師の目には小人さんの姿は見えていないようです。
それを確認して、ほっと一安心するトータでした。
「な!俺を否定するヤツに俺は見えないだろ?」
「いつ言ったよ、そんな事」
「今言ったじゃんか」
「…あー、はいはい」
「何だその返事は?馬鹿にしてるのか?」
「いーから、授業の邪魔だから喋んな」
それからも小人さんはトータに色々話し掛けてきましたがトータは授業の間中
それをずっと無視しました。
そのお陰で教師に何等不審がられる事も無く無事に1時間目をやり過ごす事が
出来ました。
「なんでずっと無視してたんだよ」
「お前と喋るとなぁ、俺が危ない独り言野郎になっちまうだろ?」
「何だ、気にするなそんな事」
「お前に言われたくないわ!」
授業が終わったばかりだというのに早速二人はやり合っていました。
そして休み時間に入るとすぐにクラスのみんながトータの、いえ小人さんの
周りに集まって来ました。
「なぁなぁ、さっきの話の続きをしようぜ?」
「うむうむ、君たちは何が知りたいのかね?」
(なーにが”知りたいのだね”だ…)
トータは小人さんの普段とは違う口調に呆れました。
しかし、あっと言う間にクラスに溶け込んでいる小人さんが少し羨ましくも
感じていました。
それからも同じように休み時間のたびにクラス中が小人さんの周りに集まり
普段とは180度違う楽しい会話の話題の中心にいると言う感覚をトータは味わいました。
(つづく)