取り残された一人
「よ、よう!」
部屋の異様な雰囲気に気付いた小人さんはその場で降り返り、じっと
その場を見守っていたトータに挨拶しました。
「や、やあ…帰れなくなったのかい?」
「これは恥ずかしい所を見られてしまったな…あはは」
「君たちはここで何を?」
「僕らはただ楽しんでいただけさ」
「楽しむ?」
小人さんの話によると、彼らにとって毎日はお祭りで知らない場所を
訪れては歌ったり踊ったりして日々楽しく過ごすのが日課みたいな
ものだと言う事でした。
そして今日も彼らは仲間を大勢引き連れて初めて来たトータの家で
宴会をしている真っ最中だったと言う訳です。
「なるほどなぁ」
「君が気づきさえしなければ全てはうまくいったのに…」
「…?何で?」
「僕たちは人間に見つけられるとこの世界に同化してしまうんだ」
「そうなると帰れなくなるの?」
「そ!」
「でも他のみんなは帰れたんじゃない?単に君がトロいだけじゃん」
トータのその言葉に小人さんはカチンときました。
そして冷ややかな表情でトータにこう言いました。
「…お前…友達いないだろ…」
「いるよ、ネットの中に沢山、会った事はないけど」
「所詮仮想友達じゃないか、寂しい奴め」
小人さんは結構この世界を知っているようでした。
ネットゲームの事まで知っているみたいです。
しかしトータはその事よりも小人さんのその喋りぶりが気に入りませんでした。
「結構口悪いんだな、イメージ崩れた」
「勝手に人の性格決め付けんなよ!」
もうスッカリ喧嘩腰の二人。
普段ならここまで熱くならないトータですが、自分の趣味を否定された
ような気がしてつい向きになってしまったのです。
小人さんの方も売り言葉に買い言葉、事態の収拾する気配はまったく
ありません。
トータは取り敢えず小人さんが何時までここにいるつもりか聞く事にしました。
「んで、あんたはこれから仲間の助けを待つのかい?」
「そうなるけど…救援がいつになるやら…何せ適当に来たから
…ここには」
「適当って、小人族ってアバウトなんだなぁ」
「うるへー!」
適当に来た…それがどういうものか具体的に知りたい気持ちもあり
ましたがこの調子ではどうもまともに答えてくれそうにないので
その事は軽く流す事にしたトータでした。
一通りやり取りを終えた後、ちょっとした間が空きました。
二人はお互いに気持ちを落ち着かせました。
「そんな訳で助けが来るまで暫く厄介になるからな!」
「勝手に決めんなよ!」
「お前の所為だろうが!」
「お前って言うな!」
「とにかく、決めたからな!」
それからトータと小人さんの奇妙な共同生活が始まりました。