小人さん、出現!
トータは高校一年生。
今の趣味は専らネットゲーム。
今日もまた徹夜でゲームをして授業は上の空。
学校が終わったらまっすぐ家に帰って電脳仲間に会いに行くのさ。
だから、普段の生活での彼はいつも一人。
それでもトータはそんな事全然気にしていません。
だってネットに繋がればそこに沢山の仲間がいるから。
そんなこんなで今日もまたネット中に寝落ち。
まぁそれもトータにとってはいつもの日常の何でもないヒトコマに過ぎませんでした。
うつらうつらと朦朧とする意識の中で沢山の小人さんたちを目にするまでは。
小人さんたちはトータの部屋で何かをしているようでした。
トータはそれを何をするでもなくボーっと眺めていました。
これは徹夜続きの時に表れる幻想なのだと自分に言い聞かせて。
その時、トータの頭に小人さんがぶつかりました。
幻なのだから痛くはないと思っていたトータでしたが、その衝撃は微かな痛みと
なってトータの意識に働きかけました。
「えっ?!」
反射的に起きあがったトータ。
その瞬間、小人さんたちは急いで何処かに消えていきました。
しかし、それは霧が晴れるようにうっすらとぼやけていくように消えたのでは
なくて何処か別の場所へ逃げていったみたいでした。
トータは早速その異世界の入り口を探してみました。
実在の存在の小人を確かめたかったのです。
あの感覚がただの錯覚でない事を祈って。
机の周りから戸棚、ベット、壁、部屋中をくまなく探しました。
しかし、トータの求めているそれは見つかりませんでした。
結局アレは夢だったのかと、トータはもう一度椅子に座り直し溜息をつきました。
その時、壁の隅っこで何か影が動いたような気がしました。
まさか?と思いつつトータがその影を追うと…。
「あああっ!」
声を上げたのはさっきまでそこで大勢でたむろしていた小人さんたちの一人でした。
小人さんの目の前には光のゲートがありました。
彼はその光のゲート目指して走って来ていたようでした。
光のゲートは小人さんが入ろうとしたその瞬間に閉じられてしまいました。
そして、元に世界に帰れなくなった小人さんのその後ろ姿はとても淋しそうでした。
「えと…」
トータは小人さんに声を掛けようとしたのですが、どう声を掛けていいものか
分からず最初の一言のあとは何も喋れなくなってしまいました。
何となく気まずい雰囲気がこの部屋を暫くの間支配しました。