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人魔大戦の解呪  作者: OZ
2/7

封死、解始。

 アースランド大陸、中央都市ニブルヘイム。


 都市の人口は約一千万人。 近郊の都市の十倍である。

魔族との関係を表すかのような巨大な壁が特徴的で、中には人間しか住んでいない。

都市を囲うように造られたその壁は、鉄壁要塞と呼ばれる程の物だった。

 だが、鉄壁と呼ばれる所以はそこだけではない。

 ニブルヘイム直属の騎士団『アースガルズ』

この騎士団は、人でありながら魔の血を浴びても魔族に変化しない『封呪』を施されし人間で形成されている。

故に人々の前線に立ち、ニブルヘイムへ入ろうとする魔族を討ち取っていた。

その騎士団の団長であり、法力と呼ばれる力を持った女性がこの世界の仕組みに疑問を抱く一人。

 名を――アナハイム・ローゼン。




「ん……んんぅ……まだ、あともう少しぃ……」


 静まりかえった部屋に、耳をつんざく金属音が鳴り響く。

 そんな中でもまだ瞼を完全に開かぬ女性は、音よりもその針の指し示す方向に驚愕し、目を見開いた。


「え……うそ、かんっぜんに寝坊したぁ~!」


 時刻は朝の七時半。

それが寝坊になるのかならないのか、それは人によりけりであることは間違いないのだが、彼女にとっては間違いなく寝坊だったらしい。

 腰まで伸びた美しいはずの金色の髪を急いで櫛で梳かし、乱れた寝間着を脱ぎ捨てて制服を着用する。

それ以降の準備も、恐らくいつもの三倍は早く行動していたであろう彼女だが、悲しいかな遅刻は遅刻だった。



「アナハイム団長! 完全に遅刻です!」


身支度を調えて家から出たアナハイムは、支度と同様、目的地までもいつもの三倍は速く走ったつもりだった。

 だがしかし、時は無情。 現地へ辿り着いた先で待っていたのは、自覚している現象の再認識。

 全力で頑張った自分の自分しか知らない、あくまでも言い訳でしかないけれど、どうしても言いたい言葉がアナハイムにはあった。


「これでも朝ご飯食べずにきたんだよ!?」


 遅刻を指摘した小柄な女性は溜息をつくと同時に、背後に従えている兵士百名余りに号令をかける。


「皆の者、アナハイム団長に敬礼ッ!!」


 小柄な身体から発せられるには少し違和感のある、重みの効いた声が広場に響く。

それと同時に、布を振って風を弾くような音が一律に鳴る。

 兵士の足は直立で足の開き四十五度、上腕をしっかりと上げて手は歪みなき角度を保っていた。


 一糸乱れぬこの軍隊の動作は、決して朝ご飯を抜いたアナハイムに対しての敬礼ではない。

普通の人間ならそのくらいのことは理解できるはずだったが、アナハイムは少し違った。


「いやぁ、そんな、朝ご飯抜いただけだよ~。 そんな凄いことはしてないし~、ねぇ~」


 さも自分の行った行動が評価されているかの如く、自分は謙遜しているかの如く。

ただただアナハイムは、笑顔と困った顔を織り交ぜた、煽りの表情を浮かべていた。


 百人の先頭に立っている女性は、何も言わず、何も言えず、ただひたすらに目だけ笑っていた。

だがそれも時間の問題で、アナハイムの煽りが込められた無垢で馬鹿げた冗談に付き合えたのは、一分が限界だったらしい。


「団長? いくら団長でも怒りますよ?」


 アナハイムは目の前の表情と似ても似つかぬ声の音程に戦慄を覚え、それ以上口を開くのを止めた。


「ご、ごめんってシンシア。 そんなに怒らないでよ」


 シンシアと呼ばれた女性は、目上の人間に対して口を出してしまったことを少なからず申し訳なくは思っているようで、咳払いを一つすると、少し頭を下げた。


「さて団長、これより『封呪の儀』をお願いしたいのですが、予定通り行って頂けますか?」


「もちろん。 私はその為にいるんだから」


「それでは、この百名に宜しくお願いします」


「はいよん」


 アナハイムが準備に取りかかっている間、シンシアが百人の指揮を執り隊列を一列に変形させる。


「さて、準備もできたし、それじゃあ封呪の儀、始めちゃおっか」


 巫女服のような姿になったアナハイムは、儀式用の杖を両手で持ち、地面に突き立てて目を閉じた。

それから少しすると、言霊を唱え始める。


「我、汝を護りし古の法力を持つ血脈の巫女である。 その問いに答え、そして応え給え」

「汝、魔に染まりし自分を想像せぬことを確約せよ」

「汝、魔に対して毅然たる態度で挑むことを確約せよ」

「汝、魔に対し一切の慈悲なきことを確約せよ」


 列を作っていた先頭の兵がアナハイムの前に出る。


「汝、答えよ」


 アナハイムが目を開いて兵に問う。


「約束しますッ!」


「ならば応えよう」


 アナハイムが口を開いた瞬間、兵の手の甲に円を描いたような模様が浮かぶ。


「ありがとうございます!」


 この一連の流れを一切止めることなく、アナハイムは百人の兵に封呪を施す。

シンシアはアナハイムのように何かするわけではないが、それ故に姿勢を正したままして自分を律する。

それは恐らく、アナハイムへの敬意を表すものであり、その表れだった。

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