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番外編 弟のその日

一日目の夜。遊羽が不運と戦っている時の祟です。

 僕はいつものように晩御飯を作って、皆と食べたあと、あるゲームの世界に入った。

 それはSWOと呼ばれるもので、ファンタジー世界で冒険者となって旅をするって感じらしい。

 でも、僕は戦うのとか苦手……というか怖くて出来なかったから、他の兄弟。兄や姉達をサポートするような役目になった。


 それが『補助系魔法』と『回復系魔法』。

 補助系魔法は、仲間の攻撃力や防御力等のステータスを上げたり、逆に相手のステータスを下げたりして味方を援護するもので、回復魔法も名前通り、仲間を回復するためのもの。

 スキル構成もほとんどがそのサポート用のものばかり。多少は自衛手段もあるけど、ほとんど使わないと思う。


 でも、今日一日を通して、僕は本当に必要だろうか、なんて不安に思ってきた。


 兄さんは僕がいなくてもきっとモンスターになんか勝てる。

 普段は行き過ぎた愛情を僕に注いでくるような変な兄さんだけど、運動神経はとても良くて、よくトラブルを持ち込んでくるつり姉の後始末で何故か喧嘩慣れもしてるし。

 だから、現在最高難易度のゴブリンでも、苦戦することはないはず。……本人に強い自覚はないんだけどね。

 あ、つり姉っていうのは僕の双子の姉さんなんだ。兄さんよりも運動神経が良くて、テンションが異様に高い。

 そして、頭のいい姉さん。姉さんも魔法使いだけど、きっと僕より使い方は上手に決まっているし、姉さんも僕なしで絶対にやっていける。


 だからこそ……単独行動中の今でも、なんの支障もなく皆楽しんでいるんだろう。


 夕方頃はつり姉のギルドメンバーの皆と一緒に狩りをしてたんだけど、後ろから見ているだけでも、すごいチームワークだということがわかった。

 でも僕は足を引っ張っちゃってるだけで、ほとんどなんにもできなかった。


 僕はどうすれば皆の役に立てるのだろう。兄さんは戦闘も強いのに、さらに生産までできる。なんで僕は物を作って皆の役に立つって考えが浮かばなかったのか……今更ながら後悔してる。


 色々なことを思いながらトボトボと夜の街を歩いていると、いつの間にか狭い横道に入り込んでしまっていた。

 慌てて戻ろうとすると、目の前の一件のお店が目に入った。




『漢』




 ただ一言、大きくそれだけ書かれた看板。

そして『料理道』と達筆で書かれた暖簾。

見栄えはよくある日本食堂のような奥ゆかしい雰囲気だ。

 ご飯は食べたあとなのに、不思議とお腹がなってきそうな匂いがする。

 僕は我慢できずに暖簾を潜っていた。


「いらっしゃい。どこでも好きなとこ座りな。どうせ誰もいねえってな。ははは!」


 僕がまず見たものは、声を上げて笑う絞りハチマキのおじさんだった。顎にちょびっと生えたヒゲに、角刈りの頭髪。……なんか、お寿司を握ってそうな顔だ。


「ええと……じゃあ」


 僕はカウンター席。その人の前に座った。


「おう。何食ってく? まあ、あるのはお茶漬けだけだがな!!」


 なにそれ、どんなお店?


「じゃあ、それでいいです……」

「はいよ! お茶漬け一丁お待ち!!」


 全然待ってないよ……っていうか早い、いや速いよ……。


「…………いただきます。……あ、美味しい」

「おう、そうかそうか! そりゃよかったぜ!!」


 なんだろう、ゲームの世界でこんな味に出会えるとは思ってなかったよ。ただのお茶漬けなのに、なんでこんなに美味しいんだろう。

 ……僕も、こんな料理が作れたら、兄さん達を喜ばすことができたのかな……。


「……坊主や、なーんか、悩んでるようだな」

「っ! …………いえ、大丈夫ですよ。そんなことは――」

「嘘は言っちゃあいけねえぜ。人ってのは寝る瞬間と飯食う時だけは油断するもんだ。おめぇさんが悩みながら飯食うと嫌がおうでも顔に出るもんなんだよ。で、どんな悩みだ? 俺はこう見えても人生経験は豊富なんだ。多少なら力になってやるぜ?」

「う……あ、あなたは」

「おう! 俺のことは『大将』、もしくは『ヤマさん』と読んでくれればいいぜ!!」

「…………」


 ……なんでだろう。何故かこの人になら、何でも話せる気がする。相手がNPCだから? ゲームなんて虚像の中の小さな悩みだから? ……違う。僕はただ、人に縋りつきたいだけなんだ。


「……じゃあ、大将。僕の話、聞いてくれますか?」


 僕は悩みの全てを打ち明けた。家族の役に立てていない事や、どうしてもっと考えて行動しなかったのかとか……とにかく胸にある事全部吐き出した。……途中、涙声になっている気がしたけれど、僕の舌は一切止まらなかった。

 目がだんだん掠れてきた。

 視界が歪んで、ああ、泣いてるんだと気付いたけれど、それでも僕は話すことをやめなかった。

 大将はその全部を何も言わず聞いてくれて、そして僕が話を終えると、不意に立ち上がり……


「よし、料理をしよう!」

「……はい?」


 などと突拍子もないことを言ってのけた。


「なぁ~に、要するに家族の役に立ちたいんだろ? 俺は魔法のことはよくわからんが、そんな魔法があるってことはそれだけ役に立つ魔法なんだろ。気にすんな。そして、戦闘以外でも役に立ちたきゃ、まずは料理だ! 飯は人を幸せにする。な!?」

「いや、まあ、そう……なのかな?」

「そうだそうそう。その通りだ! だから、お前はまず料理をする! 以上!!」

「え、いや……でも僕に生産職は……」

「かぁーー!! そんな頭のかてぇ若モンみたいな思考しやがって! んなもん根性と気合だバカヤロー!!」

「え、えぇ~~……」


 その後、聞いた話によると、職業、というものはスキルを補助するだけのおまけに過ぎず、戦闘職などなら技の一切を使えなくなるという死活問題だが、生産に限っては、職業がなくとも失敗率が高まるだけで、別にあろうがなかろうが使うことは出来るのだそうだ。


「鍛冶師が剣を打つときに、柄とか鞘はどうすんだって話だよ! 木工師の職業なんてなくとも木材加工はできるんだぜ!」


 ということらしい。

 それに、鍛えれば鍛えるほど上手くなるため、最初は苦労するが、そのうち職業持ちと同等の腕になることも可能らしい。


「なっ! 俺の人生経験も伊達じゃねえぜ!」


 ニカッと笑う大将に、僕は苦笑いを返すしかなかった。


「じゃ、じゃあ、生産の職業がなくても料理はできるんですね」

「その通りだ!」


 ……なら、やってみても、いいかなぁ。


「おぉ、そうか! やってみるか」

「はい……じゃあ、教えてくれますか? 大将」

「おう! そういうことなら任せな!」


 笑顔でサムズアップする大将に、思わず笑みが溢れる。ここにきて正解だった。僕が料理をできるようになれば、きっと皆も……。


「じゃあ、早速料r「おーし、まずは草原に向かうぞ!」……へ?」


 草原? なんで草原?


「あの……草げ「ほら、お前にはこれをやろう!」え、あの……ちょ」


『万能包丁を手に入れました』


 いやいや、そうじゃなくて……。なんで?


「ああん? 材料は現地調達に決まってんだろ? 料理ってのは素材選びから始まるんだ! そして、食材を手に入れるのも料理人の仕事だァ!!」


どういうことなの!?


「えぇぇえええ!! で、でも僕戦いは……」

「……祟よ」

「は、はい?」


 急に神妙な面持ちになった大将に、思わず口を噤んでしまう。


「俺はいったよな? 職人でなくとも物は作れると」

「はい……言いましたが……」

「そして戦士は、戦士職がないとアーツを発動できず、魔法使いも魔法を発動できないと」

「は、はい」

「だがなぁ……魔法使いでも、アーツなしで武器を振る事はできるんだぜ?」

「はい…………え?」

「その包丁で食材集めだ馬鹿野郎!!!」

「そ、そんなぁああああああ!!!!!!!!!!」


 前途多難な特訓になりそうです……。



ここから祟のキャラが崩れ始めますがご了承くださいw

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